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シリーズ:エルフの日暮れ(1)
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エルフの日暮れ(1)

作者:梟 由香里

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    人間に興味を持った、1人の女エルフの物語。
    一種族として人間との関係を模索する中で味わう色々な喜怒哀楽。
    彼女の好奇心の行く末に何があるのか?
    ※完結しているお話です。


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    エルフの日暮れ(1) 3232文字

     

     今日で何日目だろうか?
     ヒト族の村に程近い丘の上の切り株で私は暮れゆく空を仰ぎ見た。
     私は、私達は人間とは違う時間間隔を生きているが、正しければ今日で一週間だろうか?
     太陽が山間に沈んで間も無く月が昇ってくるだろう。
     私が一人であの人間を待って帰路に着いたのは何回目だ?
     私の感覚からすれば本当に短い時間だが、ヒト族の一週間はひとつのサイクルに値すると聞く。
     確かに、私たちの間でも一週間は一つの単位として存在する。だが、正確には月の満ち欠けを基準としている中でのサイクルなのでほんの一瞬の出来事だ。
     でも私はそれだけの期間を律儀に待っていたという事になる。
    (やっぱり、私が間違っていたのだろうか?)
     落ちてゆく太陽とともに私の心にも影が差す。
    「そうか、そうだよな……ヒト族の言葉など少しでも真に受けた私が馬鹿だったのだ……」
     自嘲気味にひとりごちる。
     いや、そもそも人間に興味など持った私が悪いのか。
     彼との出会いを思い出す。

     それは、私が興味本位でヒト族の村に赴いた時の話だ。
     ヒト族と私達エルフは余り仲が良いとは言えない。
     それは昔からの事で、いつからとは判らないが、エルフとヒトはお互いに嫌悪し合っていた。
     互いに愚かしい下等な種族だと思い合っていた。
     少なくともエルフにとってのヒト族は、野蛮で時には利益のために襲って来る事もある危険な民族という認識だ。
     そういう事もあり交流はほとんど無く、距離を取って隠れるように暮らしていた。
     だから私が人間に興味があるとつぶやいた日の夜には長老が慌てて真意を聞きに来たくらいだった。
     長老はヒト族などと関わっても良い事など無いと朝まで私にとうとうと説教して帰っていったが、私は数日後、結局好奇心を抑えられずにこっそり村を離れて自分の村に一番近いヒト族の村の前に立っていた。
     私は持ち前の長耳が目立たぬように耳が隠れるくらいのフードをかぶり、村の門をくぐって慎重に人ごみに混じっていった。
     静かな私の村と違って喧騒に満ちたヒト族の村に私は少なからず興奮を覚え、あちこちを見て回る。
     見る物聞く物がエルフのそれとは違い、私はついつい止めておけば良いのに、酒場にまで入ってしまった。
     カウンターまで行くと、店のマスターと思われる優しそうな男が声をかけてくる。
     見た目は青年だが、ヒト族の事だからきっと私よりもずっとずっと若いのだろう。
    「いらっしゃいませ、何を飲みます?」
    「あー、えー……」
     そこでやっと自分の最初の過ちに気が付く。
     私はエルフ。私は成人しているので酒は飲めるし、酒場といえば酒だが、酒は司祭が祈りを捧げた月酒しか飲んだ事が無い事に。
    (まいったな。人間の飲む酒の種類なんかさっぱり判らないぞ……)
     それからしばし悩んで。
    「ヤ、ヤギの乳を……」
     その瞬間酒場全体に爆笑の渦が巻き起こる。
     どうやら見慣れぬ私の行動を皆で見ていたらしい。
     しかし何故笑われたか解らない私は顔を真っ赤にしてキョロキョロするばかりだ。
     斜め後ろに座っていたガタイのいい男に至っては私を指を差し、涙まで流して笑っている。
    「聞ぃたかアイツ! 酒場に来てヤギの乳だってよ! どこの田舎部族だよ! まさかエルフか?」
     その言葉にドキリとし、私はフードを更に深く被った。
    「ヤギの乳ですか? 申し訳ありませんが、当店には扱いが……」
     マスターが苦笑しながら気まずそうに聞き返してくる。
    「お、可笑しかったでしょうか? すみません。育ちのせいか、酒の種類がわからず思わず注文してしまっただけなので、なにかオススメがあればそれでお願いします」
    「わかりました。では……あ、ふむ。ちょっと待ってください」
    「はい?」
     マスターは不意に一考すると、酒瓶の並ぶ棚の裏に消えて行き、すぐに革袋を持って戻ってきた。
    「ヤギの乳自体は無いのですが、先日、私の祖母が田舎からやってきましてね。自家製のヤギの乳酒を置いていったんです。一般品ではないし、量も少ないので店には並べていなかったのですが、これでよろしければお出ししますが……宜しいですか?」
     マスターの優しい申し出に私は思わず嬉しくなり、少し声を上ずらせながら。
    「ハ、ハイ。頂きます!」
     興奮気味に返事をするとまた爆笑の渦が巻き起こった。

