upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:病院で知り合えた友人へ
閲覧数の合計:835

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

病院で知り合えた友人へ

作者:66号

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    自分に自信が持てず、何のとりえも無く、流されるままに諾々とブラック企業で働く事となり、胃潰瘍に倒れ、病院に担ぎ込まれた三十路過ぎの男。そんな入院先の病院で彼が出会ったのは、彼とは正反対の人生を歩む、静かな自信に満ちた堅実な男でした。このお話では、そんな二人の男が織り成す奇妙な交流の顛末を綴っています……。


    登録ユーザー星:16 だれでも星:4 閲覧数:835

    病院で知り合えた友人へ 6421文字

     

     エモトさんと知り合いであり続ける事が出来るのなら。
     私は涙をタオルで拭い、言いました。
    「エモトさん。お恥ずかしいところをお見せしました。許して下さい」
    「いえ、お気になさらず」
     エモトさんは笑みを湛えたまま、柔らかな口調でそう答えました。
     私はベッドの上で背筋を伸ばし、エモトさんに伝えました。
    「今後ともよろしくお願いします。そして退院したら、何処かに遊びに行きましょう」
     それを聞いたエモトさんは、初めて会話した時と同じ様に一瞬きょとんとした表情になりましたが、すぐに楽しそうに笑い始めました。
     私は赤面しましたが、エモトさんの様子が楽しそうだったので、なんとなくつられて笑ってしまいました。
     エモトさんは明るい口調で答えました。
    「ええ、是非!こちらこそ!」

     そんなエモトさんの容態が急変したのは、三日後の事でした。
     在り得ないと私は思いました。
     病状の急激な悪化に伴いICU入りとなる前日まで、エモトさんは本当に元気そうでした。
     もうすぐ退院出来るのだと私に告げ、先に退院したら良い店を探します、キクチさんの退院を待って一緒に退院祝いをしましょう、そう言っていたのです。
     それがいきなり、土気色の顔色で血を吐き、呼吸困難の中で意識不明となってしまったのです。
     エモトさんの奥さんとお子さんがすぐに駆けつけました。
     二人は気丈に振舞っては居たものの、心底心配そうで、特に奥さんは憔悴し切っている様に見えました。
     エモトさんから聞いた話ですが、現在入院中のエモトさんに代わってエモトさんの会社を切り盛りしているのは奥さんなのだそうです。
     しかし奥さんはエモトさんの仕事に慣れているわけでは無く、出来る事にも限度がある為、エモトさんは早く仕事に復帰しなきゃと、いつも言っていました。
     奥さんやお子さんに心配を掛け、更に負担まで掛けている事を申し訳なく思っていると言っていました。
     誠実で、家族思いで、優しくて。
     なのにエモトさんは、心配する奥さんとお子さんに声を掛ける事すらままならない状態でICUに入ってしまったのです。
     私にはどうする事も出来ません。
     出来る事と言えば、力なく項垂れるエモトさんの奥さんとお子さんに、大丈夫ですよ、きっと元気になりますよと、声を掛けて励ましてあげる事くらいでした。
     そして五日が過ぎました。
     エモトさんの意識は未だ戻らず、ICUから戻って来る様子も無いままでした。
     私はエモトさんの意識が回復する事を、何より症状が改善する事を心の底から祈りました。
     あんなに良い人が、あんなに明るい人が、こんな事で倒れて良い筈が無いと思いました。
     あんなに可愛らしいお子さんが、あんなに優しそうな奥さんが、悲しむところなど見たくないと思いました。
     ベッドの中で私は祈りました。
     目を閉じ、心の中で祈り続けました。
     エモトさんが良くなります様に。
     エモトさんが良くなります様に。
     
     その日の夜。
     消灯時刻から大分時間が経った頃、私は不意に目を覚ましました。
     午前三時頃でしょうか。
     病院の白い天井と、間仕切りの白いカーテンが見えました。
     辺りは静かで、時折聞こえるのは廊下を歩く看護師さんの静かな足音くらいのものでした。
     もう一度寝なおそうと思い、私は枕の位置をずらして姿勢を変えました。
     その時、間仕切りのカーテンが半分ほど開いている事に気づきました。
     ああ、看護師さんが閉め忘れたのかと思い、私は腕を伸ばしてカーテンを閉めようとしました。
     その時ふと、隣りのベッドが目に入りました。
     エモトさんのベッドでした。
     そして私は驚きました。
     ベッドの縁に、エモトさんが腰を降ろしていたのです。

