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シリーズ:月夜の晩に空を渡るもの
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月夜の晩に空を渡るもの

作者:よもつひらさか

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    空を渡るものは鳥や風だけではありません。


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    月夜の晩に空を渡るもの 2584文字

     

    その女は、全裸でこの寒空の下、佇んでいた。
    夜中、山の中の細い農道を車を走らせていた男は、突然目の前に現れたその女に驚き、急ブレーキを踏んだのだ。男の脳裏に浮かんだのは、拉致、レイプ。
    男は悩んだ。この女を助けたい気持ちはあるが、これではまるで自分が犯人扱いされるのではないかと。
    見て見ぬフリをしようと思った。
    しかし、通り過ぎた瞬間、女が悲しそうにこちらを見たので、男は思いとどまった。車を止め、女に近づいた。

    「どうしたんですか?何があったんです?」
    そう言いながら、とりあえず目のやり場に困るので、自分のコートを女に着せた。
    「わからないんです。」
    女はそう一言呟き、下を向いた。
    記憶喪失なのだろうか。
    「思い出せないの?」
    「ええ。」
    かわいそうに。記憶をなくすほど酷い目に遭ったのだろう。
    「とりあえず、乗って。俺は何もしないから。」
    女は素直に車に乗り込んで来た。
    「名前とか、住所も、何も思い出せないの?」
    「ええ、何も。」
    正直、やっかいなことになったと思った。
    女はなかなか好みのタイプではあるが、厄介ごとはゴメンだ。
    男は、すぐに交番まで車を走らせた。
    しかし、夜中の交番というものは、誰も居ないものだ。
    しかも、コートの下は、全裸の女。これはどう考えても、自分にとって分が悪い。

    「とりあえず、今日は俺の部屋に泊まる?その格好じゃあ、俺も交番に行くのは困るし。」
    「すみません。」
    女は何も思い出せない自分が歯がゆいように唇をかみ締めた。
    その仕草が何とも痛々しかった。
    女性用の下着はもちろん持ち合わせていないので、とりあえず男は、自分のスウェットの上下を女に貸し与えた。サイズはぶかぶかで合っていないけど、裸よりはマシだ。

    「おなか、空いていない?」
    女に聞くと、首を横に振った。
    まあ、酷い目に遭ったのなら、それどころじゃあないか。ショックで食物も喉を通らないだろう。
    「布団、一つしかないから。悪いけど、コタツで寝てくれる?」
    女は頷いた。
    「明日になったら、警察に行こう。君の捜索願が出てるかもしれない。」

    ところが、警察に行っても、女の捜索願は出ていなかった。
    いろんな可能性を考えて、かなりの範囲の警察を訪ねて回ったが、この女の特徴に似通ったような捜索願は出ていないのだ。男は途方にくれた。
    いくらなんでも、見ず知らずの女を、いつまでも家に置いておくわけにはいかない。
    それかと言って、この寒空の下、女を追い出すわけにもいかない。

    そして、女は不思議な女だった。
    男がいくら食事をすすめても、決して食べようとしないのだ。
    体に悪いから食べるように勧めても、決して食べない。
    食べられないというのだ。それでも、女は衰弱する様子はなく、健康は損ねていないようだった。
    ただ、水だけは摂取しているようだ。なので、男には何も負担はなかった。
    まるで、食わずの嫁だな。
    男は、自分の頭に「嫁」という言葉が浮かんだことに驚き、自虐的に笑った。
    いくら好みだからって、性急過ぎるだろう。女は、自分をどう思っているかもわからないのに。

    男は最初こそは、女の身元をつきとめようと、東奔西走したが、まったく手がかりが掴めないまま、諦めてしまった。諦めたというよりは、女の居る生活が楽しくなり、手放したくないと思い始めていたのだ。
    月夜の晩に出合った女を男は月子と呼ぶことにした。
    月子は、相変わらず飯を食わず、それでも何事も無く暮らしている。
    薄々、男は、月子が人間ではないことを気付いていたのかもしれない。
    それでも、恐ろしいとは思わなかった。
    月子は、抜けるような肌の白さと、その容姿の美しさで、男を虜にしていたのだ。

    そして、男はついに我慢ができずに、月子の肌に触れた。

    ヌルリ。
    男はその感触に驚いて、手を引いた。
    すると、月子は悲しそうな目で、男を見た。

    「そろそろ、私は、主様の下へ帰らなければなりません。」

    「月子、どういうこと?」

    「私の体は、満月の晩に空を渡ります。」

    言っていることがわからないよ。

    「騙しててごめんなさい。私は、未来から来ました。」

    「未来?」

    「お気づきとは思いますが、私は人ではありません。」

    そうだよ。知っている。でも、俺には月子が必要不可欠。

    「私の体はもうすぐ気化します。私の体は水でできていて、分子レベルに分解します。」

    「そんなこと、信じられないよ。俺は、月子の居ない生活など、もう考えられないんだよ?」

    月子の頬を、涙が伝う。

    「私はあなたの前から姿を消します。」

    「そんなことを言わないでくれよ、月子。絶対に君を離したくない。」

    「ダメなんです。そうしないと、私は、あなたを取り込んでしまうから。

    未来、人は、なめくじから人の姿をした物を作りました。そう、私の本来の姿はなめくじです。

    気持ち悪いでしょう?私のいる未来は、人となめくじから作られたダミーが共存しています。

    何のために作られたかというと、所謂なぐさみ物です。だから、ダミーのほとんどは、女性です。

    性犯罪の増加から、国策としてダミーの製造が許可されたのです。倫理上の議論もありましたが、

    私達ダミーは人ではないので、問題なしとされました。ところが、ごくまれに、人格を持つダミーが

    現れるようになったのです。それは、人の愛着が強ければ強いほど、その傾向は顕著でした。

    そして、私も。」

    そこまで、一気に話すと、また月子は涙をこぼした。

    「ずっと一緒に居よう。」

    男はヌルリとした、月子の手を握ろうとすると、月子は慌てて手を引いた。

    「ダメなんです。蒸発の時期が来れば、私はきっとあなたを取り込んで、一緒に気化してしまうことでしょう。

    その現象が元で、私達ダミーの製造は中止されてしまったのです。しかし、私達の原始である、主様が密かに

    どこかの森で生き延びていて、そこへ空を渡り帰ることで、また私達は生み出されて行くのです。

    私が生み出される時、どこかの時空の歪に生み出されてしまい、恐らく過去へと飛ばされてしまったのでしょう。」

    「そんな話は信じない。月子、行かないで。」

    男は月子を抱きしめた。

    「ダメダメダメ!」

    月子がいくら叫んでも、男は月子を離さなかった。
    月子と男の姿が、眩しい光に包まれた。
    体が解けていく。解けていく。
    月夜の晩を無数の水が渡って行く。
    空は随分と水分を含み、やがて小さな霧雨となって行く。
    土を濡らす。葉を濡らす。

    そして、また月が空に上る頃。
    無数のなめくじが、地を這い、草を這う。

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