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シリーズ:白い夢
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白い夢

作者:寿加

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    【短編読み切り】自殺を決意した「私」の前に黒衣の男が現れる


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    白い夢 6348文字

     

     死のう、と思った。
     生きていてもつまらないだとか、自分自身生きている意味がないだとか、多分そんなありきたりな理由も動機のひとつ。
     私は人間と接することが極端に苦手で、他人と会話することはおろか、自分の姿が人の目に触れることすらも嫌だった。
     自分というものに自信なんて少しも持ちあわせていないし、そんな自分が嫌いで仕方ないものだから、出来る限り人と接していたくなかった。
     それでも他人と接することなく生きていくことなど不可能に近く、私の苦痛は毎日毎日積み重なっていくばかりで、どうすることもできない。
     いっそこの世界からいなくなってしまいたかった。
     私以外の誰も存在しない世界で、穏やかに毎日を過ごすことができたのならば、どんなに幸せだろう。
     常に平穏で、流れるような時間の中に永遠に浸っていることができるのならば、どんなに幸せなのだろう。
     私はただ、ひたすら楽になりたいだけだった。
     もう、私の望みを叶えてくれるのは「死」だけなのだ。
     とりあえず、どうやって死ぬかを決めなければ。
     だが、どう考えてもあまり奇麗に死ねる方法は少ない。首つりも飛び降りも死体が奇麗ではないし、他人にあまり迷惑をかけることは避けたい。
     やはり失血死が一番手頃で、死体もそこそこみられるくらいであろう。
     睡眠薬でも飲んでバスルームで手首を切るのが妥当か。
     しかし、私の死体が発見されるのが遅くなって、死体が腐敗してしまったたら、この自殺方法の選択も意味を成さなくなってしまう。かといって途中で発見されても困る。
     ここはきちんと発見されるように計画をたてなくては。と、そこまで考えて、これではまるで、これから完全犯罪を企てる犯人のようだと思い、少し可笑しくなった。
     しかし、それはあながち間違いではないかもしれない。私は、計画された殺人を自分自身で演じてみせるのだから。
     やるべきことはたくさんある。これはいつも以上に忙しくなりそうだ。かといって日常のペースを乱し、私を知っている周囲の人間に悟られてもいけない。あくまで普段通り過ごすのだ。
    手始めに部屋の整理でもしようか。
     みられたくないものやいらないものはすべて処分して、その他の荷物は段ボールにでもつめたらいいかしら、と思ったが、それはいくらなんでもやりすぎかと思い直した。
     引っ越しの準備まで済ませて死ぬのも少々間抜けな気もする。まあ少し片付ける程度が丁度良いだろう。
     後は、両親宛に遺書を残した方がいいかもしれない。
     私は一人暮らしを始めて長いこと経つ。だから、両親は今の私を少しも理解してはいない。いや、私が心配かけまいと、わざと明るく振る舞ってきたのだから理解しようがなかったと思う。
     突然自殺などして二人を驚かせるのは気に病むが、せめて遺書くらい残しておきたい。
     母や父はそれをみてどう思うのだろう。私の為に泣いてくれるのであろうか。私の数少ない友人たちは、私の死を聞いて涙してくれるのであろうか。
     そういえば、便箋がなかったということを思い出し、買いに行くことにした。
     外は厚い雲のせいで薄暗く、今にも雨が降り出しそうだったが、便箋くらい近くのコンビニにでも売っているだろうと、財布だけ持って出かけた。が、あいにく売り切れてしまったのか、もともとなかったのか、私は目的のものを手にすることができなかった。
     まあ、おそらく雑貨が集められた棚の商品と商品の間が不自然に空いていたから、きっと前者の理由でなかったのだと思う。
     あまり売れなさそうなものなのに今日に限って何故売り切れているのだろう。全くついていない。
     仕方なく私は少し離れたところにある文房具店に行くことにした。さすがに文房具店で売り切れはないだろう。
     しかし、すぐに帰る気でいたから傘など持たずにきたが、本当にいつ降り出してもおかしくないほど、どんよりとした雲だ。更に時刻も夕方を過ぎ、刻一刻と夕闇が空を支配してきている。出来る限り急いで帰ろう。
