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シリーズ:三本桜
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三本桜

作者:おまるまん

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    三本桜 5015文字

     

     《三本桜》

        0

     三本の傷ついた桜は、懸命に枝を広げ、何かを求めているように、妖艶な花穂を揺すっている。春風は決してやさしいものではない。花吹雪が、夜の闇に煌いて消えていく。
     あのときと同じだ………。
     丸尾満は呆けたようにつぶやいた。
     何にもない、野っ原だった古墳群は消えうせ、無数のおもちゃのような住宅と、スーパーマーケットと、まだ売れていない分譲地に囲まれ、古墳公園として整備されたこの、1基だけが、コンクリートブロックで固められた丘の形骸の上に残置されている。
     桜は、あれからもかなり傷ついたらしく、切り取られた大枝の傷口や、うろにはセメントや、コールタールが詰められている。
     だが、34年前と変わらない、真夜中の花吹雪の下にいる。
     そういえば、不思議だった。今は、街路灯や、スーパーマーケットの灯りがあるが、懐中電灯の明かりを頼りに、真っ暗闇を這いずるようにして登ったのだ。なぜ、桜の花や、花吹雪が見えたのだろう………
     そう、34年前………

        1

     空しかった。
     民青が自治会のヘゲモニーを握っている巨大総合大学で、新左翼を張りながら、4年で卒業してしまった。ただ、就職活動は一切してなかったので、行き場もない。
     一昨日、隣の部屋の自治会幹部が、故郷の今治へ引っ越して行った。県庁に勤めると言っていた。
    「丸尾が常にアンチテーゼを提示していてくれたので、自治会はいい活動ができたと思う」
     下手をすれば命の取り合いになりかねないヤツが、最初で最後の感謝の言葉を残して行った。
     アパートの広い窓からは、春の光がなだれ込んでくる。
     どこからか、風に乗って桜の花びらが舞い込んできた。

     丸尾は立ち上がった。
     大学は、相模平野を見下ろす丘の上にあった。
     なだらかに相模川のある方面に下る東斜面は、樹木のほとんどない、野っ原だ。正確には、30余りの古墳群なのだが。
     その、古墳群の中で、唯一前方後円墳の形をした、かなり大きな古墳があり、その後円部のてっぺんに、桜が3本植えられている。戦後に植えられたソメイヨシノだという。
     樹木のない野っ原のひときわ高いところに桜。
     春休みの、人気のない校舎の屋上から何度も、その、神秘的な桜を見下ろしていた。
     丸尾は、ズック靴を履き、トレーナーを引っかけてアパートの階段を駆け下りた。
     スリムのGパンは、階段には不向きだ。もちろん、丘を分け入るのにも。
     だが、まるで恋人に逢いに行くみたいに、ベトコンパンツではなく、マンボのGパンでもなく、スリムを選んでいた。
     桜の花は、人を神経から浮き立たせるみたいだ。


        2

     キャンパスを過ぎ、点在する農家も尽きる。真田という地区と、大学のある北金目という地区の間の古墳群だ。道はあってないようなものだし、踏み跡のようなところを、大体この道が桜に通じているのだろうと、突き進んでいく。目標の桜は、幸せそうに、遠くからそのピンクの衣を見せている。
     あるいは、遠くで見ているべきものかも知れない………。
     ふと、丸尾は不安になる。だが、突き進む。

     背中で偉そうにふんぞり返っている大学は、戦前のユニークな官僚が創設したらしい。
     丸尾は、この4年間も、確証のないまま突き進んでいたのだ。
     それは、やはり桜のような、現れては消える、幻のようなものだったが………。
     いや、あれは、幻だったのだろう。
     昨年(1979年)の今頃は、開港を目前にした成田空港の管制塔に関西ブントが突入し、占拠し、僅かな抵抗の花を咲かせていた。
     丸尾の隣で、三里塚の地下壕にいた同志はパクられ、まだ、拘置所にいる。
     丸尾は少し凶暴な気分になり、わめき声をあげて、墳丘を駆け上った。

     先客がいた。
     少女であろう。少なくとも丸尾よりは年下だ。
     丸顔の、ナチュラルなロングヘアを、後ろに束ねている。ポニーテールではなく、下の方で束ねているので、巫女のようだ。
     白のブラウスに、薄桃色のミニのタイトスカート。
     清潔感はあるが、ナウいファッションではない。

    「邪魔していいかな?」
     少女はにっこりうなづいた。


        3

     桜は八分咲きといったところか。大学の校舎の右に富士山が少しけぶって見える。
     大山は近いだけあって、くっきりと見えるが、ピラミダルな山頂も、いつもの鋭さを隠している。仲春。
     少女はにこにこと幸せそうに陽光を浴びている。

