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シリーズ:■彼女と失くしたハッピーエンド
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■彼女と失くしたハッピーエンド

作者:Hiro

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    余命三ヶ月の美人な彼女と、つき合いだして数ヶ月しかたっていない彼氏の、ほんのり悲しげなお話です……たぶん。
    喜んでいただければ幸いです。
    ご感想・ご指摘などはお気軽にどうぞ。

    ※読者様には自由な想像をしてもらいたいため、一部ご回答できない質問もありますが、ご了承ください。


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    ■彼女と失くしたハッピーエンド 7896文字

     

    「うん、うんん、う〜ん♪」
     短い黒髪をヒョコヒョコとはずませさせながら、彼女――汀美咲(みぎわみさき)は秋晴れの動物園を歩む。
     元高校生でありながら、園児のよう陽気さに違和感はあるが、それはそれで微笑ましい。彼女は僕の手をとると次の檻を目指す。
     初々しい高校生カップル。
     ある事情が欠落していれば、そんな風に見えたかもしれない。
     でも僕らの事情は簡単に失くせるようなものじゃなかった。
     故にいまも異世界より迷い込んだ魔物のような嫌悪感を向けられている。
     周囲の圧力に気後れしながらも、僕はそれに気づかないフリをし、無理矢理に口の両端をあげる。
     全盛期に比べいささか雰囲気が変わったとはいえ、汀美咲はまだ十二分に可憐な少女だ。
     そんな彼女が見も知らぬ来場者たちから嫌悪される理由。それは顔の下半分を覆い隠す、真っ黒な革製のマスクにある。
     それは彼女の発声を阻害するだけでなく、彼女がゾンビであることを周囲に警告していた。

    「ウィルス性ゾンビ病?」
     それまでニュースでしか耳にしたことのない奇病は、僕に現実感というものを与えてくれなかった。
    「ゾンビ病は感染してもすぐに死ぬ訳ではありません。ですが、ウィルスは感染者のDNAを浸食し、別のものへと書き換えます」
     疲れた感じの医者は淡々と説明をはじめる。
    「病状が進行するほどに、知能は減退し幼児退行と似たような行動をとります。またそれに反比例するように筋力が格段に増大します」
     未発達な精神に、強力な力。それは介護者にとっても脅威である。
    「そして感染から3ヶ月目を迎えると、感染者を完全に別の存在……ゾンビになってしまいます」
    「ゾンビ」
    「ええ、強靱な力を振るい、人間の血肉を求めて襲うようゾンビです。ですから……」
     僕を見据えた疲れた目はそれが最善であると告げる。
    「汀美咲の早期尊厳死をお勧めします」と。

     提案を拒否すると、医者は「そうですか」と短く言っただけだった。
     危険性を考えれば、熟考するよう説得されると思ったけど、「隔週の検査だけは怠らないように」と厳命されたくらいだ。

    ――ゾンビ病は治らない
     それはめったにない奇病の共通認識だった。
     しかし僕はその常識を打ち破るため、ゾンビに関連するありとあらゆる情報を漁りむさぼった。
    『ゾンビは危険だが、初〜中期段階で発覚するので、適切な処置を行え事件に発展しない。故に、ゾンビ病患者は医師が危険と判断するまでの生存権を認められる。ただし介護者が患者の尊厳死を求めるケースも多々ある』
    『ゾンビに噛まれたものは100%ゾンビ病に感染するが、それ以外にも道の感染ルートが存在する』
    『年に5〜10人程度の感染が報告され、その分布や対象に規則性はない。また人種に関係なくほぼ3ヶ月でゾンビとなる』
    『症状が進むと次第に身体から甘い香りが漂う』
    『食事をしなくとも2週間以上の活動が可能。その事から栄養補給以外の理由で人間を襲うのではと言う学説がある』
     いくら、情報を集めても、肝心のゾンビ病の治療法だけはみつからなかった。

     無力感に打ちひしがれた僕が、美咲とともに三回目の検診に訪れると、彼女の顔の口を完全に塞ぐ、強靱なマスクがつけられていた。これでは食事はおろか、発声もろくにできない。
     いくら食事が必要なく、言語能力が低下しているとはいえ、これはあまりにひどい。だが、これなしでは社会に受け入れてもらえない。
     そして感染からすでに1ヶ月半が過ぎ、彼女との時間が既に半分も消化してしまった事に遅まきにきづく。僕は根拠のない夢でただ時間を無駄にしただけだった。
    「不便でしょうが我慢させてくさい。それがルールです」
     医者がマスクの機能を説明する。僕はそれに不満を覚えながらも、彼女と暮らすためだと無理矢理自分を納得させた。
    「そんなに気に入らないのでしたら、外してしまってもかまわないのですよ?」
     医者は気楽に言う。そして、「もちろんその時は……」と、利き腕で首を切るような仕草をしてみせた。

