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シリーズ:ハイハイ赤ちゃん
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ハイハイ赤ちゃん

作者:能上成之

  • 無料作品 有料作品:¥0(税込) R18
  • 編集協力者:

     そのマンションは赤ちゃんがよく死ぬことで有名だった――


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    ハイハイ赤ちゃん 5649文字

     

        


     そのマンションは赤ちゃんがよく死ぬことで有名だった。

              *

    「ふう、やっと寝てくれた」
     マチ子は抱っこしてようやく寝かしつけた太郎をベビーベッドに寝かせ、そっとタオルケットをかけた。
     このマンションに越してきてから、太郎はよくぐずるようになった。それまではあまり手のかからない子で、親思いの良い子だとママ友に自慢するほどだったが。
     マンションは転勤してきた夫へ会社から貸し与えられたものだった。
     引っ越してきた時、複数の住人に不躾な視線で見つめられ、マチ子は不愉快な思いをした。
     何見てんの。失礼な人たちね。
     マチ子は値踏みされていると思い、荷物を運びながらあからさまに見返してやった。社宅なら上司や同僚、その妻たちに気を遣わねばならないがここは社宅ではない。
     住人達はマチ子が睨むと視線をそらした。
     新住人に対しての一時的なものだとその場は気を静めたが、それからほぼ毎日誰かがこちらを見つめていることにマチ子は気づいていた。
     頭に来たマチ子は管理人に抗議しようと考えていたが、太郎がひどくぐずるようになり、不愉快な住人たちをいちいち気にしている場合ではなくなった。
     その後も住人たちの態度は変わらなかったが、もうどうでもよくなっていた。

     マチ子は太郎から解放された後、残業で遅くなった夫・太一の夕食を用意した。
    「太郎またぐずってたのか」
    「そうなのよ。近頃特にひどくなって」
    「なんでだろうな。あっちにいた頃は全然そんなことなかったのに。この部屋、ダニ湧いてるんじゃないか。刺されてかゆいからぐずるとか」
    「ううん。そんなことないと思う。刺された痕ないし」
     太一は「じゃ、どうしてだろうなあ」と呟きながら茶碗の飯を口に入れた。
     黙々と夕食を食べた太一は湯呑を差し出した。
     マチ子は急須に入れた熱い茶を湯呑に注ぐ。ついでに自分の湯呑にも注いだ。
    「ちょっと変なこと言うんだけど、別に頭がおかしくなったわけじゃないからね」
     マチ子が前置きしてから真剣な眼差しで夫を見た。「太郎ここに住む人たちに呪いかけられてるんじゃないかな?」
     太一はお茶を噴いた。
    「おいおい。そんなことあるか。第一、俺ら呪いかけられるほどここの人たちに関わってないぞ」
     テーブルに飛ばしたお茶をティッシュペーパーでふき取りながらマチ子を見る。
    「そうだけど……他に何も思い当たらないし。あの人たちいつもいつも太郎をじっと見てるのよ。なんか気味悪い」
    「と言っても、呪いなんてありえないよ。よく思いついたな」
     太一は笑った。「ただ物珍しくて見てるだけだよ。ここ赤ちゃんいないみたいだしさ。太郎もそのうち治ってくるさ。環境の変化が一番の原因だ、きっと」
    「わたしもそう思って様子見てたけど……でも慣れてくるどころか、だんだんひどくなってくるから……」
    「そんな気に病むな。だから変なこと考えちゃうんだよ」
     その時、ベビーベッドのある部屋で物音がしてマチ子は振り向いた。「なんか音した?」
    「いや」
     マチ子は太郎の様子を見に行こうと立ち上がりかけた。その手を太一が握る。
    「もう寝たんだろ? 泣き声してないから大丈夫だよ。それより今晩、久しぶりに……」
    「でも……」
    「ここんとこあいつずっとぐずってて、お前つきっきりだったろ? 俺のことも構ってくれよお」
    「もうやだあ、あんたは赤ちゃんか」
     マチ子は胸に顔を擦り付けてくる太一を押し返しながら寝室の気配を窺った。だが、何も聞こえず、さっきの音は気のせいだと思った。

