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シリーズ:ヘヴィノベル
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ヘヴィノベル

作者:不知詠人

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    近未来の日本。
    学校教育ではライトノベルをはじめ、
    ポップカルチャー作品の鑑賞が義務付けられ
    文学作品は青少年に有害な図書として18禁の扱いを受けていた。

    中3の主人公、松陰翔太とクラスメートの前島美鈴は
    ふとした事から教育現場を支配する「日教連」の秘密を
    仲の良かった女教師から託され、それを「全革連」という
    学生の秘密組織に届けるよう頼まれる。

    日教連に追われながら全革連の本部へ旅立った
    二人の冒険の旅の結末は?


    登録ユーザー星:2 だれでも星:1 閲覧数:293

    ヘヴィノベル 40692文字

     

     本屋の18禁コーナーから出てきたクラスメートに突然出くわしたら、そりゃ大抵の中学生は驚く。それが優等生で、真面目で目立たなくて、どっちかと言うとカタブツってイメージの女生徒ならなおさらだ。
     一応変装のつもりなんだろうが、いくら私服で安っぽいサングラスかけて、薬局で買ったマスクまでしてたって、さして大人びてもいない、どちらかと言うと年相応の見かけの中3じゃ、誤魔化せるはずはないんだが、そこまでは必死で考えが及ばなかったのだろうな。
     それに髪型が学校にいる時と同じ三つ編みのお下げじゃ変装になっていないだろ。こりゃ店員も気づいていて見逃してくれたんだろうな。それにしても、品行方正で通っている前島美鈴が夜の9時近くに本屋の18禁本のコーナーとは驚いた。
     こいつ、そんな不良だったのか?なんて呆気に取られていたら、あわてて走り出ようとした前島がもろに俺にぶつかって来てしまった。床に転んで彼女の手から本屋の袋が落ち、今そこの18禁コーナーで買ってきた物だろう、ハードカバーの本が2冊転がり出た。
    「あ、悪い」
     俺はそう言って本を拾ってやった。そして改めて腰が抜けるほど驚いた。この優等生の評判高い女子が、こっそりこんな本を読んでいるのか?本の表紙の題名と作者名を何気に見てしまった俺は息を呑んだ。
     太宰治の「人間失格」に三島由紀夫の「金閣寺」だって?18禁本の中でも最悪の有害指定図書じゃないか!もちろん俺は読んだ事はないけど、「人間失格」は自殺を美化する、人の命を軽々しく扱った不道徳な内容、「金閣寺」は放火犯を主人公にした障害者差別丸出しの悪書、そう俺は聞いているぞ。
     床から立ち上がり俺から落とした本を受け取りながら、前島は俺の顔を見てはっとした口調で「あ!松陰(まつかげ)君!」と思わず叫んだ。おいおい、せっかく変装してんのに自分から俺のクラスメートだって事ばらしてどうするんだよ。
     前島は自分でもそれに気づいたらしく、見る見る耳の先まで真っ赤になって、本が入った袋を俺からひったくるように受け取って、もうダッシュで本屋から出て行った。しばらくポカンと入り口の方を見つめた後、俺は自分の用事を今さら思い出してライトノベルの棚の並びに向かった。
     普段活字の本なんて教科書以外はまず読まない俺は、そのコーナーにたどり着くのも一苦労だった。やっと「涼宮ハレルヤ」シリーズの並んでいる列を探し出し、その第1巻「涼宮ハレルヤの憂鬱」を探し出し、それを持ってレジに並ぶ。
     家に帰る路上で俺はどうやって社会科のレポートを書こうか、頭を悩ませていた。この「涼宮ハレルヤの憂鬱」ってのは、2005年の「あのライトノベルがすげえ!」総合ランキング1位になった名作で、なんでも神と人間の葛藤と和解を描いた哲学的名著なんだそうだ。
     先輩に以前聞いたところでは、この中に出てくる「人間原理」とかいう言葉に適当に触れていればギリギリ合格点はもらえるし、インターネットからのコピペも多少なら大目にみてもらえるそうだ。けど、その「多少なら」ってその限度が俺には分からないんだなあ。
     あ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は松陰翔太。こう書いて「まつかげ・しょうた」。よく変わった苗字だって言われるけど、俺がつけたわけじゃないんだから、そこはほっといてくれ。
     俺は社会科の哲学倫理のレポートの提出を来週に控えて、その課題図書を買いに本屋に行ってきたところだ。そこで18禁本コーナーから飛び出してきたクラスメートの前島と鉢合わせしてびっくりというわけだったんだが、人は見かけによらないとは本当だなあ。
     しかし今はどうやってレポートを書き上げるかの方が問題だ。自慢じゃないけど、俺は学校の成績は最下位クラス。今度のレポートで合格点もらえなかったら留年の可能性だって出てくる。
     十年前までは出席日数さえ足りてりゃ義務教育で留年はなかったそうだから、ほんと損な時代に生まれちまったよ。なんでも昔大阪都を作った日本一新の会というのが政権を取ってから今の留年もありの制度に学校が変わっちまったらしい。
     俺は前島の事が頭のどこかに引っかかる感じを持ちながら、今夜中に「涼宮ハレルヤの憂鬱」を読み終えないと、と心配しながら家への夜道を急いだ。

