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シリーズ:日本経済は復活しました
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日本経済は復活しました

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    消費税増税で日本復活は本当なのか?
    それをシミュレーションした近未来短編小説。


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    日本経済は復活しました 6913文字

     

     待ちに待った給料日、だがその家ではまだ若い夫婦の間で激しい言い争いが起きていた。給与明細をにらみつけながらブツブツ言い続ける妻に、小さな製造業の会社に工員として勤務する夫は顔をしかめて言った。
    「しょうがないだろ、今月は注文が少なくて材料の仕入れが少なかったんだ」
    「だって、こんなに給料が上がったら、どうやって生活するのよ!」
     金切り声で言い返す妻に夫は心底うんざりした口調で答えた。
    「そんな事、社長に言ってくれよ」
     その月の夫の給与は前の月の5割増しになっていて、その代わり「現物支給」の部分が半分以下になっていた。
     これは十年ほど前、当時の最大与党と最大野党が談合の末に消費税増税に踏み切った事から始まった現象だった。日本経済そのものが少子高齢化による国内市場規模の縮小という構造的な大問題を抱えていたにも関わらず強行された消費増税は、国民の生活を直撃したのみならず、日本の経済全体に重大な変化をもたらした。
     と言っても、その当時の消費税率は上がった時点でもわずか10パーセントでしかなかった。しかし買い控え、消費者の自宅への引きこもり傾向が強まり、その結果企業の物やサービスは売れなくなった。
     政府の消費税からの税収は大幅に増えたが、法人税と所得税からの収入は激減。トータルでの税収は大幅なマイナスになり、政府の財政状態はかえって悪化した。際限なく増え続ける財政赤字を何とかしようと、与野党はまた談合の末消費税率を20パーセントに上げた。
     この頃から庶民に自衛の動きが出始めた。いくら消費税払いたくないから物を買わないと言っても、毎日の食料品など買わずに済ますわけにはいかない物が多くある以上、庶民の抵抗など限界がある、と政府は高をくくっていた。
     しかし、庶民の知恵の方が政府の悪知恵を上回った。消費税というのは通貨、すなわちお金を払って何かを買うから支払い義務が発生する。ならば金を払わないで必要な物を手に入れればいいのではないか?
     庶民は物々交換で生活物資を手に入れる工夫をするようになった。最初はゲームソフトとかパソコンの部品とか、そういった商品と食料品を近所で交換するという程度だった。だが化学肥料の輸入価格高騰に苦しんでいた一部の農家がこれに目をつけた。
     都市部の一般家庭で普及していた、台所の生ごみをコンポストという肥料に変える装置を持っている家庭に、コンポストと米、野菜などとの物々交換契約を申し入れたのである。最初は地方都市のほんの一部の家庭が応じたに過ぎなかったが、これが上手く行ったため大都市圏でも追随者が激増。
     週末には登山用の馬鹿でかいリュックにコンポストをいっぱいに詰め込んだ都市住民が電車にギュウギュウ詰めになって農村へ通い、帰りには米や野菜を同じリュックに詰め込んで家に戻るという光景が普通になった。
     一部とはいえ生活必需品の最たる物である農産物の物々交換での売買が増えた事によって、お金を使わずに食料品が手に入るようになり、当然消費税の支払いは発生しない。その結果政府の税収はますます減少した。
     ここで与野党が性懲りもなく談合して消費税率を一挙に100パーセントに上げた。つまり物を買うと、その値段と同額の消費税を払わなければならなくなったわけである。事実上全ての物の値段が2倍になった事になる。
     物々交換と言っても普通の家庭では交換に出せる物に限度がある。だが従来の発想に囚われない一部の新興企業がこれを逆手に取った。インターネットで以前から使われていたショッピングポイントを、リアルの店舗でも使えるようにしたのだ。
