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シリーズ:マンホール
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マンホール

作者:寿加

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    【短編一話完結】先生とおれのオカルトな日常
    ※BLではないですが中の人がアレなので、そのように感じられるかもしれません。ご注意ください※


    登録ユーザー星:4 だれでも星:3 閲覧数:179

    マンホール 3546文字

     

     大学からの帰り道、おれは冷たい手に息を吹きかけながら歩いていた。呼吸をするたびに、白い息が夕暮れの冷たい空気に溶けてゆく。
     おれが一人暮らしをするアパートは、学校から徒歩20分程のところにある。
     何故もっと学校から近いところにしなかったかというと、友人たちの溜まり場のようになるのが嫌だったからだ。大勢で騒ぐのは好きだが、自分の家を荒らされるのは好ましくない。
     入学してすぐ、高橋という、おれの住まいが近くにあったなら、毎日押しかけてきそうな阿呆な友人が出来たため、やはり少し遠くにしてよかったと思った。が、今は激しく後悔している。高橋の一人や二人、毎日部屋を荒らすことくらい目をつぶってやっても良かった。何故って、この身を切るような寒さだ。手はかじかんで、上手く動かすことができない。つま先も冷え切り、感覚を失いかけている。
     はあっと、再び手に息を吹き付け、おれは一刻もはやくこの寒さから逃れようと、足を速めた。
     角を曲がったところで、前方に人がいるのが見えた。100メートルほど離れたところにおり、逆光で見え辛いが、どうやら少年のようだ。その少年がなぜか、ひたすらジャンプを繰り返している。なわとびをしているわけでもなさそうだ。
     そのまま歩を緩めず近付いて行くと、声が聞こえてきた。

     「きゅう、きゅう、きゅう……」

     数字の9だろうか。
     歩きながら聞いていると、その少年はひたすら9と連呼していた。不思議に思いながらも、おれとその少年の距離はどんどん縮まって行く。
     互いの顔が判別できるような距離になって気付いたが、少年はマンホールの上で跳ねていた。それも至極楽しそうに。少年があまりにも楽しそうに跳ねているものだから、思わず足を止めて問いかけてみた。

     「なにしてるの?」

     少年はおれのことなど気にした風もなく、変わらず「9」と言いながら楽しそうに跳ねている。

     「9、9、9、……」

     しばらく見ていたがやめる気配もない。
     少年があまりに楽しそうにしているものだから、おれも跳ねてみたくなったが……やめておいた。
     確かに、少年が何をしているのか気になるし、自分も同じように跳ねてみたら解るかもしれない。しかし、楽しそうにしている彼をどかしてまでマンホールの上で跳ねてみようとは思わなかった。
     おれは再び足を動かし、その場を離れた。彼の「9、9、9」と言う声がだんだん遠ざかって行く。
     おれは彼の声が聞こえなくなっても、振り返ることなく歩き続けた。



     翌日、講義が早く終わったので、いつものように先生の研究室へ行った。
     在室であることを部屋の前にあるプレートで確認して、ノックする。
     ……返事がない。
     もう一度ノックして、入ってもいいですか、と声をかけたがやはり返事がない。
     いないのだろうか、とドアノブを回してみると、すんなりとドアが開いた。

     「先生、いるんですか?」

     常に室内の至るところに山積みにされた本や資料で埋もれた、雑然とした室内に先生の姿はなかった。
     鍵もかけずに外出しているとなると、すぐ戻ってくるかもしれない。それならば、室内で待っていても構わないだろうか。
     そう思案をめぐらせていると、机の上に乱雑に積まれた本がどさりと音を立てて落ちた。
     先生曰く、「規則性をもって配置している」らしいので、元に戻しておいた方がいいだろう。
     おれは室内に足を踏み入れると落ちていた本を拾い、積み重なったそれらの山をまた一段高くすべく、手を伸ばした。
     とたん、積み上げられた本の隙間から白い手がにゅっと現れ、唐突におれの手が掴まれる。

     「う、わ……!」

     驚いてその手を振りほどこうと、自分の腕を引き寄せると、その反動で積まれた本が数冊、音を立てて床に落ちた。
    そしておれは気付く。その手の正体に。

     「……いるなら返事くらいしてくださいよ、先生」
     「……ああ……」

     先生は高々と積まれた本の山に埋もれるようにして机に突っ伏していた。
     どうやら寝ていたらしい。
     コーヒーを淹れてくれと言うので部屋の隅に設置されたコーヒーサーバーからカップに注いで差し出すと、先生は不味そうに一口啜って、調べ物をしている途中で眠くなった、と言った。
     なんとも呑気な講師だ。

