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シリーズ:羊の皮を被った狼、狼の皮を被った羊
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羊の皮を被った狼、狼の皮を被った羊

作者:畑山

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    羊の皮を被った狼と狼の皮を被った羊の物語


    登録ユーザー星:2 だれでも星:2 閲覧数:1326

    羊の皮を被った狼、狼の皮を被った羊 15137文字

     



     狼は飢えていた。もう、一週間なにも食べていない。
     狼は獲物を探すため、地面に鼻をこすりつけ歩いた。茂みを抜け、少し開けた山の近くで、風に乗ったかすかな匂いを拾った。狼の脳で羊の映像が浮かんだ。地面ではない、わずかな空気の中、あるような無いような、断片的に鼻孔に引っかかる羊の匂いである。飢えによる幻嗅か、極端に敏感になった嗅覚によるものか、狼はワラにもすがるおもいで、その匂いをたどった。切り立った崖に洞窟があった。匂いは、その洞窟から漂っていた。
     暗闇の中、歩いた。少しずつ、匂いが確かな形を取り始めた。多少古い、かなり古い、腐っていてもかまうものか。足取りが速くなる。
     洞窟の奥、行き止まりで、羊はいた。狼は喜び勇んで駆け寄った。狭い洞窟だ。羊に逃げ場はない。近づいた。
     だが、こいつはさすがに、
    「くえねぇよ」
     そこにあったのは、死後ずいぶんたった羊のミイラであった。洞窟の温度と乾燥の所為か、ほとんど原形を残しているものの、ミイラ化していて食える肉は残っていなかった。骨と皮、後はふかふかの羊の毛だけである。
     洞窟から出て獲物を見つけても、追いかけ捕らえる力は、もう残っていない。この洞窟で、羊のミイラと死ぬのか。狼はへたり込んだ。
     かつて、この狼は群れの中にいた。仲間と協力し獲物を捕り、獲物をわかち合う。だがそこに人間が来た。人間に追い立てられ、群れはバラバラになり、多くの仲間が死んだ。それ以来ずっと狼は一匹で生きてきた。仲間を殺されたからといって、狼は人間を恨む気持ちは持っていない。命を奪って生きるのが当たり前のことだからだ。狼もやがて餌になる。洞窟の羊のようにひからび、虫に食われるのだ。
     食える部分はないだろうか、鼻腔をくすぐる羊の匂いに、狼はミイラ化した羊に足を伸ばした。皮膚に触るとまるで生きているかのような感触がした。温かそうな白いふさふさした毛も、残っている。だが、中はがらんどうだ。肉は虫に食われたか、腐って流れたのであろう。骨は残っている。狼は骨を食うため、羊のミイラの腹を割こうとした。そこで、狼はとんでもないことを思いついた。
     笑った。その牙をむき出しにし、狼は洞窟の奥で笑った。



     羊

     一匹の羊が森をさまよっていた。
     その羊は、群れで暮らしていた。安全な柵と人間に守られ、豊かな牧草を食べ、冬は人間が保存した枯れ草を食べた。だが良いことずくめではない。羊は人間に毛を刈りとられる。それは、羊にとってあまり気持ちの良いものではない。全身を覆っていた白い毛が、ずるりとはぎ取られるのだ。寒いというか、不安になる。だが、人間にはよくしてもらっている。文句を言う口もないので黙っているが、できるものならやめてもらいたい。羊はそう思っていた。柵と食事があるので、皆、不平を言いつつも我慢をしていた。
     だが、その羊は気づいてしまった。人間は、羊の毛だけが目当てではないことを。
     日差しが温かく、牧草は青く茂っていた。その羊は草を食べながら、気持ちよさげに伸びなどしていた。若い羊が何匹か、小屋ではなくトラックに乗せらるところを見た。
     羊は、好奇心に駆られ、後をついて行くことにした。遠目に見たらわからないが、柵の一部に壊れている箇所がある。そこを通り抜け、羊はトラックの後を追った。めぇめぇと鳴きながら、トラックに見つからないよう、距離を置き、匂いをかぎ、慎重に慎重に後を付けた。トラックは、赤い屋根の大きな建物の前で止まった。人間の誘導でトラックの中から羊たちが出された。建物の中に連れられた。やがて、建物の中から、えああ〜、いあああ〜と、絶望の声が流れた。
     羊はがたがたと震えた。体の中にモグラが入り込んだような恐怖を感じた。
    「殺した」
     人間は、羊を食うんだ。人間は、毛を刈り取るだけじゃない。羊の肉も食うんだ。羊は、そのことを一瞬で理解した。
    「知らせなきゃ」
     羊は、何も知らない仲間の羊にそのことを知らせなくてはいけない。そう思った。
     その羊の様子を見ている人間がいた。小さな男の子だ。通りすがりの男の子が、自らの一生を知ってしまった羊を見ていた。男の子は、だーと笑いながら、幼い手を羊に差しのばした。羊はパニックになって逃げた。全力疾走で、近くの森の中に逃げこんだ。

