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シリーズ:暗黒の家
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暗黒の家

作者:怪奇伯爵

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    ホラー映画マニアの書くホラー小説。ゾンビ題材の短編です。B級ホラーの雰囲気を感じていただければ、作者の狙いどおりなのですが…。直接的な表現は避けたつもりですが、ややグロテスクな表現あり。


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    暗黒の家 3695文字

     

     タビサ…
     ……。
     タビサ…
     階下から、マァムの声がする。
     私は絵本から顔を上げ、仕方なしに本を閉じた。
     お気に入りの絵本。
     もう、何回眺めたか、分からない
     小さい頃に誕生日のプレゼントとしてマァムからもらい、私はそれをたいそう気に入
    った。
     自分でも、その理由は判らない。
     おそらく、絵の持つ不思議な感覚に惹かれたのだろう。
     その魅力は、私が幼い頃から変わることなく、いつでも新鮮な気持ちを与えてくれる。
     一種の現実逃避かもしれない。
     本の中に描かれた、不思議な世界。
     私は、その本の主人公に憧れている。
     小高い丘の上に建つ、お城のような家に住む少女。
     悪い魔女に狙われて、少女は悪夢の一夜を過ごす。
     とっても怖いお話なのに、その絵は何故だか柔らかさに包まれている。
     まるで刃物の上に降り積もった雪のように。


     私は、ゆっくりと階段を降りた。
     リビングに入ると、そこにマァムの姿はない。
     今日はパパも家に居るはずだ。
     窓越しに、庭を見てもみつからない。
     確かに、マァムの声が聞こえたのに。
     急に私は不安になって、二人の姿を必死に探した。


     外に居るのかしら。
     玄関に向かうと、私の身体は硬直した。
     そこが自分の家とは思えない有様だった。
     バケツ一杯の血を溢したら、そのようになるだろうか。
     粘っこい深紅の液体が、床一面に広がっている。
     その中心には、黒い物体が存在した。
     私は茫然と、その物体を眺めた。
     どうやら、それは人らしい。
     私に背を向ける形で、しゃがんでいるのだ。
     どう見ても、異常な状況だった。
     しかし、外に逃げる訳にもいかない。
     その者が扉を塞ぐ形になってしまっている。


     判断に迷っていると、不愉快な音がその者から発せられた。
     とあるレストランで、隣のテーブルの男が出していた音だ。
     クチャリ、
     クチャリ。
     獣とは違う厭らしさを伴っている。
     生存のための食事ではなく、食物の味を存分に味わっているかのような音。
     もしも、人間が他人の目を気にせず、マナーというものを全く配慮しなければ、そう
    いう音が出るのかもしれない。
     私は恐怖に耐えられなくなって、意志とは関係なしに声を上げていた。
     急に立ち上がったそれは、私の方を振り向いた。


     ああ、なんてこと。
     まるで、地獄の淵から悪鬼が這い出てきたようだ。
     血に塗れた顔を拭うこともなく、それは私の方を向いた。
     その白く濁った瞳に、視力はあるのだろうか。
     興奮状態にあるのは明らかで、まるで喘息のように荒い呼吸をしている。
     そこにあるのは、紛れもなく少女の姿だった。
     血がこびりついた髪が額に貼り付き、汚れきったワンピースから覗く肌は黒ずんでい
    る。
     全体的に受ける印象は、私と同じくらいの年齢のようだ。
     しかし、彼女が醸し出す禍々しい気は、とても同世代の人間とは思えない。
     姿だけが、人間。
     その魂は……?


     少女の口が、開かれた。
     笑ったようにも、見える。
     怒ったようにも、見える。
     口の両端から溢れ出る、おびただしい血液。
     怪我をしているのではない。
     含んでいたのだ。
     彼女が動いたことによって、状況が明らかになった。
     向こう側に転がっている、グロテスクな物体。
     人間の胴体だった。
     彼女は、人間の体を食べていた。


     その衝撃が、私を突き動かした。
     少女に背を向け、走りだす。
     背後から襲われる恐怖に駆られながら、私は階段を上がり、自室に戻った。
     ドアを閉め、傍にあった机を力一杯押す。
     それだけでは不安で、あらゆる物をバリケードにした。

     
     私は、耳をすます。
     少女の気配は感じられない。
     少しだけ安心すると、様々な疑問が湧き立った。
     彼女は、何者なのだろう?
     マァムも、パパも、どうなってしまったのか?
     あの死体は、誰なのか?
     もしかしたら……。


