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シリーズ:さよならを笑うなんて
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さよならを笑うなんて

作者:木原にゃも

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    BL年下攻・性描写あり。

    恋愛なんてゲームと思ってた・・・。
    浮気性のワガママ男、千早は興味本位で同性である正樹と付き合うことにした。
    全力で甘やかす男に心地よさを感じ始めた一年記念日、正樹が思いがけない告白をする。
    「俺、本当はアンタのこと大嫌いなんだ」
    失って初めて恋を自覚した千早は――

    *完結しました


    登録ユーザー星:23 だれでも星:71 閲覧数:4435

    さよならを笑うなんて 29269文字

     

    「千早……」
     年下の恋人が甘いトーンで名前を呼ぶ。
     この声が好きだ、と千早は思った。
    人に好かれるというのは、なんて心地いいのだろう――心が満たされる甘い、甘い囁き。
    「俺ね」
     テーブルを挟んで目の前に座る恋人は、なぜか正座をしてうつむいていた。大きな体を小さくするその様子が気弱な大型犬のようで、なんだか可愛らしい。
     彼、正樹は何度も口を開きかけては口ごもった。
    震えているのか、テーブルまで振動が伝わる。コーヒーの入ったカップとソーサーが小さく音を立てた。
     正樹のその様子に、千早にも緊張が走る。
     だが、その緊張は不安から来るものではなった。
     今日は付き合って一年の記念日であり、さらに千早の二十五歳の誕生日でもある。さすがに祝われて喜ぶ歳でもないが、記念日好きの正樹はきっと何かを用意しているのだろう。
     緊迫した空気を破るように、千早はテーブルの上のタバコを取って咥えた。ライターで火をつけると、正樹が小刻みに震える手でそっと灰皿を差し出す。
     こういうのが好きだ、と思う。
     正樹はバカみたいに誠実で一途で、世話好きな男だ。千早が何かする前に、すべて先回りしてやってくれる。
     千早は自然と頬が緩むのを感じた。
    「……ふ……」
     ふいに正樹の口から小さく笑いが漏れる。
     張り詰めた空気が溶ける感覚に、千早はタバコを深く吸い込んで笑みを浮かべたまま顔を上げた――が、見上げた正樹の表情は千早が予想していたものと違っていた。
     照れたように笑い、全身で千早のことを好きと表現するいつもの姿とは違う――苦しそうな、怒ったような複雑な顔で正樹は口元を歪めていた。
    「はは……」
    「正樹……?」
     まだ幾分も吸っていないタバコを灰皿に押し付け、戸惑うように問いかける。
     正樹は大きな手で顔を半分覆いながら、もう一度声に出して笑った。
    「――ねえ、何を期待してた?」
     もうテーブルは揺れていなかった。
     隠されていない正樹の片目がしっかりと千早を見据える。
    「は……?」
    「俺さ、今日千早に言うことがあったんだ」
     その瞳に優しさは感じられない。
     すっかり火の消えたタバコを灰皿に押し付けた状態のまま、千早は固まっていた。
    「俺ね、貴方の事がほんとに……」
     正樹がゆっくりと息を吸う音が室内に響き渡る。
     普段はうるさく感じる外の騒音もまったく耳に入らなかった。ただ時計のカチカチという音が一定で響く。
    「大嫌い、なんだ」
     正樹の手が顔から下に下りていくのを、千早はただジッと見ていた。
     出会った頃はまだわずかに残っていた子供っぽさがすっかり消えた端正な顔立ちを、開いた口を閉じることも忘れてただ見つめる。
    「いやー、大変だったよ、この一年。心底嫌いなあんたにこんなに献身的に世話をして。気持ち悪いのに我慢してセックスして。気が狂うかと思った――でも」
     正樹がこんなに饒舌に話すなんて見たことがなかった。どちらかといえば無口で、千早の話を楽しそうに聞くばかりで。
     コーヒーカップが音を立てて、ようやく千早は自分が震えていることを自覚した。
     それでも思考回路がうまく働かず、なんの言葉もでてこない。開いたままの唇はすっかり乾いて、舌が張り付いていた。
    「よかった、その顔見れて」
     そう言って、正樹は満面の笑みを浮かべた。
     それは今まで見たことのない、別人の顔だった。
    「じゃあね、二度と会わないけど」
     正樹が立ち上がると、照明が遮られて大きな影が千早を包んだ。
     いつも千早を優しく包んでいた大きな体が、未練一つない足取りで玄関へ向かっていく。
     正樹は一度も振り返らなかった。
     視線を動かすことすらできなかった千早には正確にそうとはわからないが、聞きなれた足音もドアを開ける音も、まったく躊躇は感じられなかった。
     ドアの閉まる大きな音が部屋にこだまする。
     お揃いのカップの中のコーヒーはまだ少し湯気がでていたが、千早はそれに手を伸ばすこともなく、ただ揺れる琥珀の液体を呆然と見つめていた。



