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シリーズ:赫奕ーかくえきー
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赫奕ーかくえきー

作者:あやと

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    かぐや姫便乗小説
    思いつくまま文章を連ねました。お気軽に目を通して頂けると幸いです。


    登録ユーザー星:13 だれでも星:2 閲覧数:531

    赫奕ーかくえきー 3347文字

     

     遠くで夜を徹した華やかな宴のざわめきが聞こえる。
     話し声や楽(がく)の音が聞こえる訳ではないけれど、宴の熱が夏の夜にもったりと混じり合い、ここまで揺れて流れてきているような気がする。
     こうして東の対屋(たいのや)まで宴の気配が届くなど、宴は相当、盛り上がっているに違いない。
     この宴は『なよ竹のかぐや姫』と呼ばれる私のために、翁と媼が開いたものだった。
     私は三ケ月で裳着(成人を示す通過儀礼)を終わらせてしまえるほど成長速度が早く、翁と媼が私の幸せを考えてくれたものなのだろうけど。
     私の命は残りあと、わずか。 
     見た目や与えうる財だけを求めて求婚してくる者と、添い遂げる気持ちなど持ち合わせていない。
     
     月をぼんやりと愛で、時は亥ノ刻(午後十時)を過ぎたころであろうか。
     御簾(みす)の向こうで人の気配を感じた。
     御簾が巻き上がる。ジジジ、と灯台の灯芯が燃える。
     私はとっさに顔を背けて、袖で顔を隠し、半身を背けた。
     誰だろう。

    「かぐや姫」

     しっとりと低い男の声はまだ若い。宴に来ていたものだろうか。衣擦れの音が近づいてくる。

    「人を呼びます」
    「どうかお静かに。私は何をしても許される身分ではありません」

     声は雅なもので、ふわりと香るのは直衣(のうし)に焚きつめた黒方の香り。下賎な者とは思えない。
     私は顔を隠したまま、訳も分からず体を強ばらせると、男はそうっと、私の髪を梳いた。

    「月を愛でていらしたのですか? かぐや姫」

     袖で顔を隠したまま、そっと男をのぞき見た。
     外は煌々と輝く満月。
     男のすっきりと整った目鼻立ちに、優しげな眼差しをはっきりと浮かび上がらせていた。
     この宴に参加していたものの顔では、ない。

    「あなたは、誰?」

    「あなたは……覚えていらっしゃらないのですね」

     男は満月を背にして悲しげに笑った。
     影が。光りが。男を浮かび上がらせる。どこか懐かしくて、切ない。
     胸がほのかに高揚する。

    「私の名前を明かすことは出来ませんですが、かぐや姫、せめて今夜ひと晩、一緒に月を愛でることをお許し下さいませんか?」

    「………無体な事をしないとお約束くださるなら」

     御簾をそっと降し、隣に座るこの男が私は何故だか怖くなかった。
     私をおびやかす存在ではないと、心が知っているかのように。


     ―――今夜ひと晩だけ。
     そう言った男は次の夜も、その次の夜も訪れた。
     男は歌を詠い、昼みた景色の素晴らしさを私に教えるが、私に求婚をほのめかす言動も行動もみられない。
     ただ私の時が人より早く進む事を悲しみ、夏の夜の美しい世界を見せたいと、幾度となく屋敷の外へと連れ出そうと誘ってはくる。
     ここにいてはいけない。
     そんな焦りを感じさせながらも。
     私はそんな男に恋をした。
     身分も名前も明かせない男に、初めての恋をした。

     翁も媼も毎夜通う男の存在を知っているようではあったが、それでもそっと見守るかのように、私たちの逢瀬に口を出すようなことはしなかった。
     私は男と添い遂げたいと思い始め、私の見た目だけを重んじて、浅はかにも求婚してくる者を、ことごとく断り始めた。
     それでもなお、私に言い募っていたのは、色好みと評判の五人の公達。
     私は五人に無理難題を押し付け、退けた。
     私は待っていたのだ。
     名前も、身分も知らない男の求愛を。

     ところが皮肉な事に五人の求婚者達を退けた事によって、私の名はそのことで世に広まり、帝に求婚される事へと結びついてしまった。
     入内(じゅだい)――帝の妾になること――は、まぬがれない。
     私はさめざめと泣いた。

    「かぐや姫、そんな風に泣くのは体に毒です」
    「私はあなたのそばから離れたくありません」

     男は私の髪を優しく梳き、ひと房すくい上げると、そっと髪に唇を落とした。

    「かぐや姫、帝の御威光に逆らう訳にはまいりません。そんな事をすればあなたの親類縁者に類が及ぶ」
    「翁や、媼にも……?」
    「そうです。しかし私はかぐや姫を、誰にも、譲りたくない」

     ぎゅっと抱きしめてくれる男の腕に息が止まった。
     男はようやく、私を求めてくれたのだ。
     でも、それでももう、遅い。
     私に出来ることはせいぜい、男の鍛えられた胸にすがりつき、泣くことだけ。
     男が耳元で聞き取れないほど小さな声で私に呟いた。

