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シリーズ:ぷちぷち
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ぷちぷち

作者:能上成之

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    短い話あつめました。


    登録ユーザー星:4 だれでも星:0 閲覧数:127

    ぷちぷち 7831文字

     



    〜遠景〜 

     建築中のビルの足場から遠く花屋が見えた。
     表で立ち働いている女が二人見える。赤いワンピースを着た女と白いTシャツを着た女。共に揃いの茶色の前掛けを付けていた。
     そばに来た先輩鳶が眼の端に映る。
    「きょうも暑いなあ。
     ん? お前何見てんの? サボってんの見つかったらやばいよ」
    「サボってませんよ。ちょっと風に吹かれてただけ」
    「そんなこと言って、あそこの花屋の女子見てたんだろ」
    「そんなもん見てませんって」
    「って言いつつ顔赤くなってんぞ。さてはお前女日照りだな」
    「確かに彼女いませんけど、見てませんっ」
    「ははは、ヨダレ出てんぞ」
    「やめてくださいよ。もうっ」
     とは言いつつも、確かに一生懸命働いている彼女たちを眩しく感じた。
    「おい、昼休憩の時さ、あそこまで行って彼女ら見て来いよ。っていうか、今夜飲みに行くのに誘って来いよ」
     先輩が耳打ちする。
    「っ、いやですよ。そんなこと。出来ません」
    「いいから。いいから。オレのバイク貸してやるから、ぜってー誘って来いよ」 
     先輩は下卑た笑いを浮かべ、自分の作業位置に戻っていった。
     どうしよう。無理。絶対無理。
    「あっ」
     赤いワンピースの女が顔を上げこちらを向いた。まさか見ていたことに気が付いてないだろうな。
     心臓が破裂しそうに痛かった。だが、変な緊張の裏に淡い期待が入っているのも少し感じていた。

     バイクで風を切るのは心地よかったが、先輩のフルフェイスがちょっと汗臭い。
     あのまま忘れてくれたらいいのに、先輩は昼飯を食った後きっちりとバイクのキーを持ってきた。
     仕方なくだ。先輩が言うから仕方なくナンパしに行くんだ。
     目的地の近くでバイクを止め、花屋の周辺をうろつく。女たちはまだ昼休み中なのかふたりとも姿がなかった。
     さり気なくしているつもりだが、人から見たらさぞ不自然だろうと自覚しながら花屋を覗き込み、行ったり来たりを繰り返す。
     赤い色が店の奥から出てくるのが見えた。
     心臓が踊りだす。
    「こんにちは。何か?」
     出てきた女は鼻にかかったような声を出し、品を作った。真っ赤な口紅がにんまりと笑う。
     見透かされている気がした。自分が何をしに来たのか。それに応じるつもりでいるような雰囲気もした。
     自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
     白いTシャツの女も出てきた。こちらもにやにやと笑っていた。
    「あー、いえ」
     思わず目を伏せた。ナンパなんて無理だ。
     そのまま黙ってその場を後にする。背中に二人の熱い視線が突き刺さってくる。だが、振り向けなかった。
     バイクにまたがり、もと来た道を戻った。
     現場に着くと先輩が寄って来た。
    「うまくいったか?」
     首を横に振るしかなかった。
    「マジかよ。お前ね、そんなこっちゃ女なんて一生できないぞ」
    「……」
    「えっ何言い訳こいてんの。ったく、女も引っかけられないのかよ」
    「……ったんだよ」
    「何?」
    「だから、ババアだったんだよ。ふたりとも。皺くちゃのババアだったんだよ」



    〜忘れもの〜

     買い物カゴぐらい自分らで片づけろっつーの。
     仕事とはいえあまりの乱雑さにそう思いながら、ミナはサッカー台に置きっぱなしにされているカゴをそれぞれの台から集め、ひとまとめに積み上げていた。
     出入り口に近い台のカゴの中に500?ペットボトルが一つ入っているのがちらりと見えた。
     もう、ゴミまで捨てさせられるの? ったく。
     だが近づいてみると、それは未開封の緑茶のペットボトルだった。
     あ、忘れものか……って、こんな大きなもの普通忘れる?
     ミナは苦笑を浮かべ、カゴを整理し終わった後サービスカウンターにそれを持っていった。
    「チーフゥ、忘れ物でーす」
     年配の女性チーフは検品表や伝票などの書類とにらめっこしながら、ミナや忘れ物の品を見もせず顎だけ動かした。
    「ああ、そこに置いといて。問い合わせが来たら渡すから」
     ミナはカウンターにペットボトルを置き、メモに忘れ物と書いて貼った。
     問い合わせがあってもなくても、どうせ棚に戻すんでしょ。
     そう思いながら、ミナはレジに戻った。
     客が忘れ物に気が付いてすぐ取りに来た場合、チーフは即座に渡した。レジを打った者も忘れ物に気付いた者も記憶が新しく「無かったですよ」と、ごまかすことができないからだ。
     だが、生鮮ものなどの足の早いものでなく保管の利く品物であっても、客の問い合わせがないまま時間が経てばすべて陳列棚に戻し、その後問い合わせがあっても「ありませんでしたよ」で済ませてしまう。
     ここはそんなスーパーだ。上の方針か、店長のみの考えか、チーフが勝手にやっているのか、そこまで知らないが、チーフに小言を言われた時などミナはどこかに暴露してやろうかと考えるときがある。
     実際はやらないが。正義を振りかざして職を失うのは嫌だった。
     小一時間後、サービスカウンターにペットボトルはなく、ゴミ箱にミナの書いたメモが丸めて捨ててあった。

