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アルバイト中の僕、御岳登(みたけのぼる)に会いに、中学時代の同級生、白川璃子がやってきた。とっても可愛くなった彼女は、僕の顔を見るなりキラキラした笑顔でこう言った。「ライトノベル作家の御岳ハルカさんに会わせて欲しいんだけど!」……一体なんの話ですか?
2014/07/14 完結
★第一回upppiライトノベルコンテスト 審査員特別賞を受賞しました! 応援ありがとうございます。お礼の用語集をUPしてありますので、上の「僕の母親がラノベ作家なワケがない!」タグよりご覧ください。
1,
「ありがとうございましたー」
買い物を終えてイチャイチャしながら店を出て行く若い男女の背中に、僕はやる気なく声をかけた。
もちろん、答えなどない。ドアの開閉に反応したチャイムが、代わりに返事をするだけだ。
僕は、受け取った小銭をレジにしまって、大きく伸びをした。
土曜日の夕方近いこの時間、店はいつも閑散としている。
僕がアルバイトしているこのコンビニは、駅からも遠く、国道からも一本外れた場所にあって、周りは工場や倉庫が多い。だから、土日や休日になると昼の時間でもそんなに混まない。倉庫に出入りする作業員や長距離トラックの運転手たちが、主なお得意さんだ。
華はないし、当然出会いもないけど、顔見知りも来ないので僕には気が楽だった。
もうすぐ、夜の時間帯の人と交代だ。レジの仮点検は、ベテランパートの苅谷さんがとっくに終わらせている。
交代の人が来たらさっさと帰れるように、僕はカウンターの中の整理を始めた。今日も可もなく不可もない一日だった。
すっかり退勤モードになっていた所で、店の扉が押し開けられ、チャイムが鳴り響いた。
入ってきたのは珍しく、制服姿の女の子だった。
この近辺では割と有名な、私立高校の制服だ。スポーツで有名な、男臭いイメージが強い学校だけど、最近ではアイドルのきゅりーなんとかって子がデザインした制服が人気らしくて、志望する女の子も増えたという。
「いらっしゃいま……」
「御岳(みたけ)くん? 御岳登(のぼる)くんだよね?」
条件反射で挨拶した僕の声を、彼女はとても嬉しそうな顔で遮った。
「え? えっと……」
「やったー! わたしだよ、ほら、中学の時同じクラスだった白川璃子(しらかわりこ)」
「しらか……え? リコ?!」
僕は、記憶の中のリコと、目の前の白川璃子を頭の中で比べて、目を白黒させた。
あの頃のリコはとても物静かで、いてもいなくてもあまり影響がない、はっきり言えば地味で存在感の薄い女の子だった。
それが、今目の前にいる白川璃子は、おしゃれな制服をおしゃれに着こなす、はきはきと明るい印象の可愛い子だ。ついでに、背が伸びてスタイルもぐんと良くなっている。
「よかった! ミチアキくんに聞いたら、ここでバイトしてるって言うから、ダメ元で会いに来たんだよ!」
「え? 僕に?」
中学の時もほとんど接点がなかったのに、どうして今になって僕の顔なんか見に来たんだろう。
下校時間の突然の雨に困ってるリコに傘を貸して自分は走って帰ったり、髪についていた芋けんぴを取ってあげたりなんて、フラグ的なできごともなかったはずだ。
「そうなの、あのね!」
内心ドキドキしている僕に、胸の前で両手を握りしめた白川璃子は、きらきらした笑顔で言った。
「ライトノベル作家の御岳ハルカさんに、会わせて欲しいんだけど!」
ペダルが抜けそうなくらい自転車をこいだ。安いシティサイクルはガクガク言いながらも、帰宅時間の過去最短記録を叩き出した。それをマンションの駐輪場に突っ込み、鍵を抜くのももどかしく、僕は建物の中に駆け込んだ。
家のドアを開けて居間に飛び込むと、その人物は定位置のデスクトップパソコンの前で椅子に腰掛け、猫背気味にモニターを眺めていた。見ているのは、ワラワラ動画の特撮チャンネルのようだ。僕が入ってきたのに気づき、彼女はイヤホンを片耳から外し、顔だけをこちらに向けた。
「あら、お帰り」
「ライトノベル作家の御岳ハルカさん?!」
「なに?」
そのまま画面に目を戻そうとしていた彼女は、ぜーぜー息をしながら声を張り上げた僕を、怪訝そうに見返した。
僕はズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、白川璃子から教えられたホームページを開いた。地元のケーブルテレビが運営するもので、トップページにはニュースや過去番組の動画が掲載されている。その一番上の動画を再生すると、素人に毛が生えた程度の若いリポーターが、画面に向かってたどたどしく話しはじめた。
