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シリーズ:【BL】いまでも初恋
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【BL】いまでも初恋

作者:瀬根てい

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    病院で家族に看取られようとしている老人の元に、黒い服を纏った男が現れた。彼は八十年前老人に助けられた魔族だった。
    老人は魔族に連れられて、若さと命を与えられ、戸惑いながらも新たな人生をマイペースに歩んでいく。

    ※このお話はJ庭35で無料配布しました。


    登録ユーザー星:8 だれでも星:13 閲覧数:1808

    【BL】いまでも初恋 35607文字

     

     一日に目覚めている時間が減り、夢と現実が曖昧になって、鈍った思考が状況を理解するのに時間を有した。毎度それの繰り返しだが、救いなのは惚けた頭では「またか」と落胆しなかったことだろう。
     ただ、今日は久しぶりに昔の夢を見たのは覚えている。今ではほとんど忘れてしまった記憶の中で、唯一鮮明に覚えているものだ。
     口内に唾液が溜まり嚥下しようとするが喉が動かず、やっとの思いで飲み込んだ。そういえば口に何か入れられていて息苦しい。
    「おじいちゃん、おじいちゃん」
    「寅三じいちゃん!」
     寝台の周りで自分を呼ぶ声がする。若い女の子からしゃがれた男性まで、年齢は様々だ。濁った瞳を動かし、周りにいるのが自分の家族だと思い出した。そしてここが病院の特別室で、迫り来る最期を看取られようとしているのも、朧げながら理解できた。
    『待っていろ』
     そう言った彼を待っていたのは数年で、寅三は親戚のツテで上京して、百貨店へ商品を卸す仕事に就き精を出した。真面目に働き、やがて大手百貨店の社長娘と恋に落ち、婿養子に入り子供を授かった。今ではひ孫まで含めれば数えきれない家族を得て、こうして涙を流しながら見守られる、実に有意義な人生だったと振り返る。妻には先立たれてしまったが、幸せな生涯だと感じていた。
     今になってあの時の夢を見たのは、心残りだったからかもしれない。
    「あれ……を」
    「これですね」
     小枝のように細い腕を動かしたつもりだがぴくりともせず、多分孫であろう男が意図を汲んで握らせてくれた。
     バイツに渡された紫色の胸飾りは、寅三の宝物だとここにいる誰もが知っている。他の者は鼻で笑った出来事を、家族は皆本当にあったと信じてくれた。
     自分が死んでから彼が来たら、この胸飾りを返してほしい。妻を亡くした頃からそう言い続けてきた。
     ――どうやら私は、約束を守れそうにない。
     体温が上がり、まもなく体の機能が停止する。
     所々から聞こえる鼻を啜る子たちに、「泣くことはない」と頭を撫でてやることもできないのが歯がゆい。
    「誰だ、お前は!」
    「うるさい。そこを退け!」
     無駄口を叩くのさえ躊躇われた病室が、突如喧噪に包まれる。誰か来たのだろうと、寅三は思ったところで思考が停止した。はて何を考えていたのか、と。
    「寅三! お前はっ……約束を違えるのか!」
     必死な声に覚えがあるが、はたしてどこで聞いたのか。
     覗き込むのは黒く艶やかな髪と、目を奪われるほど美しい紫色の瞳。
     ――ああ……。
    「バイツ」
    「そうだ、俺だ。迎えに来たんだ!」
     力強い手が寅三の手を覆い、口から何かを引きずり出され、唇に覚えのあるものが触れた。心なしか呼吸が楽になる。
    「ありがとう。来てくれただけで十分だ」
     するりと出た言葉に寅三を含め、そこにいた誰もが驚いた。
    「寅三は俺が連れて行く。ここではもう生きられないのだろう? ならば、文句はあるまい。寅三は大往生した、それでよかろう」
     孫の誰かが反論したのが聞こえたが、混濁する意識に逆らえず寅三は目を閉じた。死期とは違う、穏やかな眠りだ。
     最後に感じたのは、手から離れていく胸飾りの冷たさだった。



