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シリーズ:春が笑う 3
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春が笑う 3

作者:なつき

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    春が笑う 第3話です。


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    春が笑う 3 0文字

     

     春日が駅に着くと人がごった返していた。
    「え?運休?」
     繰り返し構内でアナウンスが流れている。
    「復旧の見込みは未定って、・・・どうしよう・・・。」
     バス停もタクシー乗り場も長蛇の列だった。春日はしかたなくバス停の列に並んだ。
    もう日が暮れ始めている。こんなじっとしている時間は嫌だった。
    だって、すぐに頭の中でお昼のシーンがリピートされてしまうから。
    映画のように美女の腰に手を回してかっこよく去っていくあの人・・・。
    春日がそのシーンを消そうと、頭を自分の手でポカポカたたいているとき、クラクションが鳴った。
    見ると、バス停に一台の高級車が止まっている。
    「お嬢さん、どちらまで?」
     助手席から菱也が春日に声をかけた。
    「え、わ、わたし?」
     大勢いる人たちのなかで、確実に菱也は春日を見ていた。
    信じられない突然の出来事に春日は固まってしまう。
    動かない春日に業を煮やした菱也は車から降り、春日に近づいた。
    「早く乗って、バスが来る。」
     腕を掴み、無理やり後部座席に座らせた。すぐに車は走り出す。
    春日は何が起きたのか理解できず、呆然としていた。
    「まるで誘拐ですね。」
     富山の言葉に春日は我に返った。
    「あ、あの、わたし・・・、」
    「迷惑だったなら、すまない。社まで送る。」
     春日の言葉を制し、菱也は言った。春日はもうなにがなんだか、わからない。
    どうしてこの人が駅に来て、自分を乗せるのか。夢?これは夢?
    でも、とりあえず、ご迷惑にならないようにしなければ・・・!
    「あ、あの、わたし岩本製薬に勤めているんです。遠いので、どこか適当な駅で降ろしていたたければ、」
     春日の言葉に、富山が噴出す。
    「気にしなくていい。」
     菱也は笑いをこらえる富山を睨む。
    「いえ、ほんとうに、この辺りで結構です、昨日からご迷惑ばかりおかけして、あっ、」
    「どうした?」
    「あ、いえ、べつに、」
     あぁ、せっかく会えたのに、返すお金は会社だ・・・。馬鹿馬鹿、わたしの馬鹿!
    「どこか寄る所でもあった?」
    「ち、ちがいます、なんでもないです!」
     春日は慌てて首を振る。そんな春日をルームミラーで見ながら菱也は微笑んだ。
    「君、社内報って、読まないタイプ?」
     笑いを堪えながら、富山は春日に聞く。
    「え、社内報ですか?えっと、はい・・・。活字が苦手で・・・。
    でも、うちの社内報、最後のページに数独があるんです。それはいつもしてます。」
     とうとうこらえきれずに富山は笑い出した。
    「え、わたし、何かへんなこと、言いましたか?」
    「いや、」
     菱也も小さく笑う。この子は俺のことを知らないんだ。
    「一緒ですね、社内報読まないの、」
     笑いながら富山が菱也をからかう。
    「あ、あの、ほんとうにここでけっこうです、ここからなら地下鉄があるので、」
     春日はいたたまれない気持ちになって、富山の肩を軽く叩いて止めてほしいと訴える。
    車は地下鉄の昇降口の横に止まった。
    「本当にここでいいのか?」
     菱也は少し不機嫌気に言う。
    「はい、ここで。あ、あの、もしご迷惑でなければ、改めてお礼がしたいので、
    お名前と電話番号を教えていただけませんか?」
     短い沈黙が続いた。
    「あの、嫌ならけっこうですので、あの、ありがとうございました。」
     春日は車を降りた。それを追いかけるように菱也も車を降りる。
    「いや、嫌とかじゃないんだが・・・。」
     答えのない沈黙を、拒絶と勘違いした春日に、菱也は名刺を渡そうとしてやめた。
    代わりに携帯を取り出す。
    「俺は岩本菱也。番号とメアドはこれ。」
     春日も慌てて携帯を取り出して菱也の番号を入力した。
    「わたしは尾山春日といいます。じゃあ、またご連絡さしあげます。ほんとうにありがとうございました。」
    「春日って、苗字じゃなかったんだ、」
    「え?」
    「いや、じゃあ、気をつけて。」
     富山も運転席から声をかける。
    「今度からは男の車にほいほい乗らないようにね。」
     春日は顔を赤らめた。
    「はい、そうします。ありがとうございました。」
     一礼して、菱也が車に乗り込むのを待った。だが菱也は動かない。
    「あの、もう、行ってください、」
     乗り込むどころか、車にもたれて、菱也は軽く笑みを浮かべる。
    そして、行け行けと手をヒラヒラと動かした。
    「じゃあ、失礼します、」
     春日はおずおずと歩き出す。背中に視線を感じる。
    どうやら菱也は春日が地下鉄の駅に降りていくのを見届けるつもりらしい。一度振り返り、会釈した。
    菱也はそれに答えて軽く手を上げた。春日は後ろ髪を引かれながら、階段を降りていった。
    「やっぱり変ですよ。」
     やっと助手席に乗った菱也に富山はにやにやしながら言う。
    「私は親切な男だろう?」
     菱也は心なしか機嫌が良いようだった。
    「親切っていうか、・・・あまり深入りするのはやめておいて無難ですよ。
    ご婚約も控えているんですから。」
     富山は半分冗談のつもりだったのだが、菱也の顔つきが変わったのを見て、やばかったかな、と思った。
    「そんなつもりじゃないんだから、なんの問題もない。」
    「まあ、そうだと思いますけど・・・。」
     今まではね・・・。富山は心の中でつぶやいた。もしかしたらこの人は本当の恋をしたことがないんじゃ
    ないだろうか。もし今から本当の恋に目覚めたら・・・。
    「怖いな・・・。」
    「なんだって?」
    「いえ、別に、」
     富山の心配をよそに、菱也は外に目をやり、何を思い出しているのか、微かに笑っていた。