    ◇ ◇ ◇



     千早が正樹と付き合い始めたのは興味本位からだった。
     女好きを自負する千早にとってまったくの対象外であったにも関わらず、正樹の告白にうなずいたのは、正樹が“都合の良い男”だったからだ。
     背は高い、ガタイも良い、顔も悪くない。初めて出会った合コンでも正樹はモテていた、にもかかわらず、最初から千早を口説いた。
     ゲイというわけではないらしい。
    『千早だからだよ。一目ぼれなんだ』
     そう笑う男に、千早は「気持ち悪い」と返したが、悪い気はしなかった。
     成人して五年もたつと“甘やかされる”ことはまったくといっていいほどない。そんな中で呆れるくらい千早を甘やかす正樹の存在は心地よかった。
     女は可愛い、柔らかい、だけど面倒くさい。
     遊びすぎて食傷気味だった千早にとって正樹は衝撃だった。
     大学四年生ということもあってそれなりに忙しいらしく、頻繁に会う必要もない。メールや電話も強制しない。そして何より“千早の嫌がることは絶対しない”という彼に、いつしか“付き合ってやってもいい”という気分になっていた。
     実際に付き合っても正樹は変わらなかった。
     むしろ料理・洗濯・掃除、果ては千早の着替えまでもするようになった。しかも行動制限は一切しない。千早が合コンにいって酔っ払って帰ってきても、正樹は微笑んだまま介抱した。
    「お前、楽しいの?」
     付き合って半年たったころ、そう聞いたことがある。
     浮気はする、好き嫌いは激しい、セックスは挿入なしで一方的に奉仕するだけ。千早が逆の立場だったら一日も持たない自信がある。
     だが、正樹は満面の笑みで「千早といれるだけで幸せだから」と返した。
     それなのに――。



    ◇ ◇ ◇



    「……灰、落ちるわよ」
     突然の声に、千早は体を跳ねさせた。振動でタバコが手の甲に落ちる。
    「熱っ」
    「何やってんの」
     慌てて拾い上げ、短くなっていたタバコを灰皿に押しつける千早に、香澄が呆れた声でそういった。
    「どうしたの、アンタ」
     心配そうな声に顔を向ける。そこでようやく自分が会社の喫煙ルームで物思いにふけっていた事を思い出した。
    その上同僚がいたことすら気づかなかった自分に、乾いた笑いが漏れる。
    「遅刻するわ、身だしなみボロボロだわ、何があったのよ」
     香澄が上品なピンクのマニキュアでコーティングされた長い爪でタバコの灰を落とし、短くなっていたそれを灰皿に押し付ける。それから千早の顔を覗き込んだ。
    「なんでもない……」
     ――オトコに捨てられました。
     なんて口にできるわけもなく、千早は唇をかみ締める。
     正直身だしなみどころかすべてボロボロだった。
     今まで正樹に起こしてもらっていたせいで寝坊するし、顔を洗ったらタオルが見つからない。挙句、ネクタイの締め方まで忘れていた。
    「ひっどい顔」
     ストレートの黒く長い髪がサラリと揺れる。
     ――美人は眉間に皺がよっても美人だな。
     千早は現実逃避するように、そんなことを考えていた。
    「……休憩時間は魂どこに飛ばしてもいいけど、仕事はキッチリね。出張旅費の清算、記入ミス3箇所でハネるどころか破り捨てたわよ」
    「え、マジで?」
    「マジで。どこの世界に自分の会社名を書き間違える社会人3年生がいるのよ、バカ」
     天を仰ぐ千早の首元に香澄の手が伸びる。なれた動作でネクタイを締めなおした。
    「――彼女に振られたの?」
     ポン、と形の整ったネクタイをたたきながら、香澄がつぶやく。
     入社三年目にして経理部副主任の座を獲得したキャリアウーマンのいつになく優しい言葉に、涙が出そうになった。
    「慰めてくれる?」
     誰かに甘えたい、そんな千早の心情を読み取ったように香澄はにっこりと微笑んだ。
    「嫌よ。浮気性のワガママ男はもうこりごり」
     香澄の細い指がスリムタイプのタバコをケースから取り出す。なれた仕草で火をつけると、ゆっくりと吸い込んで、それから肩をすくめた。
    「まあ、相談ぐらいのってやるわよ。元彼女としてじゃなく、同僚としてね」
    「お前はイイ女だよ、マジで」
    「やだ、今頃知ったの?」
     ピンクの唇を大きく開けて笑う香澄を見て、千早も少し笑った。



