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シリーズ:暗黒の詩 ~塔の上の少年~
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暗黒の詩 ~塔の上の少年~

作者:怪奇伯爵

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    ストレスに耐えるOLだけが知る、風変りな世界。
    そこに住む少年の正体は?
    詩的手法を取り入れたサイコ・スリラー。


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    暗黒の詩 ~塔の上の少年~ 4037文字

     

     なぜ、ここにいるのだろう?
     ここは一体、どこなのだろう?

     見渡す限りの草原が、周囲に広がっている
     鮮やかな青の空に
     浮かんでいるのは白い雲だけ
     飛行機も飛ばず、鳥の姿もみえない

     爽やかな風が頬を撫で、
     草をなびかせていく

     私は風の教えに従い、跳ねるように草原を歩く
     道など、どこにもない
     どこに行こうが、構わない
     ここには、人の通ってきた道などないのだから
     私の歩いた跡ですら、それはすぐに消えてしまう
     ここは、そういう世界

     やがて、草原は小高い丘に通じた
     世界で唯一のシンボルが、堂々とその姿を現したのだ
     石を組んで作られた塔は、周囲と調和の取れぬ異質の存在
     それは塔でありながら、世界の歪でもあった

     それでも、塔は私を惹きつける
     私がするべきことが、そこにあるような気がして
     忘れている何かが、そこに待っているような気がして
     
     白い雲が流れていく
     それが、ここでは時計の代わり
     昼と夜はあるけれど
     細かな時間は、雲の流れで計る

     頭上にあった雲が彼方に移動すると、
     私は塔の下に立っていた
     膨大な煉瓦の結集
     地に打たれた杭のように
     天を諌める剣のように
     塔は己の役割をほのめかす

     内部へと通じる頑強な扉は自ずと開き
     私を内へと誘う
     延々と続く回廊が天を覆い
     その先は漆黒の闇に消えていた

     ゆっくりと回廊を上がる
     壁面に穿たれた窓の風景は、どこまでも続く草原ばかり
     時が止まったように
     何も変化が起こらない
     延々と続く回廊は
     いつまで経っても、終わらない



     就職して、三年目の夏を迎えていた。
     今年も猛暑が続き、省エネを目標に掲げた職場は茹だるような熱気に満ちている。
     昨月もまた、同期が退職した。
     私は、当然だと思う。
     入社前には人を厳しく選択する会社。
     そのくせ、いざ入社してみると会社は組織としてあまりに脆弱だった。
     効率化を謳う一方で、あまりに古臭いシステムが未だに幅を利かせている。
     改善を提案すれば、それは理由のない反対に容易に阻止される。
     業務を熟知せぬ者が管理者を名乗り、評価の基準は自ずと曖昧になった。
     経費削減のもっとも容易な方法であるリストラは、結局は私たちの世代に犠牲を強いる。
     希望に燃えていた同期は、一人また一人と希望を他所に求めていった。

     人間関係も、良好ではなかった。
     陸上部出身の健全であった私の身体は、重度の胃潰瘍に苦しむようになっていた。
     服の下に隠れている皮膚は、厄介な湿疹に侵されている。
     体重は、激減した。
     食欲が無くなり、夕食ですらサラダだけで済ます日も多い。
     わずかな休みは、掃除や洗濯など生活に必要な行為に奪われた。
     それ以外は、死んだように眠る。
     年頃の娘なのだから。
     両親はそう云うが、余分な時間など私には無かった。
     自ずと人づきあいを避けるようになり、今では電話すら他人とコミュニケーションを取らないようになっている。



     再び、塔を訪れる
     回廊を上り、ようやく頂上へと辿りつくことができた
     そこには頑丈な鉄の扉
     扉に開けられた小窓から、中の様子を眺めてみる
     そこには、一人の少年
     高価そうな服を着て
     膝を抱えて、下を向いている
     彼は、誰なの?
     疑問とともに、背筋が凍る
     少年の足には、錆びた鎖
     それが、壁の一部に繋がっている
     誰が、こんな酷いことを……
     すぐにでも助けたかったけれど
     頑丈な扉は、閉ざされたまま
     私は悲痛な叫び声をあげた



     世の中には、様々な人間がいる。
     それぞれに生活環境は違うのだから、それは当然のことだ。
    自分の方が正当に思えても、実際には正当じゃない方が得をしている。
    人の功績を横取りしたり、人に失敗を押し付けたり。
     そのようなことが横行する環境に、しがみつかなくてはいけない理由……。
    世間体?
    プライド?
    地位もあれば、プライドもある。
    それを捨てる決断を、どこですれば良いのだろう?
     ここには、もう期待できるものなどないのだから。

