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シリーズ:牢獄の獣神ヴァリスと、廃王子フィリア
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牢獄の獣神ヴァリスと、廃王子フィリア

作者:鳳来みなと

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

     牢獄に囚われた伝説の獣神、ヴァリスのもとに密かに通う、麗しの王子フィリア。
     王子は、死を目前にした「獣神」が語る、少年達との淫靡な物語に耳を傾ける。
     滅ぼされた国の戦士であるヴァリスと、その敵であるはずの王子との間には、次第に奇妙な絆が生まれ始める。
     しかし――、ある事件をきっかけに、それぞれが背負う、「死」の運命に立ち向かってゆくことになる。

     ※ハイ・ファンタジー風BLノベルです。よろしくお願いいたします。
     


    登録ユーザー星:8 だれでも星:27 閲覧数:785

    牢獄の獣神ヴァリスと、廃王子フィリア 29180文字

     


     一人の少年が、地下牢へと続く石段をゆっくりと降り下っていた。
     辺りは、壁に触れた指先が見えないほどの暗闇に包まれている。
     剥き出しの岩壁と削り出して造られた石段は、暗く冷たい。
     少年は足元を照らす明かりらしいものを何も持っていない。しかし、それを苦にする様子もなく、しっかりとした足取りで、闇の中を進んでゆく。
     石段の続く先は、底知れぬ暗黒の穴がぽっかりと口をあけていた。

     ここは、荘厳で煌びやかなアデン・カシナート王宮の地下深く。

     ――東の大陸の覇者として君臨するカシナート王国。
     その支配の象徴たる白亜の城は、大理石の外壁には技巧を凝らした彫刻があしらわれ、天に届かんばかりの尖塔には金と銀の細工が隙間無く彫りこまれている。
     まさに王国の『聖都』の恥じない絢爛さを誇る富の権力の象徴。
     しかし、城の地下には暗黒の地下迷宮――呪われた牢獄が存在していた。

     地下へと向かう少年の耳には、放り込まれた囚人の嘆きと、断末魔を思わせる叫びが聞こえていた。
     汚物と汗と吐瀉物が入り混じった臭気が鼻を突き、淀んだ空気がそこに足を踏み入れるものの肺を蝕んでゆく。

     少年は陶器人形のように整った顔をつん、とあげた。
     その肌は透けるように白く、瞳は夜空を濃縮したような、漆黒。
     僅かに幼さを残す顔の輪郭を包む黒髪はまるで、絹糸のように艶やかに梳かれていて、肩口で切り揃えられている。
     一目見て愛らしい――と、誰もが思う少年だった。

     場違いとしか思えない可憐な少年は、地獄の底に天使が迷い込んでしまったのではないか、と疑いたくなるほどだ。
     細身ですらりと伸びた少年特有の四肢がしなやかに伸びる。
     怜悧で理知的な輝きを宿した瞳の色と柔らかな身のこなしは、一目で王家の者だと察しがついた。
     歳の頃は14、5歳だろうか。
     少年は地下牢の暗闇も淀んだ囚人の視線も、懇願と呪いの言葉交じりの呻き声も、まるで意に介する風も無く奥へと進んでゆく。
     揺れる髪から零れる南国の花を思わせる甘い芳香は、淀んだ空気をひととき、清らかなものへと変えてゆく。

     身につけているのは半ば透き通った薄絹の衣装と、高級な刺繍の入った腰紐。そして金糸細工の装身具だけだ。
     少年は瑞々しい輝きを放つ手足を、惜しげもなく晒していた。

     ――少年の名は、フィリア・カシナート。

     アデン・カシナート王国の第一王子。
     城の中央にそびえる尖塔の最上階に住む高貴な王子である。
     
     それがこのような淀んだ禁忌の場所に足を踏み入れるなど、本来あってはならないことであろう。
     戯れにせよ、護衛もつけず、たった一人でこのような場所を訪れている事が他の王族や側近たちに知れれば、たちまち卒倒し、哀れな世話係の首が幾つかは確実に飛ぶだろう。
     だが、フィリア王子はそんなことなど気に留める様子も無く、暗い地下牢を進んでゆく。

