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シリーズ:それを口にはできなくて…
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それを口にはできなくて…

作者:Hiro

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    三日ぶりに帰宅した主人公と、無愛想な同居人のお話です。
    ちょっち変わったほのぼの物語……かな?

    『短編小説』『ほのぼの系』『恋愛小説風の何か』

    ご感想などいただけたら小躍りして喜びます。


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    それを口にはできなくて… 7608文字

     

     暖かい部屋に帰ると、そこには三日前と同じ光景があった。
     建物は築二十年以上とボクたちよりもずっと年上だけど、リフォームのおかげでそんなことは一切感じられない。ガスではなくIHのコンロのあるキッチンは手狭だけど、火事の心配も少なくて便利だ。その奥はソファーや小さな液晶テレビを置いた共有スペース。大して広くはないのだけども、物が少ないおかげで結構ゆとりがある。
     もっとも、それは真《シン》が居ないとき限定だったりするのだけど。
    「おかえり」
     同居人の低い声に、軽く手を振って無事帰宅したことを伝える。
     すると彼は本に栞《しおり》を挟み、パタンと軽い音をたてて閉じる。彼が手にすると大きな本も文庫のように見えてなんだか可笑しい。
     挨拶だけのそっけない対応。三日ぶりの再会にもう少し何かあっても良いんじゃないかな。
     真の淡白な態度を物足りなく思いながらも靴を脱ぎ、荷物の詰まった鞄を自室へと運ぼうとする。
     すると真はそんなボクの背中に、「ココア飲むか?」とぶっきらぼうに言葉を投げかけた。
     その言葉に思わず耳を疑ってしまう。
     自分で期待しといてなんだけど、口数の少ない真が挨拶以外で話しかけてきた上に、そんな施しまでしてくれようとは。
     真は無愛想だけど、決して性格が悪いわけではない。むしろ優しいと分類しても良いくらいだ。だけど、それが目に見えて発揮されるのは珍しい。
     ボクは驚きながらも彼の善意に甘えることにした。コートだけ脱いで制服と三日分の着替えが入った鞄をそのまま床に降ろす。先に荷物を置いて来ようかと思ったけど、そのままテーブルと同じ木製の椅子に腰掛けることにした。
     彼の広い背中をながめながら、ココアが出来るのを待つ。
     ほんのりとシナモンの香りがブレンドされた、甘い香りが漂ってくる。小さく見える大きめのマグカップが二つ、彼の手に握られ運ばれてくる。
     テーブルを経由し、かわいい柴犬のイラストの付いたそれを受け取り、軽くその匂いを楽しんでから口をつける。
     うん、美味しい。
     強い甘味が疲れを和らげ、冷えた身体を暖めてくれる。いつもより甘い物が美味しく感じるのは、気付かぬうちに疲れが溜まっていたのかもしれない。
     カップの内側から、正面に座った真へとこっそり視線を移す。
     真は愛嬌のある三毛猫のイラストのカップを手にしたままフウフウと息を吹きかけている。頃合いをみて口を付けたものの、眉をひそませただけですぐに離してしまう。そこに描かれた猫と同じで、彼は熱いものが苦手なのだ。
     そんな可笑しさを表に出さないようにグッと堪える。
     いつも平静を保っている真が、そんな些細なことで表情を変えるなんて、いったいどれくらいの人が知っているんだろう。ひょっとしたら同じクラスではボクだけかもしれない。そう思うとちょっとした優越感が沸いてくる。
     真のそんな一面を見ることができるのは同居人としての特典だ。彼を外見と噂でしか知らない人たちは、「怖くないか?」とか「彼との同居は問題じゃないか?」と心配するけど、それは偏見であり彼に対してとても失礼だ。
     確かに真はホラー映画の怪物にほんの少しだけ似ているし、ちょっとした問題を起こすこともある。さらには不器用で力加減が下手なせいで色々なものを壊し、影では破壊神とまで恐れられていたりもする。本人が故意に破壊活動を行うようなことなんて滅多にないのに。
     まぁ、彼の声と外見で「何か言ったか?」と、人の意見を訪ね返す様子は、知らぬ人から恐ろしく感じるのも仕方ないかもしれない。
     それでも、真には真で良いところがいっぱいあるんだ。そのことをボクとしては声を大にして主張したい。
     彼は必要以上に同居人であるボクに干渉しない。でも、困ったことがあれば、すぐに察して今のように少しだけ気を利かせてくれる。
     頼めば大抵のことを手伝ってくれるが、それをこちらが願わないうちから押し付けることはまずしない。過保護な人たちに囲われたボクにとって、その距離の取り方はとても心地良かった。それは贅沢な考えだと思うのだけど、受ける側としては負担に思う気遣いだってあるのだ。多分、彼もそれを知っていて、ほどよい距離を心がけてくれているんだと思う。
     更に言えば真の良いところは性格だけではない。掃除洗濯はおろかボクの苦手とする料理もソツなくこなすのだ。人は見た目によらないとはよく言ったものだとつくづく思う。おっと、これも失礼か。
     改まって、そんな状況を省みると、ボクの方こそ真の同居人に相応しいか怪しく思える。
     もともと彼が二人部屋を一人で利用していたことを理由に、ボクが強引に乗り込んできたのだ。彼としては厄介者が乗り込んできて、さぞかし迷惑だったろう。それでも出て行くつもりはないんだけど。
    「ちゃんと塩ふったか?」
     真の言葉にうなずく。カップを大きく傾け、残ったココアを口の中に流し込む。
     真はそんなボクを見て「そうか」と小さく言っただけで、それ以上のその話題には触れようとしない。ここでも気を遣わせているらしい。まぁ、当然と言えば当然なのかもしれないけど。
     ちなみに、塩というのは『お清め塩』のこと。
     ボクの三日間の不在は、妹の通夜と葬式に出席するためのものだった。

