upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:桜の咲く頃に――
閲覧数の合計:315

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

桜の咲く頃に――

作者:瀬木 尚史

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
    • タグ:
  • 編集協力者:

    桜の木の下で、ふたりは約束を交わします。


    登録ユーザー星:0 だれでも星:2 閲覧数:315

    桜の咲く頃に―― 10905文字

     

    (会社に入社して、もうすぐ一年が経とうとしているんだな)

     仕事を終えた道すがら、そんなことを思いながら、近所の住宅街に挟まれた、小さな公園の中に1本だけ植えられている、幹の細い桜の木を見上げていた。

     桜の花が咲くにはまだまだ季節が早いというのに、この公園の桜が見たいと、同性の恋人が突然言い出したのだけれど――。実際に見ることができるのは、細い幹から空に向かって伸ばされた、数本の枝の先っぽから突き出ている、とても小さな桜の蕾だけ。

     そういや兵藤さんと付き合ったのって、去年の夏のはじめあたりだったっけ。

     全国的に名の知れた不動産会社AOグループの傘下に入っている、地元の企業に新入社員として入社し、3年先輩の兵藤さんが俺を指導することになった。

     はじめて顔を突き合わせたときから、苦手だという態度をありありと出されたせいで、必然的に反発してしまったんだ。

     しかし、苦手意識の裏に隠された『好き』という気持ちを告げられた瞬間、混乱しつつも拒絶しなきゃということが、不思議と考えられなかった。兵藤さんの暑苦しい性格は嫌悪するものだったけど、誰もが見惚れてしまう顔に憧れていたため、それを上手いこと餌にされた結果、気がついたら好きになってしまい、自然と付き合う流れになり――

    (こんな風に仲良く並んで、桜の木を見る関係になるとは……)

     ちょっぴり冷たい風がたまに吹くので、寒いなぁと震えながら、隣に並んでいる躰にそっと、身を寄せてみた。温もりを分けてもらうべくの行動だったのに、自分よりも大きいお陰で、上手いこと風除けになってくれる。ラッキー!

    「なぁ有坂……」
    「は、はい?」

     もしや、風除けにしてるのバレた!?

    「造幣局が行っとる桜の通り抜け、一緒に見に行かへんか?」
    「造幣局って大阪の?」
    「ああ。めっちゃ人がおるけど遅咲きの桜が、そこかしこに咲いとって綺麗なんやで。見たことある?」

     長いまつ毛を伏せて、声を弾ませながら問いかけてくる姿に、自然と笑みが零れた。

    「テレビでは見たことはありますけど、行ったことがないです。小学校の修学旅行で、大阪の観光地をまわった程度なんですけど」

     生憎、季節は夏だったし自由散策に、造幣局が入っていなかった。

    「そうか、だったら初めてなんやな」
    「はい」
    「ソメイヨシノって、聞いたことあるやろ。あれもな、300種類の品種があって――」

     仕事の指導をするときとは違い、楽しいことを語っているせいか、いつもより饒舌な兵藤さんの態度に、内心首を傾げてしまう。こんな話をわざわざ、寒空の下でしなくてもいいのではないかと思っていたら――

    「……一緒に休みとって、大阪に行くっちゅうんは、その……」

     いきなりトーンダウンし最終的には顔を背け、聞こえないようにぶつぶつ呟きはじめた。

    「初めての遠出じゃないですし、何かありましたっけ?」
    「俺の実家が大阪や……」

     それはそれは小さい声で告げられた台詞に、ハッとするしかない。

     そうだよ、この人って肝心なところに不器用で、なかなか核心に迫ることができないから、遠回しに物言いするんだった。

    「もしや、兵藤さんのご両親に挨拶……しろと言うんじゃ?」

     いきなりつきつけられた難題にビビッて、恐々と数歩退いてまった。そんな俺を引き留めるように、素早く腕を伸ばして捕まえる。

     寒い中にいるというのに、兵藤さんの手のひらはすごくあたたかくて、掴まれた右手がぽかぽかと温められていった。自分よりも大きくて、あたたかいそれに包まれているだけで、不安だった気持ちが見る間に落ち着いていく。

    「いきなり、親には会わせへんから安心せぇ。まずは、外堀を埋めようと思ってな。姉ちゃんに会ってほしくて」
    「兵藤さんのお姉さん?」
    「姉ちゃん彼氏募集中やから、有坂に会うたら喜んで、自分の彼氏にしかねんけど」

