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ある日、看守であるアンセは、上司から配置替えを命じられる。そして彼は訪れた監獄の最奥で美しい……されど異貌な姿の少女と出会うのだった。
少女はアンセの視線になど気づかず、無表情のままに食事を続ける。
だが少女の両手が厳重に拘束されていることを考えればそれは必然なのだろう。そうアンセは考えた。いかに彼女が器用に足を使えようとも、便座に座ってはひとりで下着の上げ下げはできないのだから。
†
食事を終えた少女はトレイを小窓へと戻すとベッドへと入る。
後ろ手に拘束された腕が邪魔なのだろう、仰向けにはならず身体を横向きにしている。そして足を使い薄い布きれで自らの肢体を覆った。
やがて少女が寝息を立て始めても、アンセは監視を緩めることはなかった。
愚直なまでの真面目さで少女の寝姿を見つめる。
だが腹が膨れ、少女の寝息に誘われたのだろう。あるいは突然の転属の疲れがでたのかもしれない。彼の意識は少しずつ現実を離れていった。
アンセが失った意識をとりもどしたのは、それからいくばくか時間が過ぎてからだった。
失態に気づいた彼は自らを叱咤するように、頬を手の平で叩く。いかに脱走の心配がないとはいえ、それは彼が職務に不誠実であっていい理由とはならない。それに彼は自分の長所は真面目なところだけであると考え、それを失うことは自身の価値をなくすに等しいと、ひどく恐れた。
改めて職務への忠信を取り戻すと、檻の向こうへと目をやる。すると、布の下の少女が身体を動かしているのが感じられた。
なにをしているのかと、アンセは少女の変化に注視する。少女の頬には赤味がさし、小さなその口からは白い息がでていた。
熱病の類だろうかと考えたが、その場合の対処方を聞いていない。上の牢獄であれば容態しだいで医者を呼ぶこともあるが、ここにその例を適用させてよいものか。そもそも檻の中へはアンセ自身も入ることは禁じられている。例え医者を呼んだとしても、入れないのであれば意味がない。
とにかくアンセは事態を見極めるべく、より深く少女の様子を探った。ちょうどその時、少女の身体を隠していた布が落ちた。すると少女の長い足が、なだらかな乳房をシャツの内側からもみほぐしている姿がさらされる。
アンセはまたも動揺した。
まさか年端もいかぬ少女の、痴態を目の当たりにするとは考えていなかったのだ。
アンセは少女から目を離すべきか迷う。
そもそもとしてなぜ少女は監視の前で、そのような行為におよべるのだろうか。彼は彼女と自分を遮るものを透明なアクリル板だと思い込んでいたが、実はマジックミラーのように一方的に視線を通すものなのではないかと疑う。だとすれば最初から彼に反応しなかった理由にもうなずける。だがいかに囚人とはいえ、年頃の少女の生活を一方的に、その秘すべき事柄を無断で覗き見ていいものか。
迷ううちに少女の足が胸を離れると陰(ほと)へと移される。
アンセは倫理と職務のはざまに苦悩を覚えるが、その動きが激しくなるほどに視線を向けることへの抵抗感を失っていった。
†
腕時計が勤務終了の時刻を指し示すと、アンセは安堵の溜め息を漏らす。突然の配置換えと、そこにいる少女の様子に戸惑いながらも、なんとかその日の職務を無事果たすことができた。
アンセは最後に檻の中の少女に異常がないことを確認すると、空になったトレイを手に階段を上る。入ったときは二度と出られないのではないかと疑った分厚い扉であったが、それは彼の脱出を阻むことはなかった。
気味の悪い地下から解放されたアンセは大きく息を吸い込む。そこはまだ不衛生な監獄内であったが、それでもその空気は新鮮に感じられた。
仕事を終えたアンセはグレムの私室へと向かう。
ノックし許可を得た彼が入室すると、中にはグレムともうひとり女がいた。女はあられもない姿で、椅子に座るグレムの上にまたがり嬌声をあげている。突然のことに部屋を出ようとするアンセだが、部屋の主は気にせず仕事の報告をもとめた。
「異常はなかったか?」
そう問われると少女の痴態が頭を横切ったが、それを口にすることはなかった。グレムも深く追求せずそのまま彼に退室を命じる。
だがアンセには聞きたい事があった。
――なぜ、少女はあんなにも不遇な扱いをうけているのか。