     森はしだいに暗くなっていった。羊はあちこちぶつけながら、小枝をそのきれいな毛に、絡めながら歩いていた。ほー、フクロウの声がひとつ。日が落ち、暗闇が森を支配した。羊の背は、白く、闇の中でくっきり浮き上がっていた。
    「どうしよう」
     こんな森の中に羊は来たことなど無い。そもそも、どこに行けばいいのかわからなかった。自分が来た匂いをたどっていけば、時間がかかるかも知れないが、牧場に帰ることはできる。だが、帰ってどうする。羊はあの場所で人間に見られた。つまり、羊は、人間がひた隠しにしていた事実。羊を殺して食べているということを、羊が知ってしまったということに気づいている。もし牧場に帰れば、すぐ殺される。この羊はそう思っていた。
     だが、こんな、柵もない、人間も守ってくれない。こんなところで、羊が一匹、生き残れるわけがない。森の中は狼の縄張りだ。このまま森の中を進めば、狼に食い殺される。進むも地獄戻るも地獄、行く当てもなく羊は震え森をさまよった。
     腐臭がした。なんだろうと、その方向を迂回しようと思った。匂い。羊は自分の匂いのことに思い至った。あちこち体をぶつけ自分の匂いがたっぷり木の幹に残っている。まずい。狼に見つかるかも知れない。羊は焦った。どうしよう。そうだ。匂いだ。匂いをごまかせばいい。羊は腐臭の元へ足を動かした。
     しばらく歩くと木の根元に、何かがいるのが見えた。狼だ! 羊は飛び上がり、逃げようとした。あっ、待て、死んでる。大丈夫だ。よく見ると木の根元に倒れている狼は死んでいた。黒く、ぽっかりと目が抜け落ちている。それがじっとこちらを見つめているようで怖かった。なぜ死んだんだ? すこし、そろりそろりと羊は近づいた。狼の右の前足に、何かが引っかかっている。罠だ。なにかの罠に足首を取られ、動けなくなって死んでしまったのだ。人間が仕掛けた罠だ。こんなところにまで、人間は来るのか。狼でさえ人間にかなわないのだ。羊なんてとうてい。羊は、へたり込んだ。
    「どこへも逃げ場はないんだ」
     罠に狼がかかっていると言うことは、この辺りに狼がいると言うことだ。人間に食べられるか狼に食べられるか、どこに行こうが、なにをしようが羊は食べられるのだ。羊はそのまま死んだ狼の前で眠った。
     朝が来た。朝の光が、森の中まで差し込み、罠にかかり死んだ狼と羊を照らした。羊は目を覚ました。光に照らされた狼を見て、羊はとんでもないことを思いついた。



     狼

     狸が一匹、狼の前に珍しげに近づいてきた。「草くいだー、草くいだー」と騒ぎ立てた。羊の口から、にゅっと、狼の口が飛び出し、狸の首筋にかみついた。
     狼は、洞窟の奥にあったミイラ化した羊を使い羊に化けた。
     ミイラ化した羊の腹を慎重に割き、中に潜り骨を取り出し、かじりながら、すべて取り出し、残った乾燥した肉をきれいに取り除いた。
     羊の皮と羊の毛皮。狼は、裂いた腹の皮から頭を入れ、羊の皮をかぶった。羊は目が横の方についているため、狼は、爪で羊の額の当たりに小さい穴を開け、頭の羊毛で穴を隠した。羊の口元は狼のそれに比べ、圧倒的に大きい。口の位置は羊の方が長く、草を食べるため、下に向いている。狼の口は真ん中で、上下に広がるようにできている。羊の上あごは狼の鼻先で一部たれ、下あごの部分の皮は、全体的にたれている。狼はサイズの合わない口元を調整するため、抜き取った羊の骨を使うことにした。がりがりと噛み、羊の上あごの骨を、少し薄くして、狼の鼻先に乗るようにした。下あごの骨は、ほぼそのままの形で、下あごの関節部分を、両の口の端でくわえ、落ちないよう固定した。前髪を垂らし、すこし下あごの、のびた羊の顔ができあがった。狼の方が足が短いため、羊の足の皮が少し余り、足首にルーズソックスのようなまとまったシワができた。胴の部分は全く問題はなかった。毛がもこもこしているため、少しやせた羊に見えた。腹の皮の傷は羊毛を集め隠した。かくして、羊の皮をかぶった狼はできあがった。

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