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シリーズ:春が笑う 5
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春が笑う 5

作者:なつき

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    春が笑う 第5話です。


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    春が笑う 5 0文字

     

     あっという間に翌日の昼食の時間がやって来た。
    春日以外はまったく緊張していない様子で、優雅にランチコースを頼み、自己紹介を始めた。
    「岩本理事の秘書で、富山と申します。先日は、尾山さんがうちの社員だということを知っていながら、
    黙っていてすみませんでした。」
     春日は手をブンブンと顔の前で振る。
    「い、いえ!全然気が付かないわたしが失礼だったんです!!」
     富山にほほえまれても、緊張は解けない。
    春日の目の前に座っている菱也が、不機嫌さを隠していない表情をしていたから。
     隣に座る富山から軽く肘をたたかれ、菱也は小さなため息をついた。
    「・・・岩本菱也だ。君をからかっていたわけではない。こちらこそすまなかった。」
     ぶすっとした顔で謝られても、余計に怖いだけだ。春日の顔が青くなる。
    「お、尾山春日です・・・。次期社長だとは知らずに、大変失礼しました!!」
     思わず立ち上がって深々と頭を下げる。
    「あ、いや、君が謝ることじゃない。座ってくれ。」
     優しく言いたいのに、心とは裏腹になってしまう
    菱也の目に映るのは、広末の隣で小さくなる春日だから。
    「座ろう、春日ちゃん!ここのランチはボリュームもあっておいしいから、きっと気に入ると思うよ!」
     広末が春日の腕を取って座らせるのも気に入らない。
    たいして味のない、おいしくとも思えない料理を、春日がうれしそうに食べるのをただ、眺めた。
    「でも、岩本はいいな、由布子さんをお嫁さんにできて。美人だし、料理も上手だし、なんの文句もないな!」
    「・・・そうだな。」
     菱也は、広末の羨望の言葉に、適当に相槌を打つ。
    「俺も彼女がほしいな〜!春日ちゃん、本気で俺とつきあわない?」
     広末は春日に向かって言う。
    「え〜、またまた〜そんなこと、みんなに言ってるんでしょう?」
     愛想のいい広末からのアプローチは今までも何度かあった。でも春日はそのどれも本気にはしていなかった。
    「ううん、違うよ。春日ちゃんにだけ。」
     声色が変わった。広末以外の手が止まる。
    「え・・・・。」
    「本気。本気だよ。俺は、春日ちゃんが好き。付き合ってほしい。
    春日ちゃんは気軽にさ、お試しでもいいから。」
     真剣な眼差しから逸らせない。春日は、じっと広末を見つめてしまう。
    「・・・おい、広末。告白は2人きりのときにしてくれないか。」
     菱也は、自分でも思いがけないほど低い声が出たと思ったが、しかたがない。
    それで春日の体が震えたのを確認して、言い知れない焦燥感が生まれる。
    「いいんだよ。岩本たちが証人なんだ。俺が春日ちゃんにマジ告白したってことの。
    信じてもらうための手だよ。」
    「・・・。」
     悪びれない広末に、怒りさえ覚える。しかし、それを爆発させるほど子供じゃない。
    「・・・まあ、いい。証人になってやる。」
     最後は、吐き捨てるように言ってしまった。
    「いい考えです、広末さん。尾山さんがどんな返事をするのか気になります。」
     富山は興味津々だ。
    「え、そんな・・・。」
     顔を真っ赤にして、言葉につまる春日。
    「尾山さん、広末は楽しくて優しい男だ。友人の私からもお勧めできる物件ではあるが、
    よく熟考してほしい。」
     この場を盛り下げたくない。広末にも幸せになってほしい。それは本心なのだが。
    「おいおい、それは勧めているのかいないのかどっちなんだよ〜。」
     広末の言葉に、みんなは笑う。菱也も、なんとか笑顔を作る。
    「勧めているんだ。」
     無理にでもほほえんでいないといけない。それがこんなにも神経を使うことだとは今まで思っても
    みなかった。春日の顔を見る勇気はない。
     食事はなんとか終わった。菱也にはとても長い時間のように思えたが、たいして時計の針は進んでいない。
    「あ、あの!ここのお勘定はわたしが!!」
     挙手をして、春日は立ち上がった菱也に言う。
    「いや、ここは私が払うよ。」
    「いえ!!わたしが招待したんですから、」
     必死で食い下がる春日が、素直に可愛いと思う。
    「この店を指定したのは私だし、3人も部下がいるのに私以外の財布を開かせるつもりはない。
    また今度、ごちそうになるよ。」
    「そうですね、同じ会社なんだから、またいつでもご一緒できますから。」
     完璧な上司たちにほほえまれ、春日はそれ以上何も言えなくなった。
     店を出て、春日と広末は並んで舗道を歩く。
    「・・・春日ちゃん、ごめんね。岩本や富山がいるところであんなこと言って。」
     反省しているのか、いないのか。広末の言葉はどうしても本当のことが見えなくて、春日は困惑してしまう。
    「困ってる?わかってるんだ。俺が困らせる性格の男だってことは。」
    「い、いえ!困ってはいないんですけど、あの、なんていうか、突然で・・・。」
     広末は、春日との距離をつめる。
    「・・・本気なんだ。君が好きだ。君が研究所にはじめて来た時から、可愛い子だなって、思ってた。」
     そんな低い声で、甘く告白されたら、どうしたって心臓はどきどきしてしまう。
    「春日ちゃんは、軽く考えて。今現在、俺のことが嫌いじゃないんだったら、軽く、さ。」
     深く考えると、春日は逃げていきそうな気がしていた。とにかくなにも考えず、軽いノリで付き合って、
    それから深くお互いを知っていけばそれでいいと、広末は思っている。
    「・・・今すぐは、お返事できないので、待っててくれますか・・・?」
     それが、精一杯の春日の言葉。
    「うん。待つよ。俺は待つこともできる男だから。」
     繋ぎたい手を、広末はじっと我慢する。耳まで赤くする春日の横顔を見ることのできるこの位置に、
    今は満足しようと、自分に言い聞かせて。

