upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:妄想症候群
閲覧数の合計:645

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

妄想症候群

作者:ソラマヨネーズ

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    「オマエは俺のコイビトだろ?」
    妄想症候群、それは現実と妄想の世界の区別がつかなくなる、病。
    実に平穏な日々を送っていた主人公は、その病にかかった青年に出会う。
    彼らが歩む、夏の日々。ヤンデルラブストーリー。


    登録ユーザー星:3 だれでも星:5 閲覧数:645

    妄想症候群 22294文字

     



     水ごと、飲み干した。その粉末は、心臓付近まで達して溶ける。喉が急速に熱くなって嗚咽を繰り返す。
     なぁ、『一つになる』ということは、果たして本当にこういう事を言うんじゃないだろうか。
     人は、俺を病んでいると嘆いた。人は、俺を狂った野郎だと笑った。
     なぁ、果てに行き着いたお前。その言葉に心を痛め、いま、俺と同じ酸素を吸っているのか?



    妄想症候群



     青年は、全身に初夏の風を感じていた。はたはたと白いワイシ男はそれに揺れる。じめっとした日本の夏の温度。それに爽やかな風は心地よい。上を向いた。広がる青い空、流れる白い雲。
    「だーれだ」
     突然に暗くなった視界。青年の体はびくんと跳ねる。目元に感じる、熱い体温。相手の目元を後ろから手で覆う。子供がよくやるあの遊びである。汗を掻いているらしいその手のひらは、夏の肌にはよく引っ付いた。気持ち悪い。
    「さあ」
     本当に、わからなかった。だから青年は首を傾げた。
     自分の手が未だにジュースのパックを握りこんでいることを感覚で確認する。口元だけでストローを探し当て、勢いよく吸った。甘酸っぱいオレンジが口内に広がる。やはり、口に入れるそのものが見えていないと美味しさというのは半減するらしい。着色料の塊のような何とも言えない安っぽい味がした。
    「当ててくれよ」
    「……わかるわけねぇだろ、男ってことくらいしか」
     その声の低さからと、骨ばった骨の感触から後ろにいる人物は男であることが青年には分かっていた。だからといって、青年にはその名前を当てることが出来ない。いやいや、自分の仲の良い奴の名前をあげればいずれか当たるだろっノリの悪い奴だな、とどこかの誰かに言われるかもしれない。けれど彼は普段の学校生活で、女は愚か男にさえ、めったに声を掛けられないのである。無論、友達と呼べる相手は居ない。
    「正解は、俺でーす!」
     開けた視界。見えたのは太陽の光に青い空。いつもの見慣れた屋上からの風景だ。熱っぽさから解放された目元は、風が通ると気持ちがいい。瞬きをした。瞬間、ひょこんと、目の前に現れた男。
     フワフワした綿菓子のような髪の毛。丸い瞳、人懐っこい笑顔。白いワイシ男からは、洗剤の香りがする。年は青年と同い年くらいだ。服もワイシ男にチェックのズボンと当然といえば当然であるが、同じ制服を着ている。
     青年は首を傾げた。
    「どした? カケル」
     男は青年の顔を覗き込む。そう彼の名前はカケルだ。それが親から与えられた、唯一無二、彼自身を表す言葉。だがどうだろう。彼はこの男を知らない。名だけではなく、顔にさえ見覚えがない。
    「お前、誰だよ」
    「はあ?」
    「同じクラスの男か? つか、俺の下の名前知ってるなんて珍しいな」
     カケルは怪訝に眉を寄せる。
     友人のいない彼は、下の名前を誰にも告げたことがないのだ。もっとも、名簿か何かで確認すれば分かると思うが、そんな面倒をしてまでも自分の名に興味を持つ者がいるとも思えなかった。
    「ちょ、ちょっちょ!なにいってんの!」
     慌てふためく目の前の男。両手をばたばたっと振るものだからまるで踊っているようだと思った。
     反して、カケルは冷静だった。『なんだこいつ?』程度にしか感じない。再びストローに口をつける。もうパックの中身には無いようだ。代わりにスカスカした音と、オレンジ味の空気が口に広がる。
    「俺だよ、俺!」
    「見えてる」
     彼は視力はいい方だった。2.0。教室の一番後ろから、黒板に貼ってある掲示物の細かな字まで読むことが出来る。唯一の自慢だ。いや、男がそのようなことを聞きがっているわけではないことを、カケル自身も気づいていた。だからこそ自分自身を指差して懸命に訴えてくるこの男を、カケルはさらに目を凝らして見る。いや、まったく思い出せない。というか、こんな男に会った記憶がないのだ。
     いやしかし、彼の大きな欠点の一つ、『人の名前と顔が覚えられない』能力が発動している可能性も大いにありえる。
    「もしかして、俺にケンカでも売りに来たのか?」
    「なにがだよ!……ああ、もう! 俺は、お前の恋人だろうが!」
     その発言。言うならば、彼の表情はぽかーんだ。口、目、鼻まで開いてぽかーん。そんな漫画みたいな表情にもなるだろう。なにせまったく知らない男に、驚くべきことをいわれたのだから。
    「まったく、恥ずかしいこといわせんなよ、どえすぅ」
     肘を使い、カケルの肩をぐりぐりと押す男。見ればおちゃらけた声を出すわりに、頬は少し赤い。なんだ、コイツ? とカケルは全身に鳥肌が立つのを感じる。
    「気持ち悪ぃな、なに言ってんだよ、お前」
    「酷いな! 恋人同士のスキンシップを気持ち悪いなんて!」
    「そこじゃねぇいやそれも気持ち悪いけど。俺は、男と付き合う趣味はねぇってことだよ」
     そう、カケルにはそういった趣味はまったくない。そもそもなにを言ってるのか。恋人? 友人もいない自分に、そんなものがいるわけがないだろうとカケルは怒りさえ覚えていた。新手のケンカの売り方なのか、または若者の間で流行し始めたか何か新しいスキンシップの一つなのか。どちらにせよ、面倒だった。
     ぐしゃと潰した、ジュースのパック。こんな面倒くさそうな男は関わらないに限ると彼は立ち上がる。すると、男は焦ったように勢いよく彼の腕を掴んでくる。
    「へ、はぁ!? ま、待てよ!」
    「なんだよ」
    「待て、分かった!……はっはーん。あれか、そういうプレイがお望み?」
    「はぁ?」
    「俺に、さんざん恥ずかしいこと言わせるつもりなんだろ!いいぜっ聞けよ!
     お前の感じるとこはどこだ? とかそんなことまで、俺は答えてやろう! えと、この辺とかぁ」
     そういって自分のシャツを捲り上げる男。自身から脱いだくせに、羞恥に顔を赤くさせながら、脇腹なんかを指差している。さらに上に進み、胸の中心に置かれた指先をカケルは見なかったことにしたい。
     カケルは思う。コイツは本物の変態なんじゃないだろうか、いや変態だ。気持ち悪ぃ。
    「俺とお前は初対面だっていってんだろ! お前みたいな変態、知るか!」
     彼の口から出た、怒鳴り声。久しぶりに、こんなにも感情を露にした声を出させた気がする。見れば驚いたままの表情で固まっている男の姿。それを背に回し、カケルは屋上を出て行く。
     言い過ぎたのだろうか? 屋上から続く階段を下りながら、さきほどの男の瞳に涙が浮かんでいたのを、ふとカケルは思い出す。いやしかし、これであの男も諦めてこの屋上に二度と近寄らなくなるだろう。あそこは自分だけの場所、自分を守れる唯一の場所なのだから。


