upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:君の居ない夏
閲覧数の合計:231

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

君の居ない夏

作者:緑山 咲夜

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
    • タグ:
  • 編集協力者:

    遠い記憶。悲しい思い。一人の、少年にも満たない歳の幼子に吹き抜ける邪な思い。返らぬ夏と君。古びた風鈴の音だけが、あの時の記憶を奏でていた。


    登録ユーザー星:1 だれでも星:0 閲覧数:231

    君の居ない夏 3305文字

     


    あれはまだ私が5歳になったばかりの頃の事でした。

    近所でいつも遊ぶ友達が2人いました。
    一人は大きなむぎわら帽子をかぶっていて、
    髪はショートな男の子でカズ君と呼んでいました。
    もう一人は、いつも半ズボンをはいた坊主刈りの男の子で
    しょーちゃんと呼んでいました。

    むぎわら帽子のカズ君は、少し離れた金魚屋の息子で
    時々、金魚を見せてもらった記憶があります。
    半ズボンのしょーちゃんは、カズ君の友達のようで、
    どこの子か私は知りませんでした。



    金魚屋は夏が掻き入れ時です。
    リヤカーを改造した人力移動販売車にチリン、チリンと
    綺麗な音のする風鈴をいくつもつけて売り歩いたのです。
    私達は、リヤカーの後を少しだけついて行き、いつもの空き地で
    遊ぶ。という夏を過ごしました。
    毎朝、売りに行くカズ君の父親の引っ張るリヤカー。
    沢山の水槽に入れられた金魚やメダカ。
    チリン・チリンと鳴る風鈴の音。
    蝉の声と青い空。
    今でもはっきりと思い出せる大切な思い出です。



    しょーちゃんとカズ君はいつもいっしょで、
    遊ぼうと呼びに来る時もいつもいっしょでした。
    だから、しょーちゃんがどこの子か、
    なんてどうでも良かったのです。


    その年の4月から私は家のすぐ前に出来た幼稚園に
    通い始めたばかりでした。
    幼稚園から返ってくると、カズ君としょーちゃんが
    いつでも待っててくれました。
    ままごと・花摘み・水遊び・どろんこ遊び・棒切れごっこ・・。
    少し前の子供達が遊ぶような事を毎日、3人で遊んでいました。

    そして、チリン・チリンという金魚屋の売り歩く音と共に
    幼稚園は夏休みになり、私は大好きなカズ君としょーちゃんと
    3人で朝から遊べる事がとても嬉しかったのです。

    毎日が本当に楽しかった。
    幼稚園より大好きだったので、私は3人でずっと
    このまま、永遠に遊び続けていたいと思っていました。



    半年後、私は親の都合で20キロ離れた町に
    引っ越していくことになりました。
    悲しかったのだと思います。
    よく思い出せないのですが、
    たぶん嫌だと大泣きしたのだと思います。
    随分とだだを捏ねたようで、母に酷く怒られたことを
    よく覚えています。

    引越しの日。
    何故か、むぎわら帽子のカズ君だけが
    見送りに来てくれました。
    もうその時には、諦めの心が出来上がっていて
    一言二言、交わしただけで私は両親と引っ越していきました。

    引越し先では、同い年の女の子がすぐ近くに居て、
    初めての女の友達と言う事もあり、
    あっという間に仲良しになりました。
    どちらも両親が共働きと言う事もあって、いつも遊ぶ女友達が
    とても好きになり、カズ君としょーちゃんのことは、
    過去の記憶の向こうに過ぎ去ってしまっていました。

    それでも、夏が来ると、チリンチリンと風鈴の音と共に
    よみがえる記憶は、大好きな一番の過去として私の中に
    ずっと残っていました。
    私が大の風鈴好きなのは、この頃の記憶があるからです。


    高校1年の夏。
    我が家に、当時の住んでいた家の隣に住んでいた
    男性が尋ねてきました。
    私は、よく懐いていて雨の日とか、カズ君達と遊べない時は
    よくその人の家に遊びに行かせて貰っていたようです。
    正直、あまり覚えておらず、
    玄関に飾ってあった壷を落して壊した・・・
    と言うエピソードで
    ようやく思い出した位です。

    父とその男性は、昔話にひとしきり花を咲かせると、
    突然、男性が、言いにくそうに口を開きました。

    「金魚屋の息子。覚えているかい?」
    そう切り出した男性は、私の顔を伺うように話し出しました。

    もちろん、よく覚えていました。
    むぎわら帽子をいつもかぶっていた子です。
    彼がどうしたのですか?
    男性の伺うような顔つきに嫌な気配を感じました。
    何かあったんだろうか・・・。

    そんな私に男性がぽつりと話してくれました。


    彼は・・・。
    カズ君は、私達が引っ越したすぐ後に
    ダンプに轢かれて亡くなったそうです。
    即死でした。

    当時の私達の住まいは、港町の静かな住宅地でした。
    車も入らないような小道が多く残るところで、
    私達の住んでいた家は小さな袋小路の奥にあり、
    ダンプどころか、車もめったに入ってこないところです。

