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作者:チャチャ丸

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    それは、たわいもない会話から始まった。
    「俺、この前さ……」


    登録ユーザー星:0 だれでも星:0 閲覧数:427

    3467文字

     

    「この前、ちょっと怖い体験をしたんだ」

     大学一年の冬。ある昼下がりに、谷野健二は高校時代の友人、前田亮を自身のワンルームマンションに呼び寄せ、何をするわけでもなくだらだらと過ごしていた。
     最高気温は二度。最低気温はマイナス一度。寒さを強調するかのように、ご丁寧に雪まで降ってきた。

     健二は窓から忍び込む冷気にぶるりと震え、部屋に設置してあるエアコンの設定温度を一度上げた。その時だった。

    「なに? 怖い体験ってどんなやつ? 危ない奴にでも遭遇したわけ?」

     亮の突然の告白に笑いながら問いかけ、隣りに腰を下ろした。床に転がっていたみかんを一つ取り、続きを待つ。亮はふるふると顔を左右に振った。

    「いや……何て言ったらいいかな。怖い体験っていうか、不気味っていうか」
    「あれか、幽霊とか?」

     健二がみかんを剥きつつ訊ねると、それともちょっと違うというか……と、何ともはっきりしない返答。

    「ほら、俺の住んでるアパートって、ちょっと古い感じでさ。人気もないし、審査も適当だったし。それでたぶん、変な奴が住んでいるんだろうけど」
    「なんだ、変人の話かよ」

     肩すかしをくらった。
     健二はテレビに視線を戻し「それで?」と興味なさげに促した。亮もみかんを一つ手に取る。

    「大体俺と同じ学生が住んでるんだ。空き部屋も多いから住んでる人の大体の顔は知ってるんだけど……ここ三ヶ月で立て続けに三人も、死んだんだ」
    「死んだ?」

     瞬間、ぞわりと背筋が震えた。
     室温も下がった気がして、健二は先ほど机の上に置いたリモコンに手を伸ばし、エアコンの設定温度をさらに一度上げた。

    「一人は……自殺だったみたいでさ。連絡が取れないからって様子を見にきた母親が、部屋で首吊って死んでる息子を発見したみたいで」
    「それって……亮の部屋の近くか?」
    「真下の部屋だよ」
    「うぇっ!」

     健二は思わず、手にしていた剥きかけのみかんを放り投げた。弧を描いて床に落ちたみかんは、ぐちゃりと嫌な音を立てた。

    「あとの二人の死因は?」
    「事故死みたいなんだ」

     目に見えない重い空気が部屋に充満した。しばらくの沈黙。それを破ったのは健二だった。

    「けどさ、自殺の方はまぁ『変人』的な行動をしてたのかもしれないけど、事故死した二人も何かあったわけ? 亮が『変な奴』って言うなんて珍しいな」
    「うん、まぁそこが『不気味』なんだけど」

     亮は座り直して健二を見つめると、重そうな口をゆっくりと開いた。

    「その三人が死ぬ前、共通して俺見ちゃったんだよね」
    「見たって?」

     健二は続きを急かした。知らず知らずの内に気持ちが高揚している。喉がごくりと鳴った。

    「三人の内二人は、俺と同じ階の人だったんだ。その人たちの部屋の前を通って一番奥が、俺の部屋だから」

     始まりは、亮と同じ大学に通う女子大生だった。
     どうして亮が、彼女が「同じ大学」であることを知っているかというと、一度自転車置き場で会話したからだった。
     エンジンのかからない原付に悪戦苦闘しているところを、たまたま通りかかった亮が手を貸してやったのだ。それこそ、ヒーローさながらの手際で。男は誰でも美女には優しい。
     その彼女は亮の二つ隣の部屋だった。

     ある日、珍しく深夜までバイトが長引いた亮は、疲れを背負って帰宅した。
     階段を上り、自分の部屋目指して重い足を引きずっていると、ふと、その通路の違和感を感じたのだ。

    「違和感って……背筋がぞくり、とかか?」
    「ううん」

     亮は健二に向かってかぶりを振った。

    「霞(かす)んでたんだ」

     肩に力を入れて聞き入っていた健二は、なんだと笑って言った。

    「単に疲れて目がおかしかっただけじゃん」
    「うん、俺もそう思ったんだけどね。何か、変だったんだ。目をこすっても晴れないし、後ろを振り返ると全然、変じゃなかったんだよ」

     そこで亮は不審に思いながらも歩を進めた。一歩踏み出すたびに、靄(もや)はどんどん濃くなっていく。
     だが、一番濃くなった場所を通り過ぎると、不思議なほどに視界がクリアになった。振り返るとやはり、通路は霞んでいる。
     亮は覚悟を決めて、靄の一番濃い場所まで近寄ってみた。
     そこは亮の二つ隣の部屋――彼女の部屋だった。

    「それから一週間もしないうちに、彼女は交通事故に遭ったんだ。即死だったって、テレビのニュースでやってたよ」

     後味の悪い体験だったが、亮は特に気にしないよう努めて過ごしていた。
     一月後、再び亮は深夜帰りとなった。
     階段を上り終えて通路に足を踏み入れた瞬間、首筋がざわりとして足を止める。

