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作者:相坂桃花

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    胸が苦しくなるほどの、絶景。


    登録ユーザー星:6 だれでも星:0 閲覧数:293

    7924文字

     

     妻の美奈子(みなこ)と、二歳になる愛娘の真奈(まな)を連れてドライブに出るのが、佐々木一成(ささきかずなり)の休日の定番だった。
     大半は、目的地を特に定めず気が済むまで車を走らせ、食事は少し気の利いた店を見かけては興味を引かれて入る。
     見つからなければ、コンビニでおにぎりでも買って、眺めのいいところで車を停めて、食べる。
     何の変哲もないコンビニのおにぎりが、美奈子と真奈と外の景色を見ながら食べるだけで、一成には御馳走になった。
     走る範囲は在住している県を出るか出ないかで、家から一時間もしない場所をのんびりと、グルグル回ることもある。
     一成も美奈子も、車という狭い空間で家族が一緒になり、あーでもないこーでもないと言いながら、ドライブを楽しめるがの休日の小さな幸せだった。
    「ねえ、カズくん。この先って、例の橋じゃない?」
     結婚する前から呼び方のかわらない美奈子の声に、一成はミラー越しに妻を見た。
     美奈子は真奈の小さな手に自分の指を握らせてあやしながら、一成のいる運転席へと視線を向けている。
    「例のって、なんだっけ?」
     美奈子の差しているものがすぐには浮かばずに問い返す。
    「赤い大橋。渦のある、ほら……」
     一成は美奈子の言葉を受け取り、頭の片隅にあった記憶を引っ張り出す。
     市役所の観光課に属している一成は、スイッチさえ入ればすぐに県内のことであれば思い出すことができた。
     赤い大橋。渦。
    「ああ、あそこか」
     合点して、一つ頷く。
     一成たちの乗る自動車の進行方向には、県内でも有数な観光スポットになっている大橋があった。
     鮮やかな赤色をしたその大橋は、固定アーチ状にかかったもので、有料道路橋として、昭和三十年頃に完成し、その卓越した施工技術と機能美には、日本に留まらず世界も注目をした。
     完成から十年ほどは有料となっていたが、それ以降は観光客の収集を狙った市の要請で、無料となっている――
    「ポスターとか、遠くから見る感じでは、そんな昔からあるなんて思えないよなぁ」
     平成になった今でも褪(あ)せることのない赤色を思い出し、感嘆(かんたん)混じりに一成は呟く。
     美奈子と共に平成生まれの一成にとって、昭和三十年代というものは思い出すこともできない、前時代の話だ。
     大橋のかかっている海流は流れが速く、急潮(きゅうちょう)でできた渦潮(うずしお)が名所の所以の一つにもなっていた。
     その姿は、まさに絶景と言われている。
     長年県内に在住している一成だったが、知識として知っているだけで、そういえば本物を間近で見たことはないなと、思い至る。
    「美奈子は見たことある?」
    「あるよ。子供のころだけど」
    「俺はないなぁ。変に近場だと、反対にいちいち見に行ったりしないもんなぁ」
     一成は「どうする?」と話を促した。美奈子が話題に出したということは、少なからずとも興味を示しているのだろうと思ったからだ。
    「美奈子が見に行きたいなら、そのまま向かってもいいよ」
     美奈子はすぐには答えなかった。短い間ではあったが、美奈子が思案するように沈黙を落とす。
     ミラー越しに、美奈子が視線を上に向けているのが見えた。美奈子が考える時の癖だ。
    「せっかくだから行こうよ」
     誘いをかけてきた美奈子に、一成は小さく笑う。
     やはり、興味があったようだ。小さい頃に見たと言っていたので、懐かしくなったのかもしれない。
     大橋は徒歩でも歩けるようになっており、橋の手前には車を停めるスペースも設けられている――そう、一成は記憶していた。
     一成は自分の記憶を引っ張りつつ、同意を示した。
    「じゃあ、行ってみるか」
     一成の言葉に、美奈子は嬉しそうに笑って真奈の手を握りしめた。





