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異常な設定で最後まで一気に読ませる傑作である。異常な行為をしているのに、登場人物たちはあくまでそれが正常だと思い込んでいる。その狂った感覚を一人称で描くことにも成功している。構成的にも冒頭の十行程度で異常な設定をさらりと説明し、続く数ページで、その内容を詳細に記述するという形が成功している。子供たちは同級生を食べることも同級生に食べられることも全く恐れていない。それは洗脳の恐ろしさであるとともに宗教的な崇高さをも感じる。その善悪が混迷していく世界観が凄まじく素晴らしい。難点を上げるとすれば、一人称の語り手が途中で変わること自体は問題ないと考えるが、最終部分の語り手が誰だかわからず、また誰でもよくなっているのは少し気になった。この部分は、教師の一人称であるべきであろう。教師が自らの目論見を語り、また自らの解体を細かく描写することで、全体の流れが引き締まると考える。
実は最近この話と同じトリックで短編を書いていたのだが、それにも拘わらずすっかり騙されてしまった。それほど、この作品はテンポがよく、構成も秀でていた。ストーリーは時間の中を前後し、主人公の「今」がいつなのかは確定しない。だが、それは主人公の主観としては正しいのである。主人公は記憶の中で、何度も過去を繰り返して生きているのだろう。だから、この物語が何度目の繰り返しなのかすら判然としない。茫漠とした果てしのない悪夢の中を漂う快感を楽しめる作品だ。やや残念な箇所を上げるとすると、母親が××を殺さなくてはならない理由、そして××が母親に殺されるという確信に至る理由を明確にした方がよかった。そして、帽子のエピソードはもう少し前に出しておくべきだった。そうすることにより、幻想世界の中にミステリの要素を明確に際立たせることができただろう。
大賞の「友食」につきましては小林先生、審査員とも評価が高く、堂々の受賞といってもいいのではないでしょうか。選考過程上、全185作品から上位10作品を決める必要があったのですが、正直なところ6位から30位くらいまではいずれも甲乙つけがたく、順位選定には非常に悩みました。ホラー短編の面白さは、「アイデア」「構成」「読ませる力」「怖さ・気持ち悪さ」「意外性」の5つの要素で決まると思っています。中でも今回は「構成」「読ませる力」「意外性」を重視して審査いたしました。その意味で、個人的に評価した作品は、「嫁検分」と「不思議なウォシュレット」です。ホラー的な怖さやおぞましさが足らず、惜しくも受賞は逃しましたが、どちらも完成度が高く最後まで楽しく読ませていただきました。特に、後者の軽妙な語り口には著者の文章センスが光っていたと思います。全体を通して意外だったのは、噂話と実体験を交えたようなネット怪談テイストの作品や、時事や世相を題材にした作品が少なかったことです。次回があれば、そのあたりに踏み込んだ作品も期待しています。
応募作品の質の高さとバラエティの豊かさには驚かされました。シンプルな体験談のようなものが大半かと思っていたのですが、小説としての仕掛けが凝らされた作品も多く、非常に楽しく読み進めることができました。
全体的なレベルの高さと共に、各作の持ち味が大きく異なるため、審査は難航しました。最終的には、テクニックだけではなく著者の個性が色濃く滲み出ている作品が高く評価されたように思います。
もうひとつ、今回のコンテストの特徴である、募集期間内は何回でも改稿できるという仕組はうまく働いたのではないでしょうか。かなりの回数改稿された方もいるのですが、第一稿と決定稿を比べるとびっくりするくらい良くなっているケースがありました。そういった面白さもupppiならではと思いますので、ぜひいろんなバージョンを読み比べてみてください。
全体的にレベルが高く、完成度の高い作品が数多くありました。とくに上位の作品は総合的な読了感も拮抗しており、評価をつけるのが非常に難しかったです。
主題(モチーフ)の明確さと表現の洗練度合いは、はっきりした関係があると感じました。主題の輪郭が明確になっているものほど表現が練り込まれており、表現が卓越している作品はいずれも主題の存在感がありました。
何度も目にする定番の要素がありました。とくにオチというか驚きを与える部分で、他の作品とかぶってしまうと埋没してしまい、記憶に残りにくかったです。
いっぽうで、定番の要素をあえて用いて、独自のひねりを加えたものはインパクトがあり印象に強く残りました。
応募者のなかには、対話のリズム感や言い回しに舌をまくほど長けている人が複数いました。一読者としても今後が非常に楽しみです。
2012年7月より開催致しました upppiホラー小説コンテスト について、185作品のご応募を頂きました。
作品を応募頂きました作家の方々及び、作品へコメントや評価を頂いた読者の方々に深くお礼申し上げます。
エントリー185作品について、読者のコメントや評価を参考にしつつ審査員による作品選考を実施致しました結果、最終審査まで残った10作品から 大賞・佳作・審査員特別賞 を以下の通り選出致しました。