     同じ会社に帰るだけなのに、前を歩く広末と春日の後姿を苦々しく見つめる。
    ここがいつもよく歩いている舗道で、隣に富山がいなければ、菱也は立ち止まっていたかもしれない。
    歩くのが嫌になるほど、腹立たしいから。
     午後からの仕事は上手く行くのだろうかと、富山は隣の上司に気付かれないようにため息をついた。
     

     目を閉じれば、彼女の笑顔がまぶたに浮かぶ。それはなぜか。簡単に考えれば答えはひとつなのだろうが、
    自分の立場ではそんなに簡単な数式ではない。言葉に表して認めてはいけないことなのだろう。
    「参るな・・・。」
     山積みの書類やファイルを前にして菱也はため息をついた。
    社長就任式と婚約披露の日取りも決まり、菱也の周りは慌しくなるばかりだ。
    「なにが参るんですか?このファイルの山ですか?」
     冨山がまたファイルを抱えて部屋に入ってくる。
    「出た。デビルイヤー。」
     増え続けるファイルに、本気で憎しみが湧きそうだ。
    「誰がデビルイヤーですか。僕だって参ってるんですよ。今の社長室をなんで使わないんです?
    資料を運ぶだけでも大仕事なんですけど。」
    「あんな最上階なんてまっぴらだ。ああくそ、こいつら全部フラッシュメモリーにぶち込んでやりたいな。」
     菱也はファイルをバシッと叩いた。
    「それ、いいかもしれませんね。新社長の命令でエクセル使える社員を何人か寄越してもらいましょうか。」
     冨山がひらめいたように言った。
    「よし、命令だ。庶務から人を寄越してくれ。」
    「はい。」
     冨山が内線をかける。庶務課・・・。尾山春日がいる部署。まさか名指しはできない。
    会いたい、と一瞬思ってしまった自分がいることに菱也は気付いている。
    だが、気付いていても、どうしようもないことなのだ。
    「そうですか。・・・はい、いえいえ、いいですよ、そちらもお忙しいのに無理を言ったんですから。
    ・・・はい、では。」
     冨山がなにやら半笑いで電話を切る。
    「だめだったか?この時期、庶務は忙しいからな。・・・なんで笑ってるんだ?」
    「いえ、新社長の命令なのに断られるわけないじゃないですか。
    なんとか一人だけなら派遣してくれるそうですよ。ただし、」
    「ただし?」
     冨山は必死で笑いをこらえている。
    「一応エクセルは使えるそうですが、庶務でもあまり役に立ってない人だそうで、
    気に入らなければ返還してくださいって、」
    「なんだそれ、そんなの寄越すのか。」
     菱也の怪訝な顔を見て、ついに冨山は笑い出した。
    「ああ、面白い。尾山さんですよ。」
    「え?」
    「役に立ってない社員。明日から新社長付秘書ですね。尾山春日さん。」

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