    「かぐや姫は世に忘れられるまで、鄙びた里で私と暮らす勇気はございますか?」

     咄嗟に言葉が出なかった。けれど。この恋心を知って男と離れて他の男の元で暮らせない。

    「誰にも類が及ばないと、お約束くださるなら」
    「ならば、文箱を。こうした文を残すのです」

    『私は月へと帰ります』
     わずかばかりの時で、大きく成長したかぐや姫を皆が、月の住人だったと思えばいい。
     ギシギシと車輪の音が響くみすぼらしい牛車に揺られて、どこへとも知らない道を進みながら、月明かりの元、男は横顔を青白く浮かび上がらせ、そう、つぶやいていた。
     


     季節は移り変わり、雪の降る寒々しい日々が続いていた。
     私は寝所で横になったまま、外の景色が見たいと男に頼んだ。
     外は一面の雪景色、木々を雪が覆い、煌々と照らす満月の光を跳ね返している。
     男が私の萎びた手を握った。
     私は時が人よりも早く進む。
     絶世の美女と謳われていた陰りはもうなく、たっぷりとした黒髪は白く細くなり、ふくよかな肌は、薄い皮となって身に張り付いている。

    「綺麗な月明かりですね」

     男は出会った美しい姿のまま、私に優しく微笑んだ。男はこんな姿になってもなお、私を愛おしんでくれる。

    「ええ」

     先ほどまで淀みなく出ていた声が、かすれて喉の奥で詰まる。
     私はもう……この男と過ごす時間が残されていない。そう感じた。
     重い腕を上げ、男の滑らかな頬に手を伸そうとしたがヒクリと動いただけだ。

    「かぐや姫」

     男の声が遠くで聞こえる。
     もうこんな姿だけど、老いさらばえて、醜く映っているだろうけど。
     私は最後まで男のそばに居られて、幸せだったと伝えたい。
     ああ……でも、もう声が……出ない。
     瞬きする力も、残っていない。
     最後にこの目で見たのは、まあるい月と、男の真摯な眼差し。
     この世に生まれてきて私は幸せだった。と、心の中で男に伝え、閉じれば二度と開くことがないであろう瞼を、ゆっくりと閉じた。



     ――体がふわりと軽い。
     私の目に映るのは、老いさらばえ、横になった自分の肉体。
     ああ、私は死して肉体から離れ、物の怪となってしまったのか。私の今の姿は半透明で、月明かりの景色が透けて見える。
     私の後ろで男の気配がした。
     振り返っても、男には私が見えていないよう。
     それがひどく、もの悲しい。

     男は袂から薄く黒い箱のようなものを取り出した。
     見たこともない鏡のようにつるりとしていてる箱。月明かりをキラリと反射させている。男がそれに囁いた。

    「かぐや姫は地上の人間と気を交わらせず、老死した。ああ、分かっている。護衛役としての私の処分については、如何様に受ける覚悟だ」

     男が黒い箱に指を滑らせると外から、ぶわりと風が巻き起こった。
     木々が揺れる。木々に降り積もっていた雪がドサりと地面に落ちる。
     落ちた雪のそばには、銀色に輝く、まあるい大きな箱。先ほどまで何もなかったはずなのに、いつの間にかそこに存在している。
     男はその銀色に輝く大きな箱を一瞬眺め、かがみ込んで、老いさらばえた私の骸に口づけをひとつ落した。
     息が止まった。それは死して初めての口づけだった。
     骸が、はらりと、灰になって溶ける。

    「このループはいつまで続くのか。遥かなる時をあなたと過ごしてみたい」

     男の頬を伝う涙が、灰になった骸に一雫落ちた。
     灰は風にさらされ、頂に雪積もらせる山へと消えていく。
     男が音もなく立ち上がった。簀子縁(すのこえん)へと滑り出し、銀色に輝く大きな箱の中に入って行く。
     箱は自ら男を迎え入れると、音もなく自ら蓋を閉めた。
     やがて銀の箱は、ぶうううん、と奇妙な音を巻き上げて宙に浮び上がる。
     そしてそのまま、空へと高く、高く、舞い上がり――満月に、重なる。

     ……ああ、あの人こそが月の住人、あの人は月へと帰っていく。

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    コメント

    • 加筆された最新版、ようやく拝読いたしました。

      見た目だけでなく きっとすべてを のくだりは 美形はきっとそうなんだろうなー 思わせるものがあります。「すべて」の意味はおいとくとして。


      ラスト、そんなに唐突感は覚えなかったのですが、やっぱりひとそれぞれですね。私は逆に、よっしゃー 納得! って感じだったんですが。改稿されてますますそんな印象でした。
      • 1 fav
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    • 辰波さま
      うわあ!これは丁寧に再読、ありがとうございます!!感動しちゃいました!!本当にありがとうございます!!

