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シリーズ:鈴の音
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鈴の音

作者:リトル

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    チリリン…
    どこからとも無く聞こえてくる鈴の音…
    その音に耳を傾けてはいけない…
    その音を聞くと…


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    鈴の音 7003文字

     

    チリリン
     首輪に2つの鈴を付けた黒猫がベッドから床に降りた。
     木造アパート2階の6畳間には、食べかけのパンや飲み終わったペットボトル、夏と言うのに出しっぱなりの冬物のコートや黄色のバッジが着いたスーツが散乱していた。
     チリリンと軽い音を鳴らしながら黒猫はゴミの上を、ひょいひょいと器用に歩き溜まって出来たゴミのベッドに横たわる男の顔の前で、ゆらりと座った。
     脂肪と浮腫みでパンパンに腫れた男の顔には垢が浮き、乾いた汗でマダラに塩が浮いていた。
     無気力に半分開いた目と口の端は涙やら涎やらが乾き目を逸らしたくなるような有様だった。そんな家主に興味無さそうにゴミ部屋と不釣り合いな絹の様な柔らかい毛の毛ずくろいを始めた。
    「ぁ‥‥ぅ…あぁ…ひ…と…を……」
     喉の粘膜が渇き張り付き声とも成らない、うめき声を男が上げると、猫は毛ずくろいを止め男の顔に近づき垢と油の浮いた男の頬に噛みつき肉を食いちぎった。クチャクチャと柔らかい猫缶を食べている時の様な音を部屋に響かせ男の顔を千切り、噛み、飲み込み、また千切った。
     男は声を上げず2、3度足をバタンバタンと床に叩きつけたあとは、細かく体を痙攣させ、やがて動きを止めた。

    そして部屋には男を貪る音だけが響いた。

    クチャクチャクチャクチャ…

    * * *

    「種島く〜ん、ご飯出来たよぉ。今朝はねぇ、コーンスープとバゲットだよぉ」
     朝の忙しさと対照的なのんびりとした声が台所から聞こえた。
     高校を卒業して何年もバイトだけでフラフラとしていた事を責められ
    実家を飛び出し5つ年上の彼女、黒潮 悠華の家に転がり込んで来て3ヶ月程が経った。
     仕事もしない自分を責める事無く迎えてくれた悠華の行為に最初は甘えていたが、そんな自分を責めるどころか
    「続けられる仕事を、ゆっくり探せばいいと思うよぉ?」
     何て言葉をかけられ、1ヶ月以上の就活の末小さな建設会社に入社出来た。
     朝は早く夜は遅いノルマのある営業と言うフリーターで楽々生活している時なら鼻で笑っていた仕事だったが、高卒で5年間フリーターをしていた自分を雇ってくれた事への感謝が勝っていた。

     朝食を口に運んでいると、自分よりいくらか朝が遅い悠華は寝間着姿でテーブルに肘をつき手に顎を乗せ、ぼんやりと半分眠ったような目で呟いた。
    「仕事初めて1ヶ月…毎朝早いのに遅刻しないですごいねぇ」
    「…朝準備してくれるからな…」
     話しかけていると言うより、独り言だったのかこちらの言葉には答えずおもむろに立ち上がり、アクビをかみ殺しながら再び台所に立った。

    「はぁい、お弁当。今日もがんばってねぇ」
     玄関で悠華から弁当を手渡された。ふわっとした柔らかい栗毛を手で
    撫でながら玄関に立つ姿を見ていると、ついこのままずっと玄関に立って居たい何て思ってしまう。
    「…いつも助かる」
    「いいのいいの。朝苦手だから、種島君が起きてくれると私も仕事遅れなくて済むからねぇ。
     でも、毎日偉いなぁ。普通は、こんな急に生活何て変えられないよぉ?」
    「いや…そんなことは…とりあえず行ってきます」
     最近の悠華の声はどうにも彼女が褒めてくれるものと言うより、就職したことを報告した母親の安心するような声を思い出し気恥ずかしくなる。かと言って、それは決して不快なものでは無く、どちらかと言えば心地いいもので朝から耳を赤くして彼女のマンションを出た。
    「そろそろ涼しくならないかな…」
     外に出ただけで額にうっすらとかいた額を拭い駅に向かった。

    「お!今日も就業30分前出勤か!若いのに感心じゃないか種島!
     今日も彼女に弁当作って貰ったか!?」
     駅から10分程歩いた築40年程の5階建ての雑居ビルの3階にある『営業課』と書かれた札の付いた扉を開くと、そのまま扉を閉めたくなる様な声を朝一で浴びせられた。低血圧とは無縁そうな中年の上司である島本が、人懐っこい笑顔をこちらに向けていた。事務所は島本一人で暇を持て余していたのだろう。
    「えぇ…おはようございます」
    「そうかそうか!しかしもう1ヶ月かぁ…面接の時は不愛想だし目怖いし、どうしようかと思ったけどやっぱり俺の目に狂いはなかったな!
    元ヤンキーのフリーターだから根性あるね!こうも朝が早くて…」
    「ゴミ捨ててきますね」
    「忙しい仕事だけど、この調子でこれからも頼むよぉー!
     結婚式は俺にスピーチさせてくれよぉ!」
     島本の言葉から逃げるように事務所のゴミを集め足早に出て行った。

