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シリーズ:廃屋
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廃屋

作者:能上成之

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
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    仲間の誰かが肝試しに行こうと言い出した――


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    廃屋 6794文字

     




             1

     仲間の誰かが肝試しに行こうと言い出した。
     まだまだその時期には程遠い肌寒い春の夜、夜桜見物の帰り道のこと。男子二人、女子三人のグループは高校時代からの仲間だった。
     とても嫌な予感がした。
     心霊スポットと言われている山中の廃屋を車で目指して、すでに深夜に近い時間になっている。
     街を走っているときはまだ良かった。ネオンや街灯が昼のように周囲を照らしていたので怖くもなんともなかった。変にテンションが上がっていて、誰かしら――おもに男子だが――冗談を言い、面白くなくてもみなそれを笑う余裕があった。
     だが田舎道に入り、街灯が減り、だんだん闇が濃くなってくると、徐々に皆の口数が減ってきた。「やっぱりやめよう」と、誰かが言い出すと思っていたが、誰も何も言わなかった。
     この時、バカなわたしは気が付かなかった。口数が少なくなっていたのは、闇とそこに潜むものを恐れたのではなく、わたしが知らない何かを画策していたからだということを。
              
     それは目的地に着くと、すぐわかった。
     来る途中コンビニで買った懐中電灯を二人一組にと一つずつ手渡された。一人あぶれるのは必然的だ。そしてそれはわたしだった。
    「ごめんねぇ」と言いつつも悪びれもせず、仲間たちは二組のカップルとなって楽しそうに先に入っていった。
     闇に浮かぶ薄気味悪い廃屋の前に一人置いてきぼり。
     最初からこういうつもりだったのだ。
              
     廃屋は誰も通らないような山深い道の脇に建っていた。
     懐中電灯に浮かぶのは古びて苔むしてはいるが普通の家屋だった。いかにもそれらしい洋館でも日本家屋でもない。門も庭もなく、道の脇に家だけがぽつんと建っている。こんなところに一軒だけ建っていることに異様さを感じた。
     だから、廃屋になってしまったのだろうか。
     だから、心霊スポットと呼ばれているのだろうか。
     おまけに家から少し離れた草地には不法投棄された放置車両がたくさんあって、その錆び朽ちた様は心霊スポットの雰囲気を醸し出すのに一役買っていた。
     仕方なく玄関に近づく。木製の引き戸はほとんどのガラスが割れて散らばっていた。次の部屋が三和土から見えている。めくれ上がったぼろぼろの畳や抜け落ちた床板、外れて立てかけてあるだけの変色した襖や障子には確かに恐怖を感じる。
     だが、心霊スポットと言われるほどの畏怖はどこにもない。
     光の輪に浮かぶ卑猥な落書きや散乱したスナック菓子の空き袋、片隅に捨てられた使用済みの避妊具を見ればわかる。ここへくるのは単なるお楽しみ。本当は誰も心霊スポットなんて思ってやしない。本気で恐怖など感じていない。
     先の部屋から仲間たちの楽しそうにはしゃぐ声が聞こえる。
     わたしはため息をついて部屋に上がった。足元に注意しようと懐中電灯で抜け落ちた床板を照らす。
     床下の奥の暗がりに何か光っているのが見えた。

              2

    「一人あぶれるのわかってんのにちょっとは遠慮しろって言うのよね。いつでもついてくるんだから」
    「はっきり言って邪魔なんだよなあ」
     美弥が浩郎の腕にすがりながら大きく嗤い、浩郎は顔に懐中電灯の光を当てふくれっ面を見せた。
     先を歩いていた瑛士と手を繋ぐ乃里子が二人を振り返った。
    「駄目よ、美弥も浩君もそんなこと言っちゃあ。あのこに聞こえるわよ」
     美弥が鼻を鳴らす。
    「別に聞こえたっていいじゃん。あいつ鈍感なんだから。なによ、いい子ぶっちゃって。あんただってあぶれ者にしてんじゃん。なんなら瑛士くん貸してあげたら?」
    「わたし別にいい子ぶってなんかないわよ。それにやめてよ。そんな言い方。瑛士を貸すなんて」
     乃里子は繋いだ手をぎゅっと握りしめた。
    「なあ、そもそもなんであのこは君らと仲が良かったの?」
     瑛士が懐中電灯で足元を照らしながら乃里子に訊いた。
    「そうよね。不思議。美弥とわたしは小学校の頃から友達で、趣味も似てるから不思議じゃないけど、あのこはなんでだろ? いつ仲間になったかはっきり覚えてないの」
    「乃里子って薄情ね、覚えてないの? 中学の時だったじゃん。同じクラスになった時、あのこがいじめられてたのをわたしとあんたで助けてからの腐れ縁でしょ」
    「そうだったかしら? 全然覚えてない」
    「ったく、あんた、ほんと薄情だね。わたしのこともその程度の記憶なんじゃないの」
    「そんなことないわよ!」
    「まあまあ、二人とも。せっかくのデートなんだからさ」
     浩郎は二人の間に割って入った。
    「何がデートよ。これがデートなら、あんたサイテーよ」
     美弥は矛先を浩郎に向けた。
    「悪かったよ。今度、ちゃんとしたところへ連れてく。けど、そん時はあいつはなしだぜ」
    「わかってるわよ」
     猫なで声を出す浩郎に美弥はいったん怒りを鎮めた。
     瑛士が美弥たちを振り返った。
    「こんなところまで連れて来て意地悪はしないでおこう。友達なんだし」
    「おえー。乃里子だけじゃなく、瑛士君までいい子ぶりっこか」
     美弥は吐く真似をして舌を出した。
     瑛士は意地悪く歪む美弥の顔を見て苦笑した。
    「でも……」黙って考え込んでいた乃里子がつぶやく。「わたし、本当にあのこのこと覚えてないのよね。なんでなんだろ」

