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シリーズ:死霊の子守唄
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死霊の子守唄

作者:怪奇伯爵

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    寒村で起きた失踪事件を調査する私。
    途中で見かけた建物は、異様な空気に包まれていた。
    村の巫女の言葉に、警告は隠されていたが……。


    登録ユーザー星:2 だれでも星:1 閲覧数:246

    死霊の子守唄 4914文字

     

     今、自らの命が危うい状況にあって、私のすべきことは何か。
     家族への別れか。
     人生の回顧か。
     
     もう、時間がない。
     明日の太陽を待つことなく、私は発見されるだろう。
     関わるべきではなかった。
     それが、率直な感想だ。
     常識というのは、極めて曖昧なものだ。
     この世には、自分の知らぬことが数多く残されている。
     その領域のどこまでが、常識であるのか。

     今思えば、警告はあった。
     それに気付いていれば、今頃はホテルで缶ビールでも空けていたに違いない。
     そのような些細な希望さえ持てない状況……。
     昨日インタビューした老婆は、何を語ったか。
     真実が、その言葉の中に隠されていたのではないか。
     突拍子もない表現に、私は真の意味を理解できなかった。
     彼女の見ている世界は、彼女の中では常識だった。
     それを知れぬ私が、非常識だったということだ。
     土地に滲みついた迷信。
     私は端から信じていなかった。
     巫女が見るというあの世も。
     巫女が語るという言葉も。
     人の生活に根差し、これまで果てることなく脈々と続いてきた常識を、私は受けいれることができなかった。
     しかし、死者の魂をこの世に留める法などを、誰が信じられるだろう?

     私の元に寄せられた一件の情報は、記事のネタとしては魅力に欠けた。
     辺鄙な山村地域の、失踪事件。
     失踪者は複数に渡ったが、熊による被害の可能性もあった。
     地方の新聞では『神隠し』という表現も使われたが、それを真に受ける読者などいるはずもないだろう。
     しかし、次回特集のネタに不足していた私にとって、少しでも記事になりそうなものは、この寒村における小児の連続失踪事件しかなかった。

     記事の信憑性を持たせるため、私は失踪者の出た地域の村をいくつか訪れた。
     そこで聞いた話を中心に、読者の好みそうな方向へ文章の肉付けをしていく。
     思った以上に村民の話が集まり、成果は上々だった。
     もっとも意外だったのは、迷信が色濃く残っていたことである。
     沖縄のユタとまではいかないが、村々には巫女としての役割を担う人物が複数存在していた。
     巫女は、神の言葉を村人に告げる。
     人々の生活には、巫女の助言が深く浸透しているのだった。
     人生においても重要な決断、たとえば結婚や就職などには必ず巫女に相談して神の意志を問う。
     このような風土におきた失踪事件は、まさに『神隠し』という言葉が相応しいともいえた。

     失踪したとされる人物らは、年齢の低い子供に限られた。
     市街地であれば誘拐の可能性が非常に強いのだが、近隣が皆親族であるこの地域では、その可能性は極めて薄い。
     やはり、山の中で迷ったのか、熊に襲われたのかの可能性を考えるのが妥当だった。
     または、本当に神に隠されてしまったのか。
     
     記事を書きあげる自信が湧いた私は、帰途についた。
     誰も解決など求めていない。
    不穏な空気を与え、あれこれと読者の妄想を喚起させる。
     私は、自分の寄稿するオカルト雑誌の存在意義をそのように捉えている。

     日は傾き、不気味に啼く烏の声が響き渡る。
     順調に車を走らせていた途中、私は急ブレーキを余儀なく踏んだ。
     赤い半ズボンを穿いた子供の姿が、目前に現れたからである。
     衝突の感触は、無かった。
     しかし、心臓の動悸は一向に治まらない。
     すぐにドアを開け、周囲を確認したが、子供の姿はなかった。
     その代わりに、木々の奥にわずかに見える建物を見つけた。
     薄暮の中に、影のように浮かぶ建造物。
     写真を掲載すれば、記事に迫力が増す。
     そのような野心と、単純な好奇心が私をその建物へと向かわせた。

     木々の壁を抜けると、その建造物が全容を現した。
     幅の広めな玄関脇に、半分朽ちた看板が掲げられている。
     『未佐島診療所』
     村人へのインタビューでも、その名は聞いていた。
     インパクトのある話だったので、メモを読み返すまでもなく覚えている。
     
     無医村だった村に、ようやく医師がやってきた。
     赴任したのが女医だったので、村人はいささか驚いたようだったが、診療に関しては何の問題もなかったらしい。
     ともかくも、医師がいるというだけで安心感が村に芽生え、医師も環境に順応していった。
     医師の話では、彼女も近隣の出身で、どこぞの都市で病院勤務をしていたとのことだ。
     幼い息子が喘息を患い、転地療養に踏み切ったという。
     村人は旦那の存在が気になったが、せっかく来てくれた医師に嫌な気持ちをさせてはと、その質問は避けていた。
     女医も自ら身の上話を語ることは避けていたという。
     