    「学生さんですか?」
     丸尾の方に向き直って、訊いた。
    「卒業しちゃった。就職も決まってないのに」
     笑いながら答えると、少し小首を傾げ、
    「おめでとうございます」
     桜の薫りだろうか、いい匂いがする。

     話したいが、話題のないまま、二人黙っていた。桜と、春の光と、360度パノラマの風景。緑の相模平野……。ただ、この平野には、米海軍厚木基地があるのだった。
     そう、丸尾は、無力だったし、惨敗者だった。

     少しうとうとした。少しではなかった。
     夕陽が校舎の上にかかっていた。春霞が濃い。朱に染まった太陽がじわじわと降下していく。
     少女は丸尾を見ていたのだろうか。にこにこと丸尾の方を向いている。
    「じゃ」
     立ち上がった丸尾に、
    「また、会えますか?」
    「ここでなら、雨でも降らない限り明日も来ると思います。きっと三本桜を観に」
     丸尾には似つかわしくない、清潔感のある少女だ。だが、明日、来るとしたら目的は桜よりも、少女の比率が高くなりそうだった。


        4

     珍しく、翌日も晴れた。
     古墳を駆け足で登った。
     少女らしき姿は麓から確認していた。
     今日は薄いピンクのブラウスに、白いフレアスカート。
    「やぁ」
     少女はやはり、にこにことお辞儀をした。
     やはり、話すこともなく、いい薫りの中で、夕方までうたた寝をした。

     なんだか、少し危険な気持ちになって、帰りがけに余計なことを口走ってしまった。
    「あの… きみはとてもかわいらしい。だが、ぼくはしょうのない男だ。きみと二人きりでいたら、発情するかも知れない。もし、ぼくが求めたら、拒絶してくれ」
     口走りながら、頭の中では最悪だと判定していた。
     少女は、少しはにかんだようにうつむき、それから、笑顔のままで顔を上げ、
    「はい…」
     と答えた。

     夕陽を含んだ桜の花穂が、嬉しそうに揺れた。
     そう、花は咲うのだ。


        5

     花曇りだった。
     きっと、雨が近いのだろう、気温が高く、米軍機の爆音が、拡がって響いている。

     昨日口走ったことで、少女はいないだろうと思っていた。
     だから、三本桜の傍にその姿を見つけたときには、舞い上がりそうだった。
    「やぁ」
     やはりだまってお辞儀をする、にこにこ笑顔。
     あふれ出しそうな感情の表現が判らず、やはり、黙って夕暮れまでうとうとした。
     春霞に、辺りは、全てピンクに染まったみたいだった。
     少女の白いブラウス。
     いつも、丸尾を見ているみたいだが、ふと、見せた背中に透けて見えた、ブラジャーとスリップの肩紐、そして、レースの花模様。
     それも、春霞の中。

    「じゃ」
     いつもより慌ただしく、立ち上がった。
     少し、少女の笑顔がとぎれた。
     桜は、ほぼ満開。時折、花弁が舞い落ちる。
     ざぁっと風が通り過ぎた。笑顔を取り戻した少女と、丸尾を花吹雪が包んだ。


        6

     部屋に帰り、キャベツと少量のハムの炒め物をおかずに、夕食を摂る。
     落ち着かない。
     興奮している。
     発情している。

     丸尾は、懐中電灯を手にした。
     ふと、思いついて、コンドームをポケットに入れた。

     もちろん、いるはずがない。
     もしも、暗闇の中で、三本桜にたどり着けたら、少女を思い出し、自慰して帰ろうと思った。

     少女は、いた。暗闇のはずなのに、桜も少女も美しく目に入った。
     薄いピンクのブラウス。白いフレアスカート。
    「きっと、来てくれると思ってました…」
    「ごめん、発情しちゃった」
    「はい」
     うなづく少女を抱きしめた。唇を重ねた。
    「男のひとはみんな乱暴なんだと思ってました…」
     くちづけが途切れると、少女は言った。
    「少し前まで、夜な夜な男の人が忍んできて、私を抱いて行きました。何人も、何人も、そして、何回か来ると、飽きたのか来なくなりました」
     意外な話に、少したじろいだ。

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    コメント

    • 今時、こんな純情な話
      60過ぎのオヤジしかせんやろ

      でも、面白い‼️
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    • 2012年に執筆した作品です。
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    作者紹介

    • おまるまん
    • 作品投稿数:4  累計獲得星数:2
    • のんべデブおやじ
      おまるまんです
      さあ!!
      重く呑みに行こうぜ!!
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