      「で、一体何を調べていたんですか?」

     少々呆れながらも、おれは自分の分のコーヒーを注ぐと、来客用のソファに腰掛けそれを飲む。……煮詰まりすぎていてまずい。

     「都市伝説についてだ。今日、女生徒から聞いた話なんだが」

     そういえば民俗学講義の後、先生はなにやら数人の女子に囲まれていたのを思い出した。

     「昨夜7時ころだったそうだ。彼女が帰宅するために歩いていると、中学生くらいの少年がマンホールの上で10、10、10と言いながら跳ねていた。とても楽しそうで、何が楽しいのか気になったが、こんな人通りも少ない暗い路地で何故、ただひたすら跳ねているのかと思うと、恐ろしくなって来た道を引き返したそうだ。……その話が嘘か本当かはわからないが、事実、同じような内容の都市伝説は存在する」
     「……それ、おれも見ました」
     「……へえ」

     先生の目がわずかに細くなる。

     「見たんです、おれも。そのマンホールの上で跳ねている少年を」
     「ふうん」

     先生の唇が嬉しそうに歪んだ。何もかも見透かしたような意地の悪い笑みだ。
     それにしてもおれの他に目撃者がいたとは。おれが少年を見たのは夕暮れの、日が陰ってきた時間だった。今の季節は日暮れが早いから、その話の彼女が目撃した時間が正しければ、件の少年は2時間以上もあのマンホールの上で跳ねていたことになるのではないか。
     おれは自分が見たときのことを先生に話して聞かせると、彼はまた愉快そうに、「へえ」と言った。

     「つまり、おまえが見たとき少年は、9、といいながらと跳ねていた、と」
     「そうです。おれが見たときは9、その女子が見たときは10。何か意味があるんですかね」
     「……こんな話がある」

     先生が唐突に話はじめた。

       


     ビジネス街のことだ。黒人の青年がマンホールの上でとても楽しそうに「9、9、9……」と、9という数字を繰り返しながら跳ねている。
     それを見た白人のビジネスマンが青年に尋ねた。

     「なにをしているんだ?」
     「9、9、9!」

     問いを無視してただ楽しそうに跳ねている。
     あまりに楽しそうなのと無視されたのが癪にさわり、ビジネスマンは黒人青年を突き飛ばした。自分もマンホールの上で跳ねてみようと思ったのだ。
     マンホールを踏みつけて垂直にジャンプした瞬間、青年がマンホールのフタを素早くずらした。すると白人ビジネスマンは叫び声をあげながら穴の中に消えていった。
     そして黒人青年は「10!、10!、10!」と、楽しそうに再びマンホールの上で跳ねはじめた。



     「それって、」

     おれの体験したこととほぼ同じじゃないか。
     そして、その数字の意味。おれの後に訪れた誰かが、落ちた……?
     先生は手にしていたコーヒーカップを机に置くと、話を続けた。

     「そもそもこの話はアメリカやイギリスで広まっていたブラックジョークだった。それが日本に伝わり、「黒人の青年」が「いじめられている学生」、「白人のビジネスマン」が「いじめているクラスメイト」といったように変更され、復讐のためにマンホールに落とす、という動機付けをされて都市伝説として広まった。都市伝説は、friend of a friendいわゆる「友達の友達」の話……などという身近で遠い、遠くて近い絶妙な距離感に面白さや恐怖を感じ、どんなに突拍子もない話でも、きちんと理由付けがなされていれば、本当にあったことかもしれないと思わせる。そういったことからこの変更された話は、都市伝説のテンプレートともいえるものに仕上がっている。しかし実際のところマンホールの蓋は鋳鉄製で、50キロ以上ある上、工具を使用しないと開けることはできない。素早くずらせるような代物じゃないんだ」

     実際にできる話ではないことを知り、なんだか安心してしまった。

     「それじゃあ、おれが見たのって何だったんでしょうか……」
     「さあな。単にこの都市伝説を知っていた子供のイタズラだったかもしれない。ただ……」

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    コメント

    • いいわ~いいわ~。おもしろいわ~。
      あっ、はじめまして。
      ぜひぜひ、先生とおれのオカルトな日常、続けてください。では(^O^)/
      • 1 fav
      • Re 返信

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    • ありがとうございます!
      今後もちょこちょこ更新していきますので、よろしければまた読んでやってくださいませ~!
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