upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:きりさき是空
閲覧数の合計:85

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

きりさき是空

作者:しかぞう

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
    • タグ:
  • 編集協力者:

    たぶんとうにどっかで誰かがすでに書いていると思うけど、自分も一回書いてみたかった。


    登録ユーザー星:3 だれでも星:0 閲覧数:85

    きりさき是空 2518文字

     

    穢汚州(えがれしゅう)に「酒肴と乱と矢堂」という店があった。名前の通り宴会場と遊郭と射的場を合わせたようないいかげんな店だったが、あたりで唯一見どころになるようなところでもあった。
    もちろんそこには女郎も居たのだが、それにも等級があり、客にも等級があり、その店に属せない夜鷹やそれを買う客もいた。
    夜鷹たちは信心深かった。意外に感じるかもしれないが珍しいことではない。
    稼げて信心する余裕があったわけではない。
    むしろその日の飯も事欠くありさまだった。客の取れる年齢は短く、寄る辺無い彼女たちから更に取り上げる者も多かった。
    だからこそ彼女たちは信心深かった。現世での幸せは望めないから、せめて来世ではもう少しましな人生を送りたいと思ったのである。来世になったらこう生きたい、という夢想が彼女たちのささやかで、また切実な生きる希望だったのである。
    食えなくなったり病気になったり、不当な搾取と暴力で行き倒れる者も多かった。明日の我が身かもしれないそのみじめな亡骸を見るたびに、彼女たちの信仰心は一層厚くなった。
    ところが信心も楽ではない。金のために酒色を頼み嘘も破廉恥も厭わない彼女たちの、相手をする坊主はあまりいなかった。
    しかし是空という僧が居た。苦界に身をやつす彼女たちを憐れみ、彼は遊里を厭わず入り、乞われれば説教も供養もした。そのことに布施も要求しなかった。
    遊女たちの信望厚く、特に夜鷹たちからは生き仏の是空さまと拝まれるほどであった。
    ときを同じくして、夜鷹が相ついで殺された。どれもスパっと鋭利なもので喉を裂かれていた。中には舌を切られている者も居た。最初は金を払わない侍に斬られたか、情死で相手に逃げられたのだともささやかれたが、あまりにも続く。多いときには週に一人死んだ。
    地回りや同心に訴えたが、なあに返って町がきれいになると取り合ってもらえず、重ねて訴えると殴られることもあった。
    それでも遊郭付きの女郎は亡八者にかばわれたが、身一つで頼るもののない夜鷹たちは途方に暮れた。しかし命は惜しい。
    普段は客の引き合いでいさかいの絶えない彼女たちだったが、この件に関しては身を寄せ合って相談した。そして互いに乏しい蓄えを持ち寄って、犯人が捕まるまでは仕事を休んで固まって過ごすことにした。先のことの不安は尽きなかったがその間は犠牲者も出ずつかのまの安心を得た。
    しかし、まだ蓄えはあったがその中に一人、どうしても是空に父母の供養を頼みたいという娘が居た。
    前は貧しいながらも両親がいたが、病にかかり薬を買うために夜鷹になった。薬は得たが両親は助からず、そのまま長屋を追い出され夜鷹を続けているという。明日がその一周忌だというのだ。
    仲間の夜鷹たちはまだ危ないと口々に止めたが、娘は殺されたって両親とまた会える、でもそのとき慕っている父母が地獄にいて、死んだあとまで苦しんで過ごす方が恐ろしいと言った。娘の固い決意に仲間は止める言葉が無かった。せめて神仏の加護を願って念仏をつぶやき娘を送り出した。
    是空に会いに行った娘の帰りが遅い。女郎の方から山門を訪ねるのは確かに面倒だったが、是空はその辺にも手抜かりはなく、小僧に取り次いで呼び出せば会えたはずだ。しかし供養の時間を考えても帰りが遅い。
    孤独に抜け目なく生きていた夜鷹たちだったが、こんどの共同生活でひまがてらにぽつりぽつりと身の上話を交わし、絆のようなものを感じていた。娘へは特に同情を寄せるものが多く、自分たちも娘の父母へ手を合わせがてらに、迎えに行こうと話をした。陽は傾きかけていたが娘の両親が葬られた塚の場所はわかっている。
