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親友ヴェルナを連れ戻すための旅が始まった。ランス達は隣国シュルッテ帝国へと潜入する。痛快アクションファンタジー第2弾!
第1回
◇プロローグ
シュルッテ帝国領内にある、とある軍事研究施設。その地下牢に、
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
頭を抱えながら叫ぶ青年の姿があった。
叫びながら床を転がる美しい顔の青年──ヴェルナ・ギルバードの姿を見下ろしていたサマエール・リストスは、後ろに控えていた、髑髏の仮面をつけた髪の長い人物に言葉を向けた。
「ゼノア。今日からヴェルナ少佐をここへ収監する」
「はい」
女性の声──ゼノアと呼ばれた人物は返事をすると、叫びながら床を転がるヴェルナを一瞥する。
「サマエール様。この状態は……」
サマエールは怪しい笑みを浮かべた。
「術をかけたのだよ。これからこの国の為に働いてもらう──その準備をしただけだ。しばらくはこの狂乱した状態が続くだろうが、じき治まる。それまで放っておけ」
「はい」
苦しそうに床を転がり続けるヴェルナ。
そんな彼に背を向けたサマエールは、
「わたしはこれから帝都モグルスへと向かう。皇帝陛下にご報告と、ある提案をするために」
「はい」
「そこでひとつ、降魔術士の君に頼みがある」
「頼み?」
「まあこれは陛下が承認してくれたらの話だが……手伝ってもらいたいことがあるんだが」
「それは、どんなことでしょうか?」
「禁断ノ儀式だよ、ゼノア」
「──禁断ノ儀式。まさか、あれを──」
サマエールは口元をにやつかせた。
「そうだよ。君の想像する、そのまさかの儀式さ」
* * *
ベッドに横たわる青年──。
(ランス……)
彼の整った顔には、戦いの最中についたであろう無数の切り傷があった。
(無茶なんかして……)
アスカは彼の寝顔を優しいまなざしで見下ろしていた。
普段はお調子者で面倒なことが嫌いで、そして、目の前にいる美少女ふたりに弄(いじ)られているランス。
(今日は誰にも邪魔をさせないから……ゆっくり……おやすみ)
彼はこの国を救ってくれた英雄。そして、過去に暗殺されかけた自分を救ってくれた英雄。
ギュルムス王国の正規軍でさえ手をこまねいていたシュルッテ帝国軍の攻撃を、彼は見事に撥ね返したのだ。
正規軍の兵士達は皆、突然襲い掛かってきた侵略者を撃退したことに歓喜の声を上げていた。その情報は国中にも伝わり、王都ミクスンベルグでも同じだった。
だが彼──ランスは素直にそれを喜べない状況にある。それはアスカも一緒だった。きっと、セシルやアイリーンも同じではないのかと、彼女は思う。
ヴェルナが連れ去られたことで、ランスの心はひどく痛んでいる。それは、さきほどまでの彼の表情を見ていれば一目瞭然だった。
彼は旅に出ると言った。暗く陰った表情で、ヴェルナを探す旅に出ると。
それを聞いた瞬間、胸が張り裂けそうになった。彼が向かう場所……それはさきほど戦った相手国、シュルッテ帝国だったから。
これは危険と隣り合わせの旅だ。認められない──そう、言おうと思ったアスカ。だが彼の意思が揺るがないものだと感じ、彼女は口を閉ざした。
アスカの胸のなかで暗雲が広がっていく。もしもヴェルナを見つけることが出来なかったら、彼はこの先もずっと、暗い表情を引きずったままなのか……。
親友が連れ去られたことで、暗い気持ちに取り憑かれるのはわかる。彼女自身も、父王の悪政を引き継いでいた兄の軍と戦っていた、あの内戦時、気持ちの晴れる日は一日もなかったから。
(早く元気になってほしい)
アスカは自分が密かに恋心を抱く彼に、早く元気になってもらいたかった。
彼はこれから旅に出る。国王である自分はその旅についていくことは出来ない。だけど彼が帰ってきたそのときは──お互い笑顔で再会をしたい。
アスカはランスの寝顔を心配そうな表情で見下ろしているふたりの美少女──セシルとアイリーンにそっと声をかけた。
「ちょっと頼みがある。ここから出よう」
彼女達はランスの旅に同行する。傍にいて、落ち込んでいる彼をサポートしてくれるだろう。
