upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:女人恐怖
閲覧数の合計:149

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

対処と始末

作者:狂言巡

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

     巻きこまれたけど深入りしないお話。


    登録ユーザー星:0 だれでも星:0 閲覧数:64

    対処と始末 2531文字

     

     次は俺か? 大瀧幟(おおたき のぼり)が話す。
     そういやぁ、さっき誰か言っていなかったか? 霊は寂しがっているから、同情してくれる人間のところに来るってよ。飼い主に可愛がられすぎた猫がその飼い主に取り憑いたとか、いじめ殺された動物が犯人の悪ガキじゃなくて、助けてくれた人間に呪いをかけたとか、何とか。あん ?…そういう話じゃねぇの? ……まあ、いいけどよ。
     要するに俺が言いたいのは、こっちの心情なんて霊(そいつら)にとっては全然関係ないってこった。一番関係してくるのは、第一発見者。誰かが、その場にたまたま『行き遭った』。それだけだ。





     俺が行き遭っちまったのは、いわゆる投身自殺の現場だ。いきなり目の前に人が落ちてきて、死んだ。
     確かに気分のいいものではないが、この後に待つだろう面倒くせぇ手続きがだりぃなと思う以外の感慨など出てこなかった。もちろんこれが自分の町で起こったことなら、それなりに思うことはあっただろう。しかし自分が居たのは他国で、しかも観光旅行中だったんだぜ?
     直前に合った紫紺色の両目は、恐怖と絶望が見て取れた。死にたい人間もやっぱり死ぬ寸前は怖いもんなのか? それとも、覚悟の自殺とは違ったのかもしれねぇな。
     だからって、不自然に折れ曲がった肉の塊と飛び散った赤い血をずっと見下ろしている必要もねぇだろ。駆けつけた警備員らしき人間に身分証明をして、そのままホテルを探しにいった。ちょっとばかし跳ねて裾に掛かったものもそのままで。
     当日着ていたのが真っ黒なジャケットで、助かったといえば助かったんだけどよ……。結局、その古着のジャケットが問題になったんだがな。





     翌日、俺は朝っぱらからひでぇ寒気と、奇妙な違和感に襲われることになった。寒気はまだいい。足元を何かが這いずり回るような気配がしたり、足首を掴まれるような感覚に陥るよりは。
     もちろん何もいないのは確認済みだぜ? そういえば占い屋が密集している場所を通った時、その何人かに妙な目付きで見られたような気がしたが、あれは何か見えていたのか?
     ……今となってはどうでもいいがな。教えてもらったところで、どうにか出来るもんでもなかったからな。それにどうせ大して害は無いと思って、俺は全部無視した。結局そいつに向き合おうと思ったのは、実際に被害が出るようになってからだった。俺に直接何かしてきても大抵は無視できた……だが、第三者を巻き込むってんなら話は別だ。
     傍に居た人間が急に面相と口調を変え、自分がされたことを切切と訴えてくるんだぞ。異様以外何ものでもねぇ。しかも同じ目に合わせようと、あらゆる手段を取ろうときたら……な。この辺りから既に、彼女は可視化して昼間だろうが夜中だろうが纏わり付くようになっていた。まぁ他に被害が出ない限りはほぼ無視したが。
     それでも一応説得は試みた。全くの無駄だったがな。実際、あの女が訴えていたことが、どこまで真実でどれほど嘘が混じってんのかは判断できねぇよ。恋人だったらしい野郎への恨み言で占められていたのだが、まあ一般的な痴情の縺れ……とは言い切れなかったな。気分が悪くなるだろうし、長くなっちまうから詳細は省くぞ。
     ただ解ったことは、女はその男の所為でいくつかの病に罹っていたし、多額の借金を背負わされた上に、脅されて強制的に非合法の労働を強いられていた。
     哀れ……だとは思うぜ。しかし、さっきも言ったが同情といった感情は持たなかった。むしろ腹が立ったのが本音だな。そこまで恨んでんなら、直接そいつの所へ行けばいいじゃねぇか。普通そうだろ? 何度もそう言ったし、説得もしたんだがよ。
     それでも、そいつはただ気味の悪い笑い声を上げるばかりだった。たぶん、完全にトチ狂っているのだろうと思った。これはもうどうにもならないと、諦めて全く相手をしないことにした。誰かに相談することも一応考えたことは考えてみたけどよ、更に犠牲者を出しそうな気がしてな。同時に、その頃から奇妙な夢を見るようになったんだ。
     一人の女が生まれて、そして死ぬまでの夢だ。内容は……内容は気分が悪いじゃ済まねぇ。はっきり言って反吐が出る。もしかしたら、このときは少し同情めいた感情が出たかもしれねぇな。それと後悔もした。女の死は自殺じゃなかったんだ。その時初めて問いかけた。

    「あんたの望みは何だ?」

     彼女は微笑むと、ある名前を告げて消えた。





     この後は、知合いにも協力してもらって解決した。――おう、あの時は世話になったな。おかげであんまり時間をかけねぇで例の男を見つけることが出来たぜ。同名の人間は五人いた。赤ん坊と老人を除けば三人。そこまでわかれば居所を見つけることは簡単だ。見つけた時はマジで安心したな。
     ……夢の中とはいえ、毎晩知らない男に殺され続けるだなんて、たまったもんじゃねぇよ。
     あん? それでどうしたか、だと? 警察? ……何の証拠も無いのにか? はん、復讐なんてするわけねぇだろ。それは俺の役目じゃねぇよ。実は、何故か捨てたりクリーニングに出すこともなく、そのまま持ち続けていた物があったんだ。……ほら、彼女の血が付いたジャケットだよ。結構高かったのに勿体ねぇけど背に腹は代えられねぇし。
     それを箱に詰めていたら、久し振りに彼女が目の前に現れた。小包の宛名に男の住所と名前を書いたのを見せると、嬉しそうに笑って、

    「ありがとう」

     礼を言って空気に溶けるように消えていった。それ以来、彼女の姿は一回も見てねぇ。……正直に言えば、その微笑が一番恐ろしいと思ったな。その日一日、鳥肌が治まらないほどには。
     恨みも憎悪も、彼女をおっかないものに見せていた。だからその時初めて、彼女が別嬪と気付いた。何でだろうな? 歪んでも狂った笑みでもなく、純粋に嬉しいと笑った、その顔が本当に恐ろしかったんだ。





     この話はここでお終いだ。後日談がなくて悪ぃな。だからって、その後の男がどうなったかなんて、俺は知りたくねぇし。神に与えられた富はいつか神に返さなけきゃいけねぇんだから、恨みだって本来向ける相手に返すべきだろうが。因果応報ってやつだよ、当然だろ? ……今度こそ、宛先を間違えずに届いたらいいんだけどよ。





     青年が語り終えると、ジャケットを羽織った肩がふるりと震えた。

    ←前のページ 現在 1/1 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 ライトノベルの人気作品

    続きを見る