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シリーズ:アイムホーム~あなたの家になりたい
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アイムホーム~あなたの家になりたい

作者:くろねこ8

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

    愛されたい。その、たった一つの望みを果たせずに足掻き、苦しむ優人。だが、愛は意外にも身近な場所にあって・・・


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    アイムホーム~あなたの家になりたい 8502文字

     

     ほんと、何やってんだろうな……
     湯気で霞む天井を見上げながら、そんなことを優人はぼんやり思った。
     遅かれ早かれ、こういう結果を迎えることは最初から分かっていたはずなのだ。にもかかわらず、今また性懲りもなくダメージを食らっている自分に優人は愕然としていた。
     ついさっき、宮野から数日ぶりにメールがあった。
     奥さんと、そして赤ん坊と一緒に写った写真つきメールだ。フレームの中の宮野は、優人も見たことのない幸福そうな笑みを浮かべて自分の赤ん坊にキスしていた。優人も感触を知る、その柔らかく淫猥な唇で。
     誰もが幸せそうだった。
     ひそかに夫に裏切られる妻でさえ、満ち足りた微笑とともに新しい命を見つめていた。その新しい命も、美男美女の血を引き継いだ玉のように愛らしい赤ん坊で、とりわけ、くっきりとした二重瞼が父親のそれによく似ていた。
     これを送った宮野にどんな意図があったのかは分からない。多分、優人が考えるような難しい意図はなくて、単純に、自分の幸せを大学の後輩たちにも分けてやりたいという先輩なりの思いやりだったのだろう。
     それはそれで喜ばしいことだ。だが……
     風呂から上がると、テーブルのスマホが震えていた。
    「あれ? 電話ですよ優人さん」
     手に取り、画面を覗き込んだ朝比奈が一瞬、怪訝な顔をする。
    「……宮野先輩?」
    「見るな!」
     その手からスマホを奪い取ると、なおも訝しげな朝比奈の視線から逃れるように電話を取る。よりにもよってこんな時にと苦々しく、それでも、仄かな切なさが生まれるのを否めないまま――
    『優人か』
     やがて電話口に、聞き慣れた、身体の芯に響くバリトンが現われた。
    『先週は悪かったな。予定日は半月後だったんだが、いきなり産気づいちまって……まぁ何にせよ、無事に産まれてくれて良かった』
     愚痴っぽく語りながら、口調の端々に抑えきれない嬉しさが滲んでいるのを、優人は確かに聞き取っていた。
    「写真見ました。おめでとうございます」
    『おおっ、見てくれたか!? どうだ? 俺に似て可愛いだろ?』
    「ええ。あと二十年もすればきっと先輩みたいな素敵な男性になりますよ」
    『だといいよなぁ』
     あはははは、と、能天気な笑い声が電話口から漏れる。幸福すぎる人間によくある例で、自分が幸せなのだから相手も幸せに違いないという思い込みでも起こしているのだろう。
     だから、次の言葉には優人も耳を疑った。
    『で、次はいつ会おうか』
    「……は?」
    『いや、ここしばらく俺も何かと忙しくて、なかなかお前に構ってやれなかったからな。寂しがってやいないかと心配していたんだ。――なぁ、いつ会える』
    「何……言ってんですか」
     そう答える自分の声は、なぜかひどく震えていた。
    「赤ちゃんが……子供が生まれたんですよ。なのに先輩そんな……そんなこと、許されるわけ……」
    『だから何だ。それともお前、今更そんなもっともらしい説教くれて、一人だけいい子ぶりたいってわけか? ん?』
    「ち……違います。でも普通は、」
    『冗談だろ? じゃあどうして最初から俺を拒まなかった。お前だって、俺にもうすぐ子供が生まれることを知らなかったわけじゃないんだろ?』
    「そ、それは……」
     言われてみればその通りだ。宮野に間もなく子供ができることは、あらかじめ友人を通じて知っていた。知っていて――それでも優人は身体を重ねた。
     手首には、その証拠とばかりに残る手錠のような環状の痣が……
    「そうですけど……でも、」
    『でも何だ。俺一人に責任を押しつけて逃げるのか?』
    「違います! そういうつもりじゃ、」
    『なぁ優人』
     宥めるような、しかし、有無を言わせない声が優人の言葉を封じる。
    『お前、俺のことを愛しているんだろ? その俺が、これからも愛してやるって言っているんだ。どうしてお前はそう頑ななんだ、なぁ?』
     ……わからない。
     わからないが、しかし、優人の本能はそれを拒んでしまう。それも否応なく。
     これからも宮野は自分を愛してくれる。それ自体は確かに嬉しい。