     人で溢れる終電を降りて静まりかえった夜道を一人歩いていた。
     時計を見ると既に12時を回っており、悠華はもう寝ているだろうなとボンヤリと考え、悠華の待つマンションに着いた。

    チリリリン…

     どこからともなく鈴の音が聞こえた。いつも通る住宅街だが、風鈴の音を聞いたことは無く見回しても、車が辛うじて対向出来る程度の狭い道に自分以外の人の姿は無かった。
     原因の分からない鈴の音が、どこか不気味に感じ、鞄を抱え足早にマンションの階段を上った。

    チリリリン…

    * * *

     就職して直ぐに任された商談が難航し日曜さえも丸1日休みが取れない日が続いていたが、何とか話がまとまり就職して2ヶ月がたち初めて悠華と2人で過ごす休日を迎えることが出来た。
    初任給も出たので日帰り旅行をしようと提案したが「貰ったお金全部使わないで、貯金をしなよ」と珍しく語尾が伸びない言葉でピシャリと断られてしまった。
     近所のデパートまで歩いて初任給で一番の買い物は家で使うコードレス掃除機になった。
     内心「もっと思い出に残るものにしたかった」と思っていたが、掃除機を選ぶ無邪気な悠華の顔を見ていると、自分の思いがどうも子供っぽく思い言葉を引っ込み、嬉しそうな「どの色がいいと思かなぁ?」と言う問いに思わず口元が緩んだ。
     悠華は吟味に吟味を重ね掃除機を選び、カフェで昼食を済ませ帰路についた。
     掃除機を抱えて悠華と並んでマンションに向かっていると、悠華が何かに気を取られた様で立ち止まり道の隅に視線を止めた。

    チリリリン…

     悠華の視線の先には1匹の黒猫が居た。その黒猫は、所々毛が剥げて目には目ヤニがたまりお世辞にも綺麗と言えず、直視していると思わず眉間にシワを寄せた。
     更に黒猫は3つも鈴を付けた真っ赤な首輪をしており、小汚さからくる嫌悪感だけでなく子供の頃祖母の家で初めて日本人形を見た時の様な拭い切れない不気味さを思い出した。
     整理出来ない恐怖が、コップの水に落とした墨のように黒い感情が広っていくのが手に取るように分かった。
    「首輪付いてるし飼い猫だろ?早く帰ろうぜ」
    「えぇ〜かわいいじゃなぁい」
     黒猫と同じ空間にいるのに耐えられず悠華に声を掛けたが、悠華は対称的に目をキラキラとさせ小汚い黒猫を見つめていた。種島には、その目が掃除機を選んでいる時より輝いている様に見え猫に対して子供っぽい嫉妬心まで芽生えてきた。
    「首輪付いているけど、きっと飼い猫じゃないよ?うちで飼っちゃおうかなぁ?」
    悠華が上目遣いで、こちらを覗き込んできた。
     いつもより甘えた声にシワが寄ってた眉間の力は緩み頭がスッと軽くなった。
     だが、住んでいるのは彼女のマンションなので自分に拒否権が無いことや、やっとの思いで取れた休日で見た一番の笑顔が自分では無く猫に向けられたものであることや、そんな事に苛立つ自分への嫌悪感やらで、一瞬空(から)になった心は何とも情けない行き場のない感情で満たされてしまった。
    「いいんじゃない?俺の家じゃなくて悠華の家なんだし、別にペット禁止のマンションでも無いしさ。先に戻って猫の場所作っておくから、ペットショップで色々買って来たら?」
     悠華の返事を待たず、抱えていた掃除機を持ち直しマンションへと足を向けた。
    後ろから声を掛けて追いかけて来てくれる事を期待したが、しばらくすると駅の方へ歩いて行く人の気配を感じて首をガックリと落とし、一人マンションの階段を上っていった。

    * * *

    チリリリン

     いつしか目覚まし代わりになっていた悠華の声は、拾ってきた猫の鈴の音に変わっていた。
     朝食は昨晩の内に夕食と一緒に用意してくれており、鍋の中で冷えた味噌汁に火を入れ冷蔵庫で冷たくなったゆで卵を取り出し台所で塩を振り齧った。

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    作者紹介

    • リトル
    • 作品投稿数:1  累計獲得星数:
    • TRPGのシナリオ作成や小説などを書いております。
      文字のお仕事がありましたら、ご連絡下さい。

      執筆ジャンル:ファンタジー、ホラーなど
    • 関連URL
      twitter:https://twitter.com/littole1126

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