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シリーズ:黒蟲
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黒蟲

作者:能上成之

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    居酒屋で出会った男は、「きょうは最高の日なんだ」と語り始めた――


    登録ユーザー星:6 だれでも星:0 閲覧数:141

    黒蟲 5396文字

     



     登也は行きつけの居酒屋でひとり飲んでいた。
     周囲のテーブルには数組のグループがいて、みな上機嫌に飲み食いしている。
     せめて彼女でもいたらなあ、と思う。
     でも、それはそれでイタリアンとかフレンチとか予約しなきゃいけないんだろうし、そういうの面倒くさいなあ。
     って、こんなんだから彼女できないんだろ、オレっ。
     そう自嘲しながらオムレツに箸を伸ばす。中身はポテトサラダ入りだ。この居酒屋ではじめて口にして好物になった。
     舌鼓を打っていると、さっと動く黒いものが目の端に映った。オムレツを口に含んだままとっさに首を向けると、床の隅を走る黒い虫がテーブルの影に隠れた。
     えーっ。まさかゴキ?
     今までこの店で見たことはなかったが、いないとは限らない。
     幻滅しながら視線を上げると、同じくオムレツを頬張る男と目が合った。お互い照れたように軽い会釈を交わす。
    「いらっしゃっせー」という店員の威勢の良い声がして数人の客が入ってきた。カウンター席しか空いておらず、迷っているように見える。
     するとさっきの男がオムレツの皿と酎ハイのグラスを持って立ち上がった。その客たちに席を譲り、登也のテーブルに移ってくる。
     客たちは口々に礼を言うとテーブル席に落ち着いた。
    「すみません勝手に相席しちゃって」
     男が登也の顔色を窺った。
    「構いませんよ。ひとりでテーブル席陣取ってるのも気兼ねするし、逆によかったです」
     登也が笑うと男も目尻を垂らした。
     和田と名乗った男は出張でこの町に来たという。近くのビジネスホテルにあさってまでいるらしい。
     年齢がほぼ変わらず、意気投合して話が弾んだ。
     人がよさそうで屈託のない和田を幼なじみぐらいに感じ始めた頃にはだいぶ酒が進んでいた。
     こういう優しげな顔は女にモテるんだろうなあ。仕事にも有利でいいよなあ。
     睨んでもいないのに「その目は何だっ」と、上司からよく怒られる登也はうらやましく思った。
    「――というわけなんだよ。ねえ聞いてんの?」 
    「えっ、ああ、聞いてる。聞いてる」
     登也は慌てて言いつくろい、煮魚をほじくった。
     急に和田が顔を近づけてきた。
    「俺さ、きょうは最高の日なんだよ」
     と、ひそひそと酒臭い息を吐く。
    「えっ?」
     登也は顔を上げた。
    「どうしよ。話しちゃおうかなあ。ねえ聞きたい? というか聞いてくれる?」
    「お、おう。いいよ」
     その返事に和田は顔をほころばせ語り始めた。

