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シリーズ:【BL】いまでも初恋
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【BL】いまでも初恋

作者:瀬根てい

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    病院で家族に看取られようとしている老人の元に、黒い服を纏った男が現れた。彼は八十年前老人に助けられた魔族だった。
    老人は魔族に連れられて、若さと命を与えられ、戸惑いながらも新たな人生をマイペースに歩んでいく。

    ※このお話はJ庭35で無料配布しました。


    登録ユーザー星:8 だれでも星:13 閲覧数:1804

    【BL】いまでも初恋 35607文字

     

     あの時力が抜けていったと感じたのはそのためだった。どうやら寅三たち世界の人間は、魔族の力を増大させる作用があったとかで、あれからバイツは力を付け魔族界統一を実現した。それでも一筋縄ではいかない連中もいて、ようやく落ち着いてきた頃には寿命の短い人間――寅三は死にかけていて、復興作業を放り慌てて迎えにいったのが事の顛末だ。
     寅三の寿命が尽きていたら魂は輪廻に入り、連れていけなくなっていたからまさに間一髪だ。
    「私が死ななかったのは?」
    「俺がお前の細胞を動かしたからだ。俺が生きている限り、まず死なないだろう」
    「つまり、君が死んだら私も死ぬ?」
    「そういうことだ」
     その代わり老いることもない。ほぼ不老不死になった、らしい。そう言われても実感はなく、在りし頃に戻った体をまじまじと見るが、やはり若返ったくらいしか変化は感じない。
     気になるといえば、何でもないように座っているバイツから疲労が感じられた。死にかけの自分を生かすために、相当な力を消耗したに違いない。
    「全く、無茶をしよって」
     力を与えられた時を思い出しながら寅三は席を立ち、バイツの元へ寄り頬に手を添えた。指に伝わる冷たさが心地よい。
    「受け取ってくれ」
     触れた唇は、頬と同じくらい冷たかった。
     子供だったあの頃も、病室で死にかけていた時も、バイツはこうして力の行き来をしていた。だから同じことをすればバイツに力を与えられると思った。目論み通り体から何かが抜けていく感じがして、バイツに力が戻っていく。人間である寅三を介したからか、その量と質は上等なものだ。
    「……俺はこのためにお前を連れてきたのではない」
    「ああ」
     人間を拐かし、力を貪るためだけに生き延びさせる方法もあった。細胞を生かしてやれば死ぬことはなく、与えた力は何倍にもなって戻ってくる。なんと都合のいい変換機だ。しかしバイツは寅三に会って以降も、それをしなかった。
     目眩がしてよろめいた体を力強い腕に抱き寄せられ、寅三は抗うことなくその身を委ねた。
     ――本物の、バイツだ。
    「寅三。本物だ……夢でも幻でもない」
     思ったのと同じ台詞を言うから、寅三は笑ってしまった。
    「どれだけ恋焦がれたか、お前にはわかるまい」
    「君は大げさだ」
     震える背中に手を這わせ、しっかりと抱きとめてやる。
    「あの時俺は、もう死んでもいいと思っていた。魔族を統一するなんて、無理だと諦めていた。だがお前に救われ気持ちが変わった。絶対に成し遂げて、お前を迎えに行くと決めた」
    「ああ」
    「俺はやり遂げたと、お前に見せたかった」
    「……ああ」
     目を瞑れば、まるで見てきたかのようにバイツの勇姿が浮かんでくる。大群相手に、片手を振り上げただけで制圧する姿。鋭い牙を向ける巨大な生き物に、怯まず剣を振るう姿。
     手を差し伸べられなかったもどかしさに、背中を抱く腕に力が入る。
    「魔族界は俺の監視下に入った。だが、まだ完全にとは言えない」
     本当ならすべてを終わらせてから迎えに行きたかったと言うバイツに「十分だ」と陳腐な慰めしかできない己が情けない。何を言っても陳腐なものにしかならない気がして、寅三は抱きしめることで伝えようとした。細い腕では抱きとめきれない男相手に抱く感情は、家族へ向けるものとも違う、愛しさがある。腕の中の男が、切なくて、愛らしくてたまらなかった。
     初めて会った時から、己の心を掴んで離さなかった。
     随分と前に妻を見送り、今度は家族に見送られここまで来た。
     今度は、この男のためにできる限りを尽くしてもいいだろうか? 誰に向けてでもなく呟くと、うっとりと目を閉じた。
    「魂と肉体がまだ馴染めていないのだろう。しばし休むがいい」
     久しぶりに動いて疲れているのに、気持ちが良かった。逞しい腕に抱き上げられ、寝台に寝かされる。離れていくのは名残惜しかったが、体が言うことを聞いてくれない。耳朶をくすぐるテノールに眠りを促され、しばしの休息についた。


