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シリーズ:過去れぽ♪
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過去れぽ♪

作者:乃之鹿裡 -sikari-

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    僕の母が突然、怪行動を起こしたけれど、どうやらそうなるように意図した者がいるようだゾ!!


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    過去れぽ♪ 7926文字

     

     あの時、母が食卓に並べた料理に僕は焦った。
     カブトムシの幼虫のステーキ。
     カブトムシの成虫の空揚げ。
     刻んだカブトムシの炊き込みご飯。
     白い皿の上。黄白色の表面に焦げ色を付けた節だんごがころころと。食欲ソソル艶めくステーキソースがこの時ばかりは悍ましい。まるでカブトムシの幼虫の血液が流れ出しているように見えなくもない。見たくもないし。瑞々しい黄緑色のレタスの上で乾き切った黒い死体が転がっている。立派な角を持つ雄の形があれば、フンコロガシを巨大化させたような形の雌もある。もしもそれを歯で砕いたとしたら、カシュカシュと身の毛もよだつ粉砕音が身体中に纏わりつくことだろう。そして極めつけは炊き込みご飯である。蒸らして柔らかく膨らんだ水死体のようなカブトムシ。その成虫と幼虫の残骸は、ちょっとどころではなくヤバイ。魅惑の香りを運ぶはずの白い湯気が、地獄の瘴気にしか思えない。
    「う〜ん、良い匂い」
     電子ジャーの中身をかき混ぜ、瘴気を顔面にぶつけながら母は満足げに言う。そして僕に同意を促すかのように、チラリと視線を向けて微笑んだ。その一秒を一万枚にコマ割りして引き延ばしたような、ゆ       っ       く       り、とした母の微細極まる挙動が、僕の目に焼き付つく。
     幼虫の大群が僕の背中を覆い蠢いているかのように、背筋がじんわりゾクゾクとした。

     僕は家族と一軒家に住んでいる。
     父の仕事について詳しくは知らないが朝早く家を出て夜遅くに帰ってくる。中肉中背で特段不細工というわけではない。が、残念ながら頭部が不自然に禿げてしまっている。経年とともに勝手に抜け落ちたというよりも、誰かに引き抜かれたようにところどころ斑になっているという感じだ。相俟って迫力に欠ける見た目である。
     二つ年下の弟は常に伏し目がちで大人しい性格をしている。おどおどした感じがする。左手の親指、人差し指、中指の爪がない。本来爪のある部分を斜めにばっさり切り取ったような傷口があって、今は塞がっている。
     そして母を含めた四人。
     弟に甘いところなんかも含め、母は世間一般的な母親と相対して、特に変なところはない。と思う。そこそこ子育て、そこそこ料理、掃除洗濯これ皆気分次第。電話越しで盛り上がるネタといえば父の愚痴。昆虫爬虫の類は嫌いで、その頂点はG。
     当然、カブトムシを御馳走だとは思っていなかったはず。僕が、これまでの人生でカブトムシ料理を食した経験の記憶がないことからも確かなことだ。
     要するにこれは、唐突に脈絡もなく発現した、前後関係が符合しない怪行動。
     つまり、僕が母に対してまた《アレ》をやってしまったということなのだろう。
     ともかく僕は何がどうなってこうなったのかを確かめるために自室へと戻った。
     机の鍵付きの引出し。
     そこに過去の僕と現在の僕を繋ぐレポートを記しておく手筈になっているからだ。
     
    【二〇××年八月二十一日PM.4:00】
    経緯;弟が塾に通って日々勉学を怠っていないことを天秤にかけ、厭味を言ってきたことへの代償。
    方法;母の大切な時間、大切なティーカップに土を盛りカブトムシの幼虫を入れる。それを紅茶を飲む挙措と同じように口を付けるところまで。以上、間違いなく完遂。

          ※※※
     経験は肯定されて発現する。
     まるで『失敗は成功の元』という言葉が真実であることを示すかのように。
     常識的な失敗経験に限らず、非常識的な失敗経験までが、常識的に有り得るかのような整合性を以って発現してしまうのだ。だから、当然のように非常識の整合が保たれるため、他のどこかが歪む。
     カブトムシを御馳走だ、と思い込むという世界観を母が持ってしまったように。
     これが僕の能力の一つの特徴だ。
     母の場合、元々大切な時間に大切なティーカップで紅茶を楽しむ、という常識があった。そこに土とカブトムシの幼虫を入れて楽しむ、という非常識的経験を僕が与えてみた。正確に言えば、僕が実体験した記憶を母の記憶として転移させるような感覚。その記憶は母のモノとして肯定された形となって行動に現れる。これにより有り得ないはずの怪行動を極日常的行為とすることができる、すなわち本能レベルの人格再編をもたらしたわけだ。
     経験は人格形成を担う、というまさにである。
     さて。
     それとは別に、同時に僕自身にも変化を来す――――コピーではなく転移。すなわち、二時間半前の僕が経験したであろう『母親のティーカップに土とカブトムシの幼虫を入れて飲むフリ』という記憶は、僕にはなくなっているのだ。
     今の僕にはそんな行動をしたという過去がない。
     だから、たとえそれが僕の意図した結果であろうとも、母の怪行動を初見した瞬間、本当に驚いてしまうのであった。その不自然に突き付けられる驚きこそが僕が何かをやったのではないかと疑うヒントになるわけだけど。
     僕は時計を見る。
     レポートは二時間半前の僕が書いたもので間違いない。こうして記憶の補填が済んだところで、やはり母のカブトムシ癖の経緯が分かった。そうと分かれば次はカブトムシ料理を食べないで済むような経験を見繕わねばならない。
     考えならすぐに浮かんだ。特に難しいことはない。ごく日常的な経験を転移させれば良い。ゆえに『非常識⇒常識』という形の転移ではないため、母の人格に新たな再編が重ねられることもないはずだ。と想定する。
     とはいえ、一つ、弊害が考えられなくはない。
     僕の今から起こす行動により母は満腹感に包まれてしまう。そのため、今晩の食事は抜きになる。一夕の栄養補給を怠ったからと言って健康を害するということもあるまい。なので見過ごせる程度の些細な弊害だろう。
     と、思った僕はすぐさま行動を起こす。
     
