upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:赤き月の輝く時
閲覧数の合計:162

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

赤き月の輝く時

作者:アイロン

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    顔も名前も過去も全てが謎に包まれた、男装の麗人、シヴァ。
    彼女が、名刀、ヴェンディタードの正式な継承者に選ばれた唯一の存在であった。
    騎士団の隊長に就任した彼女に襲いかかる数奇な運命の数々を、一体誰が想像しただろうか。
    そして、仲間たちとの冒険は始まりを告げる。


    登録ユーザー星:2 だれでも星:2 閲覧数:162

    赤き月の輝く時 26491文字

     

    木々は鬱蒼と生い茂っていた。




    どこからか聞こえてくる嘲笑うかのような鳥の鳴き声は、地獄の底から響いてくるようだ。

    ゴォォッツ!と不気味な音とともに冷気が全身を打ちつけてくる。

    空には星もなく、赤い月だけが煌々と輝いていた。
    不吉の象徴とされる赤い月だけが。

    その色は、まるで鮮血を思わせた。

    ごくりっ・・・

    幼い少女は、生唾を飲む。
    小さな白く細い手足が、諤々と震えだすのを懸命に我慢しながら。

    こんな寂しい場所に来たのは初めてだった。
    こんな深い闇に包まれたのも初めてだった。

    いつも明るく平和に暮らすのは楽だった。
    そうだ、愛されるということは楽だった。

    少女はぎゅっと身に纏った粗末なワンピースの裾を握る。
    まだ、十にも満たない少女のルビー色の瞳には絶望の二文字だけが浮かんでいる。

    泣きはらした目からは一滴の涙さえ出てきてはくれない。

    生温かい風が、少女のきめ細やかな白すぎる肌を撫でる。
    乳白色のシルクの様な白い髪が闇に映える。

    死んでしまえたら楽なのか。

    やり場のない怒りをぶつける場所が見つからなかった。

    突然の悪夢が忘れられない。
    目の前で朱に染まり、苦しみながら事切れた人たち。
    その恐怖に彩られ、驚愕に見開かれた目には少女の姿があった。

    大切な、家族だった人たち。
    それを裏切り、生き血を啜った少女の存在は、正に化け物としか言いようがなかった。
    理性を取り戻した少女は、力なく蹲った。

















    ピチチチチ

    小鳥のさえずりが聴こえる。
    うっすら目を開けると、強烈な朝の光に襲われる。

    「うっ・・・」

    シヴァは、小さく呻くと急いで目を塞いだ。
    そして、半身を起してカーテンをひき、再びベッドに大の字に寝そべる。
    暫くすると漸く目が慣れてきた。
    いつもの、自室の若草色の天井が見える。
    これ以上は無いというくらい散らかった狭い飾り気の無い部屋。

    (今日はよりによって嫌な夢を見てしまったな。)

    シヴァは、頭を振った。
    昔のことを考えるのは止そう・・・と。

    シヴァは、堅いベッドから漸く起き上がる。
    そしていつものように、動きやすい男物の服を着込むと、艶やかな黒髪を編んで一つに束ねる。
    腰まで伸びた髪は、単に放置していたら伸びてしまい、面倒だから切っていないだけである。

    「それから・・・」
    のんびりと呟く声は男にしてはやや高く、女にしてはやや低い。
    だが、よく通る透明感のある声だ。

    シヴァは汲んでおいた井戸水で顔を洗い、一振りの剣を腰に下げる。
    太く長い剣は、シヴァ愛用の名刀、ヴェンディタードである。

    細身のシヴァが、どうしてこのような剣を扱えるのか、彼をよく知らない者は、首を180度回転させると言っても過言ではない。

    しかし、大抵は、シヴァに訊いても、上手くはぐらかされてしまうのだったが。

    「さて、忘れるところだった」
    シヴァは、慌てて大きなサングラス、というよりは、顔が半分隠れてしまうゴーグルをつけた。
    シヴァの色素のない赤い瞳には強い日差しは耐えられないのだ。
    それに、本人に自覚は無いがその美しすぎる容貌を隠す事にもゴーグルは役だっていた。

    それでも、シヴァの魅力を隠すには足りなかったが、無いよりはマシである。

    不意に、家の扉を乱暴に叩く音がした。

    ドン ドン ドン ドン!

    続けざまに四回。
    それが誰なのか、シヴァには顔を見ずとも判っていた。

    (まったく、インターホンを押せばいいものを)
    シヴァは溜息を吐く。

    「シヴァ、シヴァ・・・!起きてる?」

    扉の向こうでそいつが言った。

    毎日のことながら、全く鬱陶しい奴だ。
    内心、シヴァは、そう思ってはいたが、ポーカーフェイスを崩しはしない。
    シヴァはそういう性格の持ち主だった。

    表向きは笑顔で対応するが、本当は誰も信用していないのだ。
    自分自身さえも。


    「ああ、起きてる。・・・で、一体どうしたんだい?ヒット」
    訪問者の名を呼びながら木戸を開けると、ヒットと呼ばれた少年はまだ息を切らせている。
    ふんわりとした、肩先で揺れる髪は、赤みがかった茶色。
    肌は、小麦色に日焼けしていて、晴れた日の空を思わせるブルーの瞳が印象的な少年だ。