     ネットショッピングの雄である楽ちん市場という企業が業界を先導し、どこの会社のネットショッピングポイントも1ポイント1円になるよう基準を統一。ショッピングポイントはそれ以前から事実上の電子マネーだと指摘されていたが、法律上は通貨ではないのでポイントでする買い物には消費税は発生しない。
     ネット通販企業はネット上の顧客にポイントを大盤振る舞いし、同時にスーパーマーケットなどのリアルの小売店チェーンを次々に買収した。ネット店舗ではポイント目当てで「こんな物買ってどうすんの?」と言いたくなる商品が飛ぶように売れ、そのポイントをリアルの店舗で生活必需品と交換するようになった。
     これによってしょうもない製品を作っている企業の売り上げが倍増。消費者の買い控えによって青息吐息だった小売業界も息を吹き返した。しかし通貨を介さない売買が激増したわけなので、消費税からの税収はさらに減った。
     たまりかねた政府はポイントを通貨とみなし、ポイントで行われる売買行為にも消費税をかけようとした。だが楽ちん市場はこれに対する抗議として本社機能をケイマン諸島に移転すると発表。他のネット企業も追随する動きを見せたため、産業空洞化を恐れた労働組合団体の圧力で、政府は法改正を断念した。
     その代り与野党がまたしても談合して消費税率を500パーセントに上げた。いくらポイントが普及したと言っても、ポイントを手に入れるにはネット上であれリアルの店舗であれ、最初に何かを買わねばならないし、全ての必要品をポイントで賄う事は無理だったから、これで税収は回復するはず、という読みだった。
     だが、ここでまた思わぬ伏兵が出現した。なんと日本中あちこちに「0円ショップ」が乱立し始めたのだ。タイプミスではなく本当に「0円」である。タダで物が買えるというかもらえる?
     そういうわけではなく、早い話がバーター取引専門店である。バーター取引というのは要するに企業間の物々交換なのだが、それを一般消費者にも提供する店舗なのだ。消費者は交換する物をその店に持ち込めば、そこにある別な商品と一定のレートで交換してもらえる。
     これはパチンコ業界がしかけた生き残り策だった。パチンコ店では出玉を直接現金と交換する事は、賭博行為になるとして法律で禁止されていて、昔からライターの石とか「特殊景品」と呼ばれる品物を客に渡し、客はパチンコ店の外にある表向き無関係な「買い取りショップ」へそれを持って行って現金と交換するというシステムが定着していた。
     ならばそれと似たような事を直接小売店でやればどうか、という発想だった。もちろん最初から成功したわけではない。そもそも一般庶民が持ち込める品物の種類は限られていたし、店によって交換レートがバラバラで利用しにくかった。
     しかしここで電力不足という日本が抱える問題が有利に作用した。原発がなかなか再稼働できず、メガソーラーも軌道に乗れない状況が長く続いていたが、新興携帯電話からエネルギービジネスに転じた得正義という日本有数の富豪が自社で発電した電気を超小型の蓄電池に小分けして貯蔵する新技術を開発。
     タバコの箱ぐらいの大きさの蓄電池が一万円札、ライターほどの大きさの物が五千円札、ボタン型の電池がサイズに合わせて千円札、五百円玉、百円玉、という感じで0円ショップで取り引きできるようになり、これが事実上の買い物用のお金として流通し始めた。
     毎年のように起きる電力危機に困り果てていた中小企業は500パーセントの消費税を払ってでも喜んでこの超小型蓄電池を買い漁ったため、庶民は給料などの現金収入が入るとその日のうちに全額をこの蓄電池に換えた。もちろんネット店舗で出来るだけ多くのポイントと引き換えに買ったのであり、この年の政府の消費税収は半減した。
     さらに国の法定通貨である日本円での売買、取引が激減したため、表面上の物価は40パーセントも下落。消費増税でインフレを引き起こし、借金の実質的な価値を下げて財政再建を企んでいた財務省はパニックに陥った。
     そんな頃、東京都内のとあるスーパーで定員が立派な仕立てのスーツを着た中年のエリート然とした男の客に、信じられないという表情で聞き返していた。
    「あの、本当に現金でお支払いになるんですか?」
     その客は苛立たしそうに語気を強めて店員に言う。
    「買い物は金で払うのが普通だろう?どこに問題がある?」
    「いえ、それはお客様のご自由です。ではお買い上げ千円、消費税5千円、合計6千円になります」

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