              3

     何が光っているのだろう。
     底がないのかと思うほど真っ暗な床下だったが、懐中電灯を当てると意外に浅いところに地面が見えた。だが、鋭く反射するものはもっと奥にある。確かめるためには覗き込まなければならない。
     奥を照らすために抜けた床に注意しながら膝を突いた。お気に入りの水色のスカートを汚すのは嫌だったが、あれが何なのか確かめなければいけない気がした。床板のささくれに注意して穴を覗き、右手に持った懐中電灯で奥を照らす。
     まず光の中に浮かんだのはどろどろに汚れた布だった。それがブラウスだと理解した時には、それを着ている腐乱死体を見てしまったあとだった。
     反射で光っていたのは死体の腹に刺さったナイフだ。
     思わず悲鳴を上げていた。

              4

     来た方向から悲鳴が聞こえ、四人は驚いて振り返った。
    「ったく、大げさな」
     美弥が舌打ちをした。
     浩郎がとっさに懐中電灯を後ろに向けた。だが、壁や襖にさえぎられ、その向こうは何もわからない。
    「見に行ってやる?」
     浩郎が美弥の顔色を窺った。
    「ほっとけば。ちょっとつまずいたとか、そんなもんよ」
     美弥は進みかけたが、浩郎が光の位置を戻さないので散乱した木材に足を引っかけつまずいた。
    「ちょっとぉ、あのこの心配よりわたしの心配してよ。転ぶとこだったでしょ」
     美弥の剣幕に浩郎は慌てて、彼女の足元に光を戻した。
     瑛士が、「来るまで待つ?」と三人の顔を見まわした。
     美弥が舌打ちをする。
    「ちっ、面倒なやつね。肝試しなんか来なきゃよかった。浩郎が言い出したせいだからね」
    「ええーっ、俺言い出しっぺじゃないし。お前っしょ」
    「わたしじゃないわよ。じゃ、瑛士君だった?」
    「いや、僕でもない」
     三人は乃里子を一斉に見た。
     乃里子は慌てて手を振った。「わたしでもないわよ」
    「じゃ、あいつ?」
     浩郎は再び後方に懐中電灯を向けた。

              5

     たぶん悲鳴は聞こえただろう。だが、誰も戻ってくる気配はなかった。大変なものを見つけてしまったというのに。
     こういう場合はどうすればいいのか。警察に電話? 廃屋で死体を見つけたと通報すればいいの? いたずらだと思われやしない? そもそもこんな山奥で携帯電話は通じる? 
     ああ、どうすればいいのか。とにかく詳細を伝えなければならない。
    怖いし気持ち悪いが、もう一度きちんと確認しなければ。
     再び床下を照らす。見間違いならよかったのに、確かに仰向けに置かれた死体だ。髪が長く、ブラウスを着ているから女性に違いない。顔があっちを向いているのが不幸中の幸いだと思った。もし腐乱した顔が見えていたら気を失っていただろう。
     少しずつ光を下にずらしていく。腹部に刺さったナイフがきらりと反射した。まるで新品のようにきれいだ。スカートはブラウス同様、泥だらけでぼろぼろになっていた。その衣服から出ている手足は黒く変色していた。

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    コメント

    • ツッコミどころ満載のものに、こんな丁寧でしかも嬉しいコメントありがとうございます。これからの参考にします。
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    • しかぞう様へ返信したつもりでしたがなってませんでした。すみません。
      これからもよろしくお願いします('◇')ゞ
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    • いわゆる心霊スポットというもの描写と、そこに行く人たちの性格がいかにもそれらしく雰囲気がありますね。と思ったら丁寧に構築されたこの異界そのものに恐怖を持たせるというオチには驚きました。二段、三段構えの恐怖も、決して展開を焦らない落ち着いた無駄のない文章でとても効果的です。理解を越える超常現象は確かに怖いですが、それが理解できる世界と地続きだと描ききられると一層の恐怖がありますね。あのこの垢抜けない性格、その自嘲、そして牙を剥いた怪異の変幻自在ぶりは、緩急と説得力ともに素晴らしかったです。最後に明らかになる動機とこの状況を作る最後の一ピースは、理解できる故の恐怖に満ちていて素敵でした。
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    作者紹介

    • 能上成之
    • 作品投稿数:42  累計獲得星数:464
    • 読むのも書くのも、年がら年中、ホラーです。ホラー馬鹿です。
      脳みそがすぐ忘却の彼方に行ってしまうので、いつでも読めるように気になる作家さんをすぐフォローしてしまいますが、フォロー返しに気を遣わないでくださいね。なぜなら、ホラーしか読まないから。
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