     窓から、庭を覗く。
     そこには、想像だにしなかった世界が広がっていた。
     救いを求めるように彷徨う人々。
     それを追う、地獄からの使者。
     人の姿をしながらも、それらは飢えた獣と一緒だった。
     階下にいる少女と同じ現象が、町全体に起きていた。
     呻き声と叫び声。
     追う者も、追われる者も、同様の声を上げる。
     捕らわれた人間は、生きながらにして、その身を食べられていく。
     私は愕然として、ただただ震えるばかりだった。

     日が暮れて、町に夜の闇が訪れた。
     窓から入る風が、起きた惨劇の臭いを運んでくる。
     私は部屋に閉じこもったまま。
     空腹を感じていたが、階下に降りる気など毛頭なかった。
     たとえ、この家を出たとしても、町はみな同じ状況に違いない。
     生存者がいるとしても、私一人で探し当てる自信もない。

     私は、家族の写真を眺めた。
     今年の夏、クリスタル・レイクにキャンプに出掛けた時のもの。
     パパはおどけた表情で。
     マァムは、気取った表情で。
     私は、満面の笑みを浮かべて。
     
     でも、待って……。
     ここに写っているのは、本当に私?
     何故か、私の姿がぼやけて、顔がはっきりと判らない。
     パパも、ママもはっきり写っているのに、何故か私だけ……。
     不審がっていたら、私の目から流れた涙が写真に落ちていた。
     涙が落ちたことも気づかぬくらい、私の意識は弱っている……。


     いつのまにか、テレビのスイッチを押していた。
     妙に懐かしい声が、ニュースを読み上げる。
     いくつかの町で、ほぼ同時に発生した事件。
     原因は特定されていないが、未知のウイルスとの指摘もあるようだ。
     感染したものは、異常な食欲の衝動に憑かれ、人を襲って喰らう。
     ホラー映画さながらの、大規模で信じがたい感染劇。
     政府は、対策本部を設置して対応にあたっているという。


     ここで待っていれば、助けが来るのだろうか?
     水も食物もなくて、人間はどれぐらい生きられるのだろう。
     混濁する意識の中で、私は絵本を探す。
     どんな時も、あの絵本を読めば、心が落ち着いた。
     どのような恐怖でさえも、包み隠してくれる柔らかさ。
     もしも、この世に神の使いが存在するならば、あの絵本を描いたのは天使かもしれな
    い。
     天使が人間の姿を借りて、絵本作家として神の祝福を皆に分けているのだ。
     あの本には、そういう力が存在する。
     しかし、絵本はみつからない。
     朝まで、そこにあったはずなのに……。


     猛烈な空腹感が、私を襲う。
     どうやって部屋を出たのか、分からない。
     しかし、私は既に一階に下りていた。
     そして、あの獣のような少女が目前に立っている。
     少女は呻き声を上げ、まるで私に何かを訴えるように叫んだ。
     悲鳴にしか聞こえないその声に、私は真意など見出せなかった。

     彼女は、既に人間ではない。

     異常な食欲を満たすだけに生きる、地獄の亡者と一緒だ。
     ふと目を遣った先に、あの絵本があった。
     血に塗れてしまっているが、間違いなく私の本だ。
     ようやく見つけた安堵は、すぐに疑念へと変わる。

     どうして、ここに……。

     私は、再び少女に視線を向ける。
     汚れたワンピースの花柄に、見覚えがあった。
     私の脳裏に蘇る、一枚の写真。
     さっき眺めていた、家族の写真だ。


     その服は、私が着ていた服ではなかったか……。


     少女の顔を見る。
     写真と同じだ。
     表情はまるで違うが、少女は私と同じ顔だった。
     私は茫然として、膝を落とした。
     床に転がった、人間の残骸。
     マァムのネックレス。
     恐怖が貼りついた、パパの頭部。
     全ては、少女=私の仕業なのだろうか。
     どこからか爆音が聞こえ、私の意識は暗い淵へと落ちていった。




     どこか懐かしい声が、ニュースを読み上げる。
     感染は、拡大の一途を辿り……
     多数の死者が……。
     大統領は、鎮圧のために軍隊の……。



     次第に、意識が薄れていく。
     考えることも、面倒になっていく。
     写真から呼び起される記憶も、随分と減った気がする。
     マァムの顔は……?
     パパの顔は……?
     そして、私の顔は……?
     あと僅かで、私は写真を見ても、何も思い出さなくなるだろう。



     再び流れるアナウンサーの声。
     紹介されたのは、何という名の牧師だったか。
     牧師の静かな声が、流れ始める。

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