    *


    「なぁーなぁーもうそのプレイ飽きたってぇ」
    「うるせぇな。よってくんな、気持ち悪い」
    次の日。いつものように屋上で寝そべる彼の元に、例の男は男てきた。昨日と同じように、だーれだを繰り広げ、カケルの額の血管を千切らせる。相変わらずのへらへら笑顔。それにカケルはいらつきを抑えきれない。
    「なぁー、なんか怒ってんの?」
    「怒ってる」
    「なに?」
    「お前が俺の近くに来るからだ」
    「またまたぁ!」
     なにがそんなに楽しいのか。カケルがは真面目に嫌がっているというのに、ヘラヘラと笑う男。カケルからしてみれば、普通の人間とは思えなかった。 元からヤンキー面の自分がここまで怒っている様を見せつけているのに近づいてくる人間。そんなの初めてであったのだ。
    「しかし、そんなカケルくんに、俺は今日プレゼントがあるのでした」
    「……なんだよ」
     プレゼント、その言葉にカケルは顔をしかめる。ふと見れば男は手元にビニール袋を提げていた。ガサゴソと中身を探り出す。それをさもどうでもいいという顔を作りながら、それを横目で見るカケル。不覚にもツボをつかれてしまったのだ。なぜなら彼は、プレゼントというものに興味があった。カケルは人から、めったに物を貰った記憶がない。教師からの追加プリントだとか、コンビニの店員から多めにスプーンだとか……その程度だ。その初プレゼントが、男、しかも変態に奪われるのもどうかと思ったが、とにかく、彼の好奇心は掻きたてられてしまった。
     白いビニール袋から現れたもの。男はそれをカケルの目の前へと突き出す。

    ←前のページ 現在 1/7 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    • 初めまして、読了させていただきました。
      リアル!と叫びながら読ませていただきました。
      あえて『抜け出さない』彼が、非常に痛々しいのか、幸せなのか、よくわからなくなってしまったけれど、なんとなく読んだ後に清々しさを感じました。病んでるのに。
      引き延ばしている感じも詰め込んだ感じもしない自然な文章で、すんなりと読めてしっかりとまとまっている印象を受けました。規定字数に合わせることが苦手なので、素直にすごいなぁと思って読ませていただきました。
       素晴らしい作品に出会わせていただいて、本当にありがとうございました。
      • 1 fav
      • Re 返信

      を押す事で、投稿者に「イイね!」を伝える事ができます。


    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 ボーイズラブの人気作品

    続きを見る