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シリーズ:残り火番外編 トロけるようなキスをして
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残り火番外編 トロけるようなキスをして

作者:尚史

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    リーマン兼ホスト×流され受けの大学生のお話。
    二人の想いが今、重なる――

    ※エクレア文庫さんより【残り火】本編の電子書籍を出すことが決定しております。
    http://www.ebookjapan.jp/ebj/373885/volume1/


    登録ユーザー星:1 だれでも星:3 閲覧数:557

    残り火番外編 トロけるようなキスをして 13472文字

     

     その日は、空気が凛と澄んでいて、とても寒い夜だった。

     コンビニのバイトが、いつもの時間に終わり、手を擦り合わせながら、肩を竦めて店の外に出る。夜空を見上げるとそこには雲ひとつない空に、キレイな星が、これでもかとキラキラと瞬いていた。

    「ひとりで見るよりも、ふたりで見た方が、もっとキレイなんだろうな……」

     今、隣にいないあの人の事を思い、胸の中がきゅっと切なくなる。

     俺の名前は紺野 千秋。市内の大学に通う3年生。親の仕送りとバイトをして生計を立てていた。
     
     はーっとあたたかい息を両手にかけて、俯きながら歩き出した途端、後ろから身体を奪うように、強く抱きしめられた。包み込んでくれる、その二の腕は絶対に、この時間にはいない人なのに――嬉しさのあまり、ひとことも言葉が出てこないよ。

    「お帰り千秋。今日もお疲れ様」

    「……穂高、さんっ!?」

     どうしていつもよりも帰りが早いのか聞いてみたいのに、それすらも口から出てこない。

     すぐ傍にいる同性の恋人、井上 穂高。昼間は普通のサラリーマンをしているのだけれど、俺と一緒に暮らすマンションを借りるため、夜はホストの仕事をしていた。

     背中に感じる穂高さんのぬくもりが、えらくあたたかくて、ほっこりしてしまって。身体に回された腕を意味なく、ぎゅうっと握りしめてしまう。

    「今夜は冷えるせいかな、やけに千秋の身体が、あったかく感じるよ」

     寒いせいだけじゃない――逢えない時間が寂しくて……堪らなく寂しくて。まるでふたりの間を、冷たい風がびゅーって吹き抜けているみたいだった。


    「穂高さんの身体も、すっごくあたたかいよ。まるで背中に毛布をかけられてるみたい」

     じわじわっと感じる愛おしいあたたかさを噛みしめて、顔だけ振り向きながら告げてみたら、とても嬉しそうな表情を浮かべた。

     掴んでいる腕を名残惜しげに離してから、穂高さんの手に、そっと触れてみる。予想通り、冷たい体温(ぬくもり)――

    「ねぇ、いつからここにいたの? 車が、見当たらなかったんだけど」

    「千秋を驚かせようと、コンビニの影に隠しておいた。今夜はお店が、臨時休業になってね」

    「そうなんだ。ビックリしちゃったよ」

    「ふっ、驚いてくれて何より。ホストの仕事も順調で、めでたくナンバーになれたよ」

    「もう、ナンバーになったの!?」

     だってホストになって、まだ1ヶ月も経っていないのに。

     ナンバーっていうのは、ホストの売り上げ成績の順位の事なんだ。売り上げ成績が一番良かったホストが、その店のナンバーワンになるんだけど。この短期間にナンバー入りしたのは、やっぱりすごいとしか言えないや。

