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シリーズ:花いちもんめ  ≪花摘み≫
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花いちもんめ  ≪花摘み≫

作者:相坂桃花

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    花いちもんめ、あの子が欲しい

    かっても、まけても

    あの子が、欲しい


    登録ユーザー星:10 だれでも星:2 閲覧数:341

    花いちもんめ  ≪花摘み≫ 7965文字

     


     母親にバリカンで頭を丸められた色部真一(いろべしんいち)は、短く刈りすぎてザリザリとした頭を多少気にしながらも、近所の子供たちで集まった遊びに参加していた。
     少し離れたところで、豆腐を売りに来た自転車のラッパの音がする。
     日も暮れ始め、近所の家からは夕食の煮炊きの匂いも漂い始めていたが、子供たちはまだまだ遊び足りなかった。
    「かーって嬉しい、花いちもんめ」
     歌の一節を歌いながら、最後の“め”の部分で片足を蹴り上げる。
     真一には誰が欲しいという強い要望は特にない。ただ、自分が最後まで残るのだけは、避けたかった。
     ことさら嫌われているわけではないと思うのだが、最後まで「欲しい」と言ってもらえなかったらどうしようと、胸の内では戦々恐々としながら、真一は他の子供たちと比べたら少しだけ小さな声で歌っていた。




     勝って嬉しい、花いちもんめ

     負けて悔しい、花いちもんめ

     あの子がほしい?








     ほしい?








     本当に?






    「きゃあああああああああ!」
     悲鳴が上がったのは、どうにか無事に「欲しい」と真一が言われた直後のことだった。
     真一は最初、何が起きたのかわからなかったが、虫の羽音がして、すぐに合点がいく。
     一匹の大きな蜂が、子供たちの周囲を飛び回っていた。
     慌てふためき、悲鳴を上げる子供たちの中で、真一はただ一人、ぼんやりとした表情で立ち尽くしていた。
     真一は、逃げ惑う子供たちをどことなく遠くに聞きながら、ブンブンと羽音を立てて飛び回る蜂の姿を見ていた。
     子供たちの悲鳴に、近所の家から大人たちが血相をかえて顔を出してくる。
     真一は手を上げ、指先を差し出す。助けるために。
     気のせいだろうが、蜂と目が合った気がした。
     その日の夜、真一は夢を見る。
     蜂が、恩返しに嫁に取って欲しいと言ってくる夢を。
     真一はそれに……――






     ハンドルを切りながら、新一はじんわりと身を包む苛立ちに、荒く舌を打った。
     四十半ばをとうに超え、黒髪の間に白髪が見え始めた真一は、元から厳しいと指摘される顔を、さらにしかめていた。
     二十年連れ添った妻からの電話が、仕事場では常に冷静だと評価を得ている真一の精神を、波打たせていた。
     カーナビに先導されるままに山道に入り、夕闇に紛れて雨が降ってきているのも、真一の神経を擦り減らせている大きな要因だ。
     今年の頭から、少し態度が変だとは思っていたけれども、まさか自分に浮気疑惑が出るなど、微塵の想像していなかった。
     仕事の関係で、出張が多いことが原因らしく、妻は若いころから、自分が出張にかこつけて他の土地で女を作っているのではないか……などと、愚にもつかない妄想をしていたのだと、三時間ほど前にかけた電話先で、立て板に水のごとく浴びさせられたのだ。
    「よそのところで、女を作っているから帰ってくるのが嫌になったんでしょう。私が何も知らないなんて、思わないでくださいね。いい年をして、本当にみっともない」
     冗談ではなかった。
     真一は自分に何一つ非がないことを、よく知っていた。
     今回に限った話ではなく、浮気をした事実など、一度もない。
     若いころから、元々恋愛ごとにも性的なことに関しても真一は淡泊だった。
     妻とは学生時代から続いた果ての恋愛結婚だったが、熱く燃え滾った末のものではなかったと、今でも思う。付き合いが長く、互いに結婚を意識してもおかしくはない年月を過ごした。
     結婚に至った理由は、その程度だったと思う。互いの両親の反対がなかったのも、大きな要因だろう。
     今と違って、真一たちの時代は結婚に親の意見が大きく反映された。
     雨足は止む気配を見せない。夕闇はいつの間にか、完全な暗闇へと変化していた。
     道幅の狭い山道は明かりが乏しく、車から発する光源だけが、暗闇を照らす手段だった。
     舗装された道からも外れ、車体がでこぼこの地面に沿って、揺れていた。
     こつん。
     不意に、フロントガラスに何かがぶつかった。
     山の中なので、木の実か何かだと、真一も最初は気に留めずにいた。
     だが、フロントガラスにぶつかってきたのは、その一つだけではなかった。
     こつん。こつん。こつん。
     一つ、二つ、三つ……と何かがぶつかってくるではないか。
     真一は渋面を作った。
     雨で木の実が落ちやすくなっているのだろうと思うが、これでフロントガラスに傷までついたら泣きっ面に蜂だ。
    「なんだ?」
     思わず声が漏れる。


