upppiは縦読みコミック(タテコミ)・イラスト・小説が無料で楽しめるサービスです!

ようこそ!ゲストさん
シリーズ:鬼さんこちら
閲覧数の合計:82

作品を編集する

  • シリーズタイトル・ジャンルの修正
  • この章を改訂する
  • この章を削除する
  • シリーズに作品を追加する
  • 表紙画像の変更

鬼さんこちら

作者:泉 鳴巳

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    “食人鬼”が町を騒がせているらしい。そんな奴がいたなんて、俺は知らなかった。
    恐怖と狂気が交錯するホラー・ミステリー。


    登録ユーザー星:4 だれでも星:0 閲覧数:82

    鬼さんこちら 4381文字

     



     一番怖いのは、生きている人間だと思うんだ。
     幽霊でも悪魔でも妖怪でもポルターガイストでもなく。
     魔法のような現象より、得体の知れない存在より、人智を超えた力よりも。
     俺は、生きている人間が一番怖いと思う。
     ……なあ、そう思わないか?
     なあ?
     なあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあ?

     
     * * *


    「食人鬼、って知ってるか?」
     貴重な安眠の時間である古典の授業が終わるなりそう声をかけてきたのは、クラスメイトの谷口だった。
    「し……何?」
     まだ眠気の覚めやらない頭に唐突に飛び込んできた言葉は形を結ばず、俺の頭の中で霧散した。
    「食人鬼だよ、しょ・く・じ・ん・き」
     小さい子に言い聞かすように音を区切って言われ、ようやく頭の中で変換される。
    「言葉通りの意味なら人を喰う鬼、か? それがなんだってんだ」
     言いながら相手に身体を向ける。
     ボサボサの髪に、だらしなく着崩した制服、腕のカフスボタンも一つ取れている。
     風紀委員が頭を抱えそうな格好である。
     そんな奴が俺に向かって小馬鹿にしたような表情を浮かべているのだから面白く無い。
    「……何だよ」
    「いやあ? 別に。秀才の吉井クンにも知らないことがあるんだなって」
    「もったいぶってないで言えよ」
     なおも躱そうとする谷口を追求すると、奴はポケットからスマホを取り出した。
     表示された画面を凝視する。
    「ネットニュース?」
     谷口は仰々しく頷く。
    「そう、簡単に説明するとだな……」
     谷口が鬱陶しいジェスチャーを交えて語り出した。
    「事件の発端はそう、俺たちが住むこの市内で、数週間前から行方が分からなくなっていた少女の衣服が見つかったんだ」
    「夜道で攫われ身元の分かる衣服は別の場所に、って感じか? こう言っちゃ悪いがわりと良くある話っつーか、そこまで騒ぐ理由が分からねえ」
    「まあ焦るなって。こっからが“やべえ”んだ」
     谷口はずい、と顔を近付けてきた。
    「近い。ウザい。キモい」
     俺の言葉に耳を貸さず、谷口は机から身を乗り出したまま続けた。
    「その見つかった衣服なんだがよ、そいつには人糞が付着してたんだ」
    「ジンプン?」
    「人糞。排泄物。要するにウン」
    「わーかった、分かった。理解した」
     畳み掛けるクラスメイトを制しながら言った。
    「で、それがなんだってんだよ。犯人? の性癖なんじゃないのか?」
     俺の言葉を聞いて含み笑いを浮かべる谷口。腹立つ顔しやがって。
    「それがよ、そこからは少女のものと思われる頭髪や歯が出てきたんだ」
    「……なっ」
     理解するのに数秒かかった。口元がわななく。
     頭に冷水をぶっかけるような言葉に眠気は一気に覚めた。冷めすぎて寒いくらいだ。
     俺の反応に満足したのか、谷口は満足そうに続けた。
    「な? すげえだろ?」
    「すげえ、っつーかよ」
     言葉が続かない。
    「だから、食人鬼、か」
     どう控えめに言っても完全に異常だ。聞いただけで吐き気を催すような内容である。
    「しかも、だ。同じ手口でもう既に五人殺されてるんだ。な? すげえだろ……ってお、おい、大丈夫か。真っ青だぞお前」
     さすがに心配そうな顔を浮かべる谷口。
    「お前な、こんなエグい話どうしてそんなに喜々として話せるんだよ」
    「悪かったって……てかほんとに知らないのか? ローカルどころか全国ニュースでも話題になってるぞ?」
     やっと衝撃から頭が立ち直ってきた俺は呟くように言った。
    「俺はテレビもネットもほとんど見ないからな」
    「いや自慢にならねえって」
    「いいんだよ、俺には俺なりの生き方があるから」
     俺は立ち上がると鞄を背負い、奇人を見るような目で俺を眺める谷口に背を向ける。
    「そろそろ帰るわ」
    「お、おう……悪かったな」
    「まあいいって。じゃあな」
     そう言って俺は教室を出た。
    「おう、気をつけてな」