     それは確かにエモトさんでした。
     エモトさんは、背中を丸めて肩を落とし、疲れた様に俯き、黙ったまま目を閉じていました。
     これほど疲れた様に見えるエモトさんは初めてでした。
     ですが本当に疲れていたのでしょう。
     何故ならエモトさんは、五日前から今日までずっと、ICUに入ったままでしたから。
     私はエモトさんがICUから戻って来れたのだと思いました。
    「良かった……戻って来れたのですね」
     私は小声でエモトさんに話し掛けました。
     ですが、エモトさんは返事をしません。
     俯いたままじっとしています。
     疲れが酷いのでしょう、私もICUで何日もチューブに繋がれたまま治療を受けていたので解ります。
     私は再び小さな声で話し掛けました。
    「エモトさん、ICUを出られたからといって、まだ完治というわけではないのでしょう?身体に障りますよ、早くベッドに入って下さい」
     そのとき、エモトさんはゆっくりと顔を上げました。
     青白く、表情の無い顔でした。
     エモトさんはこちらを見ました。
     そして、こう言いました。


    「僕の代わりに、お前が死ねば良かった」








     翌日、私はエモトさんがICUの中で意識が戻らぬまま、息を引き取られた事を知らされました。
     その事を私に知らせてくれたのは、エモトさんの奥さんでした。
     奥さんは意識の無いエモトさんの元に毎晩徹夜で通い詰めていたのでしょう、目の下には隈ができ、頬に伝う涙の筋も生々しく、髪型も乱れ、これ以上無いという程にむごい表情をされていました。
     エモトさんのお子さんに至っては、外の廊下からけたたましい悲鳴の様な泣き声が聞こえて来るのみでした。
     私はどうする事も出来ず、掛ける言葉もなく、彼女の言葉に小さく肯くばかりでした。 

     私の隣のベッドから、エモトさんの荷物……遺品がすべて撤去されました。
     病院のベッドという場所は、やはりどれだけ居ようと愛着も何もない場所なのだなと思いました。
     翌日には別の患者さんが使用されるとの事でした。
     私は点滴を受けつつ、まぶたを閉じました。
     エモトさんが亡くなられた日の夜の事を思い出しました。
     その日の夜に出会ったエモトさん。
     あの言葉。
     私は今でもその言葉を思い出します。
     
     エモトさんには、優しくて美しい奥さんと可愛いお子さんがいました。
     守るべき家族がありました。
     己の力で掴み取り、選択した道、やるべき仕事がありました。
     悔しかったのでしょう。
     悲しかったのでしょう。
     私にはその気持ちが良く解ります。
     私もエモトさんを羨んでました。
     自分に無い物を全て持っていたエモトさんに嫉妬していました。
     ならば、エモトさんにしてみれば。
     自分にはもう無い命を未だに持っている私が羨ましかったのでしょう。
     それがあの様な言葉になったのではないかと思うのです。

     そして私は思うのです。
     






     

     ざまあみろ、黙って死ね。

    ←前のページ 現在 2/2 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • なるほど、ずっと丁寧語であった意味がラストでわかりました。完璧な悪意を感じ取ることが出来ます。

      一度ここでラストかと思わせ、その後もう一度真のラストを見せる手法は上手いです!
      いや本当、幽霊ものより怖いです。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • コメントありがとうございますー!
      仰るとおり、私も幽霊よりも生きている人間の方が怖いと思う次第でして、不気味さよりも底意地の悪さの様な物を感じて頂けましたら幸いです。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 楽しめました。
      いろいろな意味で。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • コメントありがとうございますー!
      拙くも未熟な代物ではありますが、楽しめたとのお言葉、痛み入りますー。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 独特な文体と独特な雰囲気に酔いしれていたら、独特なラストに完璧にやられました!
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • コメントありがとうございますー!
      未だ文章を書く事に慣れているとは言い難く、どれくらい書き込めば状況が読み手の方に伝わるのかと悩みつつ手探りで書き綴っておりました。楽しんで頂けたなら幸いです!ありがとうございますー。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 綺麗でシンプルな日本語で、淡々と、それでいて悲しくもいい話だなと思ったところで最後の一行、不覚にもニヤリとさせられました。
      これを愉快だと感じた私もどうかと思いますが、大変面白く読ませて頂きました。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • >>ウエキレイコさま
      コメントありがとうございますー!
      いえもう、文章を書く事に未だ慣れておらず、なにかと見苦しい箇所があったかと思います。ご容赦下さいませ。
      そしてウエキさまの作品にあった様な精度の高い描写が羨ましく、ああいう風に書ければ良いなあと思いました。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • \(^o^)/面白かったです。



      欲を言えば、

      欲を言えば、


      最後は ざまあみろ。の一言だけの方が文章が引き締まって今までの話が生きてくるように想いました。

      やっぱり、幽霊よりも生きている人間の方が怖いですね。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • >>和久井つぐみさま
      コメントありがとうございますー。面白いとのお言葉、痛み入りますー!そしてご指摘の通り、確かに少々くどいかなあという印象ですねこれ; もう少しスマートにまとめられれば良かったなと思った次第です。アドバイスありがとうございましたー!
      • 1 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    • 66号
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:37
    • ネット上でこちらの募集記事を見かけ、参加させて頂きました。色々と至らぬ駄文ではありますが目を通して頂けましたら幸いです、はい。
    • 関連URL
      :

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る