    「ん……いろいろあってね。それに前に勤めていた時のお客さんを呼んだりして、お店に貢献しているから」

     イケメンで売れっ子ホストの穂高さん。とても優しいし気が利くからこそ、人気が出るのは当然なんだ。

     心中複雑な表情を浮かべる俺の右手を取り、さっさと車に連行する。

    「明日、大学は?」

    「えっと、午前10時から講義が……」

     慌しく答えながら助手席に乗り込むと、素早く身を翻し、運転席に座った穂高さんが、安心したように口元に、ふわりと笑みを溢した。

    「それなら、お泊り決定だな。覚悟しろよ」

     艶っぽく笑い、俺の頭を優しく撫でてからエンジンをかけて、穂高さんの自宅に走らせる。





    ***

     数分後、穂高さんの家に着き、恐る恐る部屋の中に入った。ここまで来るのに、実は冷や冷やしている自分が、どこかにいて。

     穂高さんのマンション前に女の人が待っていたり、はたまた部屋の中に女の人がいたりしたらどうしようかと、勝手にいらない想像して、落ち込んだりしたから。

     以前、女の人と鉢合わせした時に思わず泣いてしまうという、情けない醜態を思いきり晒してしまっただけに、どうしていいか分からない……

    「夜中だけど、コーヒー飲むかい?」

     微妙な表情を浮かべ、ぽつんとリビングに立ちつくす俺に、気遣って話しかけてくる穂高さん。

    「あ、スミマセン。前と同じく、カフェオレでお願いします」

     この間ここに来た時に、コーヒーを淹れてもらったのだけれど、俺が飲めないと言ったら、ミルクをたっぷり入れた美味しいカフェオレを、わざわざ作ってくれたのだ。

    「分った、甘めにしておくよ」

     手際よくヤカンに水を入れて、コンロにかけながら、話をしていく後ろ姿を、格好いいなぁと思いながら、ぼんやりと見惚れてしまった。

    「ありがとう、ございます……」

     ドキドキを隠しながら答えると、形のいい眉を一瞬だけ上げ、俺の顔を、じっと見つめる。

    「あの、穂高さん?」

     穴が開きそうな勢いで見下され、その視線に何だか耐えられなくなり意味なく、わたわたと焦ってしまった。

    「そんな顔して、俺の事を誘ってる?」

     予期せぬ言葉に、頬がカーッと上気してしまった。いつもこうやって簡単に俺の心を、ゆさゆさと揺さぶってくれるんだ、この人は――

    「さ、誘ってませんっ、全然そんなつもりなくって」

    「悪い。俺が誘われた錯覚に、つい襲われただけ。でもたまには、誘われてみたいかも」

     肩を竦めくすくす笑ったのを見て、もっと喜ばせてあげたくなり、思いきって広い背中に、ぎゅっと抱きついてみる。ドキドキ――////


    「……おっと、随分と今夜は大胆だね。誘った甲斐があったようだが、タイミングが悪い」

    「(。´・д・)エッ!?」

     言葉の意味が分からず穂高さんの手元を、何とはなしに覗いてみたら。

    「わっ、ゴメンなさいっ」

     ちょうどフィルターに、細かいコーヒー豆を入れようとしていた時だったらしく、少しだけキッチンに、こぼれているではないか。もう一度ゴメンなさいと、謝罪を口にした俺に首を横に振って、嬉しそうな表情を浮かべた。

    「抱きつかれるのも謝られるのも、千秋にされる事は何もかも新鮮に感じるな。胸の中が、じわっと満たされていくよ」

     後頭部に穂高さんの手を感じた瞬間、すぐさま、くちびるが塞がれてしまう。

    「ん……っ」

     久しぶりのキスに酔いしれそうになったら、カタカタッという音が、耳に聞こえた。

    「これからって時に、空気の読めないケトルだ」

     俺の頬にちゅっと音のするキスをして、何かをブツブツ言いながら、ヤカンの火を止める。

    「ソファに座って、待っていてくれ。すぐに行くから」

    「はい……」

    「……そんな顔しないで。すぐに、傍に行くよ千秋」

     ――離れていた分、傍にいたい――

     そんな気持ちをあっさりと見抜かれ、胸の中に複雑な感情が混ざり合う。俺の気持ちを表情ひとつで、分かってしまう穂高さん。分かってるクセに、傍にいさせてくれないなんてイジワルだな、もう。

     嬉しさ半分、イライラ半分抱えながら、ばふんと音をたててソファに座ってやる。程なくして、お揃いのマグカップを手にした穂高さんが、傍にやって来て、あ……と呟いた。

    「どうしたんですか?」

    「ビンテージ物、忘れるトコだった」

     ワケが分からず小首を傾げると、さっきとは明らかに違う、嬉しそうな足どりで冷蔵庫に向かい、扉を開けて小箱を取り出し俺の隣に座りながら、手際よく包装紙を開ける。

    「一緒に働いてるコが、ボーナス使って北海道に行ったんだ。そのお土産なんだよ」

     小箱を開けた途端、マスカットの香りが、ふわりと鼻を掠めた。

    「ホワイトチョコなのに、うっすらと緑がかってますね」

    「ん……何でも、白ワインに使うナイアガラという葡萄を、100%使ったチョコレートらしい」

     中に入っていた黄緑色の紙に書かれている商品の説明書を、俺の大好きな低い声で、丁寧に読み上げてくれる。


    「白ワインって、アルコールが入ってるんですか?」

    「いいや、造る工程で飛ぶみたいだが、これを食べるとせっかく作ったカフェオレの甘さが、見事に消し飛んでしまうかもね」

     確かに――

    「なら、こっちを先にっと」

     穂高さんが丁寧に作ってくれた、あたたかいカフェオレに慌てて口をつけた。程よい甘さが身体の中へ、じわぁっと染み渡っていく――

    「このカフェオレの方が、俺にとってはビンテージ物かも」

     今じゃ滅多に逢えなくなった大好きな穂高さんが、心を込めて作ってくれた物だから尚更。

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