     以前の汀美咲は艶やかな黒髪を腰まで伸ばしていた。
     成績は常に上位で生徒会の会長。当然のように美人で人徳も厚い。そして校内の誰もが彼女に憧れ、僕もその内のひとりだった。
     やがて憧れは恋慕へと昇華し、玉砕覚悟の告白に僕は踏み切る。
     屋上に呼び出された彼女は、戸惑いをみせたが「ここで断ったら飛び降りちゃいそうだから」なんて理由で、差し出された手を握り返してくれた。
     後日、デート中に「告白を受けた理由は他にもある」とほのめかしてたけど、僕がそれを教えてもらう機会はいつの間にか失われていた。

     二人でアパートに帰ると美咲を残し、ひとり浴室でへ向かう。
     代謝の落ちた美咲にはシャワーは不要だが、ありあまるパワーに引きずり回された僕はそうはいかない。脱いだシャツが想像以上に汗を吸っていた。
     古い湯沸かし器につながったシャワーは、なかなか適温の湯を出してはくれない。それでも辛抱強く待っていると、背後から冷たい空気が混じり込んできた。
    ――戸がちゃんと締まってない?
     振り返ると、そこには白い肌をさらした美咲が立っていた。医療機関以外で外せないマスクは着用したままで、一応タオルももってはいる。でも同年代の子らよりもしっかり育った身体を隠す気はないようだ。
     退行とともに羞恥心も薄れているのだろう。むしろ、僕の方が恥ずかしいくらいだ。
    「なんで、こんなせまいとこに……」
     目をそらしつつ言うと、美咲は手にしたタオルを僕にこすりつける。それは彼女なりのお礼なのかもしれないが、力加減の下手な彼女にやられては生皮がはがされかねない。
     どうにか洗いっこをあきらめさせると、彼女を浴槽の中に座らせる。僕もその隣に肩を合わせて座った。
     不思議とこういう体勢になると美咲は大人しくなる。だが、彼女は不意に大きな声をあげだした。
    「ん〜ん、ん〜んぃ、あ〜ん、い〜い、お〜お……」
     それが数をかぞえていると気づいた僕は、苦笑しながらも浴槽に湯を張りはじめた。
     寄り添う彼女の体温は低かったものの、チョコレートみたいな甘く香ばしい匂いが伝わってきた。

     風呂から出て、身体を拭いていると、ピンポーンと安っぽいチャイムが鳴った。
     夜間の来訪者を不吉に思うも、扉に近づき「どなたですか?」と尋ねる。
     すると「お兄ちゃん、あたし……」と、2ヶ月近くも聞いていなかった妹――亜矢の声が僕を動揺させた。
    「入れて。大事な話があるの」
    「話ならこのまましてくれ」
     冷たい空気にさらされている実妹を不憫に思いながらも、努めて厳しい言葉を返す。
     亜矢は僕に美咲をあきらめさせ、実家に連れ帰らせたい。中に入れたところで結果は見えている。
    「いいのそんな事言って? あたしがここで大声で話せば、その人は周りからどんな目で見られるかな?」
     辛辣な交渉術に、僕は苦虫を噛んだ気分になった。
     既にマスクを着用している以上、ゾンビ病であるのは周知の事。それでも容認されているのは、以前の彼女の地域貢献度と、今も大きな迷惑はかけていないからだ。そこには母親に逃げられた娘への同情も含まれてるかもしれない。
     それでも人間が寛容になれるのは自らに危険がない時だけだ。
    ――逃げられないか
     観念した僕は薄いベニヤの扉をあける。すると少しだけ背と髪の伸びた妹が真剣な顔で僕を見上げていた。

    「昨日、定期検診に行かなかったでしょ。今日、病院からウチに電話があったわ」
     やはりその事か。眉間に皺が寄るのを自覚する。
     いずれ忠告なりなんなりを受けるだろうと思ってたけど、予想以上に早い。それも直接僕にではなく、実家の方に手を回すなんて……。
    「どうして検診に行かなかったの?」
    「たまたまだよ。体調が悪くて……、病院には連絡しようとして、その……忘れた」
     苦しい嘘だ。
     本当は美咲の進行が早いと前回の検診時に言われたことが気になった。まだ時間的猶予はあるハズだがそれはあくまで予測にすぎない。
     医者の見立てが当たれば、次の検査日が彼女の命日になりかねない。それを考えれば病院への足は遠のく。
     だが、僕の吐いた浅い嘘は予想しない方向へと飛び火した。

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    コメント

    • 2~3万文字案件だったかなぁと反省中。
      推敲不足は、時間不足です(涙
      あとは、ラストバトルが本当に必要だったのか、作者的に判断できません(汗
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