    そんな袋小路に大型のダンプが何故か入ってきて、
    運悪く、そのダンプの後をカズ君が飛び出して、
    大きなタイヤの下敷きになったのでした。

    目の前で起きた事故を、その男性は騒ぎで飛び出し、
    こと切れているカズ君を見たそうです。
    運転手もその場で立ち尽くしていて、
    すぐに来た警察に、なぜこの袋小路に入ってしまったのか、
    自分でもよく分からない・・・と言う事を
    はっきりと聞いたそうです。
    私が、彼と一番の仲良しだったので、
    ショックを受けるといけないと思い、
    今まで黙っていたそうです。

    ショックでした。
    何で?と言う気持ちばかりが溢れました。
    そして、気付いたのです。
    しょーちゃんは?
    いつもいっしょに居たしょーちゃんはどうなったのだろうと。
    私は、男性に聞きました。
    半ズボンを履いた男の子は?
    しょーちゃんは無事だったのか?・・・と。

    私の問いに男性は、


    「どこの子?そんな子は知らない」・・・と。

    よく思い出してもらおうと、私はよく思い出せない
    その子の姿を必死に記憶から手繰り寄せて説明しました。

    どこの子かは覚えていないけど、
    寒い日でも少し汚れた半ズボンを履いていて、
    丸刈りの頭で、カズ君といつも一緒に遊んでいた子。
    いつも3人で、おままごとをしていた・・・と。


    私の説明に、男性と父が口を揃えて言いました。





    「お前達はいつも2人だったぞ。おままごとも2人だった」









    気付いたのです。
    カズ君はしょーちゃんに連れて行かれたのだと・・・。


    しょーちゃんは、生きている子ではなかったのだと・・・。



    私が引越しして行ったことで、
    しょーちゃんは、カズ君までどこかに行ってしまうのが
    嫌だったのだと思います。
    ずっと一緒に遊びたくて、別れたくなくて
    連れて行ったのだと思います。
    あの頃、私が感じていた感情そのままに。


    連れて行かれるのは本当は私だったのかも知れません。




    その数日後、私は父と、かつての家を見に行きました。
    住んでいた家は健在でしたが、その周りの景色は
    面影も無いほど変わっていました。

    私はこっそり、彼らの名を呼びました。
    しかし、答えて欲しい声は聞こえず、
    姿を見ることも出来ませんでした。

    私が引っ越さなければ、しょーちゃんは
    こんな事をしなかったのかも知れません。
    考えても仕方ない事ですが、優しかったしょーちゃんが
    カズ君を連れて行こうと思ってしまった邪な思いが
    今はとても悲しく思います。


    今年も夏が来て、私の机の横では20年前から
    あの頃、金魚屋のリヤカーに下がっていたものと
    同じ形の風鈴が2つ下がっています。
    室内にある風鈴は、窓の開いていない日でも
    時々、私の横でチリンチリンとなります。
    まるで、僕たちを忘れないで、と言っているように・・・・。


    かず君は苦しまずに逝けたのか。
    しょーちゃんは連れて行った罪を負うことで
    次に行く事を許されずに居るのだろうか。

    願わくば、2人ともまたどこかに生まれてきていて欲しい。
    せめてもの私の願いです。

    子供の純粋な思いゆえに、別れたくなかった思いが
    悲劇を生んだのかも知れません。


    ←前のページ 現在 1/1 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • 悲しいお話でした。
      すうっと心に沁みこんで、読み進めやすく、それでいて深く心にとどまる文章でした。
      ふたりともまた生まれ変わってきてほしいと、主人公と同じ気持ちになりました。
      • 0 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 能上成之さま
      ありがとうございます。
      これ、私の一番古い体験なので、とても嬉しいです。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • やはり実話だったんですか?
      そうかなと思ったのですが、タグに入っていなかったんで、創作かと。
      実話だと余計切なくなります。
      もう生まれ変わっているかな?
      そうだといいのにな。
      私が生まれる前に死んだ兄がいました。妹の子供が兄と同じ誕生日に生まれたので私は生まれ変わったと信じています。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    • 能上成之さま
      実話で出すか、迷った話でしたので、タグ無しにしちゃいました。仲良しだった子の死だったので、流石に感情移入してしまった話でした。
      そうですね。知ったときには生まれ変わっていて欲しいと切に願い、泣きました。
      • 0 fav

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    • 緑山 咲夜
    • 作品投稿数:73  累計獲得星数:107
    • 雑食化が酷くなりつつ・・・。
    • 関連URL
      :

    この作者の人気作品

    • お題「ハニー」
      お題「ハニー」

      └1時間でお題を描くというイベントですが、 1時間はとっても無理なので2時間で描いたものです。

    • エルリログ
      エルリログ

      └お題を1時間で描くルールだったり妄想漫画だったりアイコン用だったりと雑多にツイでUPしたものです

    • エルド誕
      エルド誕

      └1月30日はエルドの誕生日でした。 大遅刻な上、ここにUPする事が出来ずもう6月。 今回

    • 小6になったリヴァイさん
      小6になったリヴァイさん

      └別サイトでチマチマ描いているものです。 設定 転生して10歳で過去世を突然思い出す。エレ

    • アルミンハピバ!!
      アルミンハピバ!!

      └アルミン誕生日おめでとうーー!! と言う事でお祝いサイト投稿絵です。水彩画っぽくラフに書きまし

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る