     スーパーで購入した緑茶を飲み、客が死亡する事件が発生した。
     調べた結果、その緑茶には毒物が混入されていた。



    〜ぷちぷち〜

    「ああ、疲れた」
     まさしは弁当と缶ビールの入ったコンビニの袋をちゃぶ台の上に置き、ネクタイを外しながらテレビを付けた。
     チャイムが鳴る。
     夜の十時、こんな時間にいったい誰がとドアスコープを覗いた。
     アパートの大家の顔が見える。
    「はーい。今開けまーす」
     家賃の支払いにはまだ日があるのにと思いつつ、まさしはドアを開けた。
    「宅配便預かってるよ。お母さんからみたいだ。優しいお母さんだねえ」
     一人暮らしの気難しい老人は、他の店子よりまさしに優しかった。年に一、二回、このアパートを訪ねてくるまさしの母親に気があるのかもしれない。
    「大家さんに面倒かけるから送ってくんなって言ってんのに……すみません」
     まさしは大家から段ボール箱を受け取ると頭を下げた。
    「何言ってんだ。お母さんの優しさを無にするんじゃないぞ。荷物を預かるくらい、わしはいっこうに構わないんだから」
    「ありがとうございます。助かります」
     まさしは段ボール箱を素早く開けて、中に入っていた野菜の袋をいくつか取り出し大家に差し出した。
    「いいよ。いいよ。せっかくお母さんが送ってくれたのに」
    「いいんですよ。こんなにいっぱいあっても腐らせてしまいますから。母さんも大家さんにおすそ分けしてって、いつも言ってますから」
    「ええ、お母さんが? そうかい、お母さんが……それじゃあ、お言葉に甘えていただこうかね」
     大家はいそいそとまさしから袋を受け取った。
     どうせみんな捨てるんだから。
     まさしは笑顔の下で本音をつぶやいた。
     大家が上機嫌で帰った後、まさしは段ボール箱の中身を床に出した。キュウリやナスは数本ずつ小分けして袋に入っている。母の手作りジャムや梅干しの瓶詰は梱包用のぷちぷちでくるんで割れないように保護していた。
     まさしはぷちぷちを剥がして瓶を床に並べた。
     故郷で採れる野菜や果物ばかりだ。
     ため息をつく。母さんはオレを田舎に連れ戻したいんだな。
     まさしは自分の故郷が嫌いだった。因習にとらわれた村を物心ついたころから嫌っていた。
     あの土地で作った野菜なんか口にしたくない。
     まさしはもう一度ため息をついて、ちゃぶ台に戻った。汗の浮いた缶ビールを開け、焼肉弁当のふたを開けた。
     毎日同じような弁当を食べていると確かに母親の食事を懐かしく感じる。だが、二度と帰るつもりはない。
     冷えて塊になった飯をかき込みながら、明日梅干しとジャムを大家に持っていこうと考えた。
     あの人なら、母さんの手作りだと言えば喜んで食べてくれるだろう。
     冷めた焼肉をビールで流し込んでいると小さな音が聞こえるのに気が付いた。
     ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち、ぷち……
     まさしはビールを置き、音のするほうへ顔を向けた。
     誰も触っていないのにぷちぷちが勝手に潰れていた。空気で膨らんだ小さな粒がぷちっという音と共に一つずつへこんでいく。
     まさしは再びため息をついた。
     母さん、荷物と一緒に何を送ってきたんだよ。何をどうやってもオレは絶対帰らないからな。

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    コメント

    • はじめまして能上さん。
      楽しく読まさせていただきました。
      遠景とぷちぷちがツボでした。
      特に遠景は話がシンプルだからこそ、落ちが際立っていましたね。
      怖さとニヤニヤが一緒にやってきました。
      • 1 fav
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    • ありがとうございます。
      日常でちょっと思ったことを膨らませてみました。遠景のババァは私ですww
      これからもよろしくね。
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    • 丁寧なコメントありがとうございます。
      嬉しかったです。
      しかぞうさんのコメントは他作者さんのも含めて勉強になります。私はいつも面白かったしか言えないので反省、反省。
      • 0 fav
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    • どれも軽く面白く読めました。タイトルだけあってぷちぷちは続きが読みたかったです。そして最後のは短いのに他作品と遜色なく怖かったです。以下それぞれについて。遠景:こう来たかと笑いました。いえ確かに怖いですけども。忘れもの:犯人の動機がミナと同じなのではと思えるとこが怖かったです。現実に起きそうな怖さですね。ぷちぷち:梱包材でこういう表現ができたのかと驚きました。屋上への階段:最後の四行がいいですね。そうしそう。そうなりそう。そういうことありそう。雀蜂とハイカー:そういえば肉食でしたね。盆栽:会話が成立してたんですね。推測も。これも現実にあり得そう。雀蜂と田舎暮らし:無理です。蜂の子も老人も。
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    作者紹介

    • 能上成之
    • 作品投稿数:42  累計獲得星数:464
    • 読むのも書くのも、年がら年中、ホラーです。ホラー馬鹿です。
      脳みそがすぐ忘却の彼方に行ってしまうので、いつでも読めるように気になる作家さんをすぐフォローしてしまいますが、フォロー返しに気を遣わないでくださいね。なぜなら、ホラーしか読まないから。
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