     くすくす笑って俺を引き寄せると、さっきと同じように躰にくっつけた。引き寄せられた衝撃と一緒に、寄り添うようにくっついたお陰で、嬉しさもひとしおだったりする。

    「タクミは俺のやから、誰にも渡さへん。絶対に」
    「あ……」

     兵藤さんの口から突然出された自分の名前に、うわぁと狼狽えるしかない。いきなりこうやって使ってくるのが、確信犯というか何というか――それだけじゃなく……こうして傍にいるだけで、躰と共に心まで一気にあたたまってしまった。

    「俺だけを、好きでいてくれるか?」
    「はいっ!」

     返事と一緒に、掴んでいる手にぎゅっと力を込めてみる。俺が望むことを言ってくれる、この人が好きでたまらない。

    「この、桜の木のように……」

     意味深に横目で俺の顔を見てから、すぐ傍にある細長い桜の枝を、じっと仰視した兵藤さん。何の話だろうと思い、耳を傾けてみる。

    「苗木から花を咲かせるまで、少なくても3〜4年かかるんやで。この木もそうやって、大きくなったんやろうなって」
    「そうですね」
    「枝の中に桜の花の元を、1年かけてしっかり育てて、暖かくなったら蕾をぎょうさんつけて、ほんで花を咲かせる。俺らの関係もそないな風に焦らんと、育てていけたらいいなと思ったんや」
    「兵藤さん……」

     桜の木に、そんな想いを馳せていたなんて――

     改めて、桜の木を眺めてみた。最近の暖かさで、やっと蕾が出てきた状態は、今の俺たちと同じなのかな。

    「焦らんといてと言うたけど、今回の大阪行きはどないする?」

     意識を自分に向けたかったのか握りしめた手のひらを、ぶらぶら動かしてきた。桜の木から兵藤さんに視線を移す。

     俺が惚れこんだ、眉目秀麗な顔がそこにはなくて、微妙な表情をありありと浮かべる姿に、ぷっと吹き出してしまった。

    「ちょっ、笑って誤魔化すな!」
    「だって、兵藤さんの顔が面白くって」
    「しゃあないやろ。話題が話題なんやし。結局どないするんや?」

     ひとしきり笑った俺を、怖い顔して睨んできても、全然怖くはない。口調は怒っているけど、目尻が下がっているので、可愛く見えてしまうくらいだ。

    「行きますよ。造幣局の桜が見たいですし、兵藤さんのお姉さんにも会ってみたいから」
    「本当か!?」
    「外堀を埋めるお手伝いになるか、分かりませんけどね」

     言い終える前に、ぎゅっと躰を抱きしめてきた。

    「一緒に頑張ろうな」

     耳元で告げられた言葉に無言で頷いてから、ふたり揃って桜の木を見上げる。まだ見ぬ大阪の桜を思い描きながら、心の中で頑張ることを誓ったのだった。

    おしまい

    〜桜の咲く頃に〜(兵藤目線)

     今年のゴールデンウィークは、実家のある大阪に帰らなければならなかった。父方の親戚筋の結婚式に、出席することが義務になっていたから。

    (ゴールデンウィークが稼ぎ時の職場なら、大手を振って欠席できるのにな)

     行きたくない理由が、親戚と顔を逢わせたくないのがひとつ。おんなじ理由で、親とも顔を逢わせたくなかった。絶対に指摘されるであろう、結婚はまだかという魔の言葉――同い歳の従兄弟の結婚式に顔を出す時点で、絶対に避けられない話題や。

     姉ちゃんに彼氏がいないから一瞬くらいはその場の隠れ蓑にはなるだろうけど、間違いなく俺も口撃対象になるのは火を見るよりも明らかだし、なにより弟に彼女がおるので、先を越されるんやないかという要らん心配をされそうやな。

    『彼女はいないけど、彼氏ならおるで』なぁんて言うた日にゃ、女にモテ過ぎて飽きたからそっちの道に進んだのか。なぁんていう、有り難い意見が聞けるかもしれへん。

     だからといって隠れたまま、有坂と付き合っていくわけにはいかない。とりあえず、外堀を埋めるところからはじめんと。

     少しでもええから有坂の良い印象を家族に植え付けるべく、心の中で計画を立ててみた。

     会社にある喫煙室で考えることやないけど、考えんとはいられない。目の前に漂う煙を見ながらこれから先におこなわれる未来について、ぼんやりと思いを馳せてみた。

    「やっぱりここにいた! 一緒に帰る約束をしておきながら、忽然と姿を消さないでくださいよ。捜すの大変なのに」

     喫煙室の扉に顔だけ突っ込んで、怒っとる有坂の顔は迫力満点だ。他に喫煙者がいないもんやから、くどくど文句を言い続ける。

    ←前のページ 現在 1/4 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 ボーイズラブの人気作品

    続きを見る