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ある日、看守であるアンセは、上司から配置替えを命じられる。そして彼は訪れた監獄の最奥で美しい……されど異貌な姿の少女と出会うのだった。
波の荒い海に面したその建物は、中世ヨーロッパの城塞を想像させた。だが厳めしい外観とことなり、その役割は侵入者を拒むことではなく、入った者を逃さぬことにあった。
そう、そこは監獄である。
死罪を受けたに等しい重罪人ばかりを石壁の内側に集め封じているのだ。
だがそこにもうひとつ別の役割があることを知る者は、監獄の正式な名を知る者よりもさらに少なかった。
†
アンセ・ドゥは監獄に勤める若い監視員である。背は高いが痩せた見窄らしい身体はおせじにも美形とはよべなかった。
彼はハイスクールを卒業後、人間関係に不器用だったため就職先に恵まれなかった。何年もバイトで生活を繋ぐことで、ようやく監獄への就職を成功させた。最初は気の荒い囚人や偏屈な同僚との仕事に戸惑ったものの、一年、二年と過ごすうちに慣れ、三年目を向かえた今では滞りなく役割をこなせるようになっていた。同僚との仲はかんばしくないままだが、もとよりひとりでいることになれた彼は、孤立することになんら不自由を感じてはいなかった。
そんなアンセがロッカールームで着替えを済ますと携帯に着信がはいる。たった二回で切れた着信はメールの知らせだった。図書館で予約していた本の準備ができたという内容だ。
アンセは確認の済んだ携帯をロッカーにしまうと就業後の予定を組み、囚人たちの待つ陰惨な仕事場へと向かった。
†
その日、アンセが第一に訪れたのは牢獄ではなかった。
他のどの部屋よりも豪奢に飾られたその部屋は、グレムという彼の上司の私室であった。
座ったままのグレムは眼鏡ごしにアンセの姿を確認すると「おめでとう」と、祝福の言葉を投げかけた。
アンセの真摯な勤務態度が評価され、担当先がかわるのだという。そこには些細な不満で暴れ、監視員に怪我を負わせるような囚人はおらず、つらい夜勤もないという。なにより給与もあがり「宝くじに当たったようなもの」とその幸運を称えた。
だがアンセはその言葉を素直に喜ぶことはできなかった。たしかに牢獄の監視はきついが、いまではそれになれてきている。給与が増えるといわれても、質素な生活が身についている彼は金に困っていることもない。なにより『昇進と考えていい』ということは、実際にはちがうということだ。なのにどうして給与があがるのか。そのことは不安を増大させた。
「なに、難しく考える必用はない。場所はかわるが職務に変更はない。ただの監視だ」
グレムはそういって、いくつかの事柄を説明すると、そのまま新しい職場に向かうよう命じる。
それでも不安を拭えないアンセであったが、相手は上司であり意にそぐわない相手を排除するだけの権力をもっている。実際、グレムの不興を買い姿を消した同僚をアンセは何人も知っている。次の就職先に宛のないアンセには逆らいようがなかった。
「わかっているとは思うが、そこでの事は誰にも話してはいけない」
当然のことだとアンセは頷く。
「そうか、では期待しているよ」
そういってグレムは気味の悪い笑顔で彼を送り出すのだった。
†
アンセが食事用のトレイを手に地下牢への階段口に入ると、背後で金属の扉が重い音を響かせ閉められた。
扉の物々しさに自分自身が、この地下に閉じ込められるのではないかと怖くなった。だが疑おうとも、閉められた扉が内側から開くことはない。彼は己の唯一の長所である真面目さを失わせないためにも、薄い暗い階段を下りた。
階段を下り地中に潜るほどに、息が苦しくなる。空気が湿り気を帯び肌にベタついた。延々と地下に伸びた階段は、海にまで続いているのではないかと疑うほどだ。
長い時間をかけ階段を下りきると、ようやく監獄の最奥にある地下牢の前へとたどりつく。
するとそこは年端もいかぬ少女がたったひとりで座っていた。
アンセは檻の向こうに少女がいることにひどく驚いた。
無理もない。監獄には多くの重罪人が拘留されているが、そのもっとも厳重な場所にいたのが十二、三の少女だったのだから。
またその容姿も普通ではない。
