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シリーズ:手の目
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手の目

作者:しかぞう

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    生まれつき目の見えなかった少女は、優しい姉に助けられて幸せに暮らしていた。その姉を殺されたときのショックで視覚を取り戻した少女は復讐を決意する。


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    手の目 5331文字

     

    手の目
    越後の話。夜半、盲人がひざまづいて地面をまさぐり、しきりになにかを探している。通りかかった旅人がなにか難儀をしているのかと近寄ると、盲人は手のひらを向けた。そこには目玉がありぎょろりと旅人を見た。肝を潰して逃げ出し、旅籠の主人に体験を話すと、それは手の目と呼ばれる妖怪だろうと言う。近くで盲人が強盗に金品を奪われて、この目が見えれば追えるのにと恨み、その念で手のひらに目を生じ相手を探すのだ。果たして強盗を捕まえられたのかと聞くと、その妖怪がまだ居るなら違うでしょうと言った。だからこの辺で野宿は危ないので泊まって行きなさいと勧められた。旅人が木賃を払うと、まあ、爺さんから聞いた話ですがねと宿の者は言った。旅人は騙されたという思いよりも、見つからない相手を探し続ける手の目を憐れに思ったという。

    麻子(まこ)は生まれつき目が見えなかった。しかしそれになんの不自由を感じなかった。
    安子(やすこ)という優しい姉がいて、なににつけかいがいしく面倒を見てくれたからだ。
    両親はしばしばつらく当たったが、いつも安子がかばってくれたので気にならなかった。
    ただ、麻子の面倒で安子が、彼氏を作ったり友達と遊んだりといった、年相応の楽しみをできていないのは心苦しかった。
    安子は気にするなと言ったが、麻子は安子の大学進学と同時に、一人暮らしに送り出して自分のことは自分でしようと決めた。
    安子は心配してなんども抵抗したが、その安子の優しさを感じるたび、麻子の決意は固くなった。
    麻子が、安子の優しさが独り立ちをスポイルしてしまうのだと言うと、ようやく安子も了承した。そして小さな声で、ありがとうと言われた。麻子も嬉しかった。
    安子の高校卒業の日、三歳下の麻子も卒業式だった。そして安子が県外へ旅立つ前日でもあった。
    麻子にきつい両親のいる家では、二人もあまりくつろげなかった。世間一般の家族以上に触れ合い過ごす時間の多かった二人である。
    別れを前にして積もる話があった。喫茶店に入り長く話した。気がつくと暗くなった。そのことは麻子は気にならなかったが。
    しかしさすがに遅くなるのを気にした安子が帰ろうと言い出した。安子の言うことに麻子は従った。麻子はいつだって安子の言うことは素直に聞いた。
    その帰りに襲われたのである。
    誰かが不意に近づいた気配がした。そしてすぐに杖が払われた。慌てて探そうとすると安子の悲鳴が聞こえた。

