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シリーズ:カグヤ姫遺文
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カグヤ姫遺文

作者:らしき

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    婉曲に表現しておりますが、下品注意&グロ注意です。

    語り口調文体の掌編なのでサラリと読めるとは思います。よろしくお願いいたします。

    なお、筆者は“きのこの山”が好きです。(←?


    登録ユーザー星:8 だれでも星:3 閲覧数:1053

    カグヤ姫遺文 3048文字

     

     もうすぐ月から迎えがやってきます。
     わたくしはかぐや姫なのですから、月に帰らなくてはならないのです。
     もうすぐです。もうすぐ。
     あの明かり取りの小窓に見える紅い月。黒い空に燃えるがごとく光り、夜を統べる女王の座としてあまねく星々から賛美の瞬きを受ける月の神殿。そこから、血の涙で目を染めあげた月の兎が、わたくしを迎えにやってきます。
     だから 、こんな狭い部屋に閉じ込められては困るのです。困ってしまうのです。月の兎が困ってしまうのです。
     月の使者としてやって来た兎は、かぐや姫を見つけることができずにチュウチュウと鳴くでしょう。キュウキュウかもしれません。ミュウミュウの可能性もありますが、それはどうでもいいことでした。兎がかぐや姫を見つけられないかもしれないことが、大切なことでした。兎がわたくしを見つけられないかもしれないことが、大切なことでした。兎がチュウチュウと鳴くか、キュウキュウか、ミュウミュウかはとても気になりますが、どうでもいいことでした。
     どうしてわたくしはいつも、どうでもいいことばかり気にしてしまうのでしょう。どうしてなのでしょう。あの時、どうしてタケノコは美味しいか、不味いか気になったのでしょう。タケノコの味なんてどうでもいいことなのに。兎の鳴き声なんてどうでもいいことなのに。
     どうでもいいことばかり気にしていたわたくしは、こんな狭い部屋に閉じ込められてしまいました。お爺さん、お婆さん、ごめんなさい。わたくし、とても反省しています。だから、そんな目で見ないでください。ごめんなさい、お爺さん、お婆さん。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
     ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。いくら謝っても足りません。でも、謝らずにはいられません。だって、もうすぐ月から兎がお迎えにやってきますから。月に行ってしまったら謝ってもお二人に届きませんから。地上のお二人には月の神殿にいるわたくしの声は聞こえないでしょうから。
     月の使者である兎がチュウチュウと(またはキュウキュウと。もしくはミュウミュウと)鳴けば、かぐや姫の居場所はすぐにわかってしまいます。兎の鳴き声を聞いて、わたくしもチュウチュウと(またはキュウキュウと。もしくはミュウミュウと)鳴きますから。そうしたら、兎はここにやってきます。たくさんたくさん、やってきます。そして、こんな壁はすぐに崩されてしまいます。こんな鉄格子はすぐにねじ曲げられてしまいます。
     もうすぐです。もうすぐ。
     どうして、こんな狭い部屋にわたくしを閉じ込めるのですか。閉じ込めたところで無駄なのは、わかりきったことではありませんか。月の使者の前には壁も鉄格子も意味がないのは、わかりきったことではありませんか。こんな四方が何の飾りもない灰色の壁の部屋に押し込められているわたくしが、かわいそうだとは思いませんか。
     幼い頃のわたくしは、とてもとてもかわいがられました。竹藪の中で竹から生まれたといわれるわたくしは、とてもとてもかわいがられました。
     綺麗な服を着せていただき、舞を習いました。お化粧をしていただき、唄を教わりました。
     そして、たくさんの殿方に引き合わせていただきました。
     殿方と会い、舞を披露し、唄を歌うことは楽しいことでした。お爺さんとお婆さんも幸せそうでした。お二人は殿方からたくさんの贈り物をもらっていました。
     でも、嫌な相手もいたんです。そんな時は無理難題を言って追い返したりもしました。蓬莱の玉の枝が欲しいとか、龍の首の珠を取ってきてなどと言えば、たいていの殿方は諦めました。もしかしたら、わたくしを気が触れていると思ったのかもしれません。でも、わたくしは気など触れておりません。誤解しないでください。気が触れているなどと誤解しないでください。誤解があるかないかはとても気になるのではっきり言いますが、誤解しないでください。
     わたくしの気が触れていない証拠には、殿方を追い返してしまうと、お爺さんとお婆さんはわたくしを打ち、罵ったのです。誰がお前を育てたと思ってるんだ。誰がおまんまを食わせてきたんだ。そんなことを言いながらわたくしを打ったのです。わたくしのことを気が触れているだとか、気狂いだとかは言いませんでした。気が触れていれば、気が触れていると罵られるでしょうから、わたくしは気が触れてなどいないのです。気が触れていたら、月の兎は迎えに来てくれません。気が触れていないので、月の兎は迎えに来てくれます。
     もうすぐです。もうすぐ。
     嫌な相手とタケノコを食べるのはとても嫌なことでした。考えただけでも吐き気がすることでした。前の晩、お布団の中で泣いて、次の日の夜、お布団の中で吐きながら泣きました。手を洗っても、うがいをしても吐き気は止まりませんでした。
     でも、ある夜に、枕元で月の兎が言ったんです。嫌な相手だからこそ、ちゃんとタケノコを食べなくちゃいけないよ。月の女王は嫌なことも我慢するんだよ。ちゃんと食べたら月から君を迎えに行ってあげるよ、って。それにタケノコが美味しいか不味いか、君だって気になるでしょ? 食べてみないとわからないよ、って。そう言われると、美味しいか不味いか気になりました。それまでは考えたこともないどうでもいいことだったのですが、急に気になりだしました。
     だから、わたくしは目をつぶって、鼻をつまんで、タケノコを思い切り噛み切って、飲み込んだんです。月の兎がそうしろって言ったんです。わたくしは月に行きたかったのです。月の兎がそうしろって言ったんです。
     タケノコはあまり美味しくありませんでした。鉄の味がしました。まるで徳利を倒しでもしたように、あたり一面が濡れていました。床がぬるぬるしていました。タケノコは鉄の味がしました。嫌いだった殿方は眠っていました。吐き気がするほど嫌いだった殿方は白目を剥いて眠っていました。月の兎がそうしろって言ったんです。
     竹藪で生まれタケノコを食べたわたくしを、月から兎が迎えに来てくれることになりました。お爺さんとお婆さんに暇乞いをしなくてはならなくなりました。
     土間にお爺さんの鉈が転がっていました。最近、お爺さんはあまり野良仕事をしなくなったので少し錆びていました。わたくしがお爺さんに拾われた頃、竹を切っていた鉈でした。思い出深い鉈でした。これなら暇乞いにちょうどいいと思いました。
     お爺さんはお酒を飲んで寝ていました。鉈は振り上げる時には重くて大変ですが、振り下ろす時には重さの分だけ楽に手が動きます。
     お婆さんはちょうど厠にいました。鉈は振り上げる時には重くて大変ですが、振り下ろす時には重さの分だけ楽に手が動きます。
     わたくしはタケノコを食べ、お爺さんとお婆さんに暇乞いを済ませ、月から兎が迎えにくるのを待っていただけなのです。それだけなのです。それなのに、この狭い部屋に閉じ込められてしまったのです。これでは月の兎が困ってしまいます。でも、月の兎は困ったりしないでしょう。わたくしは気など触れてはいません。
     明かり取りの小窓から紅い月が見えます。紅い月の神殿には、女王の到来を予感した兎がたくさん集まっていることでしょう。血のように紅い眼をした月の使者が、かぐや姫を迎えにくるでしょう。
     もうすぐです。もうすぐ。