『……このコーナーでは毎回、地元夏浦(なつうら)を拠点に、様々な分野で自分らしく活動する方々を紹介しています。今日は新人ライトノベル作家の御岳ハルカさんをお招きしています。ハルカさん、よろしくお願いします』
『よろしくおねがいしますー』
なんの緊張感もなく、ジーンズに婦人用のTシャツ姿で挨拶したのは、今目の前にいる僕の母親、御岳遥その人だった。
『早速ですが御岳さんがデビューされたのは、昨年末、インターネット上で開催されていたライトノベルのコンテストがきっかけだそうですね』
『ええ、「ライトノベル」というと、主に中高生の男の子が対象の、読みやすい小説という風に思われがちなんですが、今はだいぶ読者層が広がってきた感じがありますね。実際そのコンテストも、「中高生の男子を主人公にした」などという制限がなくて参加しやすかったです』
『御岳さんは、いったいどのようなジャンルで応募されたんですか?』
「あちゃー」
母さんは珍しく慌てた様子で、ワラワラ動画の画面を最小化し、その下から出てきたヤホーの検索画面にケーブルテレビの名前を打ち込んだ。僕が見せたのと同じホームページを開くと、ブラウザ画面をスクロールさせて内容を確認しながら、
「超ローカルだと思って油断してたらやられたわー。ネットでバックナンバー公開とか聞いてないよー」
「僕も、ライトノベル作家とか全然聞いてないんだけど?!」
「まー話してないし」
面倒くさそうに、母さんは頭をかいた。
母さんは家にいる時は、だいたい寝ているか、パソコンの前に座っている。たまに、なにかに取り憑かれたような勢いでキーボードを叩いていることもあるけど、一時(いっとき)オンラインゲームにはまってたから、ゲーム内でチャットでもしているのかと、僕は思っていた。
「それに、作家って言っても、ネット公募のラノベコンテストで最終審査まで残ったのを、主催の出版社が電子書籍にしてくれただけなんだよねー」
「最終審査に残るってすごい事なんじゃないの?!」
「そりゃすごいけどさ、受賞したワケじゃないし、自動的に次の仕事が来るとかでもないし。作家って名乗ってもいいんだろうけど、プロではないよ」
「えー……?」
「『えー……?』って、なに?」
僕の声色をまねながら、母さんはくるりと椅子ごとこちらに向き直った。
「なんなのさ、急に。どっから聞いてきたのそれ」
「え、あ……その」
白川璃子のきらきらした笑顔を思い浮かべ、僕は一瞬答えに詰まった。
『すごいよね! 出版社からデビューだなんてなかなかできないよ、普段はどういうお母さんなの?』
わざわざ僕を訪ねてきたうえに、あまりにも嬉しそうにたたみかけてくるから、一瞬僕も、母さんは実はすごい人なんじゃないかと思ってしまったのだ。
でもよく考えたら、普段の母さんは、実年齢よりちょっと若く見えるだけの、ただのずぼらなおばさんだ。仕事にも平気ですっぴんのまま行くし、出かけるときも決まったジーンズとシャツをひたすら着回している。
さっきの動画だって、超ローカルケーブルとはいえ、テレビのインタビューなのに、服装が普段とまったく違いがなかった。
「これを見たって奴が、教えてくれたんだよ」
「誰? ケンイチくん?」
「いや、中学の同級生だった白川。家で使ってるネット回線のプロバイダが、ケーブルテレビなんだって」
「あー、それでこのページ見たんだ。しくったなー」
「父さんは知ってるの?」
「いや? あのひとに電子書籍とか説明しても判んないでしょ」
「それはそうだけど」
確かに僕も、白川璃子に言われるまで、電子書籍がなんなのかよく判らなかったけど。
「出版が決まったときは、あんたには言おうと思ってんだけどさー。あんたのスマホに電子書籍アプリを落として、あたしの本も買ってもらおうかと思ってたんだけど」
「息子に売り込まないでよ」
「どう説明するか考えてたら、面倒になっちゃってさ」
こういう人なのだ。
とにかく、白川璃子に言われたことを、色々思い出して質問しようと思ったところで、玄関の鍵ががちゃがちゃと音を立てた。
「あ、お父さん帰ってきちゃった。話は後でね。ご飯炊いてたっけかなー」
2014/11/14 10:08:10
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