     女医の名は、未佐島禮子という。
     診療所では、内科の診療が主な仕事だった。
     しかし、未佐島は外科的治療も問題なくこなしたという。
     盲腸の手術をはじめ、熊に襲われて瀕死の人間を救った経歴もあるようだ。
    人々を救う度に、彼女は村に溶け込み、村人の信頼を得ていった。

     そのような未佐島に、突然不幸が訪れた。
     息子の喘息が悪化し、それが原因で帰らぬ人となった。
     母一人、子一人の絆が、どれだけ深かったことか。
     息子の死後、未佐島が村人を診療することができなくなった。
     村人たちは必死に気遣ったが、効果はなかった。
     未佐島を包んだ悲しみは、闇の底へと澱んでいた。
     それを癒せる方法は、息子が生き返ることだけだった。
     
     未佐島は、巫女のもとにも何度も通ったという。
     自らも、悲しみを消し去る方法を模索しているようだった。
     暫くの間、彼女は診療所に籠った。
     夜中にも関わらず、呪文のようなものが聞こえる日もあった。
     彼女の苦痛の呻きが聞こえる日もあった。
     幾日かの平穏な夜が過ぎ、やがて彼女は死体となって発見された。
     息子の復活が叶わないことを悟ったのだろう。
     この事件は、村で一番怖ろしく、悲しい事件とされた。


     診療所の扉は、全ての侵入を許さぬよう、固く閉ざされていた。
     私は打ちつけられた釘を引き抜き、強引に侵入する。
     この手の取材に必要な道具は、全て車に積んである。
     用意周到が苦手な私だが、仕事だけは気を使う。
     
     凄まじい埃を上げて、扉が開く。
     内部は、既に大半が闇に埋もれている。
     懐中電灯を照らしながら、私は奥へと進んだ。


     驚いたのは、施設の充実ぶりだった。
     玄関から入った正面に受付があり、建物は左に伸びている。
     待合室では、長椅子が八つも置かれていた。
     診療室は当然として、入院用と思われるベッドも二つ確認できた。
     
     もともとは、三〇年以上前に一時期だけ使用された診療所がベースなのだという。
     ある企業の開発の手が入り、従業員用に作られた設備だと村人は語っていた。
     その開発は失敗に終わり、勤務していた医師も離れていった。
     以後、誰も使うことのなかった施設を、未佐島の赴任に合わせて村中総出で改築し、診療所として再開したわけだ。
     
     
     澱んだ空気のせいか、気分が悪い。
     後頭部が酷く痛み、背中に悪感が奔る。
     耳鳴りがしたかと思うと、それは荒い呼吸音へと変化した。
     初めは、自分の呼吸かと錯覚した。
     目に映ったのは、ベッドに横たわる少年。
     赤い半ズボンが、さきほど見た少年であると物語っている。
     目に涙を浮かべ、右腕が救いを求めるかのように宙をもがく。
     
     これが現実でないことは、明確に理解できた。
     それでは、この光景は……。

     部屋の空気に耐えきれなくなって、私は部屋から駈け出した。
     少年の呼吸が、後を追うように耳に届く。
     気がつけば、手術室の引き戸を開けていた。
     中央に置かれたベッドと、その上に設置されたライトが年代を感じさせる。
     何かが靴に触れ、ライトを向ければ、それは錆びたメスだった。

     すぐに私は過ちに気付いた。
     この部屋に満ちた異常な気。
     凄まじい怒りとい恐怖が、渦を巻いている。
     過去に生まれ、流れ去ることなく蓄積された瘴気。
     私は、その負の遺産に圧倒された。

     突然にライトが点灯し、私の視界は奪われた。
     視力が戻ると、予想だにしなかった光景が待っていた。
     手術台に寝かされている少年。
     傍らに立つ手術着の女性は、未佐島医師だろう。
     人口呼吸器と心電図の音だけが、静かに音を立てる。

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    コメント

    • 文体とシチュエーションがぴったりで、すごく雰囲気がある作品ですね。
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    • コメントありがとうございます!!
      字数を抑えたかったこともあり、ディテール部分を最小限にしています。
      逆に雰囲気が伝わるか心配でしたので、嬉しい感想をいただきました!
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    • 舞台やネタが大好きです。もうすこし長いボリュームで、生き残れるか主人公にあがいて欲しい。
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    • コメント、ありがとうございます!
      自分も一番好きなネタなので、非常に嬉しく思います。
      原案は、和製『死霊のはらわた』を目指したスプラッターです。

      コンテストではグロな表現が使えず、アレンジしました。
      ご指摘のとおり、もっと書き込める要素を多く残しています。
      いつか完全版を発表できれば、と思っています。
      • 0 fav

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