upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:病院で知り合えた友人へ
閲覧数の合計:835

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

病院で知り合えた友人へ

作者:66号

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    自分に自信が持てず、何のとりえも無く、流されるままに諾々とブラック企業で働く事となり、胃潰瘍に倒れ、病院に担ぎ込まれた三十路過ぎの男。そんな入院先の病院で彼が出会ったのは、彼とは正反対の人生を歩む、静かな自信に満ちた堅実な男でした。このお話では、そんな二人の男が織り成す奇妙な交流の顛末を綴っています……。


    登録ユーザー星:16 だれでも星:4 閲覧数:835

    病院で知り合えた友人へ 6421文字

     

     長年勤めていたデザイン会社が不況の煽りを受けて倒産した為、私は知人の紹介で某印刷会社の下請け会社に勤める事となりました。
     新しい職場での仕事は非常に厳しく、基本的に朝9時から深夜1時過ぎまで作業が続く為、会社で寝泊りせざるを得ない日々を過ごしておりました。
     世間的に見て『ブラック』と呼ばれる様な所でしたが、このご時世に正社員として中途採用されただけでも有り難いと思い、働いておりました。
     しかしそんな生活を二年ほど続けた頃、私は腹部に違和感を覚える様になりました。
     ハードな仕事の合間を縫って摂る食事は、忙しい日常の中にあって唯一の楽しみであり慰めでしたが、食事を取ると気分が悪くなったりする様になりました。
     ですが私は、多忙のあまりに胃腸が弱っているのだろう、むしろメタボリックな体型がスリムになって良いではないか、などと、そんな風に考えておりました。
     一人暮らしの独身者であり、自分の身体や体調の変化にも頓着が無かった為、異変を自覚した頃にはもう、私の胃には穴が開いてしまっておりました。
     その日、同僚と二人で深夜まで居残り作業を続けている途中、私は腹部に信じられない程の激痛を覚えて悶絶、床の上に倒れ伏し動けなくなってしまいました。
     同僚はそんな私の様子に動転しつつも救急車を呼び、私はすぐに病院へと搬送され緊急手術を受ける事となり、一命を取り留めたのでした。
     手術後暫くはICU(集中治療室)にて身動きの取れない状態が幾日も続きましたが、容態が安定して後、なんとか一般病棟へと移る事が出来ました。
     入院の期間は一ヶ月程になるだろうと担当医に言われ、私は職場の同僚や上司に申し訳ないと思いつつ、治療に専念しようと安静を心がけました。

     一般病棟は四人同室の相部屋でした。
     ですが、四つのベッドのうち二つは、ほぼ寝たきりの高齢者の方が利用されていて、会話はおろか意思の疎通もままならない様子でした。
     そして残るひとつのベッドは、交通事故で外傷性気胸となり入院する事となった男性が利用されていました。
     彼は私と同じ三十代前半、多少頬がこけてはいたものの、病人とは思えぬ程にがっしりとした体格をされていました。
    「胃潰瘍で入院されたとか?」
     彼はベッドの上で身を起こし、私の方に向き直って闊達な口調で話しかけて来ました。
    「はい、仕事中に職場で倒れてしまいまして……」
     私は点滴を受けつつベッドに横たわったままそう答えると、彼は驚いた様に問い掛けて来ました。
    「倒れる直前までお仕事されていらしたんですか?」
     私は答えました。
    「はい、いえ……私が体調管理を怠ったのが原因でして……会社には迷惑を掛けてしまいました」
     それを聞いた彼は、一瞬きょとんとした表情になりましたが、すぐに笑顔でこう言いました。
    「いや、真面目過ぎますよ、キクチさん」
     私は自分の名を呼ばれた事に驚き、
    「あれ、どこかでお会いしましたか?」
     と、問いました。彼はにこやかに答えました。
    「キクチさんのお名前なら、ベッド脇の札に書いてありますよ」
    「あ、そうでしたか」
     私は自分の頭の回転の鈍さに気恥ずかしくなりましたが、彼は私のそんな様子を気にする風もなく軽く会釈しました。
    「エモトです、暫くの間ですがよろしくお願いします」