     俺の入った部署には女子社員が五人いてね。
     その中にお局様と呼ばれている女性がひとりいたんだ。
     隆子っていうんだけど。
     その隆子にどういうわけか気に入られてしまってさ。
     いいなあって顔しないでよ。その逆なんだから。ま、聞いて。
     で、先輩にそのことを相談したんだけど、おまえが気のあるそぶり見せたんだろうって、笑って取り合ってくれないんだ。そんなことまったくなかったよ。自信もって言える。
     だって、十五から上の人だよ。ふつうは興味持たないでしょ。すげえ若く見えるとか、ふるいつきたくなるような美人とかなら別かもしれないよ。それにその人、実年齢よりも老けてたからなおさらだよ。
     おっと、そうだね。あんまりそういうこと言っちゃまずいよね。やっぱ。
     まっ、とにかく、俺からはなんもしてない。向こうから気持ち悪い色目使って近づいてくるんだ。
     で、耐えきれなくなって、ある日「困ります」って言ったらあからさまに不機嫌になってさ。それが俺にならいいんだよ。嫌われるほうがよっぽどいいさ。
     けど、女子社員たちにすげえ八つ当たりするんだ。俺の立場、激やば。女子みんな俺を睨むんだよ。こっちの気も知らないでさ。
     もうどうしていいかわかんなくて、ついに会社を休んでしまったんだ。具合悪いって電話したら上司があっさり許可してくれたよ。前日までほんとにひどい顔色してたから。二、三日休めって言ってくれた。
     その日は身も心も軽くなるの実感したよ。でも今度は会社に行くのが怖くなってさ。
     で、なんもやる気起きないし、夕方までぼんやり寝転んでたんだけど、マンションの廊下からカッカッカって響くヒールの音が聞こえてきてね。その瞬間、冷や汗がぶわって噴きだしてきてさ。
     思わず息止めて玄関のほうを見たんだ。そしたら玄関のドアノブがガチャガチャガチャってむちゃくちゃ回り始めて――
     そう、正解。
     あの女、俺の部屋まで来やがったんだ。もちろん居留守したさ。出るわけないだろ。でもな、ドアを激しく叩くわ、壊れるほどノブを回すから怖いのなんのって。やっぱり異常だなっていうのが改めてわかったよ。
     うん。しばらくしたらあきらめて帰った――
     で、もうマジで会社辞めよう、ここ引っ越そうって決めて、相談してた先輩に電話したんだ。
     でもさ、「せっかく入った会社なのにそんなことで辞めるな」って諭されてさ。もう我慢できないし、どうすりゃいいのって俺半泣きだよ。
     そしたら先輩、「その女、お前に彼女いないから押せば何とかなると思ってんだろ。お前押しに弱そうだし。だから彼女作れ。そうすればあきらめるぜ」って。
    「簡単に言わないでくださいよ。作れるくらいならこんな苦労してませんよ」
     でしょ? 
     そうべそをかいたら、なんと「彼女を紹介してやる」って言われて。その夜のうちに先輩の家で会うことになったんだよ。
     先輩の奥さんの後輩でりっちゃんっていうんだけどスゲーかわいくて、向こうも俺のこと気にいってくれてさ。
     で、隆子の話をしたら、休んでる間うちに避難してきなよってまで言ってくれて。
     こうなったら隆子さまさま。おかげで彼女できたよ。
     んっ、いやいやなんもしてないよ。そんなすぐには。ホントだよ。うらやましいって? うん。まあね。フフフ――
     りっちゃん、最高だよ。俺にはもったいないくらい。かわいいだけじゃなくて気が利くし、家事が得意で料理も上手い。
     俺は元気取り戻して会社に復帰した。上司や同僚に、恋人が看病してくれたんだって大声で自慢したよ。もちろん隆子に聞かせるためだ。
     そしたらさ、あいつどうしたと思う? 
     りっちゃんを探し出して、「わたしの彼を取るな」って忠告しに行ったんだ。
     それを聞いた時、怖さ通り越えてマジ殺したてやりたいって思ったよ。
     まあ隆子の思い通りにはならなかったけどね。りっちゃんは逆に俺に付きまとうなって言い返してやったんだと。
     で、その日から隆子は会社に来なくなってさ。無断欠勤で連絡取れなくなったらしいんだよ。
     いやいやいや、そんな目で見ないでよ。なんもやってないよ。あんときもそうだった。会社のみんなして俺をそんな目で見たんだ。
     確かに、りっちゃんになんかされないか警戒したよ。俺が守らなければって思った。
     だけど殺してやりたいって思っても、じゃ殺そうってならないだろ、フツー。
     でしょ?
     結局、おまえはそんな大それたこと仕出かすような奴じゃないって、みんなで大笑いさ。失恋の傷を治しに故郷に帰ったんだろう。そのうち連絡くるかもしれないってことになったんだ。
     で、そのまま二か月経ったかな。
     俺は同棲始めて幸せいっぱい。ただりっちゃんが部屋にゴキがいるって騒ぐのがちょっとうるさいかな。ゴキぐらいどこにでもいるでしょ。なのに退治しないと家出るって脅すんだよ。ったくかわいいよね。
     ははは、のろけはいいってか。
     でも、うきうきばっかりでもないよ。もし隆子が帰ってきたらどうしようって悩んでた。もう帰ってくんなって毎日祈ってたよ。
     で、きょうが最高の日だって話になるんだけど、前置きが長くてごめんな。
     実は隆子さ、自殺してたんだ。
     でしょ。驚くよね。今朝ここに来る途中、上司から電話があってさ。警察から連絡がきたんだって。生まれ故郷の山中で首つって死んでたって。二ヶ月は経ってるって言うから失踪してすぐなんだろうな。遺体は腐ったり虫が湧いたりしてもう朽ちてたらしい。あっ、ごめん。食ってんのに。
     で、それ聞いた時、俺のせい? ってちょっとだけいやな気分になったけど、上司は「お前が悪いんじゃないから気にすんな。みんなわかってるから」って。
     本心じゃどう思ってるかわかんないけどね。でも実際なんも悪くないしね、俺もりっちゃんも。だから気にしない、気にしない。

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    コメント

    • ご無沙汰しております。こちらには、とんと来ておりませんでしたが、まだご執筆はされているのでしょうか。読みにくるのが遅くなってすみません。すごくぞっとしました。古い家に引越したもので、虫については身につまされる話で、ぞわぞわしましたwところで、能上さんは、「怖話」というサイトでも執筆されていますか?能上さんの作品をお見かけしたものですから。
      • 1 fav
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    • きっ、もっ、ちっ、わっるぅううううう@@;ガクガクブルブル。
      あ、お久しぶりです。ちょっと鳥肌立ってます。
      私もこの手の虫が苦手です。で、関係ないのに無駄に黒いものに反応してしまいます@@;
      • 2 fav
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    • お久しぶりです。読んでいただいてありがとうございます。
      返事遅くなってすみません。
      黒い虫は怖いです。脚の多いのも無理です(;´∀`)
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    作者紹介

    • 能上成之
    • 作品投稿数:42  累計獲得星数:464
    • 読むのも書くのも、年がら年中、ホラーです。ホラー馬鹿です。
      脳みそがすぐ忘却の彼方に行ってしまうので、いつでも読めるように気になる作家さんをすぐフォローしてしまいますが、フォロー返しに気を遣わないでくださいね。なぜなら、ホラーしか読まないから。
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