     またあの時と同じように、通路が霞んでいたのだ。

    「なんとなくだけど、あぁ、また誰か死ぬのかなって思ったんだ」

     今度は、一番手前側にあった部屋を通り過ぎると視界は晴れ渡った。
     そして案の定、そこの住人は一週間以内に通り魔に遭って死亡したのだ。

    「もう一人の時もそうだったのか? ほら、自殺したって奴。階違うのにどうやってそれ見たんだ?」

     気持ちが落ち着かない健二は、亮の話のせいもあって寒気を感じ、部屋の設定温度をさらに一度上げた。場違いな可愛らしい機械音が響く。

    「その人、俺の真下の部屋って言ったじゃん? その時俺、よっぽど疲れていたみたいで階間違えたんだ」

     二人目が死亡したさらに一月後。
     亮が帰宅し通路に足を踏み入れると、今までとは比べようにならないほど薄く霞んでいた。だから、亮はすぐには気づかなかった。
     一番奥の自分の部屋へ向かうほど、靄は濃くなってくる。そこで亮は、恐ろしさのあまり足を止めてしまった。どう見ても、この靄は通路の突き当たりが一番濃くなっていたからだ。

    「でも、ぱっと横を見たらそこが一つ下の階だってわかったんだ。あの時の安心感といったらなかったよ」

     そう言って亮は柔らかく微笑んだ。

    「亮ってさ……」

     健二は居たたまれなくなって、口を挟んだ。

    「そこまで知ってて、なんで三人目の時何かしなかったんだ?」
    「何かって……何を?」

     きょとんとした顔で訊ね返してくる。ボク、何か悪いことした? といった感じだ。

    「そりゃあ、気をつけた方がいいよ、とかさ。声かけてみたりとか」
    「でも三人目は自殺だったんだ。それに今どき、見ず知らずの他人に向かってそんなこと言う人、いる? 変な宗教勧誘とかと間違われるじゃん」

     確かに、と健二は納得する他なかった。「あなた近々死ぬかもしれませんよ」なんて言われれば、即不審者扱いされるだろう。

    「まぁ、同じアパートで三人も立て続けに死んだことが不気味だっただけなんだ。それだけの話だよ」

     そう言って、亮は剥き終わったみかんを食べ始めた。
     健二はまだ温まらない部屋に少し苛立ち、設定温度を一気に三度上げた。


     それから夕方まで、健二と亮は各々好きなことをして時間を過ごした。
     健二は毛布にくるまり、ベッドの上に座ってテレビを眺める。目の前に亮の後頭部が見える。

    「……健二、実は言いたかったんだけどね」

     読み終えた漫画を閉じると、意味深長な物言いで亮はくるりと振り返る。その雰囲気に、健二は思わず身構えた。

    「この部屋……暑い」
    「え?」

     設定温度を三十度にされたエアコンは、苦しそうにごうごうと息を吐き続けていた。
     どれだけ寒がりなんだよと、亮は笑いながら毛布にくるまった健二を指差した。


     だってさ、亮。
     今日の最高気温は二度、最低気温はマイナス一度で、外は雪が降ってるんだぞ。
     寒いに決まってるだろ?


     亮は呆れたように笑う。

    「何か暑くなり過ぎて、この部屋白く霞んでるじゃん」

     俺帰るよ。蒸し上がりそうだから。そう言って亮は部屋を出て行った。


     健二は動けなかった。
     この部屋はどう見ても、白くなど霞んでいなかったから。
     部屋の扉が閉まる瞬間、暗闇に不気味な女の顔を見てしまったから……



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    コメント

    •  これはいいホラーですね。ぞくっとしました。会話だけで進むというのもいいです。ラストはだいたい予想がつきましたが、突然女の顔が出てくるというのは「?」でした。
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    • 貴重なご意見ありがとうございます^^
      ラスト、当初は女の顔なんぞなかったのですが、読んでいただいた方の中に「気味は悪いけど怖くない」と言われ付け足してしまった部分です。
      うん、確かに唐突過ぎました(苦笑)

      もう少し他のバージョンで書き直してみようかなと思います^^
      ありがとうございました☆
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    • 描写の過不足無く、短編らしい読みやすいお話でした。お話のさげも綺麗に纏まって良かったと思います。
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    • ありがとうございます~(^-^)
      短いお話だと、余計な描写を入れ込むことが出来ませんので、読み手と書き手の想像が一致しているか不安になるのですが…いやはや、嬉しいお言葉をありがとうございます☆
      ラストは幾つかあったのですが、そう言っていただけたのでホッとしました(笑)
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    • 展開とオチが気になって、サクサク読めました!

      その後を読者に想像させるラストは、しっかり余韻を残して効果的です。
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    • ありがとうございます^^
      オチ、悩んだんです。濁そうか、明かそうか…
      なので、ちょっとだけ妄想要素を落として逃げてみました(笑)

      嬉しいお言葉をありがとうございます☆
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    • 臨場感がありました。
      地の文と会話文のバランスがいいですね。
      引き込まれました。
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    • ありがとうございます^^
      地の文と会話文のバランス、書き手としても気になるところですので、お褒めの言葉サイコウに嬉しいのです♪
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    • じわじわ話が進んでいくのが、余計に怖く感じました!
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    • じわじわ、もやもやと進めました(笑)
      どどーんとした恐怖はありませんが、もやっとしたものが藤堂さんの心に残ったならば幸いです^^
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    • つД`)・゚また深夜に怖い話を読んでしまいましたっ

      面白かったです♪←怖いという意味で(笑)
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    • ありがとうございます^^
      私も夜、苦手なくせにホラーを読んじゃうタイプです(笑)

      面白いという言葉、嬉しいのですよ~♪
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    作者紹介

    • チャチャ丸
    • 作品投稿数:3  累計獲得星数:20
    • 書くことよりも読むことの方がスキです。

      気ままに漂ってますが、どうぞよろしくお願いします♪
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