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シリーズ:僕は共犯者になった
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僕は共犯者になった

作者:栁瀬 彌月

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

     六条渉は商社に勤務して5年。ある日、仕入先の営業担当引継ぎにあらわれたのは鈴本航平だった。兄の親友に恋心を抱いていた渉は10年間彼に会うのを避けていた。再会した航平の変わりように気にしつつ付きあいをしていくうちに、ある疑問をいだくようになった。もしかしたら・・・ いやな予感が頭をよぎる。


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    僕は共犯者になった 25111文字

     

    ◆◆ 僕は共犯者になった ◆◆


       人は簡単に壊せる。
       僕は罪深いその行為を目撃した。
       そして僕は共犯者となる。
       苦しみが待っていることも知らずに……


    ◆ 10年後の再会

     入社して5年。商社に勤める僕、六条渉はアイデアを商品化し販売する企画・開発に所属していた。
     次商品のプロジェクトリーダーに抜擢され、適度な緊張のなか充実感をあじわう5月半ば、朝から忙(せわ)しいオフィスに聞きなれた電子音が鳴った。
    「課長、T商事の杉田さんがいらっしゃいました」
     受話器を置いて、パソコンでメールを確認している根岸課長に声をかけた。
     根岸は僕が大学に入った時はすでに卒業していたが、サークルの飲み会でOBとして出会いこの会社に誘ってくれた。
     就職難の時代、地元に帰ることも考えていたが家業は兄夫婦が継いでいた僕にはありがたい誘いだった。
     アイデア商品に付加価値をつけた価格は割増だが思いのほか会社は業績が良く、やりがいのある仕事に満足している。
     根岸に「そうか、じゃ行こうか」と言われて僕は、今後の取引を説明しながら杉田の待つ接客室へ向かった。
     ドアを開け入った部屋は人の出入りが少ないため、室温が低く澄んだ空気が流れていた。
     パーテーションで区切られた3番目の小部屋へ入ると、窓際に立っていた2人の男性が根岸の前まで歩み寄った。
     今日は杉田が自分の後任者を連れて来社したのだ。
     前もって担当が変わると聞いてはいたが杉田とは3年の付き合いだ、仕事がやり易かったぶんリーダーに抜擢されたばかりだと言うのに、またいちから信頼関係を築くのかと考えると僕は憂鬱になっていた。
     営業マンらしく横分けのビジネスショートヘアの杉田は笑顔で根岸とあいさつを交わし、後ろの男性を紹介した。
     サイドバックを刈り上げたベリーショートの髪は中途半端に伸びてだらしなく見え、彼は自信なさげに名刺を差し出した。
     そんな彼をみて、大丈夫なのか? と不安になった。
    「T商事の鈴本航平です。杉田の後任として頑張りますのでよろしくお願いいたします」
     ――鈴本…… 航平?
     僕はわが目を疑い言葉を失ってしまった。全く予想だにしなかった名前。
     ――自信なさげの彼が? 嘘だ……
     彼は僕にも名刺を差し出した。
    「今度御社の担当になります鈴本航平です。よろしくお願いいたします」
    「……」
    「あの……」
    「あ、はい。六条渉です。航平さん…… お久しぶりです」
    「え?」
     この日初めて僕に向けられた唖然とした表情。
     彼も僕を見て目を疑っているようだった。
     窓を背にして逆光に立っているからなのか、顔色が悪く覇気がないように思える。
     ――子供の頃、太陽の下で健康的な笑顔を見せてくれていた彼。10年は長かったと言うことか……
     お互い驚きの中で10年ぶりの再会は終わった。