    【二〇××年八月二十一日PM.7:00】
    経緯:今まさに直面しているカブトムシ料理の夕食を回避しなければならない。
    方法:とにかく部屋にあるありったけの飲食料を腹に収め『満腹になったばかり』という経験を繕う。以上、間違いなく完遂。

         ※※※
     そうしてほんの少し過去の僕は経験的記憶の転移を行ったのだろう。
     だからこそ僕はカブトムシ料理を食べることなく昨夜を乗り切っている。
     母は「もぅ、こんなにご馳走が残っているのに、ちょっと食べすぎちゃったみたいね」とお腹を擦りながら夕食をすでに食べたと思い込んだのだ。僕はそれに合わせて「僕も今日はなんかお腹がいっぱいで食べられない」と言えば良いだけだった。人は腹がはち切れそうなほど満腹になると、他人に食事を勧める気持ちも薄れてしまう傾向にあるのだ。まぁ食べ物のことは考えたくもない、という心理であろう。
     ただ、とはいえ、このあと悶着が全くなかったわけではない。
     僕の能力はあくまでも記憶を対象に植え付けるだけのことであって、物証やその周囲の人間の認識までをも都合良く改変できるわけではない。たとえば僕が本を万引きをして、店員に現行犯として見つかったとしよう。その瞬間に周囲の誰かに経験的記憶の転移をしたところで店員の僕が犯人だという認識は何も変わらない。また逆に万引きに成功した経験を弟に転移するとしよう。弟は万引きをしてしまった罪悪感を内に秘めることになり、僕はそんなことを全く知らない状態で、なぜか手に入れた経緯に全く心覚えのない本を手にしているのだ。のちにレポートを見て、なるほどこれは僕が盗んだものだ、と理解することができるわけだ。
     すなわち、カブトムシ料理は、仕事から帰ってくる父と塾から帰ってくる弟の夕食として、丁寧にラップをかけられて据え置かれてしまうのだ。
     だから、弟も父も、リビングのテーブルに座って一息ついた瞬間、驚き、不安を抱き、怒りを覚えるなどをする。
     当然、御馳走を用意していると思い込んでいる母は、全てを否定されたような気がして逆上する。母が真面目に怒れば怒るほど、父も弟も母の精神状態を大いに邪推し心配を募らせるようになる。
     母は顔を両手で覆い、父はおろおろと無作為にその場で歩いては戻ってを繰り返す。弟はその様子を目の動きだけで追っている。何にせよ、ものすごく鈍重で気まずい雰囲気である。

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    コメント

    •  初めは設定が難しくてお話を把握できなかったのですが、読み進めるうちに理解できてきて最後はすっと引き込まれていました。自分の記憶が自分のせいで曖昧になっていく。家族すら本当の家族かどうか分からない。得体のしれない不気味さが何とも言えない作品でした。
      • 2 fav
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    • こちらもお越し頂きありがとうございます。情報の出し方と謎の引き方のバランス感覚がまだまだ下手糞で、意識はすれどただ難解な書き方になってしまっているなぁという印象を自分でも持っています。だからと言って素直に順をおって書こうとしない捻くれ者なので困った奴です( ゚Д゚)ウー
      その辺の感覚の上手さもナマケモノさんの作品には見て取れるので羨望であります☆
      コメントありがとうございます(^^)/ 
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    • 鹿さんワールド全開で面白かったです。しかし頭の悪い私は途中で混乱状態に。あれ?未来がどれで過去はどれだ?ようするにそういうことなんですね。ああ、いつからだ。それも実は嘘なんだろうかって。夢に今度はカブトムシが出てきたら泣きますよ? うぇぇん。
      • 2 fav
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    • かにゃんさん、有難うございます♪ そうなんです。ワタクシも書きながら、ややこしいよコイツ、とか思いながら(笑) 
      夢にカブトムシ出てきちゃったらごめんなさいどえす('ω')ノ
      • 3 fav

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