    背は、シヴァより、頭一つ分低い。
    (それは、成長途中であるが故である。)
    彼は15歳。
    隣の家に住むヒットは、シヴァにとっては、後輩である。

    シヴァはヒットの事はよく見知っているし、こうして家に急に来るのも毎度のことなので今日は何の用だ?と、内心顔を顰めた。
    本当に顔を顰めたとしても、大きなゴーグルに阻まれてその表情は誰にも読めはしないだろうけれども。

    「シヴァ、これね、今朝、母さんが焼いたパン。シヴァに持ってけって」
    ヒットはそういうと、右手に抱えた紙袋に包んだパンを差し出してきた。

    それは、昔からこの地方に伝わるパチェと呼ばれるパンだった。
    身寄りのないシヴァにこの家を世話し、その後も親切にしてくれているヒットの母親の得意料理の一つである。

    シヴァは、何故、こんなに親切にするのか、何の利益にもならないはずなのに。
    などと思いながらも、「ありがとう、君のお母さんには迷惑をかけるね」と言い、ヒットから紙袋を受け取る。
    「あがってゆくかい?お菓子があるからお茶をいれてあげよう」

    思ってもみないことはスラスラと口を吐いて出てくる。
    自分には余計な人付き合いなど煩わしいだけのはずなのに。
    慕ってくれるこの少年だって鬱陶しい意外の何物でもないはずなのに。


    優しい隣のお兄さん。
    それが、男装の麗人、シヴァの表の顔だった。

    信用を裏切ること。
    そのことに怯え、過剰に偽善者になってしまうシヴァの本心を知る者はいない。

    ヒットの真っ直ぐな瞳を向けられると、それでも良心の呵責があった。



    「シヴァは本当にすごいなー」

    「何故?」

    「ヴァンディタードって剣を使いこなせるのは世界中探したってシヴァだけだって
    兄さんが言ってたよ」

    ヒットの兄、ハリスは、若いながらに優秀な剣の使い手であり、魔物から街を守る騎士団の副隊長でもある。
    「ハリスには迷惑ばかりかけてるのに、ハリスがそんなことを?」

    これは、珍しくシヴァの本心だ。
    騎士団隊長であるシヴァは面倒な会議には出席したためしがなく、いつも、雑務はハリスに任せっきりなのだから。

    「迷惑ってそんなことないよ。あれでけっこう、兄さんは仕事好きだしね」

    「そうは言うが、仕事もせず給料を人一倍もらったのでは、君の兄さんにも他の皆にも申し訳ないよ」

    「そんなことない!」


    「そんなことないよ、シヴァ。確かに、シヴァは、会議に出ないし、デスクワークもしないけど、剣さばきや、乗馬の腕は上手じゃないか。
     俺はまだ、騎士団でも下っ端だけど、シヴァや兄さんに少しでも近づきたいと思ってるよ」

    ヒットが力説する。

    彼は自分に素顔を見せたこともないシヴァのことを全面的に信頼しているのだ。

    「ありがとう。ヒット。私の事をそんな風に思ってくれているのは君だけだ」
    「シヴァーやっぱり分かってないな。シヴァに憧れてるのは俺だけじゃないんだから」

    ヒットはテーブルにうつぶせになって項垂れている。

    「ははは。ヒットもお世辞が上手くなったな」

    「だから、お世辞じゃないんだってば!」

    ティーカップや空になった皿を片づけていると、後ろから、ヒットの語尾の伸びた声が聴こえた。


    その時だ。

    ピンポーン

    インターホンが鳴った。

    「今日は朝から随分と客の多い日だな」

    ドアを開けると、黒髪で長身の青年が立っている。

    シヴァが、「ハリス!」というのと、ヒットが、「兄さん!」と言うのがほぼ同時だった。





    「お前がこんな時間に来るとは珍しいな。ハリス」

    シヴァは、副隊長であり、仕事上の右腕とも呼べる男の顔を見上げる。

    ハリスは無言のまま、シヴァの顔を見下ろす。
    その、荒削りだが精悍な顔立ちが今日は、どこか青ざめている。
    「兄さん、兄さん!どうしたの?」
    ハリスとは、あまり似ていない弟のヒットが戸口まで駆け寄ってきた。
    ヒットもハリスのただならぬ様子を感じ取ったらしい。


    「大変なことになってしまった・・・」


    ハリスはようやく口を開きそれだけ言うと、また口を噤んでしまった。
    「おい、どうした?それだけじゃ判らないだろ。お前らしくない」
    シヴァは、ハリスの肩を揺すった。

    ←前のページ 現在 1/7 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • 八谷 響(エルス)様>
      読んでくださってありがとうございます。
      先が楽しみとは、すごく有り難いお言葉!!!
      異世界ファンタジー少ないですよね。
      これは、厳密に言うと、ネタばれになってしまいますが、異世界ではない話なのですよ。
      頑張って書かせていただきますね。
      • 0 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    •  初めまして。読ませていただきました。
       最近異世界ファンタジーって少なくなりましたね。設定が興味深かったです。結構長くなりそうな印象ですね。先が楽しみです。
      • 0 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    • アイロン
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:4
    • アイコンは自作です。

      文章書き友だち、絵友、欲しいです。
      可愛いものには目がありません。
    • 関連URL
      :

    この作者の人気作品

    小説 ファンタジーの人気作品

    続きを見る