    「10年ぶりかな? 今日はビックリしたよ。まさか渉の会社だったなんてな」
     ――懐かしい。笑顔は昔のままだ。
     僕に向けられた昔と変わらない笑顔に安堵する自分がいた。
     接客室でのあいさつは商談をかねて20分ほどで終え、帰り際に声をかけてきたのは彼からだった。
     僕は上司の手前、長話をすることもできず待ち合わせ場所と時間を簡単に決めて別れた。
     それからの勤務時間、ざわつく心が仕事を妨げた。
     そしてざわつく心が静まらない原因の彼がいま目の前にいる。
    「僕も驚きました。T商事にお勤めとは、思ったより世間は狭いですね」
     鹿児島の郷土料理と芋焼酎を売りにしている駅近くの居酒屋『チェスト』で僕らは待ち合わせをした。
     活気ある掛け声とともにビールが運ばれてくると、ネクタイを緩め1日の労をねぎらって2人で乾杯した。
    「ご結婚して何年です?」
     照明の角度のせいだろうか? ビールを持つ彼の薬指には輝きを失ったリングの指輪が見えた。
    「4年。結婚式に出てくれなくて淋しかったんだよ」
    「すみません、大事な取引があってどうしても渡米しなければいけなかったんです。じゃ、改めてご結婚おめでとうございます」
    「ありがとな」
     どちらともなく2度目の乾杯をした。
     出張は本当のことだが、出発日は結婚式の2日後だった。
     美しい純白のドレスに身を包んだ女性の隣で、幸せに微笑む彼に「おめでとう」と言える自信がなかった僕は彼から逃げたのだ。
     小学の時、中学生だった2つ上の兄秀生が連れてきた何事にも前向きで負けず嫌いな野球少年。おおらかで勝負にこだわらない兄とはいいコンビだった。
     兄たちの日焼けた笑顔に病弱で引きこもりだった僕は憧れ、いつも2人にくっついていた。
     高校に入学すると、甲子園を目指す彼を窓越しに見つめる日々を過ごした。
     いつの頃からか当然のように彼の傍らで1人の女性が笑っている姿を窓越しで見かけるようになった。
     2人の姿を見るたびにズキリと胸が痛み、「目障りだ」といつしか痛みは彼女への嫉妬へ変わった。
     彼への気持ちを自覚したのはそのころだったと思う。そう思うと僕の初恋は小学6年だったと言える。
     ――とうの昔に彼への恋心は消えてなくなったと思っていたのに……
     本人を前にすると高校時代の嫉妬に苦しんだ想いが蘇ってくる。
    「渉は結婚しないのか? 秀生が心配してたぞ」
    「兄は心配性なんですよ。実家は兄夫婦が継いでくれてるし、今の時代、結婚しない人も珍しくないですし、今は仕事が楽しいんです」
    「そう……だな。結婚がすべてじゃないよな」
    「?」
     一瞬、陰りが見えたかに思えた彼の表情は屈託のない笑顔に。見間違いかと僕は気に留めることはしなかった。
    「秀生はホント渉に甘いからなぁ〜 昔っから渉の手を離さなかったけど、いい歳こいて今でも『渉が』って酒を飲むとお前の話になるんだぜ、相変わらずブラコンだよ」
    「ええ。困ったものですね」
     居酒屋に活気がでると人の熱気でエアコンの効きが悪くなり、暑さに上着を脱いだ。
     会社で気になっていたシャツのしわが、上着を脱いだことで確認したかたちになった。
     ――アイロンのかけ忘れ? それに顔色がやはり悪い。奥さんとうまくいっていないのだろうか?
     去年、子供が生まれたと兄に聞いていた。先ほどチラリと見えた携帯の待ち受けはかわいい笑顔の赤ちゃん。
     ――そんなの僕の希望的憶測だ。
     自分を否定し、ビールを飲み干した。 

     ――もう10年経ったのか……
     ビールを焼酎にかえて、まじまじと渉の顔を見つめた。
     東京の大学に合格した渉は名古屋を出ていった。
     親友の秀生とは盆、正月に帰郷したとき酒を飲み交わしていたが、秀生の弟、渉とはいつもタイミングが悪く会えずじまいだった。
     去年まで関西を担当していた俺、鈴本航平は日頃から淋しいと言っていた妻のために子供が生まれたからと都内へ担当替えを申請していた。
     今年初め都内担当への人事がおりて、渉の会社は3社目の営業担当になったのだ。
     帰郷するたびに秀生から渉の自慢話を聞かされていた俺は、渉と疎遠になっている自覚がなかった。だが目の前の渉は、秀生の後ろに隠れていた弱々しく儚げな印象は一変して、二重の瞳に長い睫毛。スッキリしたあごのラインに癖のある髪が人目を引きつける不思議な雰囲気を漂わせ、10年と言う歳月は長いのだと改めて感じた。
     そんな彼との10年間を取り戻したい衝動にかられて咄嗟に俺は声をかけてしまった。
     帰り際とはいえ取引先の課長の前で営業が担当者を誘うのは、取引に便宜を図ってもらうためと誤解を招きやすい。そんな判断もできなかった俺に渉は、積もる話もあるからとうまい言い訳をしてくれた。
    「そう言えば、渉と飲んだことないな。いつもは何を飲んでる?」
    「寝る前にウィスキーを少し。付き合いではなんでも飲みますがワインだけは苦手です。みんなが言う美味しさが僕にはわからない」
     俺もわからないと言うと「良かった」と渉は笑った。
    「こうやって2人とも酒を飲む歳になってたんだな」
    「航平さん、おっさんみたいですよ」
    「おっさんくさいか? 渉と飲んでるって言ったら秀生は怒るだろうな。怒るといえば、あの夏の日……」
    「夏?」
    「そう、夏休み。川遊びをして渉が熱を出した時」
     渉の目の奥は深いグリーン色で子供の頃は大きな瞳にハッキリと見てとれた。子供心に人と違う瞳はミステリーできれいだった。ひと目で気に入った俺は自分の弟にすると決めた。

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    作者紹介

    • 栁瀬 彌月
    • 作品投稿数:5  累計獲得星数:50
    • みなさんを引きつける小説を早く書けるようになりたいと思う今日この頃……言葉で表現するって本当に難しいですね。
      イラストや写真はホームページにて公開しています。
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      Hobby and novel ―小説家への夢―:http://mitsuki0novelist.web.fc2.com

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