     エモトさんはいつも明るく、屈託が無く、病院の看護師の方々とも気さくに会話を楽しむ様な方でした。
     私はどちらかと言えば人付き合いが苦手な性格でしたが、エモトさんとは同世代という事もあり、色々と話も合いました。
     ですが私はエモトさんと話をするうちに、私とエモトさんとの間には如何ともし難い程に、大きなライフスタイルの差がある事に気づかされました。
     エモトさんは元々、大手商社に勤めていたそうなのですが、三十歳という若さで独立し、輸入家具販売の会社を起業、経営されていました。
     そして毎日の様に彼のお見舞いにやって来る、彼の美しい奥さんと可愛らしいお子さん。
     二人ともエモトさんを慕い、甲斐甲斐しくエモトさんの世話を焼いては次の日も面会に来ると約束して帰るのでした。
     それに引き換え私はといえば。
     ブラック企業に雇われ、結婚も出来ず、挙句に入院しても母親以外は誰も、会社の上司が一度見舞いに来たきりという、そんな状態でした。
     なんといえば良いのか、とにかく惨めでした。
     気づけば私はエモトさんに嫉妬を覚えていました。
     ですがそんな感情は間違っています。
     エモトさんはいつも明るく振舞い、他人を嫌な気分にさせる様な言動はとりません。
     彼の人柄と、彼の経歴は、彼が歩んできた道の正しさを示しているのでしょう。
     そんなエモトさんに嫉妬するなど。
     私は己を恥じました。
     とはいえ、私は器の小さな人間です。
     嫌な男です。
     普段通りにエモトさんと会話をしているつもりでも、何処かで嫉妬心がくすぶっていたのでしょう。
     なんとなく気まずくなっては、エモトさんとの会話が、続かなくなる事が多くなりました。

    「どうかされましたか?」
     ある日、エモトさんはそう言って私に問い掛けてきました。
    「え?」
     急な質問に、私は思わず聞き返してしまいました。
     エモトさんは少し寂しげな笑みを浮かべつつ、呟くように言いました。
    「いえ、最近、僕はキクチさんに避けられてるのかなあと」
     その言葉に、私は激しく動揺してしまいました。
     つまりエモトさんは。
     つまりエモトさんは、私がエモトさんへの嫉妬で見苦しく取り乱している事実に気づいているのかと。
     私がエモトさんと自分を比較し、自分が著しく劣っている事に憤りを覚えつつ、エモトさんを羨んでいるという事実に気づいているのかと。
     私の醜く歪んだ心の内を覗かれた様な気持ちになりました。
     私はもうなんと答えて良いのか解らず、でもそれでも早く何か答えねばと焦り、考えを纏める間も無いままに口を開きました。
    「いや、そんな事は!私はそんな!決して嫉妬なんて!」
    「え?嫉妬?」
     エモトさんはポカンと口を開けたまま、混乱の極みにある私を見つめていました。
     そして私は、思わず口走ってしまった自分の言葉に驚き、恥じ入り、赤面し、顔中に脂汗を滲ませていました。
     もう死んでしまいたい。
     私は心底、その様に思いました。
     なんと私は醜いのか。
     心が醜い。
     私はいい歳をして、エモトさんの見ている前で泣き出してしまいました。