     こつん、こつん、こつん、こつん、こつんこつんこつんこつんこつんこつんこつん。


     最初は断続的だった、フロントガラスにぶつかってきていた何かが、さほどの時をかけずに、その量を一気に増やしてきた。
     最後には、まるで雨の礫のようぶつかってくるではないか!
    「う、うわあああああああああああああああ!!」
     フロントガラス一面にそれが貼りついたことで、その正体がわかった。
     木の実だと思っていた何かは、蜂だった。
     蜂がまるで、真一の車に吸い込まれるかのように、何十、何百、何千という量で襲い掛かってきていたのだ。蜂はフロントガラスいっぱいに張りつき、たちまち真一の視界を塞ぐ。
     慌ててブレーキをかけるが、手ごたえを感じない。
     ざっと、身体中の血液が下がった。心臓が妙な音を奏でる。
     ブレーキが利かない!
     真一は力いっぱいブレーキを踏むが、やはり車のスピードが下がる様子はなかった。
     青ざめる真一の視界には、蠢(うごめ)く蜂の絨毯(じゅうたん)
     子供の頃ならいざ知らず、蜂をこの距離で見るのはずいぶんと久しぶりだった。
     窓を閉め切っているので、蜂が入ってくることはないだろけれども、万が一、この量の蜂が車体に入ってきたら……いや、ブレーキが利かないままで、万が一、道を逸れてしまったら……。
    「ひっ!!」
     車体から、急に地面を走っていた感覚が消えた。
     即座に襲ってくる浮遊感。
     ぐっと、シートベルトが真一の肉体を締め上げる。内臓がひっくり返るような、不可思議な吐き気。恐怖を感じる暇もなく、それは起きた。
    「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
     車体の中で、身体をいたる部分でぶつける。痛みを感じる余裕すらない。
     遊園地にある遊具でだって、このような乱暴な動きで身体を揺さぶることはないだろう。
     真一の脳裏に、妻の顔が浮かんだ。子供の顔が浮かんだ。
     親や、友人、部下の顔も浮かんだ。
     それは一秒にも満たない間に起きた、記憶の残像。
     仲違いしたまま妻と死別するなんて、嫌だった。子供の学費も、まだ払わなくてはいけないのに。年老いた両親を残して、どうして自分が先に死ねる。
     自分を情愛に薄い人間だと思ってきたが、そんなことはなかった。
     まだまだ、やりたいことがある。守りたいものがある。
     自分が面倒を見なければあいつらは――。
     真一は後悔と激しい吐き気に襲われながら、気を失った 。











     真一が目を開けると、上品な天井の格子が見えた。
     鼻孔をくすぐる、上質ない草の匂い。
     目を開け、しばらく格子を映していたが、それが本当に天井だという情報を脳が受け取ったのは、だいぶ後になってからだった。
     どうやら自分は広い和室にぽつんと置かれた布団の上に横たえられていたようだ。
     視界の端――左側に、障子が見えた。
     その頃になり、真一の意識は完全に覚醒した。
    「――!?」
     勢いのまま上半身を起こそうとするが、肉体は言うことを聞いてくれなかった。
     全身を襲う痛みと、それ以上の疲労。指一本動かすにも、億劫だった。
     感情の動きと、肉体の反応が一致しない。
     不意に強烈な吐き気を覚えて、真一は仰向けになったまま嘔吐いた。
     だが、その空っぽの胃からは透明の液体だけしか出てくることはなかった。
     己に起きた最後の記憶を反芻する。すぐに思い出したのは、回転する景色。
     強烈な浮遊感と、嘔気(おうき)。
    「目が覚めましたか、お前さま」
     鈴の鳴るような愛らしい声が、真一の鼓膜を震わせる。
     襖の開く音すらしなかったのに、いつの間に。
     どうにか動く顔を少しだけ持ち上げると、目の覚めるような美しい少女が佇んでいた。

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    コメント

    • にゃ、にゃあぁあ……(*´Д`)ハァハァハァハァ

      に、にくきゅう指圧店開店おめでとうございます(*´ω`*)
      • 2 fav
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    • わあぁぁ!!?
      遅くなってすいません!!皆さんをフォローさせて頂いていて、新着情報が、ぱんぱかりんで今気がつきました!!!
      相坂桃花さんや皆さんのおかげです!!ありがとうございます。
      そして、これからも宜しくお願い致します。時間見つけて読ませて頂きます!
      • 1 fav

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    • こ・・こわいニャー!!
      • 3 fav
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    • ふぉあぁぉヾ(。>﹏<。)ノ゙✧*。
      ね、ねこさんが怖がっておられる……!ミルクを、人肌に暖めたミルクをここに!!!
      ねこさん、コメありがとうございます。
      いつも、ねこさんの愛くるしい姿に癒されていますฅ(○•ω•○)ฅニャ~ン❣
      • 2 fav

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    • ごきゅっごきゅっ・・ぷはー
      おいしいミルクだったニャー!
      暖まったニャありがとニャー
      • 1 fav

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