     鏡の前に立ち腕を上げてみたり、背中を向けてみたり、様々な角度から変貌した自分の姿を観察した。
     バイツと会った後に成長期をむかえ、身長はやや高くなり体つきも良くなった。丁度上京した頃がこんな体型をしていたと記憶している。癖のない黒髪と同じく黒い瞳は、ほんのりと幼さが捨て切れていない。池から大海へ飛び込み、世界の広さにただただ驚いていたあの頃と同じに見えた。
    「二十歳かその辺りか」
     自分は二十歳。二十歳の青年だと催眠術のように繰り返す。
     年寄りのつもりで動いたら思った以上に体が軽く、バランスを崩してこけたのはつい先ほどのこと。それも一度や二度ではない。
     早くこの体にも慣れなければと、寅三は自身に言い聞かせる。
     しかしながら、体もそうだが服にも違和感がある。肌触りの良い白いシャツに金糸の刺繍がほどこされた黒いジャケット。胸元には鮮やかな紫色のリボンタイが飾られ、寸法を測ったかのようにぴったりのズボンときた。病院服の楽さに慣れきってしまったから、片苦しい装いに違和感がある。
    「どこか不満でもあったか?」
     音もなく近づいてきたバイツに、寅三は口から出掛かった心臓を飲み込んで、苦笑いを浮かべながら振り向いた。
    「十分だよ。ただ、こんな上等な服は久しぶりだからね」
     汚さないか不安だ、とジャケットの裾を指で引っ張る。
    「そんなことか。汚れたら新しくすればいい。お前に不自由な思いをさせるつもりはない」
    「そういう意味じゃないんだけど、ねえ。まあ、汚さないように気をつけるよ」
     納得したのかわからないが、バイツはそれ以上言葉を重ねることはなかった。
     胸元のリボンタイをいじり、もの寂しさを覚えバイツを見た。
    「君が預けてくれた、胸飾りを知らないか? 病院で握っていたはずなんだけど……」
    「あれなら、お前の家族に置いてきた」
     え、と言葉を失う寅三に気付かず、バイツはなんでもないというふうに続ける。
    「お前の居場所を見つけやすくするために置いていったのだ。もう必要ないだろう。今のお前には俺の力が混ざっている。どこにいても見つけてやる」
    「そっか……」
     目印であるのなら、もう必要がないと言われても仕方がない。家族への形見だと思うことにする。
    「お前に紹介しておく。今後何かと役に立つだろう」
     おい、と声をかけると控えめに少年が現れる。
    「何かあったらこいつに言え」
     こいつ、と紹介されたのはここに来て間もない頃、お茶の用意をしてくれた少年だった。歳は十五、六か今の寅三よりも若く見える。短いブロンドの髪に青色の瞳は、西洋の人形を思わせる。
    「こう見えて、寅三よりも長く生きているぞ」
    「そうなのか?」
    「はい。名前は、エリオットです。とら、ぞう様のお世話をさせていただきます」
     幼く見えるが長く生きている分しっかりとしている。だが名前のところだけ言い難そうで、寅三は「トラでいい」と愛称を教えてやる。エリオットは上目遣いにバイツを見ると、バイツは仕方ないといったふうにため息を吐き愛称で呼ぶ許可をした。
    「バイツもトラと呼んでほしい。私はもうあの世界で生きてきた寅三ではないからな」
     あれから寅三は考えたが、自分は元の世界で大往生をしたとされている。ならばここにいる自分は何者なのだろうと思い始めたのだ。婿養子に入り、子宝に恵まれ事業も拡大していった寅三はもういない。寂しく思うがそれが事実だ。
     ならば“寅三”は己の中にしまっておくべきではないか、と。それがこの世界で生きていくための、けじめでもあった。
     家族が聞いたら「まったく、じいさんはこういうところは頑固なんだから」と笑いそうだ。
    「君が私の本当の名を覚えていてくれるならいいさ」
    「わかった。お前の名は俺が覚えていてやろう。今日からお前は、トラだ」
    「ありがとう。わがままを言ってすまないね」
     眉尻を下げて言うと、バイツはくしゃりとトラの髪をかき混ぜる。
     髪が乱れるのも気にせずトラはバイツの好きにさせた。年寄りに失礼な、と思わないでもないがバイツにこうされるのは嫌ではない。体が若返ってから、段々と気持ちまで若くなった気がする。
     ノック音がして、バイツの機嫌があからさまに降下していく。気配に当てられエリオットが尖った耳をピンと立て、トラは目線でバイツを嗜めた。

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    コメント

    • こういうの好きです。

      人間界でも人生まっとう、さらに異世界では……
      主人公、羨ましいかも。イヤなやつなら嫉妬しちゃうところですが、冒頭で惚れちゃったので許せちゃいます。

      愉しいお話、ありがとうございました。
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    • >辰波ゆうさま
      ありがとうございます。

      随分と遠回りした初恋二人のお話でした
      • 1 fav

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    • 面白かったです。
      寅三が若返っても若年寄じみた部分で魔王を密かに牽制してる姿は可愛いなぁとニヨニヨしました。

      ご馳走様です。
      いつか夜伽編も是非キボンんn)`ν°)・;'.、
      • 1 fav
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    • >陸斗サマー
      コメントありがとうございます
      見た目は青年、中身は老人! 書いていておもしろかったです。

      あはんうふんなシーンは、そのうち書きたいです(笑)
      妄想のために寅三描いてくだ……

      私の頭の中で寅三は股引のじいさんのままです( ;´Д`)
      • 2 fav

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    作者紹介

    • 瀬根てい
    • 作品投稿数:14  累計獲得星数:171
    • web、同人、電子書籍でBL小説を書いています。
      精神面でも喧嘩でも強い受けが好き。少年からおやじまでこよなく愛する節操なしです。
      少しでも楽しんでいただけたら光栄です。
    • 関連URL
      サイト:http://moxic.net/

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