              **

     太郎はベビーベッドですやすやと眠っていた。
     その時、ベッドの反対側の壁から乳白色の煙が湧き出てきた。それはゆっくりと棚引いていたが、畳の上で徐々に凝縮されてハイハイする赤ん坊の形になった。
     赤ん坊は何かを探すように徘徊し始めた。この部屋に毎日来ていたが、目当てのものがなかなか見つからず、いつも部屋をぐるぐる回るだけだった。
     探しているものは甘いミルクの匂いがしていた。久しぶりに嗅ぐこの匂いは確かにこの部屋からする。だが、いっこうに見つからない。
     赤ん坊の探しているもの、それは赤ちゃんだった。
     生きていた頃も死んだ後も赤ん坊は一人ぼっちだった。身も心も若すぎた母親にマンションの一室に放置され、お腹が空いて空いて空いてとうとう命が尽きた時、赤ん坊は自由になった。自分一人でどこへでも移動できたし、もうお腹が減ることもなかった。だが、寂しかった。そうだ、ママを連れて来よう。そう思いついた時には赤ん坊の母親はこのマンションからいなくなっていた。
     ある日、嗅いだことのある甘い匂いに気が付いた。その匂いのする部屋に行くと赤ちゃんが寝ていた。友達を作ればいいんだと思いつき嬉しくなった。
     赤ん坊は赤ちゃんを自分の友達にするため顔の上に乗って窒息死させた。しかし恨みつらみを知らない純真無垢な赤ちゃんたちは、死ぬとすぐきらきら輝く暖かい光の筋に導かれ空に昇っていく。赤ん坊は待ってと懇願するが、それはいつも叶わなかった。
     だったらと自分もその光に導かれようとするが、赤ん坊の体は決して空に向かって浮かぶことはなかった。
     それから何度も赤ちゃんを友達にしようとした。だがどうしても自分のそばに留めることはできなかった。
     そのうちマンションから赤ちゃんがいなくなってしまい、長い年月が経っていった。
     久しぶりのこの匂い。ここには確かに友達がいる。
     赤ん坊はどうしても赤ちゃんを見つけたかった。  
     自分が近寄ると赤ちゃんがぐずりだすことを赤ん坊は知っている。もたもたしていると赤ちゃんが泣きだし、母親があやしに来てしまうので早く見つけなければいけない。
     きょうこそ友達を見つけたい。
     赤ん坊はハイハイのスピードを速めた。
     そのために目の前に迫った障害物を避けることができなかった。
     ぶつかったのはベビーベッドの脚だったが、ベッドに寝かされたことがない赤ん坊はいつもここにあるこれが何かわからなかったので、目前の木の柵を忌々しそうに見上げた。
     上を向くとミルクの匂いが強くなることに気付いた。
     赤ん坊はこの上に赤ちゃんがいるのだと理解し頬を緩めた。そして煙になり散ったかと思うと、今度はベビーベッドの眠っている太郎の横に現れた。
     太郎はまだぐずることなく眠っている。
     やっと見つけた赤ちゃんに喜び、赤ん坊はきゃっきゃっと声を上げて笑ったあと、眠っている太郎の腹の上に乗った。
     太郎が苦しげに顔を歪め泣き出そうとするので、赤ん坊は慌てて顔の上に座った。せっかく赤ちゃんを見つけたのに母親に来られては台無しだ。
     赤ん坊の尻が太郎の鼻と口を塞ぐ。尻の下から呻き声が聞こえた。
     赤ん坊はきゃっきゃと喜んで、体を上下に揺らしお馬遊びを始めた。
     ほんのしばらくの間、太郎の両手が空で激しくもがいていたが、やがてぱたんと落ちて動かなくなった。
     赤ん坊は尻を上げ、紫色になった太郎を見ていた。だが、いっこうに友達になってくれる気配がない。
     そうこうするうちにカーテンの隙間から神々しい光が差し込んできた。紫色の太郎から白く輝く太郎が出てきた。
     友達が目覚めたのだと思い、赤ん坊は一瞬手を叩いて喜んだ。だが、太郎の体がふわふわと浮かんで光の中に入ると、いつものように空に向かって消えてしまった。
     久しぶりの機会が失敗に終わったと悟り、赤ん坊はがっくりと項垂れた。

              ***
     
     マチ子は台所の後片付けを済ませ、風呂に入ってからそっと寝室に戻った。豆電球の光の下、太一はすでにいびきをかいて眠っている。
     太郎はタオルケットから両手を放り出して眠っていた。
     今晩はよく眠っていると、マチ子はほっとした。太一の言う通り、環境の変化のせいだったに違いない。赤ちゃんは繊細だが意外と強い。もう、ピークは去ったのだと胸をなでおろした。
     マチ子は微笑みながら太郎の頬にそっと触れた。
    「?」
     頬が冷たい。
    「太郎? 太郎?」
     マチ子は名を呼びながら小さな息子を抱いた。首ががくりとぶら下がる。「いやああ、太郎」
     マチ子の叫び声に太一が目を覚まし、明かりを点けた。

