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シリーズ:猫と人魚
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猫と人魚

作者:ナマケモノ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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     肉屋の軒下に、猫がぶら下っている。まるでその光景はテルテル坊主のようにも見えて滑稽だった。この猫たちは人魚の肉を食べた猫たちだ。僕の母さんを食べた猫たちだ。
     そんな猫の肉を、肉屋の主人である父さんは今日も威勢良く売っている。
     猫たちの肉を食べると、どんな病もたちどころに治るというのだ。そんな訳で、父さんの肉屋は今日も大繁盛していた。


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    猫と人魚 7340文字

     

     肉屋の軒下に、猫がぶら下っていた。
     生きた猫が首に縄を付けられて、横一列に吊るされているのだ。ぶらぶらと揺れる猫は、どことなくテルテル坊主のようだった。
     にゅうにゅうと猫たちは苦しげに呻き声をあげている。
    「雉虎の肉、200gっ!」
     肉屋の前に群がる客が声をあげる。
    「ヘイ、雉虎200g了解しましたっ」
     肉屋の店主は威勢よく声をあげ、肉切り包丁を手に持った。軒下に吊るされた雉虎に彼は容赦なく包丁を振り下ろす。
     猫の悲鳴が周囲にあがる。どすりと猫は片足を切られ、そこから大量の鮮血を流していた。傷口から見える白い骨が何だか痛々しい。
     けれども次の瞬間、僕の眼の前で信じられないことが起こった。
     にゅるりと切断された猫の骨が生えたのだ。その骨の上に桃色の筋肉が生え、痙攣する血管が傷口から伸びていき、灰色の皮膚がそれらを覆っていく。剥げた皮膚にはあっという間に毛が生えて、猫の足は元通りにもどっていた。
     おぉお!!
     肉屋の客たちが歓声をあげる。主人は粛々と猫の足を紙袋に詰め、客に渡した。
    「どうもっ!」
    「毎度ありっ! 健康な日々を過ごせよっ!!」
     威勢よく去っていく客に店主は声をかけていく。
    「三毛猫40g!!」
    「鯖虎150g!!」
    「ブチ60g!!」
     客たちが口々に注文を口にする。あぁ、待って待ってと主人は大声で告げながら猫たちに肉包丁を振り下ろす。
     猫たちの悲鳴があがる。切られた猫たちの体が瞬く間に再生していく。その様を見て、客たちは歓声を上げ、注文を大声で主人に告げる。
     この古びた漁村で見られる日常風景を、僕は道の端からじぃっと見つめていた。
     雉虎がこちらを見つめてくる。まんまるな黒瞳を潤ませ、猫は僕に視線を寄越してきた。
     なぁ、なぁ。
     悲しげに猫が鳴く。僕に甘えて助けを求めてくる。
     僕はその声を無視して、猫から顔を逸らした。視界の隅で悲しげに瞳を歪める猫の姿が飛びこんでくる。
     そんな猫の視線から逃れたくて、僕は逃げるように駆けだしていた。
     

     この漁村は健康長寿の村として名高い。その理由は肉屋で売られている猫の肉にある。
     あの猫たちは、人魚の肉を食べたのだ。僕が生まれる前、この村の砂浜に人魚が打ち上げられたことがあった。
     食べれば不老不死になれるという人魚の肉。村人たちは人魚を食べようと思ったが、浜辺に住んでいた猫たちに先を越されてしまう。
     それによって猫たちは不死の体を手に入れた。村人たちは浜辺の猫を恨んだ。そして思ったのだ。不老 不死は得られなくとも、猫の肉にもなにかしらのご利益があるかもしれないと。
     村人たちの思惑は当たった。猫を食べれば仕事の疲れだって、難病だってたちどころに快癒してしまう。村人たちはたちまち健康になり、その評判は近隣の村にまで広まっていった。猫の肉を取り扱う肉屋の前には連日人だかりができる始末だ。





     夕方になると、肉屋は店仕舞いを始める。僕は脚立に乗って、軒下に吊るされた猫たちを下している最中だった。
     肉屋で売られている猫の世話をすることが僕の仕事だ。この肉屋を営んでいるのは僕の父さんなんだから。
    「いやぁ、今日も今日とて肉が飛ぶように売れたぞ、息子よっ!」
     まな板を井戸水ですすぎながら、父さんが声をかけてくる。僕が顔を向けると、父さんはにっと豪快な笑みを顔に浮かべてみせた。何だかその笑みが無性に腹立たしくて、僕は父さんから顔を逸らす。
    「どうした猫太っ!? まだ猫の肉を売ることに不満があるのか? こいつらは、母さんを……」
     僕が抱きしめる雉虎を父さんはじっと睨みつける。僕の腕の中で雉虎はびくりと身を震わせた。
     この村の浜辺には、かつて人魚が打ち上げられた。そしてその人魚は人間の男と所帯を持ったのだ。
     その人魚が僕の母さん。父さんは浜辺に打ち上げられた母さんを匿い、面倒を見ていたのだ。母さんは酷い怪我をしていたという。父さんが甲斐甲斐しく世話をするうちに2人の間には愛情が芽生え、僕が生まれた。
     母さんは人間に化けて父さんの妻になった。僕を育てながら2人は幸せに暮らしていたのだ。
     村人たちが母さんの正体に気がつくまで――
    「ほら、さっさと猫たちを仕舞えっ! 帰るぞっ」
     肉包丁を研ぎながら、父さんが僕に苛立った声をかけてくる。僕は力なくうなだれ、雉虎を小さな檻の中に入れる。檻の中では、窮屈そうに他の猫たちが体を丸くしていた。
    「にゃぁ!!」
    「ごめんね……」
     嫌がる雉虎を檻に詰め、僕は力なく言葉を発する。
    「謝る必要がどこにある……」
     父さんが僕の声に応える。父さんの声は怒りに震えていた。



