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シリーズ:故殺
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故殺

作者:下り絵

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    悩みを抱えた綾香(あやか)は、都会から地元の田舎町に戻って来た。
    そこで小学校時代の友人、双葉(ふたば)と二十年ぶりの再会をする。
    綾香は懐かしい旧友と楽しい時間を過ごしていたはずなのに、不幸が待っていた。


    登録ユーザー星:3 だれでも星:1 閲覧数:156

    故殺 7334文字

     

     白檀の淡く清々しい香りに心を落ち着かせ、風の音を聞いていた。
     丸みを帯びた優しい曲線の墓石の前にしゃがみ込み、短かった結婚生活を思い出す。
     夫は出張ばかりで、ほとんど家にはいなかった。それでも、私のことを気遣い、心配し、優しい言葉をかけてくれる素敵な人だった。
     ようやく手に入れた幸せな暮らしと、小さな命。
     それらをすべてを奪われた。
     私はただ、懐かしい旧友と楽し時間を過ごしていただけなのに……。



      ◇◇◇ 



     あの日、燃えるような夕焼けが、空や町全体を茜色に染めあげていた。



     どんな時でも腹が減り、なにか食べ物を求める。
     夫が出張で家にいないので、私は惣菜を買いに、近所のスーパーマーケットへ向かっていた。
     しばらく歩くと、黒ずんだ汚れの目立つスーパーマーケットの外壁が見える。
     いつも汚いと思っていた外観だけど、夕焼けの優しい茜色に染まり、趣のある姿へと変えていた。

     ここは子供の頃から結婚して地元を離れるまで、よく買い物をした馴染みの店。

     建物は古びて汚いが、買い物かごを手に取り中に入ると、リンゴの赤、レモンの黄色、マスカットの緑と、色鮮やかなフルーツが並ぶ。スッキリとした爽やか柑橘類の香りが、とても心地いい。

     悩み事などなかった昔と同じように、私は普通に買い物をしている。地元に戻ってきてよかった。と、心の底から嬉しさをかみしめていた。

     結婚をして、田舎町から都会へと移り、やりがいのある仕事を見付けたが、挫折した。
     女の幸せは子供を産み育てることだと、鼻を膨らませて語る上司。上司にとって、子供のいない私は社会に貢献しない軽蔑する女だったらしい。
     上司の席からは遠く離れて座っているのに、「子供はまだか?」「作り方、知らないの?」「生理なら残業。排卵日なら早く帰っていいぞ」と、気持ち悪くて鳥肌が立つ暴言を投げつけられる。

     毎日続く下賤の者でもみるかのような視線と、薄気味悪くあざ笑う声が頭から離れなくなり、仕事に行けなくなった。
     夫は出張が多く、ほとんど家にいない。
     話し相手がいないと、私の心は悲鳴をあげ、病んでいく。それに気がついてくれた夫は、「綾香の地元で家を探そう」といってくれた。

     仕事は失ってしまったけど、地元に戻り、人並みの生活を取り戻す。
     子供のいない私はダメな人間だと思い込み、ノイローセになっていた日々がウソのよう。

     店内を流れる軽快な音楽に、指でリズムをとりながら、惣菜を選んでいると、ハイヒールの女性がスッと近づいてきた。
     
    「綾香ちゃん?」
    「えっ?」

     綾香ちゃん。なんて呼ばれていたのは小学生の頃。驚いて振り向くと、見知らぬ女が嬉しそうにニッコリとほほ笑んでいる。でも、誰だかわからない。
     全く覚えがないので「あ、どうも」と、愛想笑いで誤魔化し、私はその場を去ろうとした。
     すると。

    「私、宮野双葉だよ。あ、ごめんなさい。白川双葉で、わかるかな?」
    「ウソ、双葉なの? あんなに――」

     あんなに太っていたのに。と言いかけて、口をつぐんだ。
     私の知っている双葉は太っていて、男の子から「ブタ葉」と呼ばれていた。それなのに、目の前の双葉はスラリと痩せ、ファッション雑誌でみたことのある、高そうな服を上品に着こなしている。
     田舎の古びたスーパーマーケットには似合わない、華のある姿だった。

    「綾香ちゃん、ちっとも変ってないね」

     驚き、目をパチパチしている私をみて、双葉はクスクスと楽しそうに笑う。
     その笑顔につられて、私の頬も緩んだ。
     ブタ葉と呼ばれて泣いていた女の子と、二十年ぶりの再会。
     嬉しさと懐かしさで胸がいっぱいになると、フードコーナ―へ双葉を引っ張り、お互いの近況をハイテンションで語り合った。

     そして、気が付けば私ばかりがしゃべってる。

     夫の出張が多くて寂しいこと。
     上司に嫌われて心が痛み、地元に戻ってきたこと。
     子供がいないから地域との繋がりが薄く、友達がいないことなど。 

     双葉は、うん、うんとうなずいて、ずっと話を聞いてくれた。

    「ごめん、私ばっかりしゃべってるね。双葉の旦那さんとお子さんは?」
    「ちょと母が体調を崩して、私だけこっちに戻ってるの」

     少し困った顔をしていたけど、朗らかな笑みを浮かべる双葉。

     出張続きで、なかなか家に帰ってこない夫。
     待ってばかりの妻。
     このふたつは双葉と共通していたので、茜色の空が紫にかわり、やがて日が沈んでもしゃべり続けた。
     