陽光の差し込まぬ地下牢にどれほど長く封じられているのだろうか、その肌は不自然なほど白い。か細い身体には囚人服ではなく、小汚いシャツを一枚着ているだけだ。
伸ばしっぱなしの髪はくたびれた白。その間からは整った顔立ちがのぞけるが、感情が抜け落ちているせいで、歳相応の愛らしさや人間味が不足している。また両腕は後ろに回され、丈夫な革の拘束具で一本にまとめられている。だが少女のもっとも不気味さは他にあった。
それは足である。
小柄な少女から伸びた足は身長の半分を超えるほどで、長すぎることでかえって均整を崩していた。
アンセは驚きはしたものの、少女に声をかけようとはせず、檻の前の椅子に腰をかける。彼の仕事は監視であり、囚人と仲良くなることではない。また囚人に無意味に話しかけることも職務規程で禁止されている。
少女の方もアンセが現れたことに反応を示さず、ベッドに腰掛け気だるそうにしたままだ。
アンセと少女の間には金属の格子と透明なアクリルとおぼしき板の二重の障壁で遮ぎられている。水族館の水槽にも使われるアクリルは何百トンという水の重さに耐えるほど丈夫だ。たとえ爆弾を使ってもこの檻を破るのは容易ではない。
もっともそんなことをせずとも、檻の隅には身をかがめば潜り抜けられる出入口がつけられている。そしてその鍵は万が一の備えとして、監視員であるアンセの腰にさがっているのだ。
檻の中にはベッドとトイレ、それと両手を封じられたままでどう使うのか洗面所もついていた。
少女はベッドに腰掛けたまま、長く伸ばされたままの白髪を、手ではなく自由な足の指で弄んでいた。
アンセを気にする様子はまるでない。
それは彼の同僚たちとおなじ対応であったが、アンセはそれを気にせず、いつも通り周囲から浮く真面目さで監視をはじめた。
†
アンセがグレムから命令されたことは、牢屋内にいる者の監視と逃亡を阻むことだ。牢が破られることはないのだから、実質監視のみと考えていい。あとは階段を下りる際に運んできた昼食を与えるくらいだ。
アンセが腕に巻いた時計を確認すると、時間は昼時まで進んでいた。彼は横に置いておいたトレイを手にとる。そこにはグロテスクな魚が一匹とひび割れたパン、具のないスープがあるだけだった。
すべてが冷めていて、内容的にも地上の罪人たちより雑な食事だ。とくに魚は火が通っているかも怪しい。
アンセは食事に楽しみを覚えるタイプではないが、それでも粗末な食事しか与えられぬ少女を気の毒に思う。だがその感情は職務を遂行する妨げとなることはない。
少女が鉄格子から離れているのを確認し、足元の食事用の小窓からトレイを入る。そして少女が食事をとりにくる前にそこから離れた。いくら少女が小柄で細身とはいえ、そこからから抜け出ることはできない。それでもアンセはマニュアル通りの職務を真面目に、あるいは不器用にこなすのであった。
少女はトレイに気づくと、ベッドから立ち上がりそれをとりにやってくる。その手前までやってくると片足立ちになり、残ったもう一方の足で器用にトレイを持ち上げ、自分の足元まで移動させた。その移動は数十センチ程度しかなかったが、何度か繰り返すことで移動量を増やす。部屋の真ん中あたりまでくると、ようやくそこで腰を下ろし食事を開始した。
アンセは両手を封じられた少女が、犬の様に食器に顔をつけ食べると考えていた。だが少女はそんな不作法をすることなく、ナイフとフォークを使いアンセを驚かせた。
両足をあげ尻だけでうまくバランスをとって座ると、右足にフォーク、左足にナイフを持ち、それらを器用に操り魚を小さく切り分け口元へと運ぶ。
その巧みな食器使いに、自前のサンドイッチをほおばっていたアンセは、監視という役目以上に目を奪われた。
少女に不慣れな様子はいっさいなく、この場ではそれが作法であると言わんばかりに優雅に食事を続ける。その足裁きに見入っていたアンセは、不意にあることに気付き顔を赤らめた。
両足を上げたことでめくれたシャツの下には、少女の秘所を隠すものが何もつけられていなかったのだ。
2014/12/20 17:52:16
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