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    コメント

    • 『カグヤ姫遺文』を読んで下さった方、ありがとうございます!

      創作に自信を失ってしばらくupppiから離れておりましたが、また頑張っていきたいと思います。
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    • キノコではなくタケノコなのですね。ふむふむ。←
      何度も何度も同じ言葉を繰り返す辺りが異様で恐ろしかったです。
      タケノコの里を食べる時、当分勇気いるだろうなぁ…(笑)
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    • For チャチャ丸様
       コメントありがとうございます!
       そうなんです。キノコではなくタケノコなのです。アレの形が(笑)。
       何度も同じ言葉を繰り返すのは元ネタの「おふぇりや遺文」や某精神科の相談コーナーなどを参考にしました。異様で恐ろしいと言っていただけて嬉しいです!
       チャチャ丸さんがタケノコの里やキノコの山を見るたびにアレの形を連想してしまったら、作者冥利に尽きます(←
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    • 追記
       返信が遅くなってしまってすみませんでした。
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    • 奇妙な語り口が怖くて面白かったです!
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    • For 藤堂貴之様
       コメントありがとうございます!
       返信が遅くなってすみません。
       読んでいくうちに「あれ? 何か……変だ……」と思うような語り口を目指しました。面白いと言っていただけて嬉しいです!
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    • キュウキュウ鳴く。に一票
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    • For かめかめ様

       コメントありがとうございます!
       そもそも兎って鳴くんでしたっけ?(←オイ
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    • これは面白かったです。タケノコとはー?で、誰かと話し合いたい。
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    • For moran様
       コメントありがとうございます!
       面白かったと言っていただけて嬉しいです。
       野山に生えているタケノコについて話し合うのは誰とでもできますが、この作品のタケノコについて話し合うのは相手を選びそうですね……(笑)
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    • こ、これは…… あの昔話がこんな話になるなんて。でんでん太鼓をもって竜にのった坊やには読ませられないですね(汗)
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    • For 三塚章様
       コメントありがとうございます!
       BOUや~よい子だNENNEしな~♪(←JASRAC対策で一部改変
       下品ですみません。
      m(_ _)m
       小林秀雄先生の作品が元ネタなので、本当はもう少し上品かつ形而上 的なお話にしたかったのですが……。
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    • /(^o^)\どうしよう。たけのこの里が好きと言えない雰囲気(笑)
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    • For 和久井つぐみ様

       コメントありがとうございます!
       メーカーさんのアンケートによれば、たけのこの里の方が人気があるようなので問題ありません(笑)。
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    作者紹介

    • らしき
    • 作品投稿数:10  累計獲得星数:75
    • エログロと文学的表現を融合させてゴシック調の作品が書ければ……などと、高原英理先生の『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』(ちくま文庫)の影響を受けて妄想しております。

      現在読んでいる本
      『売女の人殺し』(ロベルト.ボラーニョ)
      『天使エスメラルダ』(ドン・デリーロ)


    • 関連URL
      ツイッター:http://twitter.com/lashiky665

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