     そして、心が躍り出すうれしい再会から数日後、双葉といっぱいおしゃべりをするために、駅前の喫茶店で待ち合わせをした。

     喫茶店といっても田舎町のなので、お洒落な場所ではない。
     ジャズだの流行りの曲など流れない。
     中年のおっさんが新聞紙をめくる音が聞こえ、昼時でもほとんど客がいない古びた喫茶店。

    「え、双葉が入院するの?」

     静かにくつろいでいる人たちが、思わず睨みたくなるような大きな声が、私の口から飛び出した。

    「入院するのは、私のお母さんよ。落ち着いて」
    「なんだ。双葉が入院するのかと思った」
    「ふふ。綾香ちゃんのはやとちりは健在だね」

     私は人の話を最後までよく聞いてから考え、行動できるタイプではないので、今でも時々失敗をしている。
     双葉に痛いところを突かれて、苦笑いしかできなかった。

    「で、今から病院に行かないといけなくて……。ごめんね」
    「それじゃ、私の車で送ってあげるよ。電車じゃ遠回りだし」
    「いいよ、そんなの悪いわ。私、車苦手だし、酔って吐いちゃうかも」
    「いいの、いいの。病院近くのスポーツジムで汗流しとくから、遠慮しないで。おばさんのお見舞が終わったら連絡ちょうだい」

     なかば強引に車に乗せると、双葉の顔は青ざめ本当に気分が悪そうだった。
     それでも病院に着くと「ありがとう。早く着いて助かったわ」と、笑顔をみせるから、それからも双葉を車に乗せ、病院まで送る日が続いた。

     双葉は本当によく私の話を聞いてくれるので、車の中では、止まることなくしゃべり続ける。
     今まで家族以外の人と話す機会がほとんどなかったから、私は嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。



      ◇◇◇



     双葉の中で、なにかが壊れた日がくる。



     一ヶ月半ぶりに夫が出張から戻ると、私は双葉を自宅に呼んで紹介した。
     その日は珍しく、双葉が会話の中心にいた。
     お酒を飲み過ぎたせいかもしれないけど、双葉の息子がやっと泳げるようになったこと。
     ヒトデを家で飼いたがっていること、水族館に連れて行くと、閉館時間まで魚の前から離れないことなど、顔をほころばせて語っている。

     子供のいない私は、時々とても穏やかで、優しい母親の顔をする双葉に、笑顔をむけながらも心の中は荒れ、かなり嫉妬していた。
     しかし、夫の言葉にハッとする。

    「いい友達がいて、良かったな」

     一時は酷く病んで夫に心配をかけた。でも、双葉のおかげで、私はいつでも笑えるようになっている。
     醜い嫉妬より、楽しい時間を大切にしよう。
     笑えるようになったことに感謝すると、心の底から幸福感が澄んだ泉のようにわき上がり、さらに笑顔を運ぶ。 
     
     そんな幸せな時間を過ごしていたのに、私の体調が急に悪くなった。

     テーブルの上に並んだドーナツの甘い砂糖の香りに気分が悪くなり、下腹部に鈍い痛みはしる。
     しばらくは我慢していたけど、吐きそうになったので洗面所に駆け込んだ。
     洗面所で苦しむ私を見て、双葉が消え入りそうな声をかけてきた。

    「綾香ちゃん、もしかして……、子供、できたんじゃない?」
    「えっ? まさか」
    「もうお酒は飲んじゃダメだよ」

     双葉はまた優しい母親の顔になり、柔らかい眼差しでニッコリとほほ笑んだ。

    「……そんなはずは」

     ずっと授からなかったので、否定の言葉しか出てこないけど、双葉は真剣な顔をしている。

    「ちょっと薬局行ってくる」

     夫と双葉を置いて薬局に駆け込み、妊娠検査薬を買った。そして、調べてみると、妊娠を知らせる線がハッキリと浮かびあがる。

     子連れの親子をみただけで気分が落ち込み、酷い時には「死んでしまえ」と、呪うことさえあった。
     そんな私のお腹の中に、ようやく赤ちゃんが来てくれた。

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    コメント

    • 失礼致します。
      文体、人物造形、ストーリテリングどれをとってもハイレベルでスゴイです。心理の交錯によって物語を進行させるとどうしてもブレがちになる(あくまでも私見)のに、それもない。いやはや平服低頭脱帽モノでした(´・ω・`)b
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    • うおォォッ!?
      ハイレベルと言っていただき、めちゃくちゃ嬉しいです!!
      しかも、他の作品も読んでいただき★の応援をありがとうございます!!!
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    • ほらこん参加作、他のも読んでしまうほどに、どれも流れの良い起承転結に引き込まれていた、という感じであります。その全部に急にコメントを入れると引かれること請け合いなため、故殺にてコメ、他は☆にて応援させて頂きました。ただ一つ、残念なことを申し上げなければならないとすれば、ワタクシにトースターや健康グッズをどうこうできる超能力、包容力、集中力、森林浴、誇れる過去、どんぐりの実とかがない、ごく普通の参加者だったというところでしょうか(^_^;) ご健闘、お祈りしてまふ(^_^)/~
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    • ★やコメントがもらえるような話を書くのが目標なので、とても嬉しいです!!
      コメント、ありがとうございます!!!
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