     菱也の携帯にメール着信が鳴った。すぐに読んで返信する。
    「あら、あなたが携帯でメールなんて、はじめて見たわ。」
     由布子が意外そうに言う。
    「かわいい子からランチのおさそいだったけど、君といるから断ったよ。」
    「なあに、それ冗談?」
     ふふ、と笑って、由布子はまた手元に視線を移した。
    仕事人間の婚約者が携帯メールをしていても、特に気にする様子はない。
    「それより、気に入ったのはあった?」
     宝石店の応接室で、もう何分、同じものを見ているのだろうか。と、菱也はため息をつきたくなるが、
    それは婚約者のために堪える。
    「ええ、ねえ、あなたはこれとこれ、どっちが良いと思う?」
     由布子は目の前にならべられた指輪の中から二つを手に取り、菱也に見せる。
    「どっちでも似合うよ。きれいだ。」
     菱也はにっこりと微笑む。
    「そうねえ、迷っちゃうわ。あなたはどれにする?決まった?」
     自分の目の前にならべられた指輪を菱也は気もなく見つめる。
    「俺はどれでもいいよ。君が決めてくれ。」
    「どれでもいいの?いくらアクセサリーに興味がないからって少しくらい好みがあるでしょう?」
    「だから、君の好みでいいよ。」
     菱也の言葉に由布子は機嫌を良くしたらしく、店員と楽しそうに指輪を選んでいる。
    その姿を見つめながら、菱也は携帯を握り締めた。メールは春日からだった。
    もし、お時間がおありでしたら、お昼をご一緒させていただいてよろしいでしょうか?と、
    なんとも緊張がこっちにまで伝わりそうな文面だった。
     このメールを見るまでは由布子との指輪選びもそれなりに楽しんでいた。
    だが見てしまってから、しかも、今日は忙しいので無理です。またご連絡差し上げます。と、
    自分が返信したなんとも固くて冷たい文面も気に入らず、苛々していた。
    なぜいま自分はここにいるのか、微笑みながら由布子を見つめているのか、なぜこんなにも、
    たった一通のメールを見ただけで、心がここにないような不思議な感覚に陥ってるのか、
    菱也はわからなかった。


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