    「それじゃあお代は……どうしましょうか? 一応、これだけ持ってきてあるのですが……」
     小さな革袋から小さな四角い金と銀の塊をジャラジャラと出してみせる。
     ヒト族の村相場はわからないし、ヒト族の金貨や銀貨など持っていないので、村の冶金屋に頼んでどうにでも使えそうな物を作ってもらったのだ。
     マスターは金と銀両方を手に取って珍しげに眺める。
    「貨幣、では無いんだね?」
    「す、すみません。うちの村、物々交換の方が多くて、あまり遠出する人も居ないので……冶金屋に頼んで作ってもらいました。純度は申し分ないはずです。相場が判らないので、必要な分だけ取ってください」
     私がそう言うと、マスターはまた苦笑し。
    「君ねぇ、人慣れしてないのは分かるけど、こんな場所で下手な事は言うもんじゃないよ。相手が相手なら良い食いモノにされちゃうよ? しかもこんな高価な金属持ち歩いて。例えるなら鶏が調味料の袋背負って、更に鍋持って歩いてるようなもんだよ。とりあえずこれは全部仕舞ってくれる? 危ないから」
    「え、でもお代……」
     するとマスターは不意に私に顔を寄せてほかの客に聞こえないように小声で囁きかけてくる。
    「悪いけどうちのばーちゃんの乳酒にゃこの銀の粒一個も多すぎて釣りが払えないよ。どうせタダで貰ったものだし、今日はオマケって事で、ね?」
     そう言って微笑んだ。
    「あ、ありがとうございます……」
     私達が顔を離すと、マスターはこれみよがしに「お代は貰った。さあ、ゆっくり飲んでくれ!」と叫んだ。
     私は思わぬ人間の優しさに戸惑いつつも乳酒の入った革袋と木の盃を抱えると、マスターに会釈してカウンターを離れて適当に席に座った。
     座ったのはなるべく店が一望出来そうな場所。
     人間がどういう風に酒を飲むのか見たかったからだ。
     ちなみに同じテーブルに座っている人間はいないが、隣の席には先ほど私の事を嘲笑った太ましい男が座っている。
     雰囲気からしてこの店の常連だろう。
     彼の席には他にも目つきの鋭いロングヘアの女性や、気の優しそうな男など数名座っている。
     誰もが幅が彼の半分位のサイズだ。
     皆、私の事を気にしているようだった。
     それもそうだろう。どうやらこの酒場は人は疎らなれど顔見知りの集まりのような店のようだったから。
     そこに見慣れぬ人間の私が――実はエルフだが。やってきたのだから。
    (こういう時ってどうしたら良いのだろうか? うちの村にこんな騒がしい酒場はないぞ?)
     私達エルフの酒盛りと言ったら神聖な集まりでの静かな儀式か、個人宅で集って個人的に飲み合うくらいだ。
     だから宿屋はあっても酒場自体が無い。
     よっぽど賑わしくても豊穣祭くらいだ。
     それでもここよりは静かだ。うん。
     話しかけてみようか? でも誰に……?
     そのとき目に入ったのは私を嘲笑った男だった。
    (口は悪そうだが、世俗の知識は豊富そう……)
     いや待て、話しかける前に良く様子を見てから話しかけた方が良いだろう。
     そう思ってその日は誰にも話しかけず、マスターに貰った乳酒を袋の三分の一程飲み干してから店を離れた。
     ちなみに乳酒をそれ以上飲まなかったのは、マスターの個人的な物だと聞いたからだ。
     袋はそんなに大きくはなかったが、それを無償で分けてくれたとは言え、マスターが口をつけたかも怪しいのに無闇矢鱈に飲み干すのは気が引けた。
     だから申し訳程度にして袋はマスターに返した。
     マスターは全部飲んでも構わなかったのに。と言ったが、適当な理由をつけて返した。
     次行く時はお礼に月酒でも持っていこう。
     後は酒の相場というものもある程度聞いたので、次はヒト族が作った酒を飲んでみようと思う。
     この時点では私は“彼”に出会ってはいない。
     しかしこうして、私の酒場通いが始まった。
     これがどんな結末を生むかも知らずに。

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    作者紹介

    • 梟 由香里
    • 作品投稿数:59  累計獲得星数:10
    • はじめまして梟 由香里です。
      とりあえず登録してみました。

      色々雑食で、ギャグから痛そうなのまでムシャムシャしちゃう性質です。
      自分の事を語るのは得意じゃありませんが、投下する作品はシリアスな傾向にあるように自分では感じています。
      自分ではオチャメやってるつもりの時もあるのですが。
      色々読んでいただけると嬉しいです。

      基本的にはピクシブの方がメイン倉庫です。
      こっちにはある程度体裁の整っているのを選んで持ってきたり、整えて公開したりしてみています。
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      fleur de…(オリジナル/連載中/完結近し):http://upppi.com/ug/sc/item/9620/
      エルフの日暮れ(オリジナル/完結話):http://upppi.com/ug/sc/item/9636/
      ピクシブ:http://www.pixiv.net/member.php?id=12389193
      参加イベント情報:http://upppi.com/ug/sc/item/9673/

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