出発は明日。しばらくはランスの顔を見ることが出来ない。
(引き止めてしまいそうだから……)
明日は見送らないことにした。
だからここで、ランスの寝顔を見ながら、そっと胸のなかで呟く。
(どうか、無事に帰ってきて)
◇第1章
黒いフード付きの外套を身に纏った長身痩躯の男が呟いた。
「あぁもう、いくら歩いても同じ景色ばかりじゃないか。いつになったら国境に着くんだよ」
ダルそうな声を出したのは、ランス・ロウ。そして、
「なにグダグダ言ってるのよ、ランス! まだ歩き始めたばかりでしょうが!」
外套のフードを取り、後ろのランスへと視線を向け、やれやれと腰に手を置いたのはセシル・ホンディーヌ。
「セシル。僕がまだ本調子じゃないってことくらい、わかってるだろ?」
そんなランスの言葉にセシルはため息まじりに言葉を返す。
「はいはい、そんなことくらいわかってます。だけどね」
セシルはそこでビシッ、とランスを指差して、
「アンタが馬車なんかいらないって言ったのよ! せっかくアスカ様が用意してくれていたのにぃ!」
「それは……まあ、あれだよ」
「なによ」
「馬車に乗ると、酔うからだよ」
「はあ!? アンタはどこまでヘタれなのよ!」
「とほほほっ」
セシルにそう言われうなだれるランス。だが、そんなランスの頭をあやすように、優しく撫でた雪のような白い手。
「ランスはヘタれじゃないんだよ。ちょっとデリケートなだけ」
そう言ってセシルに視線を向けたのは金髪金眼の美少女、アイリーン。彼女は天界の戦使であり、ランスを守護している存在だ。
彼女もランス達同様、いつもの防具をつけた白いワンピースの上から黒い外套を身につけていた。
ムッ、頬を膨らませたセシルはアイリーンを一瞥すると、
「アンタはね、そうやってランスを甘やかすことしか出来ないの?」
「甘やかしてるんじゃない。凶暴なアナタにいつも殴られ、深く傷ついているランスを癒してあげてるだけ」
「癒すって……フ、フンッ、お子様なんかに癒されたって、ランスは嬉しくないのよ」
「今は幼女の姿じゃないもんねー」
「戦闘中じゃないんだから、さっさと元のお子様サイズに戻りなさいよ!」
「どうしてそんなこと言うの? わたしの美しさに嫉妬してるから?」
セシルが身体を震わせる。
「このォォ」
「絶対に戻すものか。べぇーだッ」
舌を出し、セシルを挑発するアイリーン。
ガルルルルルゥ。
「ちょ、ちょっと……」
自分を挟んで激しく火花を散らす美少女達にランスはただ、情けなくオロオロするだけだった。
彼女達の外見はとても美しい。すれ違う誰もが振り返るほどだ。だが──と、ランスは唾を飲み込んだ。
外見の美しさとは裏腹に、彼女達の性格は極めて獰猛なのだ。興奮状態の彼女達はとても危険極まりない。
「ふたりとも、立ち止まってないで早く行こうよ」
出発してから、これで何度目のケンカだろうか。
こんなところで立ち止まっている時間がもったいない。
(早く──ヴェルナを見つけなきゃ)
そんな焦りが彼のなかにはあった。
もっと自分が強ければ──彼は自分自身を今も責め続けていた。
「はあ……」
ランスはため息をついた。病院のベッドで目を覚ましてからずっと、思えばため息ばかりをついているような気がした。
たしかに今は元気がない。だがそのことで彼女達に余計な心配などかけたくはなかった。あくまでも、普段と変わらない姿を見せておかないと。そう、心がける。
(とにかく)
どうにかして、このじゃじゃ馬娘達の心を鎮めなければ旅が進まない。
「ねえ、ふたりとも」
「なに!?」
「ん!」
ふたりの強い口調に負けそうになったランスだったが、
「あ、あのさ、ふたりとも、ケンカ、止めない? た、旅は長いんだし、こんなところで立ち止まっていたら、いつまで経ってもシュルッテ帝国の帝都、モグルスに着くことが出来ないよー。なんて言ってみたりして──て、ぶはっ!」
急にランスの視界が飛んだ。次の瞬間、彼は無様に地面へと倒れていた。
2013/05/15 17:15:19
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