     今まで縁(えん)がなくて大橋に降り立つことはなかったのだが、実物は資料で見るよりもはるかに立派なものだった。
     おそらく施工当時から、観光の名所にするつもりだったのだろう。
     橋としての機能を求められているだけではない美が、赤い大橋には見受けられた。
     車を停めると、一成は”なんだ少ないじゃないか”と思った。
     多い時は車を停めるスペースがないほどだという話を聞いていたが、一成たちの車の他は白いミニバンが停車していたくらいだ。
     拍子抜けした気分で、運転席を降りる。後ろに回り、ベビーカーを出す。
     美奈子も、チャイルドシートに拘束されていた真奈を胸に抱き、一成が出したベビーカーに真奈を乗せた。
     そろって橋へ向かう。長時間車を運転して張りつめた神経が、一気に解放された気分だった。
     ミニバンの横を通りすぎる時、何気なしに中身を見ると、サングラスをかけたおばさんが運転席に座り、携帯を扱っていた。
     スマホではなく、ガラパゴス式の携帯であるところに、正月に顔を出して以来、電話もロクにしていない母親を思い出した。
     だが、それ以上のことは特に何も思わなかった。
    「うわあ。すごい。高いねー」
     橋の手すりにしっかりとしがみついて、美奈子が海を見下ろす。
     一成はベビーカーを強く掴んで、万が一のことに備えて、意識的に海側から距離をとっていた。
     それでも、橋から見える景色の雄大さには圧倒されていた。
     空と海の境目がなく、両脇に緑の山がそびえ立っている。
     真奈はベビーカーで、少しぐずり始めている。
     もしかしたら、そろそろ眠いのかもしれない。車の中では元気だったが、抱き上げてベビーカーに移動させた時、体温が高くなっていた気がする。
    「渦見える?」
     一成のいる位置からは真下を見ることはできない。
     美奈子に尋ねると、大きく美奈子は首を縦にふった。
    「いくつもある。すごい。あ、カズくん。かわる」
     美奈子は手すりから身体を離し、一成にかわってベビーカーが突風で飛ばされなように握りこんだ。一成は美奈子とかわり、自分も手すりの方へと身を寄せた。
     瞬間。突風が、下から吹いてきて怯んだ。
    「うあ!」
     一瞬だったので大したことはないが、バランスを崩して落ちるのではないかと、冷や汗が出た。
    「カズくん、大丈夫?」
    「大丈夫、大丈夫。二人こそ、大丈夫?」
    「こっちには大して風こなかったから。ここから落ちたらシャレにならないんだから、気を付けてね。しっかりと手すりを持たなきゃダメだよ」
    「持つ前だったんだよ」
     苦笑いを浮かべて、今度こそきちんと手すりを両手で持つ。
     前のめりになって下を見下ろすと、足元のはるか彼方に、夜の色を思わせるような海に、白い渦状のものがいくつかできていた。
     知識としては知っていたが、実物を見たのは初めてだ。
    「これは、なんていうか、すごいね」
     観光名所になるわけだと、一成は納得する。
     紺色の画布(がふ)に、白い絵の具で描いたような渦ができあがっていた。思っていた以上に、はっきりと確認ができる。
     恐ろしいまでの迫力と、一瞬、呼吸が止まるほどの自然美が、そこにはあった。
     しかし、一成の目にいささか気になるものが入る。
     橋のすぐ下には、いくつもの鉄のワイヤーが張られていた。
     おそらく、人がうっかり落ちないようにというものなのだろうが、どことなく、過剰気味に見えた。
     張り巡らされたワイヤーをよく見ると、いくつもの層に分かれて、重ねられている。
     まるで、何度も何度も、ワイヤーを張り直したかのようだ。
    「なぁ、美奈子……」
     ワイヤーのことをどう思うか、美奈子に話をふろうとした時、ベビーカーでうつらうつらしていた真奈が突如泣き始めた。
    「真奈、どうしたの?」
    「どうした、真奈?」
     美奈子はすぐに真奈の顔が見える位置に座りこみ、一成も美奈子と真奈のいる場所に戻って、真奈の頭を撫でる。
     眠くてぐずっているのかと思ったが、泣き方が異常だった。
     真奈は小さな顔を真っ赤にして涙を流し、まるで助けを求めるように、短い腕を美奈子へと伸ばした。
     一成と美奈子は、何かしらを感じ、顔を見合わせる。
     この泣き方は変だぞ、と。
     親としての経験が、胸をざめつかせた。
    「どうしたの? 真奈? ママとパパはここにいるよ?」
     助けを求めるように必死に伸ばされた手を握り、それでは追いつかないと、ベビーカーに身体を近づけ、一度手を離して、真奈を抱き上げた。

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    コメント

    • Σ(;。`゜ω゜。)お゙----ッ
      こりゃちゃんとしてる(?)話だなーと思って下までスクロールしたら!
      友の会同志ではないですかっww ホラー書かれてたんですねーw

      しかし、人間てのは・・・死んでからも自分のことしか考えられないのか、それとも、元々そういう人だから自殺してしまうのか・・・。
      一応私の持論は、自殺してしまうのは病気のせい、ですけどもねw (ストーリーとは関係なく)

      最後の文言が物語をうまく締めくくっていていいです!
      • 2 fav
      • Re 返信

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    • 人生初のホラーです(笑)
      本当に怖いのダメで、ホラー系は全てアウト。映画もテレビも小説も、ホラーは触れたことがないジャンルでした。まったく手探りの状態で書いたもので、お恥ずかしい限りです。

      魂の救済があればいいなぁ……と思います。・(つд`。)・。
      • 1 fav

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    • だいぶ前に読んでいたのに遅くなりました(汗
      「くるよ、くるよ」
      っていうのが胸を突かれてこわいです。ロープを垂らしたら、それこそ「蜘蛛の糸」みたいに人を押しのけて上ってこようとするのかな。
      怖いのは、人の心そのものかなと、思ってしまいますね。
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    • 読んで下さり、本当にありがとうございます(*´ω`*)
      命を落としてからも、その場から逃げられない…
      蜘蛛の糸のように、救済があっても、たぶん、助け合いができないんだろうなぁ………( 。゚Д゚。)
      小さい子は、大人に見えない物が、見えているのでは…と思うことがあります……よね?

      • 1 fav

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