     
     漣の音がして、僕は眼を開けていた。潮風にトタン屋根がキィキィ音をたてている。その音に驚いたのか、僕の周囲に寝そべっていた猫たちが顔をあげた。
     ここは浜辺に建つ僕の家だ。小さなトタンでできたこの小屋は、風が吹くたびに寂しげな音を鳴らす。
     僕は体を起こす。閉ざされたベニヤ板の窓からかすかに月光が漏れていた。僕は窓へと向かう。
     猫たちも、そんな僕に続いていく。窓を開けると、部屋が蒼い光で満たされた。
    「わぁ……」
     窓外に広がる光景に、僕は声をあげていた。凪いだ海に眩い満月が映りこんでいる。海に移りこむ満月は、虹色の輪光を周囲に広げていた。ぽんっと窓枠に雉虎が跳びあがってくる。雉虎は喉を鳴らしながら、海を眺めていた。
     なぁー。
     雉虎が鳴く。それにつれられて、床にいた猫たちも窓辺へと集まってきた。
     なぁー。なぁー。なぁー。
     猫たちは、海に向かって鳴く。まるで、助けを求めるかのように。
     その鳴き声に導かれるように、海に変化が生じた。
     小さな波紋が海面にいくつもいくつも現れたのだ。やがて海面から人影がちらほらと姿を現す。
     人影は、猫たちの声に呼応するように美しい歌声を奏でみせた。高い音程を保ちながらも、重い調子の歌は悲しい鎮魂歌だった。
     村人たちに殺された、母さんに捧げられる歌。こちらにおいでと、僕に囁きかける誘惑の歌。
     彼女たちは、母さんの姉妹だ。僕の叔母にあたる彼女たちは、歌を通じ海に戻っておいでと僕にメッセージを送ってくる。
     こちらにおいで。こちらにおいで。
     そう彼女たちは僕に囁きかけてくる。
     でも僕は、彼女たちに返事を送らない。そっと後方へと振り向き、僕はその理由を見つめる。
     父さんが体を起こして僕を見つめていた。
    「お前も、向こう側に行きたいか?」
     寂しげな父さんの言葉に、僕は首を横に振り応えた。
     たしかに母さんは海からやって来た。でも、僕が生まれたのはこの陸地にある村なのだ。
     たとえ村人たちが、母さんが死んだ原因を作ったとしても――
     それに家族である父さんを置いて、母さんの故郷になんていけない。
     そっと僕は窓を閉じる。窓枠に乗っていた雉虎がぴょんと床へと着地した。
    「おいで、猫太……」
     父さんが僕を呼ぶ。僕は父さんの胸に跳び込んでいた。父さんの胸に顔を埋めると、かすかに血の香りがする。
     猫たちの血の香りが――
    「お前は、どこにも行かないよな?」
    「うん……」
    「ずっと、ここにいてくれるか?」
    「馬鹿な父さん。僕は、ずっとここにいるじゃない」
     顔をあげ父さんに微笑みかける。父さんはくしゃりと顔を歪めて、僕を抱き寄せて来た。
     母さんが死んでから、父さんはときおり僕に問いかけてくる。どこにも行かないよなと不安げに僕に尋ねてくる。
     父さんの体が震えている。その震えを止めたくて、僕は父さんを抱きしめていた。
     母さんが死んでから、父さんは僕がいなくなることを極端に恐れるようになった。
     村人たちが密かに話し合っているからだ。
     人魚の血を引く子供を食らえば、不老不死になれるのではないかと。
     そんなことはない。こいつを食べても猫の肉のようなご利益は得られないと父さんは言う。俺が確かめたから本当だと笑いながら。
     父さんが僕にそんなことをするはずがないのに。
     そして父さんは、僕に手を出さないことを条件に猫たちの肉を村人たちに売り始めたんだ。
     母さんは殺される寸前、猫たちに自分の体を食べさせた。そんな猫たちを父さんは今でも許せないみたいなのだ。
     猫たちは、母さんの言うことをきいただけなのに。

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