――名前はおろか、番号すらつけられてないのはなぜなのか。
――引き継ぎの者がいないが、夕食や朝食はどうするのか。
しかしグレムの楽しみを邪魔する勇気を持てず、なにひとつ聞くことができないまま彼は部屋を去った。
†
疲労に打ちひしがれたアンセはまっすぐアパートへと帰ると、そのままベッドへと入った。
そしてそのまま夢の世界へと入り込む。
夢の中で彼は魚となり、暗く深い場所を泳いでいた。あたりは不気味だったが、そこには優雅に足を動かし泳ぐ白髪の少女がいた。
アンセは誘われるように少女を追いかける。
少女に追いつくと腕を伸ばし、彼女の冷たく冷えた身体を強くだきしめた。
そして、海流の流れをかえるほど、激しい動きで少女とまぐわうのだった。
翌朝、目を覚ましてアンセは苦悩する。
夢とはいえ、年端もいかぬ少女と交わるという背徳的な行為を後悔したのだ。更にはその結果が下着の中にありありと染みついている。
アンセは自分自身と、自分の心を乱す少女を恐れた。
もう一度彼女に会えば、自分はおかしくなってしまうと。真面目さだけが取りえな自分が、あの場ではそれを維持できなくなるのだ。それは彼にとってアイデンティティーの崩壊に等しい。
そして悩んだ末、アンセはその日はじめて無断欠勤をした。
昼をまわる頃になり、アンセの携帯に着信が入る。無視をするとグレムからの伝言が残されていた。
内容は『貴様に代わりはいない』という短いものだった。出勤を求める遠回しな言葉だろう。だがアンセはそれに従う気にはなれない。しかし彼には逃亡の先にも、次の就職の当てもない。頼れる者のいない彼には逃げても、新しい生活を始められる自信がなかった。
なにより職務から逃亡することで、己のもっていた唯一の美点を失なってしまう。それすら失っては、これまで以上に誰からも必用とされないのではないかと恐れた。
――逃げるにしても筋は通そう
そう考えると結局アンセは、もういちど監獄へ足を運ぶことを決めた。
†
無断欠勤に対し、アンセはグレムからの愚痴と嫌味を覚悟したが、意外にもそれはなかった。ただ「以後気をつけるように」と注意をされ、急いで担当箇所へ向かうように告げられる。
アンセは食事を載せたトレイを手に、再び扉の向こうの深い階段を下る。そして最奥に辿り着くと、牢屋内にあの少女の姿を見つけた。だがその姿は先日とことなり床に転がっていた。
アンセは手にしたトレイを落とすと、アクリル板に顔をつけ少女の様子を確認する。表情が苦悶に歪んでいた。
彼は入口に向かうと、腰に下げた鍵に手を伸ばす。だがそこで躊躇する。グレムからは決して牢の中に入ってはならないと厳命されている。それに反することは上司の不興を買うだけでなく、自らの指針である真面目さをも失う事となる。
葛藤する彼を余所に檻の中の少女が身をよじらせる。
彼は少女を救うためだと自らに言い訳をすると、その封印を解いた。身をかがめ、夢にまでみた少女と同じ空間へと踏み入る。
だがそこは息が詰まりそうなほどの悪臭で満ちていた。押し寄せる不快感をこらえ、少女の元へとかけよる。その細い肩に手をかけた瞬間少女の瞳が開かれた。はじめて間近でみた瞳は夢でみた海とおなじ色だった。
少女が目覚めたことを喜ぶアンセ。
すると、その大きな瞳がまるで口づけを望むように彼の顔へと近づいてくる。
アンセが受け入れると、内側から舌が伸ばされアンセの口内へと侵入した。彼は驚き、とっさに離れようとするが、いつのまにか回された足を振りほどくことはできなかった。
少女の舌が口内を蹂躙すると、アンセの脳を少しずつ麻痺させていく。やがて痺れが全身に回ると彼の身体は冷たい床へと落とされた。
少女は身を起こし立ち上がると、動けなくなったアンセを見下ろす。彼には何が起きているのかわからず動揺していた。ただこれまで頼りにしてきたものを手放してしまったことを深く後悔した。
2014/12/20 17:52:16
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└悪徳医師と悪徳興行会社に操られ、奇妙な興行をさせられる男。裏稼業で莫大な富を手にする男。男の運命は壮絶な最期を迎える。
└昔話のような。きこりの吾助の前に、美しい娘が現れる。
└はい、私は人を殺しました。