     と、王子の前に人型をした異形がのそり、と現れた。

     ――魔法生物、ヒドラ。

     人間の下半身に巨大なイソギンチャクを乗せたような紫色の怪物――ヒドラは、暗闇の地下迷宮の住人だ。無限に再生する粘液質の肉体、低い知能に貪欲な食欲。

     異形の魔物を前に、フィリア王子は臆することなく、むしろ嬉しそうに白くしなやかな腕を伸ばした。
     地下牢の忌まわしい監視役である魔法生物ヒドラに、そっと白く細い指をかざす。
     その細くしなやかな指先には、古く厳めしい指輪が嵌め込まれていた。王家に古くから伝わる魔力を秘めた指輪。
     フィリア王子は黒目がちの瞳をわずかに眇め、口元に笑みを浮かべると、するりとヒドラの前を通り過ぎた。
     ヒドラは王子が薄暗い通路の奥に見えなくなるまで跪き、ぷるぷると紫色の身体をゆすり続けた。
     王子の指輪に宿る魔力は絶対で、地下に蠢くヒドラはその眷属に過ぎないのだ。

     ――光あれば、闇もまたある。

     数百年の歴史を持つ華々しいアデン・カシナート王国は、大陸に勃興した小国家軍との数十年にもわたる統一戦争の最中にあった。
     国内の疲弊と混乱を治める過程で、王家は自らに楯突くものを次々とこの地下牢に放り込み粛清した。
     地下に放り込まれた者は、罪を犯した者だけではなく、王国に楯突いた反逆者、戦で捕らえられた敵国の将兵たちだった。
     僅かに恩赦が与えられ生き永らえる者もいるが、殆どの者は二度と地上の太陽を見ることは出来なかった。
     ゆっくりと訪れる餓死か、病死か、あるいは狂死か。無残な最期を迎える以外にこの地下牢から逃れる術はない、呪われた地下牢。
     牢獄から上手く逃げ出せたところで、入り組んだ迷宮で迷い、やがて地下迷宮を徘徊するヒドラの餌となってしまう。

     地下迷宮の最深部に位置する厳重な鉄格子の前で、フィリア王子は足を止めた。
     そこは地下迷宮の袋小路になっていて、他よりも明らかに堅牢に見える牢獄だった。嵌め込まれた鉄の格子も明らかに太く、簡単に破壊できるような物には見えない。
     王子はまるで動物園の展示を覗きこむような仕草で、そっと鉄格子の奥に目線を向ける。
     幾度か大きな瞳を瞬かせると、やがて花弁のような唇をゆっくりと開いた。

    「――ヴァリスよ、まだ生きておるかえ?」

     声は透明で歌うような独特の響きがあった。王家のみが使う古代言語の『訛り』だ。

    「…………フィリア王子か。また……来たのか?」

     低く、ため息交じりの声が鉄格子の向うから響いた。
     その声は若く、何処か苦笑じみた声色だ。
     声には生気があり、亡者の呻き声とは違っていた。この地下牢でもまだ生きることを諦めていない、そんな声だった。

     王子が手をかざすと、壁に埋め込まれた魔石が緩やかな光を放ち始めた。
     辺りが緩やかな黄色身を帯びた光で照らされてゆく。
     『魔石』は魔力をこめた宝石の一種だ。宝石に魔力を貯め、外部からの命令術式でいろいろな効果を発揮できる。
     柔らかな明かりに照らされた場所をあらためて見回すと、岩盤をくりぬいて作られ地下の空間に堅牢な鉄の棒が何本も嵌め込まれ、王子の立っている場所とを隔てている。

     魔石の光の届かない鉄格子の奥に眼を凝らすと、一人の男が鎖につながれているのが見えた。

     男は若く、野性味のある精悍な顔立ちをしていた。
     紺碧に澄んだ瞳は、地下牢にありながら爛々と輝きを失わず、眼光は相手を射すくめるほどに鋭い。
     長く無造作に腰まで伸ばされた銀髪は、陽光の下であれば美しいだろう。
     しかし、顔も身体も血と汗と泥で薄汚れ、束ねられた髪も今やその輝きを失っていた。
     獅子でも絞め殺せそうな筋骨隆々とした体躯は、まるで彫刻のようだ。縛り付ける鉄の鎖が無ければ今にもその場から跳躍し、王子の細い首など一息にへし折りかねない――そう思えるほど張り詰めていた。

     フィリア王子は僅かに口角を上げると、鉄格子の向うの屈強な大男を眺めた。

    「明日は処刑の日じゃ。少しは大人しくなったかと思ったが……、相変わらずじゃの? 北限の蛮族カナンの戦士長、獣神・ヴァリスよ」

     ――ヴァリス。鎖に縛られた者の名を王子はそう呼んだ。

    「生ゴミ味のメシを食わなくて済むかと思えば、清々する」
    「望みとあらば、山海の珍味でもワインでも肉でも届けようぞ。そなたは明日、死ぬのだからな。余を今まで楽しませてくれた、せめてもの手向けぞ」