     にもかかわらず胸を塞ぐのは、なぜか酸欠に似た苦しみばかりだ。目の前にあるはずの水面を目指して足掻くも、いっこうに手が届かず無駄な努力を続ける溺水者のそれのような。
     なぜだ。宮野の言うとおり、最初から分かっていたことなのに。
    『おい、聞いてるのか優人。聞いてるんならちゃんと返事しろ』
     聞いてますよ。でも、何も答えられないんですよ。もう何が何だか分からなくて、自分がいま何を求めているのかも見えなくて、何も答えられないんです――
     いや、本当は分かっていた。
     優人はただ、愛して欲しかっただけだ。
     ただ、あんなものを見せつけられて、これ以上、それを求められるほど優人も図々しくはなかった。それは例えば、綺麗に掃き清められた神殿に土足で上がり込むような、いや、それ以上の禁忌を優人に抱かせた。
     自分には決して踏み込むことの許されない領域――優人にとってそこは、まさにそういう場所だった。
     ――うちには来ちゃ駄目だって、おばあちゃんに教わらなかった?
     なぜだ。こんな時に、なぜ、あの女の言葉を思い出す?
     ――どうしてあんたは、私の幸せの邪魔ばかりするの。
    『おい優人、お前いかげんに――』
     不意に宮野の声が遠ざかり、見ると、いつの間にか優人の手からスマホが消えていた。
    「この人ですか。いつも優人さんを悲しませていたのは」
    「……え」
     意外な声に顔を上げる。
     朝比奈が、優人のスマホを手にしたまま忌々しげに画面を睨みつけていた。
    「こんな人とは、もう二度と話しちゃいけません」
     そして、勝手に電話を切ってしまう。あまつさえ、いつの間にやり方を覚えたのだろう、着信拒否の操作まで済ませてしまった。
    「な……に、やってんだよ!」
     ようやく我に返り、慌ててスマホに手を伸ばす。が、
    「駄目です」
     いつになく厳しい朝比奈の声が、そんな優人をぴしゃり撥ねつける。
    思いがけない反攻に一瞬怯んだ優人は、普段なら、その生意気な態度にキレているところ、なぜかこの時は、それ以上抗う気になれずに黙り込んだ。
     朝比奈の態度が意外だったせいもある。が、それ以上に、優人を見つめる朝比奈の瞳があまりにも真っ直ぐだったからだ。
     大粒の瞳から注がれる、強く、でも、どこか寂しげな眼差し。――どうして。なぜ朝比奈は、こんな目で俺を……?
    「この人の言葉には愛がない」
    「……は?」
    「第一、本当に優人さんを愛しているのなら、こんなふうに優人さんを追いつめる物言いはしないはずです。この人は、ただ優人さんが欲しいだけ。でも、欲しがるにしても、単に欲しがるのと、愛した上で欲するのとは違います。――優人さんも、本当はそのことを分かっているはずです」
    「で、でも、」
     そんなことを認めたら。
     自分は、誰にも愛されていないということになってしまう。
     誰も愛してはくれなかった。母も、それに祖父母も、優人には邪魔者に対する以外の眼差しを注いではくれなかった。それでも何とか彼らの邪魔にならないよう、優人は自らの存在を殺しながら生きた。
     そんな優人に声をかけてくれたのが宮野だ。
     宮野だけが優人を愛してくれた。愛されることに慣れない優人の心にそして身体に、文字どおり充分すぎる愛を注いでくれた。
     ベッドで。車で。学校の植え込みの奥で――ときには宮野の友人を相手にさせられることもあった。あのいやらしい形をした器具を用いられることも。それらの多くは激しい苦痛と恥辱を伴ったが、それに耐えることが宮野の愛を繋ぎ止める方法と思うなら、苦痛さえ愉悦の呼び水になりえた。
     傍目にはグロテスクな関係に映るかもしれない。それでも優人にはかけがえのない繋がりであったし、自分が無価値な存在でないことを証明する唯一の絆だった。
     その宮野に愛されていなかったとするなら――
     では一体、何が愛だと言うのだ。
    「ち、違う……先輩は、俺を愛してた。愛して……だから欲したんだ……」
    「優人さん」
    「えっ?」
     気付いた時には、もう優人の唇は柔らかなもので塞がれていた。
     ひどく強張った、でも、ほんのり温かなそれは、まさか――
    「僕……では駄目ですか」

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    作者紹介

    • くろねこ8
    • 作品投稿数:126  累計獲得星数:165
    • ちょこちょこ小説書いています。
      好きなジャンルは歴史(ぶっちゃけ昭和、それもビフォ太平洋戦争←をい)。軍服とか特務機関なんて名詞を聞くとパブロフの犬的にハスハスしてしまう不届者です。あとBLが大好物。戦争×BLというクズすぎるマリアージュでシコシコ量産中。もちろん現代日本モノもあるよ!
      絵のほうはアレなので表紙を描いてくださる方絶賛募集中!(図々しくてサーセン!)
      文章関係のお仕事も募集中です!
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