     暦の上では春といってもまだ肌寒い。

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    コメント

    • 恋人に誕生日に本当は大嫌いだったとフられる、、何ともドンヨリな幕開けにいっきなり千早に同情しちゃいました(笑)結構ビッチな設定なのに何ですか可愛いですね、彼。入れ食い状態だった「元」が全て女子だったから許されるBL世界の不思議ってやつでしょーか?(笑)ハピエン期待し正樹も千早が好きなんだろうこと前提で読んでたのに千早の心理描写に終始切なくなりました。正樹は計算外に惚れちゃって振り回されたのは辛かっただろうけど憎んでイイよと犯り逃げる(笑)のはちょっと頂けないなぁ。キャラのビジュアルは自分好みに妄想しつつ読みました。文中に容赦が盛り込まれてたら良かったかもしれないですね。
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    • 最後まで引っ張られたぁw。でも、恋愛の切なさがよく出ていたと思います。好きすぎて嫌いになってしまう恋心。香澄のキャラが話に説得力を持たせていますね。推敲もそれなりにできていて、読みやすかったです。
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    • fumio様

      コメントありがとうございます!
      香澄は千早が恋心に気づくために必要なキャラだと思って入れていたので、そう言ってもらえて嬉しいです。
      読みやすかったと言っていただけてホッとしました。
      ありがとうございました!
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    • ご覧頂きまして、ありがとうございます。

      しばらくネット接続が絶不調でマイページの確認ができませんでした。
      接続が正常になり、久々にのぞいたら、すごくたくさんの☆とコメントが・・・っ!
      本当にありがとうございます。
      読んでいただけただけでなく、☆を付けてくださったり、ご意見をくださったりと、感謝感激です。

      本当にありがとうございます。
      そして、これからもどうぞよろしくお願いします。
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    • ビックリしました、上手すぎて。

      文章は流れるようにスムーズだし、
      キャラクターも生きてます。
      出だしも後の展開を煽る導入ですし、
      最後まで息切れしません。

      何個でも★を投票したくなる作品です。
      ぜひ、たくさんの人に読んで欲しい!!

      良くある構成・展開ではあるけれど、それをここまで面白く見せるのは文章力・表現力の差ですね。

      勉強になりました。

      欲を言えば、それぞれのキャラクタービジュアルがもう少し明確に記載されていれば、もっと想像が膨らませられたのかな、と。

      他の作品も読んでみたいです。
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    • 峡様

      コメントありがとうございます!
      文章力をすごく褒めていただけて感激です。
      キャラクタービジュアル、確かに表現があまりなかったですね(汗)
      ご意見とても参考になりました!
      次回作をつくるときはぜひ参考にしたいと思います。
      ありがとうございました!
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