     爽やかな目覚めというものをどれくらいぶりに味わったのか、起きたばかりの寅三はぼんやりとした頭で考えていた。
     飴色の天井に、やたらと反射する電気がぶら下がっている。窓は深緑のカーテンで覆われ、見たことのない絵画が壁に飾られていた。つい昨日まで見ていたのとは違う世界に、寅三はまた自分はぼけたのかと思ったが、すぐに違うと判断した。
     こんな倦怠感は久しく感じていない。まるで体の感覚が昔に戻ったみたいに、敏感になっている。
     腕に力を入れればはっきりと手応えを感じ、掲げた手のひらを見て寅三は目を見開いた。
    「なんだ、これは」
     己が発したにも関わらず違う人がしゃべっているみたいに声に張りがあって、寅三はまたも驚いた。
    「私は一体……」
     自由になる手で顔や体を触るが、やはり覚えのある自分とは違う。弾力のある肌は十代か、二十代のものだ。
     ――そういえば。
     病室に現れたバイツと、己に起こった不可解な現象が蘇っていく。ここに連れてきたバイツは寅三に力を与え、命をつないでくれたのだ。
     バイツが力を注いでくれると細胞が活性化し、体の中から熱くなり、苦痛を伴うそれに耐えきれず寅三はバイツに凭れたまま気を失ってしまった。
     ふかふかの布団を捲り、寅三はずりながらベッドの端まで移動し床に足を着いた。絨毯のおかげか冷たさは感じなかったが、慣れない感触がこそばゆい。
    「起きたのか」
     ベッドに腰掛けたまま声のした方を振り向けば、記憶よりも逞しくなったバイツがいた。山で倒れていた時には感じられなかった凛々しさに、寅三は自然と頬を緩ませていた。
     胸元を紫のスカーフで飾り、丈の長い黒のジャケットは縁を金で飾り、よく見れば生地にも模様が入っている。装飾品一つ一つに手を込んでいて、それを身につけるに相応しい姿と立ち位置にいるのだろう。
    「目的は、果たせたのか?」
    「ああ」
    「そうか、よく頑張ったな」
     まるで我が子の成長を見守るような気持ちで寅三は笑んだ。
     寅三とは反対にバイツは眉間に皺を寄せ、ふいと視線をそらしてしまう。
    「すまないが、何が起こっているのか説明してもらえないだろうか。どうにも記憶が曖昧で」
     肩を竦めるとバイツは仕方ないとばかりに嘆息し指を鳴らす。何もないところから椅子が現れ、寅三の向かいで腰を下ろした。間を置かずノックがされ、バイツが「入れ」と言うと少年がワゴンを押してやって来る。
     あれよあれよという内にテーブルがセッティングされ、お茶の用意ができあがる。感心していると、これくらい当然だと笑われてしまった。
     テーブルには白いティーカップと、香ばしい匂いのスコーン、甘そうなジャムが並んでいる。いわゆるアフタヌーンティーというものだろうかと、寅三は馴染みの薄い光景に目を瞬いた。
    「お前の世界でも飲まれているものだろう?」
    「まあ、そうだが」
     注がれた紅茶は澄んだ色をしていて、カップを持ち上げ香りを鼻孔に含めば知らず強張っていた体が弛緩する。息を吹きかけ、口に少量を流し込み、舌で味わい鼻に抜ける香りを堪能した。
     娘や孫たちがよく淹れていて、寅三にも味わわせてくれたものと同じだ。
     スコーンも当時を思い出しながら口に入れる。もそもそとして味気ないが、ジャムを添えると食べやすくなり、酸味と甘みがよく合い格段に美味くなる。
    「美味いか?」
    「ああ。とても美味しいよ」
     さりげなく聞いてくるが声音には緊張を孕んでいて、寅三はこっそり笑うと満足げに言った。
     久しぶりに食べた固形物だが胃はなんとか受け入れてくれたようで、改めて己に起きた不可解な現象に首を傾げる。思えばバイツの姿もおかしな点がある。凛々しくなったが、あれから何十年と経っているのに歳をあまりとっていないのはおかしい。突然現れた椅子もだ。
     彼は『お前の世界で』と言っていた。もしやここは死後の世界かと考えがよぎる。
    「ここはお前のいた世界とは違うが、天国でも地獄でもない。そしてお前はまだ、死んではいない」
     寅三の心を読んだかのようにバイツが言う。
    「世の中には不思議なことがあるのだな」
    「随分と落ち着いているな」
    「これでも十分驚いているよ」
     心のどこかで、バイツは人外ではないかと思っていたからかもしれない。子供の頃に出会った存在は、短い人生で見た誰よりも美しく、そして神々しかった。
    「ならば話は早い。一々取り乱されては適わんからな」
     不遜な態度も可愛く見えてしまうのは、やや尖った耳がぴくぴくと動いているせいかもしれない。触ってみたい衝動を抑えながら、寅三はバイツに説明を求めた。
     バイツが言うにはここは寅三が生きていたのとは違う、人族と魔族が暮らしている世界らしい。今から二百年ほど前にバイツたち魔族の長である魔王が逝去し、魔族界の秩序が崩壊していった。魔王の直系であるバイツでも魔族を納めるに至らず、あちこちで反乱がおこっていた。そして自分たちを抑え付ける次期魔王を良しとしない者たちに命を狙われていたバイツは、不意打ちをくらい別の世界へ逃げ込んだ。そこで寅三と出会い、これ幸いにと寅三の力を貰い回復させた。

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    コメント

    • こういうの好きです。

      人間界でも人生まっとう、さらに異世界では……
      主人公、羨ましいかも。イヤなやつなら嫉妬しちゃうところですが、冒頭で惚れちゃったので許せちゃいます。

      愉しいお話、ありがとうございました。
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    • >辰波ゆうさま
      ありがとうございます。

      随分と遠回りした初恋二人のお話でした
      • 1 fav

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    • 面白かったです。
      寅三が若返っても若年寄じみた部分で魔王を密かに牽制してる姿は可愛いなぁとニヨニヨしました。

      ご馳走様です。
      いつか夜伽編も是非キボンんn)`ν°)・;'.、
      • 1 fav
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    • >陸斗サマー
      コメントありがとうございます
      見た目は青年、中身は老人! 書いていておもしろかったです。

      あはんうふんなシーンは、そのうち書きたいです(笑)
      妄想のために寅三描いてくだ……

      私の頭の中で寅三は股引のじいさんのままです( ;´Д`)
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    作者紹介

    • 瀬根てい
    • 作品投稿数:14  累計獲得星数:171
    • web、同人、電子書籍でBL小説を書いています。
      精神面でも喧嘩でも強い受けが好き。少年からおやじまでこよなく愛する節操なしです。
      少しでも楽しんでいただけたら光栄です。
    • 関連URL
      サイト:http://moxic.net/

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