     鎖で繋がれた大男は、冷たい石の床の上で胡坐(あぐら)を組み、方頬をこぶしで支えたまま、王子をギロリと睨んだ

    「要らぬ。俺の望みは……この城の王族どもを皆殺しにした後で、俺の目の前にいる美しい王子の身体をじっくりと時間をかけて犯し、最後にその心臓をえぐり出す事だ」

     牙のような犬歯を剥き、ヴァリスの瞳が凶暴な色を帯びた。鎖が擦れ、軋んだ音を立てる。

    「きゃは。……ぬかしよる。今日まで生きてこれたのは余の力があればこそ。口の利き方に気をつけることぞ」
    「……俺が頼んだわけではない。貴様の趣向に付き合うのも飽き飽きしてきた」
    「その鎖を解き、我が王国を滅ぼし、そして余の身体を弄びたければ……その口と、言葉で語るのじゃ。余の退屈を紛らわすことが出来れば、また幾日か、処刑を延ばしてしんぜよう」
    「…………酔狂な王子め」

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    コメント

    • キャラクターがとても個性的で、最後まで楽しませていただきました。
      表紙のイラストも素敵です。フィリア可愛い♪
      でも私が一番気に入ってしまったのは、アムリくんです。
      回想シーンではヴァリスにされるがままでしたが、再登場時は相棒みたいな感じになってて良かった。
      これから三角関係突入でしょうか!?
      どっちの王子様も魅力的なので、もう3人でず~っと仲良くしてて欲しいと思いました(笑)
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    •  空知花さん、読んでいただいて嬉しいです!

       そうですね、もしも続編が書けるなら、三人での諸国漫遊、珍道中みたいな感じで、見せ場は「宿屋」になるのでしょうかw
       物語の構造上、後日談でも、回想話でも、続編でも書けるようになっています。
       コメントありがとうございました。
        
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    •  初めまして。読ませていただきました。
       こういうファンタジーのBLなんて何年ぶりでしょうか。昔はたくさんあったんだけど最近は少なくなりました。
       ええと、私の基準が厳しすぎるのかもしれませんが、「淫靡」はもっと雰囲気をだして、さらにいうとチラリズム的じらしが最高峰だと思います。そういうシーンを詰め込めばえろくなるというものではないのではないかと。
       最後の彼らの三角関係も気になりました。この先どうなるんでしょうね。ふふふ。
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    • エルスさん、コメント有難うございます

      そうですね、昔はたくさんありました……って歳がバレル……。

      淫靡についてはなるほど、難しいものですね。じらすつもりでも、自分自身が耐えられなくなって、露出だ本番だ! と、なってしまうのです。
       とても勉強になります。
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    • こういうジャンルで自分で絵も描ける方は本当に羨ましいです。タイトルにもひかれました。

      文体も読みやすく一気に読了しました。
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    •  叩き多恵さま、お読みいただき、ありがとうございます!
       タイトルを褒められたのはとっても嬉しいです。

       本当は小説(文字)のみで勝負すべきなのですが、頭の中のイメージを一度絵にしてから文字にすると楽なので……(汗
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    • 初めまして。

      「廃王子」のタイトルにひっかかって読ませていただいたのですが、
      いい意味で見当違い。
      王子さまの変態ぶりがかなり好みでとても楽しく拝読しました。
      淫靡な部分もよかったですが、後半の動も爽快。

      ひとつだけつまらないことですが、この作品の場合「バザー」よか
      「バザール」とか「スーク」とかのほうがいいんじゃないでしょうか。
      (もしかして、ル が脱字?)
      王子の口調がいい雰囲気出してるだけに、ここだけちょっと気になりました。
      ラストの愛玩王子の口調はともかく。
      • 0 fav
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    • 大御所の辰波ゆうさまに感想を頂けるとは! 光栄でございます。

      タイトル詐欺みたいですがw 一応最後は王子様を廃業しておりますのでご勘弁ください。

      (バザールのご指摘、ありがとうございます。早速改稿させて頂きます。)
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    作者紹介

    • 鳳来みなと
    • 作品投稿数:2  累計獲得星数:45
    • ライトノベルとイラストが好きです。
      時折、駄文で妄想を垂れ流したり……。
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