    ぞろぞろと巣へ帰るカラスのように群れて向かうと、果たして娘は居た。裸に剥かれて喉を裂かれた憐れな姿で。さらに驚いたのは、その上に乗って劣情を満たしている是空の姿だった。
    是空は興奮して逆上したか、それとも開き直ったか、夜鷹たちへ静かに語った。
    隠さずそれまでの夜鷹殺しも自分である。僧籍にあって色欲が堪えられぬのが恥ずかしく、満たした後それを知られるのを怖れて殺したと。此度は長く果たせなかったのでまず殺し、溜まった分を存分に発散した。どうせ今生では罪深く救われぬ身、仏の弟子たる自分の助けとなるのが夜鷹には過ぎた功徳である。
    今までの信頼を裏切られた憤りもある。娘を始めとする殺された仲間の恨みもある。放っておいては命を脅かされる恐れもある。
    しかし彼女たちをまだ刃物を捨てない是空へ向かわせたのは、信仰を汚された怒りであった。彼女たちは彼女たちなりに信心深かったのだ。
    何人かは切られて傷を負った、髪が散り血が舞った、しかし多勢に無勢である。刃物を取り上げられた是空はまだ天を向く一物を皮切りに、刃物を渡し合う夜鷹たちにかわるがわる切り刻まれ八つ裂きにされた。
    是空を探しに来た小僧は、半裸で逆上してる夜鷹たちと、血の海に沈む袈裟、それに包まれるように見えた骨と肉の山であった。
    叫んで逃げ帰り僧たちが入れ替わりにやってきた。
    僧たちもあまりの光景に言葉を失ったが、その中から老齢の和尚が進み出て、夜鷹たちになにが起きたのか問うた。
    夜鷹たちが血のにおいに高ぶりを抑えられぬまま語ると、和尚はしばらくの沈黙の後に詫びた。
    是空の様子がおかしいのは気づいていた。しかしここまで恐ろしいことになっているとは思わなかった。弟子の悪行は師である私の不明である。犠牲になったお前たちには詫びようもない。もとはと言えば、己の悟達のために不浄を嫌いお前たちを遠ざけた私たちの因業である。祖師は衆生を区別しない。
    これから穢汚州の遊女たちは例外なく往生するよう寺で供養する。是空は破門するのでお前たちの中で許せる者が塚を作り念仏をしてやるがよい。それにて今回の始末としたいがどうか。
    夜鷹たちは顔を見合わせて短く言葉を交わすと、合掌して和尚の申し出を受け入れた。
    以来遊女が死ぬとそれが身元不貞の夜鷹であっても寺に運ばれ供養され、三年に一度、彼女たちを弔う法要がある。また酒肴と乱と矢堂脇にはひっそりと供養塔が立ち、是空の凶行と、それを許した夜鷹の慈悲が伝えられた。
    以上が穢汚州のきりさき是空の顛末である。

    ←前のページ 現在 1/1 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • いいですね
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    • しかぞう
    • 作品投稿数:74  累計獲得星数:172
    • 関連URL
      :

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    • 友食  by Hiro

      └今日は、私たち四年四組の『友食』(ゆうしょく)についてみなさんにお話しようと思います。/『短編小説』『ゆるいホラー』『ホラー小説コンテスト応募作』/ご感想お待ち…

    • マンホール  by 寿加

      └【短編一話完結】先生とおれのオカルトな日常※BLではないですが中の人がアレなので、そのように感じられるかもしれません。ご注意ください※

    • 白い手  by Ash

      └元は学校の七不思議……いや、ネタが思いつかなくて五不思議しか書けなかった中の一作です。主人公のキャラ以外繋がりはないので、一作でも読めると思います。時間があった…

    • 暗黒の詩 Vol.1 預言  by 怪奇伯爵

      └アメリカのB級ホラーテイストを目指した作品です。ゾンビ意識ですが、あえて控え目にしました。

    • 怖くて、悲しく、感動する話  by 外道ベイビー

      └始めまして、僕の名前は狐小僧ともうします。この作品を作るのが僕のはじめてだとおもいます

    続きを見る