     それでも、準備はとっくに始めている。
    他の職場を探し、幾つかの面接も受けた。
     自分の能力を無理にアピールする私。
    そういう自分に、嫌悪感すら感じていた。
     繕ってみたところで、もしかすると同じ未来が待っているのかもしれない。
     次第に夢を失って、漫然とした日々に追われるだけ。
    幸か不幸か、転職のチャンスは一向に訪れない。
    私のような人間は、他で必要とされていないらしい。



     塔の部屋の少年は、相変わらず下を向いたままだった
     呼びかけにも、応じない
     ただ俯くばかり
     今日は、その足下に銀の皿が置かれていた
     誰かが、食事を与えたようだ
     皿に残った残骸に
     私は息を呑む
     小さくも、グロテスクな形状
     少年の食べ残しが、そのまま放置されている
     生命を感じさせる鮮やかな赤
     場面が違えば、私も食欲をそそられたかもしれない
     
    でも……。
     
     それは、少年の食事が生肉だと物語る
     高価な服の袖を血で滲ませ、少年はどのように肉を食べたのだろう
     獣のように?
     それとも、人のように?
     俯いたその顔に、いったいどのような表情が貼りついているのだろう



     田舎では、私は優等生だった。
     両親もそれを期待し、そのような教育を施してきた。
     しかし、褒められる人生は大学の卒業と共に終わりを告げた。
     温室育ちの私には、妬みという感情を理解していなかった。
     妬みは悪意へと変わり、私を攻撃するようになった。
    仕事も恋愛も、全てが負の方向に向かっていく。
     私に向けられた悪意は既に数えきれないほどになり、毎日がそれを避けることに費やされた。
     そして遂に、愛した人からも悪意を向けられるようになった。
     悲しみ。
     苦しみ。
     これまで縁が無かった感情が、私を捉えて離さない。
     私の中でもう一つの感情が生まれ、それは確実に大きく育っていった。



     塔を上がると、私は驚きの声をあげた
     鉄の扉が、開いていた
     少年の姿も消えている
     部屋の中へ進むと、少年を拘束していた鎖だけが残っている
     床に浸み込んだ黒い影は、少年の血だろうか
     少年は連れ去られたのだろうか
     それとも、自分から逃げたのだろうか
     不意に、背後に気配があった
     振り向くと、あの少年が立っている
     少年は、ゆっくり顔をあげた
     私は、確かにその顔をみた
     笑みを浮かべていたような気がする
     泣いていたような気がする
     怒っていたような気がする
     
     どれが本当だろう?
     
     そして、少年は私の手を取り、塔の外へと誘った



     殺風景な部屋だった。
     小さなテーブルが中央に置かれ、私はその前の椅子に座っている。
     開け放たれた窓から生温かな風が入り、白いレースのカーテンを揺らしていた。
     どこからか、風鈴の音が聞こえてくる。
     見知らぬ男が二人、私の顔を眺めていた。

    『おそらく彼女は……』
     眼鏡をかけた男が、口を開いた。
     『何も覚えていませんね』
     『しかし、先生。それは……』
     男は、口をつぐむ。
     『これまでの彼女の話は、およそ現実的ではありません』
     『そうですが、まったくの妄想でしょうか』
     『日々のストレスが彼女を蝕んでいったのでしょう。塔の上の少年とは、彼女の良心だったのかもしれません』
     『と言うと……』
     『良心が解放されて、狂気に支配されてしまったのかも』
     眼鏡の男は、私に微笑して見せた。

     『大丈夫ですよ。ゆっくり治していきましょう』

     その言葉の意味が分からず、私は曖昧な表情を作る。
     男は優しげな表情を私に向けて、再度微笑んだ。


     目が覚めると、どこからか音声が聞こえてきた。
     おそらく、テレビの音だろう。
     結構なボリュームで流れてくる。
     夜のニュースを告げる男性キャスターの声。
     
     どこかのOLが、同僚数名を殺害したらしい。
     白昼堂々と行われた凶行で、とてもショッキングな事件と報道されていた。
     事件の起きた企業名や場所は、どこかで聞いたような気がした。
     何かが引っ掛かったが、思い出せない。
     そのうち、部屋に白衣の女性が入ってきて、点滴の確認をしていった。
     私は、ここが病院であることを知った。
     『大丈夫ですよ。ゆっくり治していきましょう』

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