     私は近付いて来る夜の闇から逃げるように歩調を早め、文房具店への道のりを急いだ。
    この辺は入り組んだ細い道が多く、それらの道を通っていけば人に出会うことはまずない。少し遠回りになってしまうが、それでも人目に触れるよりはいい。
     やっと着いた文房具店で適当な白い便箋と、ついでにそれに合わせた白い封筒を購入し、また来た時と同じ道を足早に歩き始めた。
     木と住宅の塀が並ぶ角を曲がれば、しばらくまっすぐな道が続く。途中の古びた街頭には既にあかりが灯っていた。その灯りが更に闇を濃くする。
     ふと、その闇がかすかに動いた気がした。
     そんなはずはないのだが、街頭の側の一番濃い闇が揺らいだ気がして、私は思わず足を止めた。
     じっとその闇を見つめてみる。
     ゆらり。
     やはり動いた。
     その奇妙な光景に、私はその場から動けなくなっていた。
     見つめ続けていると、それはやがて人のかたちを成し、闇から影となって現れた。
     いや、それは黒い服を着た人間が街頭の後ろから出てきたにすぎなかった。
     私は硬直していた身体をほっと緩めると、再び歩を進めた。黒い服の人物はこちらを見るように街頭の前に立っている。
     多分男なのだと思うが、少し奇妙な格好をしていた。
     全身を覆うような長いマントと目深に被ったシルクハットが彼の表情を隠している。ただ、唇だけが紅を塗ったように、紅い。
     私が男の数歩前まで来ると、今まで少しも動かなかった身体が僅かに揺らぎ、「今晩は」といった。
     それは明らかに私に向けられた言葉で、私は思わず男の三歩前で立ち止まってしまった。
     「今にも雨が降り出しそうなお天気ですね」
     男の紅い唇が動く。
     不思議な声だった。どんな、といわれても説明できない。ちゃんと聞こえているのに、その声が低かったのか高かったのか分からなくなってしまう。
     私は男の紅い唇と不思議な声に気を取られ、彼が先程何と言ったか分からずにいた。 
     しかし男は、私が何も言わずにいるのをさして気にした風もなく、失礼ですが、と言うと続けてこういった。
     「夢が、ご入用ではありませんか?」
     「ゆ、め……?」
     「はい」
     男の言ったことは分かったが今度はその内容が理解出来ない。
     夢、といったって、睡眠時に見る夢と将来の夢とか希望といった類いのものがある。この男はどちらのことを指して云っているのだろう。   後者の方が言葉の筋は通る気がするが、どちらにせよ、おかしな話だ。
     「……そうですね、貴女には真っ白な無の夢が良いでしょう」
     明らかに怪訝そうな表情の私をよそに、男は満足そうに頷くと、口元に笑みをうかべた。
     「あの」
     「はい」
     「何だかよく分からないですけど、とりあえず私急いでいるので」
     この男が何であれ、とにかく面倒なことになるのは避けたかった。
     「それは失礼を。では、夢が必要になったらここにお越しください。きっと貴女に満足頂けるような夢をご用意致します」
     予想外に男はあっさり引き、名刺のようなカードを私に渡すと、胸に手をあて、少々オーバーなお辞儀をした。
     カードには、細く繊細な書体で住所が書かれていて、その端は三日月の形にくり抜かれていた。その男の名前だとかいったものはない。
     そうして私がカードを見つめていると、突然ぽつん、とカードの上に水滴が落ち、みるみるうちに丸いシミとなって広がっていった。
     とうとう雨が降り出してきたのかと思い、顔をあげると、目の前にいた筈の黒衣の男が消えていた。辺りを見回しても、人の影すらない。
     闇から現れた男は、また闇へと帰っていったのだろうか。



     数日後、私はまだ迷っていた。
     自殺を思いとどまろうかどうかということではない。
     あの男に、あの黒衣の男に会いに行こうか―――
     このカードに書かれた住所が、本当にあるのかも怪しいものだし、第一あの男が何者であるかも知れない。
     けれど私には、男はきちんとこの場所に存在していて、そこで白い夢を手に入れることができれば私は幸せになれる。そんな気がしてならなかった。
     確かにあの男は私の目の前に現れ、カードを渡して消えた。それは事実であるし、私の夢幻などではないのだから。

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