     私はエモトさんに詫びました。
     私がエモトさんに嫉妬していた事。
     同い年でありながら、エモトさんの様な生き方が出来なかった自分が恥ずかしくて仕方無かった事。
     優しくて幸せそうな家族が羨ましかった事。
     自信を持って他人と接する事の出来るエモトさんと自分との差が悲しかった事。
     エモトさんは、そんな私の泣き言を最後までキチンと聞き届けてくれました。
     私は嗚咽と共に言葉を吐き出し、様子を見に来た看護師の方に訝しがられつつも、エモトさんに謝罪しました。
     幾らかの時間が経ち、私が落ち着いた頃を見計らって、エモトさんは静かに言いました。
    「キクチさん。僕も、キクチさんと同じなんですよ」
    「え……?」
     どういう意味なのだろうと、私はエモトさんを見つめました。
     エモトさんは言葉を続けます。
    「僕も、いつだって不安なんです。失敗が恐いし、嫌われる事が恐い」
     そしてエモトさんは僕から視線を外すと、口元に照れたような笑みを浮かべて言いました。
    「さっきだって僕は、キクチさんに嫌われたのかと思って不安だったんですよ?」
    「……」
     その言葉を聞いて私は、なんと言えば良いのか、どういえば良いのか。
     ですがその言葉に誠実な物を感じました。
     見苦しく取り乱し、無様に恥を晒した私を、エモトさんは笑う事無く受け入れ、自分もまた弱いのだと言って寄り添ってくれたのです。
     私の嫉妬心を知ってなお、私に語りかけてくれたのです。
     これ以上望む事はありません。
     確かに彼は、私よりもずっと優れた人間でした。
     そして私は確かにその事を羨み、嫉妬していました。
     しかし今は。
     私はその事を認め、受け入れた上で、彼の今後の幸せと成功を祈りたくなりました。
     そして出来ることなら。

    ←前のページ 現在 1/2 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • なるほど、ずっと丁寧語であった意味がラストでわかりました。完璧な悪意を感じ取ることが出来ます。

      一度ここでラストかと思わせ、その後もう一度真のラストを見せる手法は上手いです!
      いや本当、幽霊ものより怖いです。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • コメントありがとうございますー!
      仰るとおり、私も幽霊よりも生きている人間の方が怖いと思う次第でして、不気味さよりも底意地の悪さの様な物を感じて頂けましたら幸いです。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 楽しめました。
      いろいろな意味で。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • コメントありがとうございますー!
      拙くも未熟な代物ではありますが、楽しめたとのお言葉、痛み入りますー。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 独特な文体と独特な雰囲気に酔いしれていたら、独特なラストに完璧にやられました!
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • コメントありがとうございますー!
      未だ文章を書く事に慣れているとは言い難く、どれくらい書き込めば状況が読み手の方に伝わるのかと悩みつつ手探りで書き綴っておりました。楽しんで頂けたなら幸いです!ありがとうございますー。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 綺麗でシンプルな日本語で、淡々と、それでいて悲しくもいい話だなと思ったところで最後の一行、不覚にもニヤリとさせられました。
      これを愉快だと感じた私もどうかと思いますが、大変面白く読ませて頂きました。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • >>ウエキレイコさま
      コメントありがとうございますー!
      いえもう、文章を書く事に未だ慣れておらず、なにかと見苦しい箇所があったかと思います。ご容赦下さいませ。
      そしてウエキさまの作品にあった様な精度の高い描写が羨ましく、ああいう風に書ければ良いなあと思いました。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • \(^o^)/面白かったです。



      欲を言えば、

      欲を言えば、


      最後は ざまあみろ。の一言だけの方が文章が引き締まって今までの話が生きてくるように想いました。

      やっぱり、幽霊よりも生きている人間の方が怖いですね。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • >>和久井つぐみさま
      コメントありがとうございますー。面白いとのお言葉、痛み入りますー!そしてご指摘の通り、確かに少々くどいかなあという印象ですねこれ; もう少しスマートにまとめられれば良かったなと思った次第です。アドバイスありがとうございましたー!
      • 1 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    • 66号
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:37
    • ネット上でこちらの募集記事を見かけ、参加させて頂きました。色々と至らぬ駄文ではありますが目を通して頂けましたら幸いです、はい。
    • 関連URL
      :

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る