    「逃げて! 逃げるのよ麻子!」

    安子が誰かともみ合う気配があった。息の荒い男の声で、どけだのじゃまだの脅すような言葉が聞こえた。
    麻子は恐怖に混乱したが、安子の声で逃げることができた。そして叫んで助けを求めた。
    下校時間と帰宅ラッシュの間のちょうど人のいない時間だった。助けが来るまでどれだけかかったかはわからない。そのあと麻子が案内した場所に着いたのに、どれだけ手間取ったかもわからない。本当にそこだったかも自信はない。でもたぶんそこだったのだろう。
    麻子の落とされた杖はあった。安子は居なかった。
    三日後、安子は乱暴された痛ましい死体で見つかった。麻子がそれを見ることはできなかったが。犯人は捕まらなかった。
    麻子は何度も証言したが、言えることなどほとんど無かった。男、だと思う。体格は大きくもなければ小さくないとも思う。痩せているか太っているかもわからない。年齢もわからない。若かったような気もするけどそうじゃないかもしれない。
    声なら! 声を聞けば間違いなく区別できる。声さえ聞けば、私にはそいつがわかる。
    警官の申し訳なさそうなため息が聞こえた。それはまるで、役立たずといわれているように聞こえた。
    両親ははっきり言った。お前は助けてくれた姉の無念も晴らせない役立たずだと。父も母も言った。なんども繰り返した。お前が死んで安子が助かればよかったのにとも言った。
    でも麻子は別に気にならなかった。
    そんなことは一番苛烈に、数えきれないほど麻子自身が責めていたからだ。かばったり慰めてくれる安子はもういなかった。その不在をそのたびに痛切に感じた。
    怒りとも悲しみともつかない感情でなんども吐いた。ガンガンとやまない頭痛でめまいがした。悔しさで起きるといつも爪の食い込んだ手や下唇から出血していた。両親はみっともないと周りを汚すことを咎めたが、手当すらしなかった。
    泣いているとときおりまぶしい光が見え、そして車酔いのような気分の悪さが込み上げた。繰り返すたびにそれは激しくなり、やがて光と色の奔流に飲みこまれた。
    それは初めて麻子が見た世界だった。麻子は視力を取り戻した。
    最初はそれが視覚だということもわからなかったし、そう予測しても焦点を合わそうとするたびに、頭痛と嘔吐に襲われた。
    両親は別に興味を持たず周りを汚すことに文句を言った。
    でも気にならなかった。麻子は汚すと周りが煩い理由がわかったし、それの処理も以前よりもずっと簡単になった。両親に優しくされたいとも助けられたいとも思わなかった。そんなのは前から安子さえいれば十分だった。
    でもその安子はもういない。
    安子はいつも、絶望してはダメ、必ずいいことがあるから、強く生きるのだと麻子を励ました。
    麻子は安子のおかげで、見えないからといって死にたいと思ったことは一度もなかった。
    もしまた見えなくなることで安子が戻ってくるなら、自分で目をえぐることだって厭わない。
    でもいまは生きるのが苦しかった。死でそれが止まるならなにも怖くなった。そうしなかったのは、おそらく安子はそれを望まなかったろうと考えたからだ。
    なにもできない妹でも、なにもできないからこそ、何でもしてくれた姉の幸せの邪魔にだけはなるまいと麻子は決めていた。安子は絶対あんな死に方をしたかったはずはない。自分の人生があんな形で終わるだなんて思っていないに違いない。でもそうなった。
    そうした奴がいる。そいつを知っていて、そいつに報いを与えたいと思ってる人間は、もう自分しかいない。
    絶望している人間にも人生には目的が必要だ。
    麻子が選んだのは、安子を奪った相手に報復することだった。
    その日から麻子は泣くのをやめて、サングラスをかけた。前はしなかったが、いまは見えてるのを感づかれるのはよくないと思ったからだ。
    様子の変わった麻子に両親はおびえ距離を取るようになった。
    麻子は高校に通う一方で犯人捜しを始めた。
    かといって貼り紙を作って張り出すわけにもいかない。麻子は目が見えないはずなのだから。それは麻子の計画にも都合がよかった。
    麻子はそれを口実に、あたりへ聞き込みを始めた。この間こういう事件があった。自分は姉に助けられたが目が見えないので手がかりがない。どんな些細なことでもいいから気づいたことがあったら教えて欲しい。
    生まれてからずっとそういう生活をしていた麻子の、盲人のフリを見抜く者はいなかった。
    最初はみんな同情してくれた。でもそれが度重なると、はっきりとは言わないが迷惑がるようになった。見えないと思って表情を隠さないせいか、麻子は人の顔って面白いと思うようになった。
    両親も外聞が悪いと文句を言ったが麻子は聞く耳を持たなかった。どうせ愛されていないし愛されたいとも思わない。
    しつこいときには「私はお姉ちゃんの仇を取る」と繰り返せば引き下がった。それでもダメなときにはサングラスを外して両親を見つめ、自分の眼球に触れながら「パパもママも見えるのにも関わらず……」と言い出すと言い終わる前に逃げた。麻子はおぼろに、あてにしてただけで安子のことも両親は愛してなかったのだと感じた。
    三年過ぎた。インターホンを押しても返事してくれない家がほとんどになったし、麻子のこともすっかり近所の評判になった。考えの足りない小学生がはやしたりするようになった。毎日盲人が、杖音高く数年前の強姦魔が強姦魔がと訴えて歩いているのだ。奇人呼ばわりも仕方がない。むしろそれが麻子の狙いだった。
    犯人は近所の人間だ。活動範囲は徒歩圏内だ。死体も町内で見つかったのだ。聞き込みを始めてから不審な引っ越しをした家もない。私の評判を相手も聞いてるはず。私はあきらめない。相手は逃げ切れるかどうか、毎日この杖音を聞くたびに危機感を募らせているはずだ。

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    コメント

    •  悲しいお話でした。死んだ姉のために犯人を追い詰め、眼球を抉る少女。もし、お姉さんが殺されなかったらと考えさせられるお話でした。
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    • しかぞう
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