     妹が死んだことを、電話で母から知らされたのは五日前のことだった。その後、通夜と葬式の日取りが決まってから、学校の制服を抱え彼女の住んでいた家へと行ってきた。
     二つ下の妹とはボクが高校に入ってから、すっかり疎遠になっていた。最後にちゃんと会ったのが高校に上がってすぐの頃だから、一年半くらい会ってないことになる。色々あったせいで、その記憶は少し曖昧なのだけど。
     葬儀の準備は両親が行っていた。というか、ほとんど葬儀屋さんと部落の人たちが慣れた感じに手配してくれたようだ。遺品整理もボクが到着する前に済ませたらしい。
     本当に式に参加しただけ。ボクがそこでした事といえば、制服で遺族の席に座っていただけ。
     他には彼女が死んだという事実を確認したことくらいか。
     式の間はずっと暇であった。
     そういえば、正月を前に再会した彼女もまた棺桶の中で暇そうにしていたっけ。
     花に囲われた妹の様子を思い浮かべる。丁寧な化粧がほどこされた顔は想像していたよりもずっと綺麗で大人びていた。
     ボクも死んだらこうされるのかな。
     彼女とはよく似ていると言われていたっけ。もう、そんなことはないんだろうけど。

     不意に鼻からツツーっと何か流れる感触がした。それが何かわかると、記憶に浸っていた意識が羞恥心により引き上げられる。
     寒い外から帰り、暖かい部屋でココアを飲んだせいだ。
    「ぷっ」
     まだココアに苦戦していた真が、本日三種類目の表情を隠そうとする。
     慌ててそばに置かれた箱からティッシュを抜き鼻をぬぐう。しかし、ボクの鼻から流れる液体はその程度ではなくならない。人前で大きな音を立てるのは恥ずかしい。でも、それでは鼻に不快感が残ったままだ。一旦荷物を置くためにも、自室に戻ることも考えたけど、席から離れると彼の優しさが途切れてしまうのではないかと不安になる。そして何度も同じ事をするよりはと割り切って、思い切り音を立てて鼻をかむ。彼の前ならそれも構わないだろう。
     平静を取り繕おうとする真を見ると顔が熱くなる。
     かみ終えたティッシュをゴミ箱に投げ入れると「大丈夫か?」と尋ねられた。
     思いっきりかんだので、鼻の頭が赤くなってるかもしれない。それとも風邪の心配でもされたかな。ボクはもう一度コクリとうなずいて大丈夫だと伝える。
     特に無理をしているつもりはない。実際、ボクは彼女と再会してからも涙の一つもこぼしていない。むしろ、こんなにも薄情なボクが人として大丈夫か心配なくらいだ。
     ひょっとして、真はそのことを心配しているのかも。いや、さすがにそれは考えすぎか。
     ボクは葬儀の最中も霞がかかったような風景をながめていただけ。いろいろと思うところはあったけど、それは悲しみとは少し違う。式の合間に顔も覚えてない親戚たちと会い、何か話した気もするけど、どんな内容だったか。
     そういえば、お経というのは生《ライブ》で聞くと意外と心地よかったな。

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    コメント

    • 拝読しました。

      人形焼きにそそられて伺いましたが、これは違ったタッチですね。
      意外な展開は面白いけど、前半のトーンに浸ってたのでちょっとついてけなかったような。


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    • 読了ありがとうございます。

      こちらは掲載こそ去年んですが、執筆自体はもっとまえなので、やってることがけっこう違います。
      プロットも書かずに、筆の赴くままにつづっております。

      それにしても『俺の嫁』の影響で、他作にもちらほらと★がついてうれしいかぎりです。
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    • 確かにちょっち変わったほのぼの
      物語。真さんがいいキャラしています。ではあれこれ書くとうっかりネタばれしそうなので、この辺で……
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    • ご感想ありがとうございました♪ 
      もっと吸引力のあるキャッチコピーを考えたいところですが、良いものが思い浮かびません……これが才能の限界ってやつか!?
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    • うぎゃ、『語弊』を間違えた作者のHiroです。素で漢字間違えました(滝汗 
      いちおう本人としては、ほのぼの書いてましたが、お葬式の話にも触れているので、そう言いきるには自信がありませんでした。
      葵ちゃんの正体に関してはご想像にお任せします。
      この手の投稿で感想を貰ったことがなかったので、面白かったといってもらえてほんとうにうれしいです。ありがとうございました。
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