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    コメント

    • このお話、やっぱり私は好きですvそれだけを伝えたかったので(*´∀`*)
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    • 嬉しいお言葉ありがとうございます。
      私もかにゃんさんの作品、面白くて好きですよ!またホラー書いてくださいね。
      お互いに頑張ろう!
      この前からずっと過去作をいじくってるんですが、ひどい。こんなにひどかったなんて。と痛感しています。まったく向上していない現在の自分がそう思うのですから、よほどですよね。
      何度も直しながら進んで行こうと思ってます。が、正解がないので果てしない道だなwww笑うしかない(゚▽゚)ハハハ
      これからもよろしくね。
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    • やっぱりひきこもりとか(´Д`;)どこかこう人を小馬鹿にしちゃったタイトルがいけないのかと(笑)でもどうしてもブラックな笑いの方向へ向かってしまうのでこれは厳しい。確かに私の小説は何も教えとか学ぶことも読後のすっきり感もないですからね;;私は全然進歩ないですよー。うーん能上さんのこの作品残ると思ったんだけどな。選ぶ方の好みとかもあるのかなぁ?私は去年よりもどこか書ききった気持ちがあるのであんまり後悔はないです。思うに小説に正解なんてないのだと思います。だからこれからも能上さんの色で行ってくださいね!私ホラーこれで卒業しようかと思ったのですが、能上さんに向けて何か書こうかな?(笑)
      • 1 fav

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    • ホラーを卒業なんてやめてくださいよ。もう書くの嫌だったら仕方ないけど、書けるならいろんなジャンル書いた方がいいと思います。って、自分はホラーしか選んでないので説得力ありませんが。
      ので、またホラー書いてください。絶対!
      かにゃんさんのコメント、考えさせられました。選ばれるために考えて書かないといけないならそれは正しいことかもしれませんが、楽しくないじゃんって。だから、かにゃんさんが言ってくれたように私は私の色で行きます。
      それ以前に、技術面を向上させろやなんですけどね。
      ずっと迷走中だけど、まだ迷走してるけど、かにゃんさんの言葉で背中押されました。ありがとう。
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    • 人が死ぬ話なのに何故か読後感がすっきりしました!
      マチ子さん……グッジョブ!!
      被害者が怪異に報復って新しいですね。面白かったです。
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    • ありがとうございます。
      嬉しいです(≧▽≦)
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    • もう嫌だ…やっぱり怖かった( 。゚Д゚。)
      好奇心はパンをも殺す………
      でも、面白かったです……………ε≡ヘ(;Д;)ノ
      • 4 fav
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    • 読んでいただいてありがとうございます。
      「怖かった」は嬉しい言葉です。
      逃げないでください。焼きそばパン食べたいので(*´p`*)
      • 3 fav

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    • おぉ~赤坊が、赤坊がぁ、そげなことに(^◇^)
      憎悪の連鎖ですね☆ 面白かったです♪
      • 7 fav
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    • 読んでいただいてありがとうございます(*´▽`*)ノ
      • 2 fav

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    • こんにちは。
      読んでいてどんなオチになるのかなと思ったのですが、とてもドキドキしました。
      結果的に私たちの見えてる世界は平和になったものの見えてない世界で起きてることがちょっと悲しいですね。面白かったです!
      • 6 fav
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    • 読んでいただいてありがとうございます。
      いろんな悲しいことが起きている世の中、何とか自分の思いを伝えられないかと思っているのですが、こんな表現方法ではいかんかなーと悩んでもいます。
      • 5 fav

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    • そんなことはないですよ。あなたの知らない世界のような怖さを感じるのでホラーとしては成功していると思います!
      • 4 fav

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    • コメント失礼します。一本のドラマを見終わったような、脳裏にすっとその情景が浮かんできて、ぞくぞくとしながら最後まで読み切りました…文字による恐怖の襲来をじりじりと感じました…やっぱホラーっていいですね…好きです///
      • 6 fav
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    • 読んでいただいてありがとうございます。
      わたしにはもったいないコメントだと思いながらもすごく嬉しかったです(#^.^#)
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    作者紹介

    • 能上成之
    • 作品投稿数:42  累計獲得星数:464
    • 読むのも書くのも、年がら年中、ホラーです。ホラー馬鹿です。
      脳みそがすぐ忘却の彼方に行ってしまうので、いつでも読めるように気になる作家さんをすぐフォローしてしまいますが、フォロー返しに気を遣わないでくださいね。なぜなら、ホラーしか読まないから。
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