     翌日は朝からうだるような暑さだった。ま、夏休みが近いと思えば悪い事じゃないんだが、休みの前に何本も授業でレポートを提出しなきゃならないし、それに年が明ければ高校受験だから、俺の周りは浮かれていられる気分じゃなさそうだ。
     一時限目は俺の一番苦手な現代国語の授業だった。中年オヤジのセンコーの声が教室中に響く。
    「前の授業で言ったように、書物に使われる言葉づかいは、漢文から文語体へ、そしてより話し言葉に近い口語体へと進化してきたという歴史がある。書物と言えば漢文が常識だった時代に、平仮名で書かれた『源氏物語』がわが国最初の、そしておそらくは世界最初の、ライトノベルであるというのが文学史での通説になっている。その作者紫式部を輩出したのが日本であった事を、私たちは誇るべきである。しかしながら、明治維新以降の性急な近代化政策が文学作品と呼ばれる一連の俗悪な内容の悪書を生み出してしまい、それを高尚な物としてあがめる風潮が広まってしまった時代があった。これは君たちもよく知っているはずだが、その悪しき文学作品という一連の書物は、学校教師その他の教育関係者の長年の努力により、現在では青少年の健全な心身の発達に悪影響をおよぼす有害図書として18歳未満への販売、貸与、閲覧が禁止されている。君たちが今、小説と言えば健全な内容のライトノベルをのみ推奨されている現状は、その先人たちの長い闘いのおかげなんだ」
     そこで先生は副読本から視線を上げて、俺たち生徒を見回しながら声のトーンを高めた。
    「日本国憲法は表現の自由を保障しているから全面禁止はできないのが残念だが、おまえたち!たとえ18歳を過ぎても文学作品などという下らない物は読まない方がいいぞ」
     俺の視線は思わず右隣の列の二つ前の前島美鈴の方に向かってしまった。昨夜の本屋での出来事がまざまざと頭の中によみがえって来た。俺は前島の背中を見つめながら、あれが本当に起きた事だったのか、それともひょっとしたら俺の見た夢だったんじゃないだろうか、と考えていた。先生の声が続いた。
    「では、教科書の36ページを開いて。難解な文語体から、より分かりやすい口語体へという流れの中で革命的な進歩を残したのが、2006年版『あのライトノベルがすげえ!』総合ランキング1位に輝いた、『たわ言シリーズ』の記念すべき第1作、この『リストラ・サイクル』なのである。この文体をよく味わって読むように。では十分間の黙読」
     ううん、そりゃ本に書いてある文章は分かりやすいに越した事はないだろうけど。この東尾攘夷とかいう人の文章、俺たちの話し言葉を完全に追い越して半周ぐらい先に行っちゃってる様な気がするんだけどな。
     あう。

     その日ずっと、前島美鈴は特に変わった様子は見せなかったが、明らかに俺と視線を合わせるのを避けているのだけは俺にも理解できた。やっぱり昨夜の本屋での出来事は夢でも何でもなく本当にあった事なんだと改めて感じたが、それを前島と話すのも変な話なので、俺も知らんふりをしていた。
     ようやく放課後になり俺は学校を出る前に保健室に寄った。俺は勉強がまるっきりダメな分ケンカには自信があって、校内でもしょっちゅうやらかして保健室のお世話になる事が多かった。
     そのせいで保健室の先生、園田先生というまだ若い、それもけっこう美人な人なんだが、その先生と妙に意気投合してしまい、今でもたまに用もないのに保健室に寄って話を聞いてもらったりしている。
     夏休みの課題のレポートで、2007年の総合ランキング1位のライトノベル「送り狼と香辛料」という経済小説を読まなきゃいけないんだが、園田先生が自分の持っている本を貸してくれるので保健室に来い、と言ってくれたからだ。
     この小説、未来の経済活動を担う若者世代の教育のバイブルだとか言われてて事実上の中学必修図書なんだが、俺には美少女にたぶらかされた商人が行く先々でぼったくり同然の商売をやっている話にしか思えないんだけどな。

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