     * * *


    「ったく、アイツに付き合ってたら遅くなっちまった」
     十月ももう半ばを過ぎ、この頃はすっかり日も短くなった。
     街灯もまばらな日暮れの路地を俺は一人歩く。
    (ガハハ! 面白えヤツじゃねえか!)
     訂正。一人と一体、だ。
    (おいお前、今何か失礼なこと考えただろ!)
     突如として俺の横に現れたのは、中年の男。“頑固親父”を百科事典で引いた際に参考画像として掲載されていそうな風体だ。
     短く剃りあげた髪に太い眉、逞しい腕をしているが、下腹は少し緩んでいる。
     なによりその身体は半透明で、向こうの景色が透けて見える。
    (なーにジロジロ見てんだよォ)
     何を隠そうこいつは、俺が中学の頃に交通事故で死んだ親父の霊だ。
     ……信じられないかもしれないが実際にいるんだから仕方ない。
     葬式で自分の棺を見下ろし呆然としていたこいつと、突然の出来事に同じく呆然としていた俺の目が合った。合ってしまった。
     それからというもの俺の行く先々に現れてはこうして絡んでくるようになった。
     本人(?)は守護霊を名乗っているが、四六時中五月蝿く喚き立てられる俺にとっては悪霊以外の何者でもない。
     早く家へ帰ろう、そう思い、聞こえないように溜息を吐くと、俺は歩みを早めた。
    (オイオイ無視するんじゃ……危ねぇ!)
     親父の怒鳴り声と俺が飛び退いたのとは同時だった。
     鼻腔を刺す臭気に目をやると、一瞬前まで俺が居た場所が、焼け焦げたように黒ずんでいる。
     慌てて振り返ると、得体の知れない黒いモノがそこに居た。
     そいつは人間くらいの大きさで、手足を持った人型をしていたが、目も口も鼻も無くあらゆる部分が真っ黒だった。
     まるで、影がそのまま立体化したような出で立ちだ。全身から放たれる禍々しい気配に思わず足が竦む。
     そいつは動けない俺に向かって金属が擦れ合うような耳障りな音を立てながら近づき、
    (うちの息子に何しやがるテメエごらああああ!!)
     親父のラリアットで弾き飛ばされた。
     丸太のような腕を渾身の力で叩きつけられたそいつは、ゴムのおもちゃみたいに路地裏の壁を数回バウンドし、悲鳴のような音を立てながら、消えた。
    「いったいなんだったんだ……」

     親父の沸点の低さと手の速さは死して尚相変わらずだった。
     時折出逢ってしまう悪霊の類も、生前無敗を貫いてきた持ち前の腕っ節で叩きのめしてしまう。だから僕は、唐突な出現に驚くことはあるものの、そいつらを“怖い”と思ったことがない。問答無用でいきなり倒してしまうので、襲ってきた奴の正体さえ分からない。
     さっきのやつも親父の攻撃が効いたということは、霊的な存在であることは間違いない。
     まだ肩で息をしている親父を背に、黒い影が消滅した辺りを探る。すると、燃えカスのような、サッカーボール大の塊が残っていたので、つま先でほぐしてみた。
    「これは……」
     果たしてそれは、ぼろきれのようになった服だった。
    (ん〜? そいつぁ、隣の学校の制服じゃねえか)
     いつの間に近づいていたのか、俺の肩から覗き込んで親父が言った。
    「なんだと?」
     言われてみれば、この色、この形には見覚えがあった。
     俺の高校は男女ともにブレザーだが、隣の高校は男子は学ラン、女子はセーラー服だった。
     黒ずんでいて気付かなかったが、この布は女子の制服に使われているリボンだ。
    「しかしなんで中年オヤジが隣の学校の制服まで知ってんだよ気持ちわりいな」
     言いながら、何か嫌な予感を覚えた僕は屈み込み、その塊を手で掻き分ける。すると、指が何か硬いものに触れた。
     恐る恐るそれを引っ張り出す。
    「生徒、手帳……?」
     カバーを開いた俺は、背中を蟲が這いまわるような怖気を感じた。
    (おい! お前、これ)
     言われなくても分かっていた。これは、この手帳は、今日学校で聞いた“食人鬼”の被害者の持ち物だ。
    (さっきのやつが食人鬼ってやつの正体なのか?)
    「うーん」
     その時、視界の隅で何かが光ったような気がした。妙な胸騒ぎを感じた俺は、再度塊に手を伸ばした。
     塊ごと持ち上げてみると、布屑とともに金色のものが転がり落ちた。
     学生服のボタンだ。しかもこれは、俺の高校の校章。
    「どういうことだ……?」

     状況からして、先ほどの悪霊が被害者の女生徒と何らかの関係が有ることは間違いないだろう。

    ←前のページ 現在 1/2 ページ 次のページ→

    1ページ目に戻る
    ▤ 目次ページに戻る


    お気に入りリストに追加 この作品を応援する

    応援ボタンを押す事で作品の★が増え、作者に「イイね!」を伝える事ができます。

    コメント

    作者紹介

    この作者の人気作品

    小説 ホラーの人気作品

    続きを見る