      あやともラストの部分が書きたくて、前文を書いたんですが(あれ?こう書くとまた語弊が生じちゃうのかな??)
      辰波さんに「よっしゃー 納得!」って言ってもらえると、つたないながらも物語を純粋に楽しんでいただけたみたいで、書いて良かったなあ。としみじみ思っちゃいます。

      わあ!本当に嬉しい!!
      辰波さん、再読と感想ありがとうございました!!
      そしてこの企画に大感謝してます!!
      書くって楽しい!楽しんで頂けて嬉しい!その気持ちをありがとうございました!!
      • 1 fav

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    • 原作の雰囲気をちゃんと残しつつも、オリジナルの要素が付け加えられた良作でした。

      ただ、男の正体は、本編との関連性が薄く、やや超展開だったのでは? と、思いました。

      あと、最後の富士山ネタが抜けた。が妙にツボに入りました(笑
      • 2 fav
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    • Hiroさんー!お久しぶりです(*´∀`*)
      Hiroさんだからこそ、良作って言ってもらえて、嬉しく思います!
      (このお話、姪っ子が昨日読んで「かぐや舐めるな。書き直し」って一喝されてて、あらー。どうしよう。って思ってマシタ。)

      そして男の本編との関連性については、全く何も考えていませんでした……。Hiroさんのコメで初めて気が付いて、自分でもビックリ!(・∀・)
      ←そんな自分にもビックリ!

      あはは。抜けた富士山ネタコメ。ツボに入ってもらえました?コメ入れて良かったあ(*'▽'*)♪
      • 0 fav

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    • はじめまして。
      面白かったです。

      かぐや姫といえば不老不死のイメージなのに、この結末は目から鱗でした。
      二人の純愛が良かったです。
      • 1 fav
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    • chiyoさま
      はじめまして。コメントありがとうございます!
      「かぐや姫が三ヶ月で裳着(成人を示す通過儀礼)を執り行った」
      竹取物語のこの部分から、この結末になちゃいました(・∀・)
      大暴走です。
      思いつくまま書き連ねましたが、chiyoさんに面白かったって言ってもらえて良かったです(*´∀`*)
      • 1 fav

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    • 競作かぐやタグで来ました。
      タイトルからいきなり知らない言葉で、意味を調べてなるほどと唸り、その後も作中に、古い時代を表す単語が豊富に散りばめられているのを読んで、雰囲気作りの巧みさに引きこまれました。
      ラストは「WHY」が書かれていないのでやや投げっぱなしの感もありますが、月へ帰った後、かぐや姫がとても幸せそうに書かれるのは珍しく感じ、面白かったです。
      • 2 fav
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    • らしきさま
      タイトル「地上に迷い込んだ姫」にしようかなあって思ったんですが、何故か中島みゆきを連想してしまって(地上の星。て歌が頭に流れた)月を連想したタイトルにしてみました。意味を調べて下さってありがとうございます!

      ラスト!いつも苦手なんですね(^_^;)
      ここをあやとの限定した世界にするか、読み手さんに委ねるか、悩んだのバレちゃいました。
      う~ん。最後までもうちょっと丁寧に考えてみます。(でもどうしたらいいのか、分からないヽ(´Д`;)ノ)
      本当に丁寧に目を通して下さったみたいで嬉しいです!
      ありがとうございました(*´∀`*)
      • 1 fav

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    • お やっと正攻法のが、、、と思いきや。




      良かったです。そしてとても好みです。
      好みの作品にはどうしても甘くなりがちだし、冷静に考えると気になる点もないわけじゃないんだけど。。。

      良かったです
      とっても。
      • 1 fav
      • Re 返信

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    • 辰波さんのコメを読んで、あ!やっと正攻法の物語が書けたのか!……と思いきや。

      また、やっちゃった(・∀・)

      そしてやっぱ気になる点ありました?(;´д`)
      でも好みって言ってもらえて嬉しいです(*´∀`*)

      • 0 fav

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    • いやいや この場合 正攻法かと思いきや、はいい意味ですよー


      気になったのは、どうしてすんなりそうなったのか、のあたり。あと、もうちょっと推敲するともっと良くなる、とも。
      あと、好みじゃないひとからのほうが、客観的な意見がもらえるかとも思います。構成は巧いと思いました。
      • 1 fav

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    • なるほど!
      確かに流れに気を取られて、目を背けてた部分です。源氏物語だとすんなり行くので、まあいっかって思ってました。
      うう。好みじゃない人の客観的な意見が怖い……!
      ほああ。

      あ。構成も見て下さってありがとうございます!
      • 1 fav

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    作者紹介

    • あやと
    • 作品投稿数:50  累計獲得星数:735
    • 彩城あやと(さいじょう あやと)です。
      思いつくまま書いただけのお話を載せていますが、お気軽に楽しんでいただけると嬉しいです!


      Special thanks!
      アイコンデザイン☆ねこまんまさま
      一部分の扉絵、タイトル文字入れ☆菊市香さま
    • 関連URL
      ブログ:http://ayato440.blog.fc2.com/

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